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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第十九話・天満屋事件・其の参

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 陸援隊の田中光顕が天満屋の二階を見上げる。その視線の先には半分ほど開いた障子窓があり、中の宴の様子がかいま見えていた。時には酒の臭いに辟易したのか、障子を全開にして身を乗り出すものもいる。その中のひとりに田中は見覚えがあった。確か中条と言ったか――――――先日死んだ新選組の間者を陸援隊屯所に送り届けに来た者である。

「どうやら今夜は二階にいるらしいな」

 田中の呟きに木村が頷く。

「昨日までは下にいたのに・・・・・・あれでは我々に攻め入ってくれと言わんばかりではないか」

 一階ならば逃げられてしまう可能性が高くなるが、二階ならば階段を押さえておけば確実に仕留められる。ようやく運がこちらに巡ってきたと木村はほくそ笑む。

「よし!いくぞ!」

 田中の激に総勢十六人の陸援隊、海援隊の隊士は鬨の声を上げ、天満屋へ押し入った。



 普段は他の客の迷惑にならぬよう、そして何かあったらすぐに逃げ出すことができるよう三浦休太郎と新選組は一階の座敷で酒盛りを行っていた。しかしこの日は年末の宴会の時期と重なって客が多い。なのでどうしても部屋が足りないからと主に拝み倒され、三浦らは二階の少し狭い部屋に移動することになった。
 さすがにいつもの人数は入れない為、紀州藩はいつもの半数ほどの人数しか入っていない。

「おい、中条!いつもと違って外に吐くことは出来ぬからな身を乗り出しすぎて!窓から落ちるなよ!」

 三浦の一言に、その場にいた全員が笑う。その手には相も変わらず波々と酒が注がれた湯のみが握られていた。酒も最近では徳利では間に合わないと角樽がそのまま部屋に運び込まれる始末だ。そんな呑んだくれの集団の中にあって、ほんの気持ち酒が弱い中条は酔いを覚ますために何度か障子を開け放ち、酔を覚ましていた。

「あれ?さっきまでやけに目につく集団がいたのになぁ。どこに行ったんだろう?」

 窓の外をきょろきょろと見回しながら中条が呟く。どうやら中条が外を見ていたのは酔いざましの為だけでは無かったようだ。天満屋の外にたむろっていた集団が気になって何度か様子を見ていたらしい。しかしそんな中条に対し、呑んだくれ達の反応は極めて鈍いものだった。

「大方どこかの宿にでも入ったんだろ。何せお西さんの目の前だ。それ目当ての客も多い」」

 湯呑みの酒を煽りつつ斉藤が返事をしたその時である。

「な、なんどすか!お客はんにご迷惑になりますゆえ、お引取り願えまへんでひょか!」

 普段穏やかな天満屋主の怒声が階下から聞こえ、騒然とした雰囲気が二階にまで伝わってくる。その直後、乱暴に階段を駆け上がる音が斉藤らのいる座敷にまで響いた。

「どうやら俺達の客らし・・・・・・!」

 そう言いかけた三浦の言葉を、ばぁん、と乱暴に襖を開ける音が遮った。



 乱暴に開かれた襖の向こう側には、武装した男達がいた。その数十余名、明らかにこちら側よりも多い人数である。そんな男達を目の前に、三浦を始め新選組の面々は湯のみを手にしたまま一瞬凍りつく。だが武士にとってその一瞬の隙が命取りだった。

「三浦はお前か!」

 真っ先に部屋に飛び込んできた男が、部屋の中央にいて、特に仕立ての良い着物を身に付けていた三浦めがけて斬りつけた。普段の新選組であれば、そこまでの侵入を許す前に入っていた男を捉えるなり斬りつけるなりしていただろう。しかし不意を突かれた事と、酒が入っていたことが新選組の動きを鈍くしていた。ここまで敵の侵入を簡単に許してしまうというのはかなりの失態と言って良いだろう

「うっ!」

 敵に踏み込まれ、頬を斬り付けられた三浦は傷を押さえる。

「三浦さん!!」

 三浦の部下が慌てて駆け寄り三浦を庇うように敵との間に立ちはだかる。その瞬間である。不意に行灯が吹き消され、部屋が闇に包まれたのだ。

「な、何!」

「誰た!灯りを消したのは!」

 それは斉藤の仕業だった。行灯が吹き消されたと言っても上弦の月の光は差し込んでくる。その頼りない月明かりでは互いの気配を感じるのが精一杯だ。だが後れを取ってしまった新選組にとってこの暗さが唯一の味方だった。

「いいか、声はできるだけ抑えろ――――――敵の土佐訛りからすると、ほぼ間違いなく陸援隊か、海援隊の連中だろう」

 聞こえるか聞こえないかの斉藤の小さな声に新選組側は頷く。だがその声を聞きつけた陸援隊側が斉藤の声めがけて斬り付けてきたのだ。

「させるか!」

 頼りない月明かりにギラリと反射したその光に梅戸勝之進が反応し、斉藤に襲いかかろうとした敵の刀を受けた。

「済まぬ」

 斉藤は一言小さく返すと、目の前に蠢いている敵に斬りつける。

(果たして、どれほど持つか――――――)

 天満屋の主に頼まれて二階に移った事を斉藤は後悔していた。階段を塞がれていても昼間ならば二階から飛び降りることも出来ただろう。だが今は夜である。さすがに足場がおぼつかない状況では敵に対峙するよりも大怪我を負いかねない。ここからの打開をどうするべきか――――――斉藤が考えあぐねていたその時である。

「誰か!新選組と紀州藩邸に知らせを!土佐の襲撃を受けていると伝えよ!」

 三浦の酒焼けした声が響く。その声に反応したのか、返事と共天満屋から何者かが飛び出してゆく気配が感じられた。

「斉藤先生、これで何とかなりそう・・・・・・うわっ!!」

 斉藤にかけられた若い声――――――宮川信吉の悲鳴が部屋に響き、生臭い鉄臭が斉藤の鼻を襲う。

「宮川!」

 悲痛な声が斉藤の喉から絞り出される。だがその声めがけて更に敵側の刀が斉藤に襲いかかり、右肩を掠めた。ヒリヒリとする痛みを右肩に感じながらも斉藤は更に叫び続ける。

「宮川、死ぬなよ!」

 斉藤は声を上げる事であえて敵を引き付け、宮川を逃がそうと画策する。だが月明かりだけの暗闇の中、宮川が立ち上がる気配は無かった。



 不動堂村の新選組屯所に天満屋からの知らせが入ったのは、襲撃から四半刻も経たないすぐの事だった。しかし土方は苦々しげに舌打ちをする。

「チッ、西本願寺だったら目と鼻の先ですぐに助けに行けたのによ!」

 しかしこんな時に限って近藤や他の幹部は倒幕派の動きを探る会合に出てしまって留守だった。土方本人もつい先程帰営したばかりで、黒紋付を衣紋掛けに架けたばかりだ。

「鉄!屯所に残っている奴に招集をかけろ!寝ちまっている奴は叩き起こせ!」

 股立を取り、自ら襷をかけながら土方は鉄之助に命じる。明らかに土方自らが出陣する構えだ。

「承知!」

 幹部が誰もいない今、隊士を率いるのは土方しかいない。それを察した鉄之助は一声返事をすると、すぐさま副長室を飛び出した。

「畜生・・・・・・助けを求めるって事は手こずっているってことだろうが!斉藤と大石の奴、生きて帰ってきたら説教だ!」

 ほぼ間違いなく酒によって失態を犯しているであろう部下に毒づきつつ、土方は一度刀掛けに置いた愛刀を腰に差した。



 暗闇の中、斉藤は窮地に立たされていた。
 宮川に引き続き舟津釜太郎も敵に斬り付けられ、立ち上がろうとしない。息遣いから取り敢えず生きていることだけは確認できたが、そう長くは持たないだろう。
 斉藤自身も肩に怪我を負っているし、斉藤を庇ってくれた梅戸も脚にかなりの怪我を負っていた。新選組側で無傷なのは大石くらいだろう。紀州藩も三宅精一、関甚之助の二人が怪我をしているらしい。

(援軍は・・・・・・間に合わないかもしれないな)

 血臭が濃厚に漂う部屋の中、斉藤は覚悟を決める。たとえ新選組の七人全員が死ぬことになっても、三浦だけはここから生きて返さなければならない。それが新選組が受けた依頼であり、それを守れなければ新選組は勿論、紀州藩から直接依頼を受けた会津藩の不名誉になる。それだけは絶対に避けなければならない。

(せめて一人くらい道連れに・・・・・・)

 その瞬間、斉藤から沸き上がる殺気に耐え切れなくなった襲撃側の一人が、斉藤に襲いかかってきた。その気配を感じた斉藤は身を沈め、男の身体めがけ大刀を突き入れた。

「うぉぉぉ!」

 断末魔の悲鳴と共に男が崩れ落ちる。取り敢えず一人は殺すことが出来た――――――しかしその代償はあまりにも大きすぎた。深く刺しすぎてしまったがために斉藤の大刀が男の身体から抜けないのだ。刺された側の男もそれを感じているのか、死の淵にありながらも刀を抜かせぬように身を捩る。

(だめか・・・・・・)

 大刀を諦め、脇差の柄に手をかけたその時である。

「新選組だ!新選組の援軍がやってきた!皆、早く降りてこい!」

 見張りの男のものらしい、悲鳴に近い声が階下から響いた。



UP DATE 2015.7.18

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まずは遅刻、申し訳ございません(>_<)珍しく話をまとめることがなかなか出来ずに1時間ほど遅れてのUPとなりました。いつも9時台にいらしてくださっている皆様には大変ご迷惑をおかけして申し訳ございませんm(_ _)m

ようやく天満屋事件本番です。この事件では護衛についていた新選組側にかなりの被害が出ているんですよ(>_<)詳細は手元の資料ではわからなかったのですが、宮川と船津の二人は死亡、一人重傷、三人軽傷という七人中六人がダメージを負っているらしいんです(-_-;)これって普段の警護や巡察では最大の被害じゃないでしょうか。この直後にある戊辰戦争の被害を予感させる、何とも不吉な事件です。
そしてかなりのダメージを負ったところで副長自ら援軍にやってきましたが、果たしてどんな結果が待ち受けているのか。
間違いなく説教を食らうであろう斉藤&大石の体たらくとともに次回もお待ちくださいませm(_ _)m
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