FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第十八話・天満屋事件・其の貳

 ←烏のがらくた箱~その二百七十七・メイクボックスを新調したい今日このごろ →鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~つくばエクスプレス編2
 紀州藩公用人もある三浦休太郎が宿泊しているだけあって、斎藤達が通された部屋はかなり大きかった。そしてその部屋では既に三浦の配下の者達が酒を酌み交わしている。というより酔い潰れていると言ったほうが正しいだろうか。既に足腰も立たず、三浦が部屋にやってきても数人が頭を下げるだけである。確かにこの状況では三浦自らが新選組隊士らを出迎えなければならない。

「また早々に潰しましたな、三浦さん。これじゃあいざというとき使い物にならんでしょう」

 大石が豪快に笑いながら、閉めきっていた障子を一気に開いた。するとひんやりした冬の外気が流れ込み、酒の臭気を薄めていく。更に宮川信吉が倒れている家臣をズルズルと外に面した障子側へと移動させた。これなら急に気分が悪くなっても庭に吐けばいいだろう。

「・・・・・・というか、むしろ家臣が使い物にならないから新選組に警護を要請したと言ったほうがいいんじゃないか、大石さん?」

 部屋の障子全てを開け続ける大石に、斉藤は声をかけながら三浦を軽く睨んだ。

「俺を匿ってくれていた時もこんな感じだったもんな、三浦さん。まるで生前の芹沢局長のようだ」

 すると三浦はカラカラと笑い出し、懐かしそうな目をした。

「ははは、確かにあの男だったら俺といい勝負だろうな。いや、懐かしい名前を聞いた」

「知っているのか?」

 障子を全て開け放った大石が興味深そうに三浦に尋ねる。

「ああ。一度だけ会ったことがある。まだまだ新選組がひよっこだった時でな。挟持もへったくれもなくただ組織のためだけに粉骨砕身、あそこまで出来る漢はなかなかいないと仲間内で感心していたものだ」

 懐かしそうな視線で中を見つめた後、三浦は新選組の七名を促した。

「じゃあ芹沢を偲んで一献、といくか」

 その一言に斉藤が苦笑する。

「結局はそこに落ち着くんだな、あんたらしい。ま、酒なら芹沢さんも文句を言わんだろうが」

 斉藤の混ぜっ返しに皆が大笑いをした。そして新選組も交えた宴会が始まったのである。



 新選組の三浦休太郎の護衛――――――そもそものきっかけは坂本竜馬・中岡慎太郎暗殺だった。
 元々海援隊、陸援隊は佐幕派として京都で活動を活発化させていた三浦を快く思っていなかった。そこにきて近江屋事件が起こったのである。騒然とする両隊に更に追い打ちを掛けるように近江屋事件の黒幕が紀州藩であるとの話がもたらされたのである。紀州藩との間にはいろは丸沈没事件のいざこざがあり、紀州藩は多額の弁償金を龍馬に支払わされたという過去を持つ。その恨みつらみが今回の事件に繋がったのでは――――――関係者がそう思うのも無理からぬ事である。
 そこで陸奥陽之助が中心となり、紀州藩公用人・三浦休太郎を討つことを海援隊士・陸援隊士らと計画した。その計画を事前に察知した紀州藩は自分達だけでは心許ないと、会津藩を通して新選組に三浦の警護を依頼したのである。
 だが現時点ではそれほど深刻な状況だとは思っていなかった三浦は、斉藤らが酒飲みと知るや否やここぞとばかりに宴会を始め、護衛の新選組隊士達もそのご相伴に預かったのだ。

「いや~こんな護衛だったらいくらでもいいですよね」

 新選組の舟津釜太郎の呟きが部屋に響き、それがさらなる笑いを引き出した。襲撃されるかもしれない緊迫感も多少はあったものの、実際の襲撃が起こりそうな気配は全く感じられず、紀州藩と新選組の酒宴は数日に渡り続くことになる。



 天満屋で宴会が行われていたその頃、陸援隊屯所は重苦しい雰囲気に包まれていた。

「・・・・・・ふん、心の臓に持病を持っていやがったとは」

 目の前に転がった亡骸を見下ろし田中光顕が忌々しげに呟く。その男の足元には村山謙吉と名乗っていた諜報―――――――佐々木蔵之介の変わり果てた姿があった。苦悶の表情を浮かべてはいるが外傷は一切なく、心臓発作が彼の命を奪ったのはほぼ間違いない。

「大政奉還の噂を広める為にわざと引き込んだ間者だったが・・・・・・恩を仇で返されたな」

 少しは使えるかと思ったのに、と谷干城も露骨にがっかりした表情を浮かべている。。

「ああ。中岡さんや坂本さんが殺されたもの、こいつがきっと情報を垂れ流していたからに違いない」

 だが、その詳細を聞き出そうと責問を始めた直後、心臓の発作を起こし息絶えてしまったのだ。

「それにしてもこんな病持ちを間者に送り込むとは・・・・・・幕府も大したことはないな」

 木村弁之進の言葉に香川敬三が慎重な意見を述べる。

「いや、もしかしたら今回のような事があると考えてわざと心臓に病をもったものを選んで送り込んだ可能性もあるぞ。そう考えるとかなり人材が集まっているのかもしれん」

 なまじ敵方の情報が無いだけに憶測ばかりが膨らんでゆく。幕府側の間者であることは確かだが、それが奉行所なのか見廻組なのか、それとも新選組の間者なのかさえ陸援隊の彼らには判断がつきかねた。生前の中岡はどこからの間者なのか知っていたようだったが、部下には一切その事に関しては口を閉ざしていたので皆目検討もつかない。

「こんなことだったら中岡さんからこいつがどこからの間者だったのか聞いておくべきだったな」

「しかし中岡さんが喋るとも思わない・・・・・・どうやら中岡さんも皆に所在を黙っておくという条件でこいつから色々幕府側の情報を貰っていたらしいし」

 幕府の下部組織に変わってくる回覧情報でさえ、海援隊や陸援隊にとっては喉から手が出るほど程欲しい情報である。だが穏やかな情報漏洩が許されるのも互いが生きれいればの話であり、『頭』が暗殺されてしまった今ではそんなことは言っていられない。

「どちらにしろまずは三浦だ。あいつは大垣藩の士井田らと共謀して不穏な動きをしているんだから」

「となると、やはり今回の暗殺は紀州藩が黒幕なのか?」

「その可能性が高いが、見廻組や町奉行所の可能性も捨てきれん。しかし・・・・・・」

 木村の言葉を田中が引き継ぐ。

「新選組は無さそうだな。何せ近江の直後に油小路での内紛を起こしている。あんな血なまぐさい内輪もめを起こしているくらいだ。こちらにまで気を回しているとは到底思えん」

「だが三浦の護衛に付いているもは新選組だぞ?もしかしたら結託しているとか?」

「その可能性は否定できんな。どのみち――――――」

 ぎらり、と田中の眼の奥が光る。

「三浦ともども血祭りにあげるつもりだ」

 復讐の決意に満ちたその言葉に、その場にいた皆が頷いた。



 最初こそさすがに襲撃への構えがあった三浦の護衛だったが、三日もすると完全にただの宴会へと変わっていた。さすがに幹部である斉藤、大石は毎日通っていたが、平隊士はそうは行かず日替わりだ。

「ほぉ、今回は新しい顔だな」

 この日初めて三浦の前に顔を見せた隊士に興味深そうに三浦は声をかける。

「ええ、今回の隊士募集で江戸から参りました。何卒よしなに・・・・・・」

「堅い話は抜きだ!さぁ呑め!」

 紀州藩公用人への挨拶もそこそこに、盃ではなく湯のみに並々と注がれた酒を差し出された新入隊士は、困惑の表情で斉藤に助けを求める。が、斉藤は気にするなとにべもない。

「確かに紀州藩公用人であらせられるが、酒の席でこの男に気遣いは無用だ。安心しろ、潰れても誰も文句はいわん。これは『隊務』だ。男なら受けた盃は全て呑み干せ」

 盃ではなく湯のみなのだが――――――そう言いかけた新入隊士だったが、斉藤の手にもかなり大きな湯のみが握られているのを確認してその言葉を飲み込んだ。いちいち小さな盃で呑むのも億劫うということだろう。新入隊士は覚悟を決め、三浦から差し出された湯のみの酒を一気に呑み干す。

「おお、なかなかいい呑みっぷりだな。この肝っ玉のでかさが鬼の副長の目に適ったんだろう。さぁ、京都に来た祝いだ!呑め呑め!」

 得てして酒飲みはくだらぬ理由を肴に酒を呑む。今回もそのような状況に転がり込んでしまったらしい。今夜は間違いなくこの新入隊士が真っ先に潰されるだろう。

「ま、どうせ今夜も土佐の奴らは来ないだろう。そもそも王政復古に朝廷が動きを見せているんだし、むしろそっちに気が向いているはずだ」

 三浦の言葉に真っ先に反応したのは大石だった。身を乗り出し三浦の話に食いつく。

「やはり王政復古はあるんですか?」

「ああ、上様もそのへんは了承されているらしい。徳川を排除するものではないと聞いているとのことだ」

「何というか・・・・・・下々が言うべきではないが、大樹公、もとい上様は将軍職だったときよりも実務を受け持たれたほうが生き生きしているような気がする」

 斉藤の言葉に三浦もしんみりとする。

「ああ。なまじ頭のきれるお方だからな。出来の悪い部下や家臣を鷹揚に見守っていることが難しいのだろう」

 そんな会話を交わしていた三浦と斉藤だが、その会話を天満屋の塀の外で聞いているものが居ることには気が付かなかった。



UP DATE 2015.7.11

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)





天満屋事件、陸援隊襲撃直前までやってきました。この事件、明らかに新選組はとばっちりというか巻き添えを食った形だったんですね・・・もっとこう、新選組が深く関わった事件かと思っておりましたが、実のところ土佐vs紀州の戦いだったとは(^_^;)なるほど、確かにこれはあまり取り上げられないかもです(-_-;)

そして拙宅の隊士もそんな雰囲気の所為か全くやる気を見せておりませんwww斉藤に大石、どんだけ飲めば気がすむんだと言わんばかりに飲みまくっております。最終的には盃でも間に合わず、湯のみで飲む有り様で・・・ええ、コップ酒ですよwww
ただ連日連夜の酒浸し状態で襲撃されたらどうなってしまうか・・・次回ようやく襲撃本番となります!
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その二百七十七・メイクボックスを新調したい今日このごろ】へ  【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~つくばエクスプレス編2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その二百七十七・メイクボックスを新調したい今日このごろ】へ
  • 【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~つくばエクスプレス編2】へ