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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第二十五話・伏見布陣と局長狙撃・其の壹

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  新選組が大阪天満天神に宿陣した翌日、小夜は父の使いで久しぶりに村を出ていた。ようやくつわりも収まり、腹部の膨らみも目立ち始めている。数日前の戌の日には岩田帯を巻いた。順調に行けば来年の閏四月半ばにも生まれるはずだ。

「総司はんとのやややったら・・・・・・」

 ――――――どんなに幸せだっただろうか。だが総司は小夜の立場をどこまでも気遣って子供を作らぬようにしてくれていた。沖田の子供好き、そして閨の睦言でいつか自分と小夜の子供が欲しいと冗談交じりに言っていた事を思い返すと悔やまれることばかりだ。だが嘆き続けていても仕方がない。村にいれば独り身でも子供を育てることは可能である。ただ静かに、外部との接触を可能な限り避けていれば――――――。だが、歴史の渦は、小夜のそんなささやかな願いさえ許さなかった。
 それは五条大橋でのことだった。世の中が騒然とする中、それでも多くの人間が行き交う橋の上で小夜は知っている顔を見つけたのである。

「篠原・・・・・・センセ?」

 それは油小路の変で生き残った篠原泰之進だった。橋の欄干に身体をもたせかけるという、武士にはあるまじきだらし無い姿で何か読んでいる。どうやら誰かから差し出された手紙らしい。そしてそれを読み終えるとくしゃくしゃと丸め、道端に捨てたのである。
 捨てたと言っても人様の手紙である。普通ならそのまま放っておくべきなのだろう。だが小夜は言い知れぬ胸騒ぎを覚え、捨てられた手紙を拾い、破かないように丁寧に広げた。そして読み進めていくうちに、その内容に表情を強張らせた。

「これは・・・・・・!」

 それは新選組内部に潜んだ密偵による報告書であった。幹部の会合や幕府要人との面会の予定だけでなく、明日から伏見へ布陣するとも書いてあった。これは新選組内部のものでなくては知り得ない。
 小夜は拾った手紙を懐にしまい込み、帰路を急いだ。本当なら自らこの手紙を届けに行きたいところだが、身重の身では急ぐにも限界がある。もしかしたら伏見に出向く仲間がいるかもしれないから、その際伏見に届けてもらえれば・・・・・・そんな事を考えていたらいつの間にか村の入口にある御霊神社が見えてきた。そこには医者修行から逃げ出してきたと思われる伸吉が佇んでいる。

「小夜姉ちゃん、遅いから心配したえ?」

 そう言いながら近づいてくる弟の額を、小夜は軽く叩いた。

「ちゃうやろ。ちゃ~んと修行せなお父ちゃんの後は継げへんえ?」

 そう言いながらふと小夜はあることに思い至った。

「伸吉。お父ちゃんの許可を得てからの話になるんやけど・・・・・・」

 小夜は懐から先ほど拾った手紙を取り出し、伸吉に見せる。

「密偵の報告書や。これを明日、伏見に来るはずの新選組に届けて欲しいんや」

 小夜の言葉に伸吉は手紙に目を落としながら頷いた。

「判った。伏見やったら目と鼻の先や。明日の昼にでも届けてくる!」

 医者修行からよっぽど逃げ出したいのか、やたら威勢のよい伸吉の返事に小夜は苦笑いを浮かべた。



 翌日、父親からの許可を取り付けた伸吉は、新選組が布陣するであろうと思われた昼過ぎに伏見に到着した。しかしそれはいささか遅すぎたらしい。かわたの仲間によると、既に今朝の日の出前から新選組の巡察が始まっているというのだ。いきなり現れた物々しい集団に驚かされたという仲間のぼやきを聞き流し、伸吉は新選組が布陣しているという伏見奉行へと向かおうとした。その時である。

「おい、坊主!おめぇ、確か伸吉とか言ったな?」

 不意に伸吉の名を呼ぶ男の声がしたのである。その声に驚き声の方へ振り向くと、そこには背の高い武士がいた。この男は一体誰だ――――――伸吉が考えあぐねていると、男は笑顔を見せながら語りかけてきた。

「一度だけしか会っていないんじゃ覚えていねぇのも無理はねぇかな。総司の休息所で一度会っているんだぜ?確かちっこい妹二人もいたよなぁ」

「ああ、あん時の!確か・・・・・・永倉センセ!」

「おうよ!思い出してくれたか!総司の奴もいくら寂しがり屋だからって相手の弟妹達まで引きずり込むことはねぇよな!」

 どうやら永倉は、伸吉達が半ば強引に沖田の休息所に連れて来られたのだと思っているらしい。確かに半分はあたっているだけに伸吉は苦笑いを浮かべる。

「ところで話は戻るけどよ・・・・・・」

「あ、そうやった!姉からこれを預かってきました。確か・・・・・・篠原、ゆう奴が捨てたとか」

 伸吉の口からもたらされた『篠原』の一言に永倉の表情が強張る。そして伸吉から手渡された手紙を読み進めるうちに、どんどん表情が険しくなっていった。

伸吉の説明を聞きながら永倉は渡された手紙を見るが、その顔色がみるみるうちに変わる。

「・・・・・・何てこった!」

 それは新選組平隊士・小林敬次郎から篠原泰之進に宛てられた報告書だった。中には事細かに新選組の様子や予定が書かれている。永倉はその手紙を丁寧にたたみ懐に入れると、豆銀を懐紙に包んで伸吉に手渡す。

「ありがとうよ、伸吉。今更だが伏見はかなり物騒だ。早めに村に帰った方がいい」

「そんなにひどいんですか?」

 伸吉は懐紙に包まれた豆銀を受け取りつつ永倉に尋ねる。

「ああ。ここに来て半日も経たねえうちに、俺達の仲間が三人も怪我をしている。京都に居た時は一ヶ月に一人か二人だったのによ」

その物騒な状況に、伸吉はぶるり、と肩を震わせた。

「判りました・・・・・・姉にも伝えておきます」

「ああ、そうしてくれ。因みに総司は労咳をこじらせちまってこの布陣に参加してねぇ。もし聞かれたらそう伝えといてくれ。総司が怪我をする心配はねぇ、と」

「え・・・・・・」

「ま、大事を取って、ってことさ。心配すんな。武士がそう簡単にくたばってたまるかよ」

 永倉は伸吉の細い肩をバン!と強く叩く。そのあまりの強さに伸吉は思わず顔をしかめた。

「どのみちこれからどう転ぶか判らねぇ。おめぇたちも重々気をつけろよ」

 永倉なりに気を使った言葉なのだろう。そんな言葉に伸吉は黙って頷いた。



 伸吉と別れた後、永倉は伏見奉行所に戻り、起きたばかりの土方に伸吉から渡された手紙を渡す。

「・・・・・・偶然とはいえ、よくこれが手に入ったもんだな」

 渡された手紙を全て読み終えると、土方は唇を噛みしめ、唸った。

「こんだけ内部の情報が筒抜けじゃ、襲撃されるのも無理は無い、か」

「しかも終わりの方に、近藤さんの動きも書いてあるだろ?明後日の二条城での会合、どうするんだ?単独で行動させて大丈夫なのか?」

 心配そうに尋ねる永倉を、土方はふん、と鼻で笑う。

「何言ってやがる。天然理心流の四代目をつかまえて・・・・・・剣術じゃ誰にも負けねぇぞ、近藤さんは」

 冗談めかしつつも、その表情は厳しいままだった。

「明後日の二条城行きには島田も付けるか。四人も護衛がいりゃあ問題ねぇだろ」

「その方がいい。それと・・・・・・」

「小林に関してはここで処断する。永倉、頼めるか?」

 永倉の言葉尻を取って、土方が密偵・小林の処断を告げる。

「勿論。畳が血でで汚れるのは、あとで伏見奉行に謝っておけばいいですよね」

 小林の処断より畳の心配をしつつ、永倉は不敵に笑って頷いた。



 小林啓之助が土方の前に呼び出されたのは、永倉との会話から四半刻後だった。

「土方副長、及びでしょうか?」

 すると土方は永倉から渡された手紙を無言のまま小林の前に差し出した。それを見て小林の顔が青ざめる。

「小林・・・・・・これが何だか解るな?」

 すると小林は観念したかのように瞼を閉じ、項垂れた。

「覚悟は・・・・・・出来ております」

 何故この手紙が土方の手元にあるのか解らない。だが、これを見つけられてしまっては言い逃れることは不可能だ。小林は観念して首を差し出す。

「いい心がけだ」

 その一言と同時に土方は傍に控えていた永倉に目配せをする。すると永倉は頷くとすっ、と立ち上がり、脇差を抜いた。

「局中法度一、士道に背きまじき事、これを許さず!」

 永倉の叫びと共に脇差が振り下ろされ、小林の首がゴロン、と落ちる。その切り口からは血しぶきが吹き上がり、畳は勿論、土方や永倉、そして天井まで紅蓮に染め上げた。



UP DATE 2015.8.29

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伏見布陣と言いつつ、久しぶりの小夜sideを書かせていただきました(*´艸`*)というか、まだまだしぶとく小夜には登場してもらうつもりでおりますので、たまに出しておかないとwww
というわけで、『新選組顛末記』では永倉が拾ったとされる間者からの手紙を小夜に拾ってもらいました。それに依り、間者・小林を処断することに成功した新選組側ですが、既に幹部の予定は筒抜けで・・・これが混同局長襲撃事件へと繋がってゆきます。

次回更新は9/5、高台寺党残党の動きが中心となります(*^_^*)
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