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「VOCALOID小説」
聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 玉虫色の暗殺者4

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 ミクに手を引かれ部屋から出てきたルカは、先程の異国情緒のある姿とは打って変わって、奏国古来の姿だった。その姿にメイコは思わず感嘆の声を上げてしまう。

「きれい・・・・・・やっぱり歴史が長い国の伝統衣装は違うのね」

 普段はどちらかというとがさつな傾向があるメイコでさえもうっとりさせるルカの皇后正装は豪華絢爛をそのまま形にしたようなものだった。
 高い襟と床にまで届きそうな長い袖は、古から伝わる奏国貴族のスタイルである。特に袖の長さは身分の高さによってその長さが決められており、床スレスレの袖は皇帝及び皇后しか身に付けることは出来ない。
 そして極めて長い袖は、高価な染料の代名詞でもある貝紫に濃く染め上げられていた。国土の南側殆どが海に面している奏国ならではの贅沢である。しかしその貝紫に染められた袖及び衣装の殆どは、地色が見えないほど金糸銀糸の刺繍で埋め尽くされている。その刺繍一つ一つも魔除けだったり寿ぎを呼びこんだりする吉祥紋である。
 これだけでも相当な重さになると思われるが、婚礼など大事な儀式の場合、これに領巾と裳も身につけなければならない。因みに領巾、裳にも刺繍は施されている。龍騎士の重装備甲冑もかなりの重さがあるが、それに負けずとも劣らない重量があるだろう。
 勿論衣装だけではない。皇后の正装ともなればそれなりの装飾も必要だ。海洋を象徴する真珠や珊瑚、山岳を象徴する碧玉や紅玉、そして金剛石などが散りばめられた首飾りや耳飾り、そして細身の剣がルカを飾り立てている。
 そこへ止めとばかりに後で皇后冠を被せられるのだが、そうなると間違いなく首を動かすことさえできなくなるだろう。尤も奏国内では皇帝以外の誰にも頭を下げる必要がないから問題は無いのだが、かなり体力が必要であることは間違いない。

「皇后の正装がこれほどまでに重たいものだとは思いませんでしたわ」

 メイコを見てルカが微笑み、一歩前へ出た。ちらりと見えた足先からは極めて歩きにくそうな沓が見える。龍騎士として、運動神経を極限まで高めていたルカだからこそ着こなせ、動くことができる衣装だということを思い知らされる。

「そういえば歴代の皇后は婚礼の際、輿に乗って大広間に入ったそうですね。きっとあなたと帝祖皇后・コンフリクトくらいでしょう、この衣装を着て動けるのは」

 半ば呆れたようにキヨテルが二人の話に割って入ってきた。実際部屋の前には衣装で身動きが取れなかった時のために輿が準備されていたが、ルカはミクの介添えだけで普通に歩いている。それだけルカの身体が強靭だということだろう。

「この重さが、皇后としての責任の重さなのでしょう――――――郷士の娘である私は、この重さを日々自覚し、耐えていかねばならぬのですね」

 ルカの表情には嬉しさというよりは、これから皇帝を、そして奏国を支え続けなければならないという責任感が滲んでいる。生真面目なルカらしいと言えばルカらしい。

「ま、こればかりは皇帝と紫龍に選ばれてしまった宿命だと思って諦めなさい」

 逃れられない宿命ならば乗り越えれば良い――――――その後に続いたメイコの言葉に、ルカはようやく微笑みを垣間見せた。



 新・皇后の先導を務める魔道士達が皇帝の待つ大広間に入ってきた。その後に女官姿の元・ユニコーン隊の娘達が続き、その後にミクに手を引かれたルカが大広間に入ってきた。周囲の娘達よりも頭一つ背の高いルカの、絢爛豪華な美しさに大広間に居並んだ貴族たちは一斉にどよめく。

「メイコ、お疲れ様」

 配置に付いたメイコの隣にさりげなくやってきたカイトが、ねぎらいの言葉をかける。その声にメイコもホッとした表情を浮かべた。何だかんだ言いながらメイコもかなり緊張しているのだろう。

「ありがとう。それにしてもルカの衣装、すごいわよねぇ。あれを全部身につけて動けるのって二人目なんですってね」

「ああ、コンクリフト皇后陛下以来の事だ。それともうひとつ、ルカは帝祖皇后以来のことをやってくれている」

 カイトの真剣な声に、メイコは小首を傾げた。

「帝祖皇后以来のこと、って?」

「五龍の剣――――――全軍支配の象徴を身に着けている。陰陽二振りで一対をなす剣なんだけど、婚礼の儀で皇后が身に着けているのも帝祖皇后以来初めてだ」

 カイトの言葉にメイコは目を丸くする。

「あの剣って・・・・・・そんなにすごいものなの?」

「ああ。それだけ皇帝がルカを信頼しているのか、それとも・・・・・・」

「それとも?」

「狄国の脅威がすぐ近くにまできているのか」

 カイトの低い声に、メイコも眉をひそめながら頷いてしまった。

「それは言えるかもね。何せ玉蟲部隊の間者が奏国中央まで入り込んじゃった上に、青龍隊の隊長がころりと転ぶくらいですから」

 メイコの嫌味にカイトは一瞬言葉に詰まる。だが、ここで負けてはなるものかと、儀式の邪魔にならない程度の小声で言い返した。

「そりゃあ惚れた女に見向きもされず、一人膝を抱えていたからね。そこを色仕掛けで狙われたら大抵の男はころりと落ちるよ」

 惚れた女――――――その言葉にメイコはふと違和感を感じる。

「あれ?惚れた女って・・・・・・カイトって男の子が好きなんじゃなかったっけ」

 至極まっとうなメイコの質問に、カイトは珍しく狼狽えた。落ち着きなく視線をキョロキョロと動かしつつ、しどろもどろに言い訳をする。

「いや、別にそうというわけじゃ・・・・・・跡継ぎ問題で面倒くさいことにならないようにと、少年の恋人を持つことは多かったけどね。どちらかというと女性のほうが好きなんだけど」

 軍人らしくない、むにゃむにゃとした言い訳を一通りすると、カイトはメイコの顔を覗き込んだ。

「・・・・・・君が俺のオーラを読んでくれれば一発なんだけどな」

 普通の感覚を持った娘なら、この一言でカイトの気持ちに気が付くだろう。だが目の前にいる魔道士は色々な意味で極めて『鈍感』だった。

「悪かったわね。どうせ私はオーラの色もろくに読めない落ちこぼれよ」

「・・・・・・ごめん。オーラが見える見えない以前の問題だった」

 普通なら『自分の心を読んでくれ』と言えば恋の告白だと気が付きそうなものである。だがメイコは全く気がついていない。むしろミクのほうがカイトの姉に対する恋心に気がついていて、事あるごとに慰めてくれている。

(俺は、皇帝よりも厄介な恋の道に踏み込んだのかもしれないな)

 再び動き出した式に姿勢を正しながら、カイトはちらりとメイコを盗み見る。その時である。

「陛下!バルコニーには出ないでください!妖しい気配が!魔導部隊、戦闘配置に付け!!ミク!皇帝陛下と皇后陛下を護る防御壁を!!」

 キヨテルの悲鳴と共に控えていた魔道士達が一斉にバルコニーへと走りだした。



 バルコニーから見える眼下には大勢の民衆が集まっており、大変な騒ぎになっていた。それは結婚式のためでなく、空中に浮いた『あるもの』のためだ。皇宮前広場の空中、そこにはまるでしゃぼん玉のような玉虫色の物体が浮かんでいる。その中には一人の少女らしき人物が立っていた。

「リツ!何故こんなところに!!」

 窓の外を見た瞬間、玉虫色のしゃぼん玉の中にいる人物が誰か気がついたカイトは、剣を引き抜きバルコニーへと駆け出そうとした。だが、その気配に気が付き止めたのは、戦闘の指揮をとっているキヨテルだった。

「カイト中将!こっちに来るな!お前の防御魔法では間違いなく大怪我をする!」

 既にメイコを含めた魔道士達は臨戦態勢に入っている。唯一その輪から外れているのは、皇后と皇帝を護るミクだ。だがミクも一般人にも見えるほど分厚い防御壁を作り、二人を護っている。
 戦うことが出来ないミクでさえある意味戦闘に参加しているのだ――――――何も出来ない歯がゆさに、カイトは苛立ちを顕にする。そんなカイトを置き去りに緊迫感だけは高まってゆく。

「ほぉ、出迎えご苦労!奏国のポンコツ魔道士殿!狄国の魔道士の侵入をここまで許すとは、黒曜魔術師も大したことないな!」

 しゃぼん玉の中のリツがヒステリックに笑う。そんなリツを怒鳴りつけたのは、よりによってメイコだった。

「あんた、何しに来たのよ!」

 メイコのよく通る声に、リツは不服そうに眉をひそめる。

「あんた、黒曜魔術の魔道士じゃないね?しかもこの気配・・・・・・カイトのところで嗅いだことがある!気に食わないな!」

 苛立ちも顕にリツが呪文を唱え、掌をメイコに向けた。その瞬間、禍々しい玉虫色の稲妻がメイコの足元を襲う。野生動物の素早さでメイコは稲妻の攻撃を躱したが、服の裾は焦げてしまった。それを確認して、キヨテルはメイコに指示を出す。

「メイコさん。あなたはミクさんと共に後方支援に当たってください。どうやら彼は、カイトをめぐってあなたに嫉妬をしているらしい・・・・・・男の嫉妬は厄介ですからね」

 そう言いつつキヨテルと部下の魔道士達はリツに一斉攻撃を仕掛けるが、その攻撃は玉虫色のしゃぼん玉によって跳ね返されてしまう。それどころかむしろ退屈そうに大欠をすると、リツは髪の毛をかきあげながら艶然と微笑んだ。

「早く皇帝と皇后を殺したいのに集ってくる雑魚が鬱陶し言ったら・・・・・・それとあの女!カイトの心を完全に支配できなかったのはあの女の所為だ!しかも僕の攻撃を躱しやがって・・・・・・八つ裂きにしてやる!!」

 リツの攻撃対象は完全に皇帝、皇后とメイコに絞られたらしい。その為には雑魚の相手はしていられないとばかりに、リツは稲妻で魔道士達を一斉に襲撃した。

「うわぁぁぁ!」

「熱い!助けて!」

 野育ちのメイコと違って魔道士達はそれほど俊敏ではない。防御壁を張りそこねた魔道士達は稲妻の攻撃に耐えられず、黒焦げになったり炎に包まれ床に転がったりしている。だがリツの攻撃はまだまだ序の口だ。

「こんなもんでいいかな、雑魚の相手は。じゃあそろそろ本命にいきますか!」

 愉快げに唇を歪めると、リツは掌に大きな玉虫色の固まりを作り出す。そして禍々しく光り輝くそれをを皇宮に向かって投げつけたのである。
 その瞬間、耳をつんざく大きな破壊音と大地を揺らす衝撃派が皇宮を襲い、破壊された皇宮の壁が民衆めがけて崩れ落ち始めた。




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ルカの婚礼衣装の描写に気を取られていたら、リツの出番が本当に少しになってしまいました(^_^;)できればもう少し攻撃を仕掛けたかったところなんですが・・・もしかしたらpixiv投稿の際、加筆するかもしれません(^_^;)

重厚感のある皇后の正装ですが、ひ弱な貴族の娘では服に押しつぶされてしまうようなシロモノです。軍人としてしっかり鍛え上げられたルカだから何とか着こなしておりますが、本文中にもあるように普通なら歩くことさえままならない・・・これは略奪婚の名残で、『奪った嫁が逃げないように』との意味が込められております。ただ、皇祖皇后とルカのみは沓さえ脱げば戦うことも可能かもwww

次回更新は9/15,、次回でまとめられるか、もう一話かかるか・・・来週書いてみないとちょっとわかりませんので、ご容赦くださいませ(>_<)一応戦闘シーン中心でお送りいたします(*^_^*)
(多分もう一回分増えそうな気がする・・・)
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