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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第二十七話・伏見布陣と局長狙撃・其の参

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 鮮やかな茜色に染まる丹波橋――――――冬の長閑な夕暮れを、乾いた銃声が打ち砕く。島田ら四人と共に橋を渡ろうとした近藤を一発の銃弾が襲たのだ。

「近藤局長!!」

 島田の悲鳴に近い声が丹波橋を震わせる。一人馬に乗っていた分狙いが定めやすかったのか、銃弾は近藤の喉元に近い右肩を貫いていた。出血もひどく、羽織の下に着た枯野色の長着がみるみるうちに朱に染まる。

「局長!伏せてください!でないとまた狙われます!!」

「敵はっ!敵はどこだ!出てこい!!」

 暴れようとする馬の手綱を握り、横倉甚五郎が銃弾が飛んできた方へ向かって怒鳴る。すると立て続けに前方から銃弾が五人に襲いかかったのだ。慌てて五人は身体を伏せるが、間に合わなかった芳助が腹を撃たれ、地面に崩れ落ちる。このままでは全員殺される――――――瞬時に判断した島田は横倉に手綱から手を離すよう指示する。そして悲壮感も顕に近藤に訴えた。

「局長!ここは我々に任せていち早く伏見奉行所にお戻りください!」

 島田は叫ぶと同時に近藤が乗っている馬の尻を叩く。すると銃弾に立ちすくんでいた馬は前足を上げて嘶いた。

「早く近藤局長を伏見奉行所へ行くのだ!早く!」

 横倉と井上新左衛門も馬に訴えながら馬の尻を叩く。すると三人の男に立て続けに尻を叩かれては堪らないとばかりに、銃声に慄いていた馬も一気に走りだした。その時である。

「逃がすか!」

 突如叫んで道端の草陰から飛び出してきたのは、高台寺党残党の阿部であった。まるで何かに取り憑かれたかのように立て続けに銃を撃ち放つが、どれも当たらない。

「貴様か!成敗してくれる!」

 阿部の飛び出しに気がついた島田らは敵が銃を持っているにも拘らず、阿部に向かって走り寄る。その流れ弾に井上が膝と胸部を撃ちぬかれ倒れたが、島田と横倉には当たらず、一気に阿部との間合いを詰めた。

「チッ、こんな時に弾切れか!」

 カチカチと苛立たしげに引き金を引くが、弾は出てこない。慌てた阿部は銃を放り投げ、刀を抜く。その刹那、阿部の襟首を掴み、強く引く者がいた。

「阿部!何をしている!さっさと引くぞ!刀ではこちらに勝ち目はない!!」

 それは共に来ていた内海だった。確かに島田、横倉を相手に白刃戦では勝ち目はほぼ無い。阿部は舌打ちしつつ、内海とともにその場から逃げ出した。



「近藤局長!大丈夫ですか!一体誰がこんなことを!」

 重傷を追った近藤が馬と共に伏見奉行所に飛び込んできた瞬間、それを見つけた新選組隊士が悲痛な叫びを上げた。その声と同時に新選組隊士達がわらわらと集まり、近藤が乗った馬を取り囲む。

「近藤さん、一体どうしたんだ!島田や横倉は?」

 満身創痍の近藤を馬から下ろしながら、原田が尋ねる。

「あ、ああ・・・・・・丹波橋で何者かに狙撃・・・・・・まだ島田達がいるから、援軍を・・・・・・・」

 苦しげに呻きながら、近藤が事情を説明する

「判った!おい誰か!さっさと戸板を持って来い!」

 原田の剣幕に平隊士達が慌てふためく。その騒ぎを聞きつけ、ようやく土方と永倉、そして井上源三郎が奥から出てきた。どうやら伏見奉行と今後の計画を相談していたらしい。

「近藤さん!」

 怪我を負った近藤を見た瞬間、土方は駆け寄り近藤の顔を覗き込む。

「と、歳か・・・・・・ははっ、供揃えを最低限にしたらこの有様だ」

 土方に心配をかけさせまいと笑顔を作ろうとする近藤だが、その顔はどう頑張っても苦痛でゆがんでしまう。そんな近藤の気遣いを察して、土方はわざと近藤に怒鳴りつける。

「傷が広がるから黙っていろ!原田、永倉!二十人くらい適当に引き連れて丹波橋に!敵は銃を持っているから気をつけろ!」

 できれば奉行所から銃撃隊を借りたいが、『内輪もめ』の収拾にそれは出来ない。原田や永倉もそれを察したらしく、少しばかり神妙な表情で土方に告げる。

「一応銃も持って行ったほうが良いよな?使いこなせるかどうかは判らねぇけどよ」

「ああ、そうしてくれ。無理はするなよ」

 これから本格的な戦いが始まるかもしれないのだ。下らない内輪もめで戦力を失っては元も子もない。

「承知!てめぇら、行くぞ!!」

 永倉の怒鳴り声にその場に居た隊士達が雄叫びを上げる。そして銃を二、三挺持ち伏見奉行所を飛び出していった。その後姿を見送りつつ、土方は近藤に語りかける。

「とにかく軽く手当をしたら大阪に戻ってもらうからな」

 土方の一言に、近藤は不満気な表情を露わにする。

「何を言っている!これしきの怪我・・・・・・ううっ」

 戸板から起き上がろうとした瞬間、激痛が走ったのか呻き声を上げて近藤は再び倒れた。

「ほら、無理をするなって、近藤さん。そもそも戦が起こるかどうかも判らねぇんだから、一旦大阪に戻って松本法眼に傷を診てもらえ。そのほうが治りが早い」

 土方の説得に近藤は恨めしげな表情を浮かべる。 だが、この状態では皆の足手まといになると判断したのか、静かに頷いた。

「そうだな・・・・・・このままでは足手まといになりかねんし」

 傷の痛みに顔をしかめつつ近藤は返事をする。そして伏見奉行所付きの医者の許に運ばれた近藤は、そのまま傷の手当を受け始めた。。



 勢い良く飛び出していった原田と永倉達が、がっくりと肩を落とし井上と芳助の亡骸を戸板に乗せて帰ってきたのは、飛び出してから四半刻も経たないうちだった。

「二人共銃弾にやられました・・・・・・碌な警護も出来ず、誠に申し訳ございません!」

 大きな身体を小さくして、島田は涙ながらに報告する。

「銃撃してきたのは阿部十郎・・・・・・高台寺の残党でした」

 その報告に、土方は特に驚きもせず、静かに頷く。

「やはり、な。だが・・・・・・」

 土方は煙管の吸口を苛立たしげに噛みながら島田に告げる。

「奴らが鉄砲を手に入れ、使いこなすたぁ思わなかった。いや、伊東を失ってからなりふり構わなくなった、ってところか。刀じゃ俺達には敵わねぇと」

 土方の言葉に、島田も深く頷いた。

「確かに伊東参謀は剣術に対する美学をお持ちでしたしね」

 夷狄嫌いはむしろ伊東のほうが激しかった。だからこそ『銃』という選択肢を失念していたのだが、今回はその思い込みにやられてしまったのだ。

「そういうところは近藤さんと同じだ。だからこそ話があっちまったんだが」

 土方は苦々しげに呟くと、煙管を煙草盆に置いた。

「何はともあれ、向こうの手の内の一端を知ることが出来たのは収穫だ――――――ただし、代償が大きすぎるけどよ」

「確かに」

 島田は大きな身体を更に縮こませる。さすがにその場に居た責任を感じているのだろう。

「おめぇが責任を感じることはねぇさ。今回のことは前もって高台寺党が俺達を狙っていることを知っていながら、近藤さんの供揃えを増やせなかった俺の落ち度だ。二度と同じことはねぇさ」

 土方の慰めに島田はようやくホッとした表情を浮かべた。だが、土方の表情は何故か晴れない。

「土方副長、何か気になることでも?」

 土方の表情に気がついた島田が土方に尋ねる。

「ああ。そもそも高台寺党の奴らが、どこから鉄砲を入手したのか・・・・・・やはり薩摩かな」

 その瞬間、島田の顔も強張った。

「高台寺党へ横流しできるほど・・・・・・薩摩の銃は充実している、ということでしょうか?」

「多分そうだろうな。お前たちから聞いた襲撃距離からすると、あいつらが持っていたのはかなり高性能なエンピール銃だろう。それを戦で使われると厄介だ。伏見奉行所の武器庫も覗かせてもらったが、半数以上がまだ旧式のゲベール銃だし、それさえも俺達は使いこなせないだろう」

「お、お詳しいんですね、土方副長」

 土方の言葉に島田が目を丸くする。

「・・・・・・お付の小姓がやけにそっち方面に詳しいんでな。あまりにも物を知らなさ過ぎるとガキに鼻で笑われる」

 土方は軽く苦笑すると島田に命じた。

「近藤さんの大阪行きと殉死の二人の葬儀は年内に終わらせる。それと・・・・・・・」

 土方の声が少し小さくなる。

「今回の事件を考えると、全員に銃を配備するべきなんだろうが、暫くは無理だ。戦が遅くなってくれればありがたいが・・・・・・その点を平の隊士たちにも伝えておいてくれ」

「承知!」

 島田は一礼すると、土方の命令を皆に伝えるためその場から退出した。



UP DATE 2015.9.12

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高台寺党の残党に銃で打たれてしまった局長・・・思った以上に重傷のようです(>_<)
辛うじて部下の三人によって逃げ出すことには成功しましたが・・・馬も大の大人三人にお尻を叩かれちゃあ堪ったものではないでしょう(^_^;)
結局この襲撃で二人死亡、局長大怪我ということになりましたが、果たして戦線に帰ってくることはできるのでしょうか・・・次回更新は9/19,高台寺党の動きも少し語ります♪
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