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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第一章

夏虫~新選組異聞~ 第一章 第二十五話 炎と政変・其の壹

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佐々木とあぐりの葬儀が終わると、壬生浪士組はすぐに攘夷派の水面下の動きを掴むための活動を開始した。佐々木殺しの犯人捜しは表向き京都町奉行の管轄になる。壬生浪士組は表だって仇討ちをする事が出来ないが、攘夷派の動きを追いかけていれば佐々木殺しの犯人にも行き着くだろうと、特に異議を申し立てる事もせず町奉行にこの件を任せる事にした。そうでなくとも結成半年に満たない組織とは思えぬ忙しさと人手不足で佐々木殺しの犯人を捜す余裕などないのだ。

「せめてあと三十人、否、その半分の十五人でも隊士が増えれば・・・・・。」

 書類から目を上げた山南が思わず呟くのも無理はない。会津の内示を受け隊士を増やしたものの京都の街をあてもなく探索するのは容易ではない。しかも他の集団と鉢合わせになれば管轄の侵害だと喧嘩にもなる。いっそ見廻りの担当地を決めて貰えればまだ楽なのだろうが、そこまでの信用はまだ会津から勝ち得ていないというのが実状である。

「無茶苦茶だよね。たったこれだけの人数で隠れ潜んでいる不逞浪士を見つけ出して、偽勅に合わせた挙兵を潰せ、だなんて。」

 山南の傍でころんと横になっていた藤堂も呟く。試衛館出身の中でも小柄な藤堂である。京都の酷暑を乗り切ったと思ったらこの多忙さ--------------彼の体力は限界に近づいていた。否、それは壬生浪士組全員言えるだろう。慣れない場所、慣れない気候、慣れない水と折り合いを付けながらぎりぎりのところで彼らは戦っているのだ。

「そうだ、山南さん。例の・・・・・。」

 藤堂は山南に声をかけたが、途中で言葉を飲み込み、寝転がったまま周囲を鋭く観察する。

「・・・・・ようやく一人、新たに見つけたと土方君が言っていたね。」

 山南はほんの少しだけ目を細め、窓から見える緑陰を眺めながら小声で藤堂に応えた。先日の幹部会議で、佐々木が書き残した二名--------------楠小十郎と御倉伊勢武に関しては暫く泳がせ、他に仲間がいないかどうか確認した後一網打尽にする事が決定している。そしてその直後、もう一人間者が紛れ込んでいる事が判明したのだが、そこから先に進めない。幹部会は勿論、立ち話に至っても彼らに聞かれないよう気を使っているのだが、やはり情報は漏れているらしい。彼ら以外にもまだ間者が紛れ込んでいると考えた方が自然だろう。

「・・・・・八方塞がり、ってこういう事を言うのかな。吉田屋への捜索は会津に認めて貰えないしさ。」

「仕方が無い、吉田屋は幕府とも繋がりのある大店だ。あの娘さんの決死の報告が嘘だとは思えないが・・・・・迂闊に踏み込んで何もなかったら私達の誰かが腹を斬らねばならいだろう?会津も慎重にならざるを得ないさ。」

 佐々木の殉死の報告と同時に、芹沢と近藤は『金銭の動きに不穏なものがあるとの情報を取引先の娘から得た。』と吉田屋へ踏み込む許可を貰おうとした。だが、それは会津藩公用方・広沢富次郎によってあっけなく却下されたのである。

「たかが小娘の情報であろう?しかもただいつもの三倍の金が動いているというだけでは話にならぬ。もう少し確かな情報を掴んでから出直してくるように。」

 確かにその通りなのだが、その言いぐさに腹を立てたのは他ならぬ芹沢であった。この情報を得たが為に有能な隊士と情報提供者の娘の命二つが散ったのだ。怒り心頭の芹沢は、屯所に帰るなり徳利を手に酒をあおると、近くの柱を鉄扇で叩きながら八つ当たりをして手に負えなかった。

「会津藩だかなんだか知らないが、あの態度は何だ!やっておれぬ!他に当てがあればすぐにでも会津藩預りを返上して別の藩の世話になるのに!」

 会津の関係者が聞いたら目を剥いて怒りまくりそうな科白を怒鳴り散らす芹沢を、いつもの如く近藤や平間が宥めにかかる。

「まぁまぁ芹沢さん。会津の言う事は最もなんですから・・・・・それにあの娘の言った事が本当ならば、見張を立てておけばきっと尻尾を出しますよ。」

 だが、その会話さえまるで手で掬った砂が指の間からこぼれ落ちるように長州側に漏れていた。いくら頑張ってみてもこちらの動きが敵に筒抜けではどうしようもない。壬生浪士組の捜査は後手後手に回り、今日に至るのである。



 そんな中、八月七日から祇園北林と壬生にて相撲興行が壬生浪士組の主催で行なわれる事となった。現時点での捜査状況を考えればそれどころではないのだが、二ヶ月前に起こった大阪での乱闘の際、京阪合併の相撲興行を行なうと約束してしまっていたのである。大阪力士だけでなく京都力士も巻き込んだ大がかりなものだけに、壬生浪士組の都合だけで中止にするわけにもいかない。

「まぁまぁそんな顔をせんと。たまには息抜きも悪くないじゃろう?務めに対して一所懸命も悪くないが、あんまり根を詰めすぎると見えるものも見えなくなるぞ。」

 延期にするか、それとも思い切って断ろうか近藤や土方が悩んでいる最中、そんな呑気な事を言い出したのは井上であった。

「しかしなぁ・・・・・。」

 井上の言葉に渋い表情を見せたのは近藤であった。今回の巡業では勧進元として少なくとも十人近くが駆り出されてしまうし、手伝いとしてさらに十人が必要になるだろう。この時期、半数近くもの隊士が巡察から離脱するのは痛すぎる。だが、約束を破る事も近藤は潔しとしない。腕組みをしたまま悩む近藤に対し、不意に部屋の外から声が聞こえてきた。

「源さんのいうとおりだぜ、近藤さんよ。」

 そう切り出したのは巡察から帰ってきた永倉であった。

「若い隊士達にも疲れが見えている。少しは気晴らしでもさせねぇと使い物にならねぇ。娼妓を買うのも悪かぁねぇが、京女相手に余計気疲れしちまうしよぉ。」

 太夫、天神とまでいかずとも娼妓を買うにも金が要る。そして買ったとしても手練手管に長けた娼妓相手に良いように弄ばれ、気疲れして屯所に帰ってくるという光景が毎夜繰り返されていた。しかも給金の安い平隊士に至っては隊士同士の男色に走る者も出てきている。それよりは相撲でも観戦した方がよっぽどましだと永倉は提言した。

「・・・・・そうだな。どちらにしろ約束は約束だし。」

 そんな事で相撲を開催したが、その隙を突いて攘夷派に動きがあった。壬生浪士組が目を着けていた隠れ家から忽然と浪士達が消えてしまったのだ。それも一人、二人ではなくおおよそ三十人の大人数が、である。
 これは不幸な偶然であった。天皇の大和行幸の偽勅が十三日に出される事を受けて動き出そうとしていた不逞浪士の動きがたまたま壬生浪士組の相撲勧進とぶつかってしまったのである。さらにこの時期は会津藩の兵員交代の時期でもあり、上洛したての会津藩士達が慣れない京都の街の巡察に繰り出さなくてはいけない状況でもあったのだ。というよりは、会津藩の状況を知った上でこの時期に動き出そうとしていたのである。
 佐幕派にとっては不幸な、そして攘夷派にとって幸運な偶然は攘夷派の動きを活発化させた。攘夷派志士の吉村寅太郎や松本奎堂、藤本鉄石、池内蔵太などが挙兵のため続々と七条上ルにある方広寺に集結し、挙兵の準備を始めていた。

「くそっ!どうしたらいいってんだ!」

 自分達の隙を突かれた事に苛立ち、土方はばん!と床を蹴り飛ばし、怒鳴る。さすがに方広寺に不逞浪士が集結している事までは知る由もない。

「いっそ判っている間者の首でも斬りますか?少なくとも土方さんの気晴らしにはなると思いますけど。」

 土方の癇癪を目の当たりにしながら、平然とぬるくなった茶をすすり沖田はへらへらと笑う。

「・・・・・それが出来たらどんなに楽か。」

「・・・・・ですよね。できないから苛々するんですよねぇ。」

 沖田がずずっ、と茶を飲み干しながらため息を吐いたその時である。

「大変です!佐伯さんが・・・・・・朱雀千本木で殺されました!」

 巡察に出ていた若い隊士が土方の部屋に息を切らせて飛び込んできたのである。

「何だって!総司、行くぞ!」

「承知!」

 血相を変えた二人は刀を手にするとすぐさま屯所を飛び出し、朱雀千本木方面へ急行した。



 土方と沖田が現場に着いた時、佐伯は戸板に乗せられ運ばれていくところであった。

「胸を一突きです。あれでは抵抗する間もなく即死でしょう。」

 その場にいた斎藤が表情を殺したまま二人に報告をした。どうやら十日の夜に殺されたらしく今朝方村の人間に発見されたらしい。そこを斎藤達巡察隊と出くわしたという訳である。

「斎藤さんは・・・・・佐伯さんと一緒に来たんですものね。」

「ああ、同じ道場だったんでな。」

 もともとそれほど口数の多い男ではないが、共に壬生浪士組に参加した仲間だけに想いは強いのだろう。ぐっと唇を噛みしめるその顔に悔しさがありありと浮かんでいる。

「・・・・・身ぐるみを剥がれていたが、それは殺しの犯人とは別かもしれません。」

「だろうな。追いはぎ位ならまとめて五、六人始末できるだろう、佐伯なら。」

 だいぶ遠くに行ってしまった佐伯の亡骸を運ぶ集団に目をやりながら土方は忌々しげに呟いた。

「佐々木が殺られてから九日だぞ?こんな短期間に二人も腕利きがやられるなんてっ!」

 平隊士一人だって貴重な戦力である。それなのに八月に入ってから二人、しかも幹部や幹部候補生に等しい優秀な二人が殺されているのである。人材不足の壬生浪士組に取ってこれは極めて大きな損失である。

「これも会津に言った方がいいんじゃないですか?二人も隊士を殺されて何も動けないなんて・・・・・せめて吉田屋に踏み込む許可ぐらい貰いましょうよ、土方さん!」

 普段は温厚な沖田もさすがに腹に据えかね、土方を煽るように会津藩へ許可を貰うように言い立てた。

「あたぼうよ!このまま手をこまねいているばかりじゃやってらんねぇ!」

 そんな興奮する二人の会話を、斎藤はただ一人無表情のまま黙って聞いていた。



 怒り心頭の壬生浪士組へ会津から火急の呼び出しが来たのは、巡察のある斎藤と別れた土方と沖田が屯所に帰ってきて一刻後の事であった。佐伯の殉死の件はこれから報告しに行くつもりだっただけに、その偶然に幹部達は驚愕する。

「何か・・・・あったんですかね。」

「知らん!俺が行ってくる!土方、おまえは佐伯殺しの犯人捕縛に動け!」

 会津の許可が下りないうちの佐伯の死である。怒り心頭の芹沢は不機嫌な表情のまま黒谷へと向かったのだが、その呼び出しで芹沢が聞いたのは驚くべき事であった。

「今上帝の大和行幸に合わせ軍が蜂起するという情報が入った。」

 芹沢の挨拶もそこそこに、広沢が用件をいきなり切り出したのである。

「その資金提供先がお前達が言っていた吉田屋だと判明した。いいや、それだけではない。」

「といいますと?」

「攘夷派公家に対しても総額一万両近くの資金提供をしたらしい。幕府に取り入り、利益を得ていたにも拘わらず甚だ遺憾。よって明日の夜、店舗の捜索に当たる事を許可する。」

 自分達が何度も願い出ては却下された吉田屋への探索だったが、あまりにも急な展開である。何となく違和感を感じた芹沢は率直に広沢に尋ねる。

「勿論我々も捜索に当たりますが・・・・・会津から援軍は出るのでしょうか?」

 探るような芹沢の言葉に対し、広沢の返事は無情なものであった。

「我らの部隊は一昨日入れ替わったばかりで京の街に不慣れだ。こういう時のためにそなた達を預かっているのだ。気に喰わぬなら壬生浪士組を解散させるか?」

 そう言われては何も言い返せない。芹沢は目の前の広沢、否、会津藩に対する不審感をぐっと押さえつけ、ただ黙って頭を下げた。



UP DATE  2010.07.30


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第一章最終話『炎と政変』其の壹です。今回は佐々木君に比べあっさりと殺されてしまった佐伯君の話ですが、どうもイケメンじゃないと書く気が・・・・・(おいっ)。
ま、冗談はこれくらいにして第一章最終話だけあって今回は佐伯君の死、吉田屋への放火、偽勅に伴う天誅組の乱、そして最後に八月十八日の政変と盛りだくさんです。果たして書ききれるんでしょうかねぇ(苦笑)。


先日の拍手お返事にも書かせて頂いたのですが、天誅組の乱に吉田屋が絡んでいたかも、っていう文献(西村兼文の『新選組始末記』)も偶然見つかりましてちょっとほくほくしております。この文献に書かれている事が史実かどうかは判りませんが、少なくともひとつの説であることは確かですしvたまにあるのですが、当時の法律や慣例に照らし合わせると何かおかしいな、という部分を理詰めの妄想で埋めていくと意外と正解に近い答えを導き出す事ができるところが歴史小説を書く醍醐味です(というか、ご先祖様達がきちんと規律に則って生活していただけかもしれない。現代の事件の方が展開を読みづらいです。)

次週更新は8/6、吉田屋の火事をメインに扱います。その次の週はお盆の帰省がありますのでお休みを戴きますが、20日、27日と一気に天誅組の乱、八月十八日の政変とたたみかけたいと思いますv
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