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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第二十四話・王政復古の大号令・其の肆

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「ならば、新遊撃隊御雇として我が支配下に就け」

 老中・永井尚志は近藤に対して念を押す。だがそれに異を唱えたのは近藤の隣に居た土方だった。不服そうに眉をぴくり、と跳ね上げ、慇懃無礼な口調で永井に噛み付く。

「永井さん、申し訳無いですが『新遊撃隊御雇』の件は辞退させて頂きたい!」

 怒りを押し殺しているような低い声で土方は唸る。

「ほぉ、その心は?幕臣として戦うのならば上の命令は絶対だぞ」

 本来の土方の身分であれば、老中に楯突くことなど許されることではない。しかしそんな失礼極まりない土方の態度に怒る事無く、むしろ愉快そうに永井は土方に問いかける。すると土方は怒りを体中に漲らせているとは思えぬほど冷静にその理由を述べ始めた。

「見廻組の佐々木さんに聞きましたが・・・・・・見廻組は『新遊撃隊』に編入されたそうですね?勿論『御雇』じゃない。確かに元々の身分が違うこともありますが、我々は見廻組に劣るとは思いません。もし遊撃隊に新選組を配属させたいならば、最低限見廻組と同じ待遇を所望します!」

 それは部隊を預かる副長として尤もな意見である。理路整然と、しかも自分達の待遇要望をきちんと主張する土方の言葉に永井は満足気に頷いた。

「なるほど。噂に違わぬ切れ者よの、土方歳三!気に入ったぞ!」

 永井は声高らかに大笑いすると、近藤と土方を見つめる。

「ならば新選組そのものの名で行動することを許そう。だがその名はあまりにも目立ちすぎる。動けば敵に真っ先に狙われること、それだけはじゅうじゅう心しておくように」

 すると土方は不敵な笑みを口の端に浮かべ、永井に告げた。

「もとより承知。名を変えて敵から逃げるような真似はいたしません。ですから我々をそのまま囮にでも使っていただければ、敵の目を引きつける役目くらいは果たせましょう」

「よかろう!その度胸、気に入った!」

 永井は更に大笑いをすると、満足気にその場を去った。

「・・・・・・おい、歳。いいのか?老中殿の申し出を」

 永井の姿が消えた後、近藤はオロオロと土方にすがりつく。だが土方は眉一つ動かすこと無く『問題ないさ』と近藤を宥めた。

「どのみち俺達は使い捨ての駒としか思われていねぇ。だったらせめて名前だけでも残しておくべきだろ。それに・・・・・・」

 土方は不意に遠い目をする。

「・・・・・・新遊撃隊にひっつけられちまったら、『誠』の旗印は間違いなく使えなくなるぜ?あんたがそれでもいいんなら構わねぇけどよ」

 その瞬間、近藤は今までとはまるで違う、厳しい表情を浮かべた。

「そうだな――――――今や上洛当時の名残なんて『誠』の旗印くらい、か」

 そして暫く黙りこくった後、ポツリと呟いた。

「きっと芹沢さんなら名称の変更を一蹴していただろうしな」

 既に自分達は会津藩に押し付けられる形で『新選組』の名前を受けている。だがその時はドサクサに紛れて『誠忠浪士組』の旗印であった『誠』の文字を使い続け、会津藩もそれを黙認してくれた。だが今回は幕府の命令だ。自分達の都合には合わせてもらえないだろう。

「・・・・・・これからもやれ名前を変えろだの組織を再編成しろだの上が言ってくるだろう。だけど変えていいものと悪いもんがある。新選組の名前だけは・・・・・・」

「絶対にそのままだ。喩え俺達が刃に倒れることがあっても」

 力強い近藤の言葉に、土方も深く頷いた。



 結局新選組は新遊撃隊に組み込まれる事無く、そのままの名前で活動し続けることが許された。そして翌日、永井に引きつられ大阪へと下阪する。

「このまま伏見で布陣したほうが良いのでは?」

 伏見の船着場で近藤が永井に尋ねたが、永井は首を横に振る。

「ろくな武器も持たずに戦うつもりか?せめて鉄砲くらい隊士に持たせたやったらどうだ?土方に聞いたぞ。飛び道具の調達が遅れているそうじゃないか」

 その一言に近藤はうっ、と言葉を詰まらせた。確かに新選組の鉄砲調達は遅れている。独自の入手経路が無いということもあるが、それ以上に隊士達が鉄砲に対して拒絶感を抱いているのだ。
 時には地べたに這いつくばって銃撃をしなければならない鉄砲は『武士らしくない』と組長以下反対意見が大勢を占めている。

「そ、それは・・・・・・」

「取り敢えず一旦大阪に入り、武器の調達ができるかどうかを確認してからでも遅くはないだろう。鉄砲が無理でも新たな刀くらいは部下に配ってやれ」

 部下に――――――何気なく告げた永井の一言だったが、その一言は何故か近藤の心に引っかかった。その時である。

「殿!斥候から報告が入りました。伏見の町人はだいぶ動揺しているとのこと。さすがに上様の下阪に引き続き、続々と下阪組が伏見を通過しているからだと」

「よし、判った。その件については大阪に到着してから諸侯と会議を行うから連絡を」

「はっ!」

 永井の家来と思われる男はすぐさま二人の前から立ち去った。その後姿を見つめながら、何故永井の言葉に引っかかりを覚えたか、近藤は理解する。

(そうか・・・・・・俺にはまだ”家来”がいないのだ)

 土方を始め部下や門弟は数多くいる。だが、お目見え以上の幕臣――――――旗本になったにも拘わらず、近藤には家来らしい家来がいないのだ。
 老中と自分を比較するのはともかく、旗本に一人も家来が居ないのは如何なものかと思い始める。

(ここで武功を立てれば、家来を持つことができるかもしれない)

 近藤がそう思った時である。

「おい、近藤さん!」

 不意に背後から声がかかり、近藤はびくり、と肩を震わせた。

「あ、ああ・・・・・・歳か」

「すまねぇ、驚かせちまったか。ところで今後の予定なんだが・・・・・・」

 土方が明日以降の動きについて説明を始める。だが、近藤はその話を半分も聞いてはいなかった。



 天満天神へ一行が到着したのは十二月十四日の午後のことだった。大雨の中、新選組隊士達は慌てて境内の中へ転がり込む。

「うう、すっかり濡れネズミだ!赤穂浪士の討ち入りの日を堪能する余裕さえありゃしねぇな」

 原田のぼやきに皆が笑う。そんな中、山崎と吉村が土方に呼び出されていた。

「じゃあ明日、伏見奉行所に行ってくれ。奉行所の外回りでもいい、俺達が布陣できる場所を空けておいてくれと」

「承知」

 そう吉村は二つ返事で承諾したが、山崎は如何ともし難い神妙な表情を浮かべる。

「どうした、山崎。何か引っかかることでもあるのか?」

「ええ・・・・・・しかし『身内』、隊内のことなんどすが」

 佐幕派と反幕派の戦いを前に内輪もめのことを口にだすのは如何なものかと、山崎はごにょごにょと口ごもる。

「・・・・・・高台寺党の残党、か?」

 すると山崎は小さく頷く。

「どこに耳があるか判らしまへんが・・・・・・少なくとも一匹、『若いネズミ』がおります。小林啓之助・・・・・・あれの動きに気をつけてくださいませ」

「永倉の下にいる奴だな?判った。永倉にも伝えておこう」

「おおきに」

 山崎は安心しきった笑顔を向け土方の前から退席した。



 吉村と山崎を先発隊として出した翌日、新選組本隊も伏見出撃の準備をいそいそと始めていた。それを面白く無さそうに沖田は見つめている。

「近藤先生、やはり私は大阪で留守番ですか?」

「当たり前だ!数日前に血を吐いているんだぞ、お前は。今はしっかり養生して、体調が戻ったら戦線に駆けつけてくれればいい」

 力強く諭す近藤を、沖田はまるで捨て犬のような目で見つめる。

「この病が治るなんてことはあるんでしょうか・・・・・・いっそ近藤先生の家来として戦場に赴いて、戦死してしまったほうがはるかに楽かもしれない」

「総司!そんな縁起でもないことを言うんじゃない!!」

 思いがけない近藤の大声に、沖田はびくり、と背筋を伸ばす。

「あ、ああ、済まない・・・・・・だけど戦死なんて縁起でもないことを言うんじゃない。万が一戦が起こっても、俺達は勝つんだ。勝たなければならないんだ!」

 まるで何かを隠すようにまくし立てる近藤に、沖田は少々驚きつつも笑顔を見せる。

「そ、う・・・・・・ですよね。まずは勝たないことには」

「そうだ。だから病をしっかり治すんだぞ、総司!」

 近藤は沖田にそう言い残し、まるで逃げるようにその場を去った。

(そう言えば、総司は・・・・・・昔から俺の心を読むようなところがあったな)

 今まで『家来』云々などという話は、愛弟子でもあり自らの後継者と考えている沖田の前で話したことは一切ない。そもそもそれを思ったのはつい二日前だ。だが、その禁忌とも言える言葉を沖田はあっさり口にし、『近藤の家来として戦死したい』とまで言い出したのだ。

(きっと・・・・・・病が総司を気弱にさせているだけだ)

 家来ならば主君のために命を賭けることも許される――――――きっとそれ故の言葉に違いない。己の欲望を沖田に読まれたわけではないのだ。近藤は必死にそう思い込むように、出陣の身支度に没頭し始めた。


 そして慶應三年十二月十六日、新選組は伏見奉行に布陣する。



UP DATE 2015.8.22

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何だかんだトラブルはあったものの、新選組は『新選組』のまま、無事大阪へ下ることが出来ましたε-(´∀`*)ホッ
ただ、近藤の胸中には余計な欲望が芽生え始めてしまったようですが・・・武勲を立てれば後からついてくる『ご褒美』だと思うんですけどねぇ、家来は。ただ、人間とは悲しいもので、自分が持っていないものを欲しがるものなのです。それを我慢するのがオトナなんですけどねぇ・・・そうじゃないオトナも多くなりましたし、物欲を控えれば『経済が立ちいかない』と文句を言われますし・・・面倒くさい世の中です(^_^;)

次回更新は8/29、伏見布陣と相成ります(そして第8章最終話になります♪鳥羽伏見を9章冒頭から書けるのはありがたい!)
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