FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第二十八話・伏見布陣と局長狙撃・其の肆

 ←烏のがらくた箱~その二百八十八・箱根に観光客が戻ってきたのは良い事なのですが/(^o^)\ →鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~小樽放浪編5
 丹波橋での襲撃の翌日、怪我を負った近藤は島田と山崎を伴って大阪へと下った。そして沖田が一人留守を守っていた宿へと向かい、その宿に入る。

「近藤先生!」

 戸板に乗せられ、宿へと入ってきた近藤に驚き、沖田は思わず戸板の脇にすがりつく。

「島田さん!山崎さん!一体近藤先生のみに何が起こったんですか?外出の時だって隊士が付き従っている筈ですよね?」

 沖田は近藤と共に入ってきた島田と山崎に尋ねる。その口調は咎め立てをするように鋭い。そんな沖田の口調に一瞬怯みつつ、島田は事情を説明し始めた。

「二条城での会合の帰り、丹波橋で高台寺党の残党に狙撃されました。近藤局長は馬上だったので特に狙われやすく・・・・・・なお供は四名いましたが、井上新左衛門と芳助が死にました」

 しんみりとした島田の口調に、沖田の怒りがみるみる萎んでゆく。

「・・・・・・そうですか」

 四名もの供が居てもなお、銃撃からは近藤を守ることができない――――――その事実に沖田は悔しげに唇を噛みしめた。自分が護衛に当たっていても、遠くからの狙撃に対抗できるかは甚だ心許ない。

「それと土方副長から沖田先生への伝言です。局長を大阪城の松本法眼に診てもらうようにと。沖田先生、後はよろしくお願いします。では俺達はこれで」

 そう言い残し、島田らは早々に伏見へ戻ろうとする。その慌てぶりに沖田は思わず立ち上がった。

「島田さん、あなた達が急いで戻らなければならないほど、伏見は緊迫しているのですか?」

 すると二人は振り返り、山崎が沖田の質問に答えた。

「へぇ。たぶん年明けまでは大丈夫やと思われますが・・・・・・でも何があるか判りまへん。特に薩摩は・・・・・・高台寺党に鉄砲を横流しできるほどの武力を持っている可能性がありますから、準備は念入りにしておいて方がええでしょう」

 山崎の言葉に沖田は頷くことしかできない。

「そう、ですね。では皆さんにご武運を、と伝えておいてください」

 沖田は今できる限りの精一杯の笑顔を見せて島田と山崎を送り出し、近藤を運んできた小者達と共に大阪城へ入る準備を始めた。



 島田と山崎が大阪を後にしたその頃、新選組は伏見周辺の警備を一層強化していた。その手には伏見奉行所から借り受けた旧式のゲベール銃が握られている。これは高台寺党が銃を使うと判明したための措置である。

「しかしこの重さ、どうにかなりませんかね。これじゃあ白刃戦の時遅れを取るじゃないですか」

 銃を強引に持たされている平隊士の一人がぼやくが、それを穏やかに宥めたのは井上源三郎であった。

「その時は銃を投げ捨てれば良いだけじゃろ。だが練習を兼ねて銃を使うようにとの副長からのお達しじゃ。そもそも白刃戦に持ち込まれるほど近くに敵を寄せ付けるほどぼんやりしているのはどうかと思うぞ? 」

 井上のさりげない指摘に、平隊士はあからさまに失敗した、と顔をしかめる。

「確かに・・・・・・そこまで敵に近寄られるなんて間抜けはまずいですよね」

 その言葉に皆が笑ったその時である。

「薩摩だ!薩摩の一隊がいるぞ!」

 見張りの兵士の声が響く。その声に井上達が揃って表に飛び出した。すると七名ほどの兵が固まっているではないか。ただその動き方がどことなく統制が取れていないように思えたし、旗印が薩摩軍本隊と微妙に違う。それに気ついた井上が目を細めながら呟く。

「薩摩の支藩の連中かの」

 もしかしたら田舎から引きずり出されてここに来たものの、地理がよく判らず迷ったのかもしれない。

「じゃあ稽古がてら空砲でも撃つかのう。あれなら威嚇くらいで充分じゃ」

 これから戦う相手だが、今はまだ早い。それほど相手に敵意も見えなかったので取り敢えず伏見の近辺から追い出せば良いだろうと、井上は隊士に命じ、空砲を発泡させた。すると案の定兵士達はその音に驚き、右往左往し始めたのである。

「うわぁぁ!」

「ひぃぃ!!」

 蜘蛛の子を散らず、というのはまさにこのことだろう。てんでんばらばらに逃げ出したその姿は統率などあったものではない。武士とは思えぬその逃げっぷりは、新選組なら間違いなく切腹ものの醜態である。

「彼らも気の毒にのう。きっと訳も解らずこの地に連れてこられて巡察せよを命じられたのじゃろうな」

 そう井上が呟いた時、奉行所の中から土方が出てきた。

「おい、源さん!銃声が聞こえたが、一体何があったんだ!!」

 近藤が居なくてかなり神経質になっているのだろう。普段なら実弾入りと空砲入りの銃声の違いを小姓に尋ねる余裕を持つ土方が取るものも取り敢えず飛び出してきたのだ。尤も土方にそれを告げる有能な小姓は他の仕事に駆りだされているのかもしれない。井上は隊士達に銃を収めるよう命じながら土方に説明する。

「ああ、間違ってはぐれてしまった薩摩兵がおってな。銃の稽古がてら空砲を撃っておいた。戦慣れしていないようで、空砲でも逃げていきおったから問題無いじゃろ」

 それを聞いて土方はようやく表情をゆるめた。

「源さん・・・・・・別に銃弾をケチらなくても良いんだぜ?」

「田舎から出てきたばかりの兵にそれは酷じゃろ。脅しをかけておけばもう二度とここには近寄らんて」

 のんびりと答える井上だったが、その目論見はその日の夕方、脆くも崩れ去ることになる。



 井上達が迷い込んできた薩摩兵に空砲を発砲して僅か二刻後のことだった。見張りの兵士が悲鳴に近い大声を上げたのである。

「大変です!さ、薩摩の・・・・・・今度は大軍が迫ってきています!!」

 その知らせに幹部会を開いていた土方以下幹部たちは愕然とする。迷い込んできた薩摩兵を空砲で脅しはしたが、怪我は一切させていない。それなのに仇討とばかりにこちらに攻め入ってくるとはどういうことなのか――――――土方の眉がピクリ、と跳ね上がるり、やおら立ち上がる。

「新選組!ありったけの銃と大砲を引っ張り出せ!無いんなら奉行所のモンを借りておけ!!」

 鬼の副長の本気の命令に、幹部たちは鬨の声を上げ、隊士達は殺気立つ。ただでさえ局長が怪我をしてこの場に居ないのだ。ただでさえ神経質になるこの状況の中、敵が眼前にやってきたとなれば先制攻撃しか無い。

「おい土方!落ち着け!」

 土方らと共に伏見にやってきていた京都西町奉行・高力忠良が騒ぎを聞きつけ土方宥める。だが、土方はその手を振り払い高力に告げた。

「確か伏見奉行の権限は京都町奉行に移っていたよな?だったら話は早ぇ。ちょいと奉行所の備品を借りるぜ。まぁ、あんたに免じてこちらからの攻撃は遠慮してやるけどよ、もし向こうから攻撃を仕掛けられたら・・・・・・ぶっ潰すから」

 不敵な笑みを浮かべると、土方はささっ、と懐から取り出した三味線の糸でたすき掛けをする。それは小粋な芸者や遊び人がするたすき掛けのやり方で、武士がやるようなものではない。

「・・・・・・まるで町人みたいなたすき掛けをするな」

「ん、ああ。白布の襷を使うほどじゃねぇだろ。それと・・・・・・」

 土方は小声で高石に告げる。

「実は元・許嫁の実家が三味線屋でよ・・・・・・こいつはこれから貰ったもんだ」

そう言って土方は小指を立てる。それを聞いて高石は苦笑いを浮かべた。

「ま、新選組の銃撃実践訓練だと思ってここは目を瞑ってくれ」

 そう高石に言い残し、土方は準備をしている部下達の方へと小走りに向かっていった。



 結果から言うと薩摩とのにらみ合いは一晩中続いたが、最終的に新選組の名代になった高石と薩摩藩の代表者の話し合いによりこの場は辛うじて収まった。だが、一触即発の雰囲気はますます高まったと言って良いだろう。後日、土方らは尾張藩から伏見を出て行けと苦情を受けることになるが、それは余談である。

「それにしても、まさか薩摩にも『士道不覚悟により切腹!』があるとは思わなかったぜ」

 車座になった酒の席、原田の苦々しい呟きに永倉も頷く。

「切腹ならまだマシさ。斬首だぜ、むこうは・・・・・・まさか逃げ帰った七人が全員斬首になるなんてよぉ。折角源さんが気を利かせてくれたっていうのに」

 話し合いから帰ってきた高石から聞いた話によると、井上らに追い返された七人の薩摩藩士――――――正しくは都城兵は薩摩藩の軍律によって斬首になったそうである。確かにみっともない逃げ帰り方だったかもしれないが、そもそも地元から一歩も出たことの無いような藩士を無理に兵士に仕立てあげ、巡察をさせた薩摩藩上層部が悪いのでは、とも思う。

「それが薩摩なんだろ。野暮の極みさ」

 土方は珍しく盃を空けながら吐き捨てる。

「・・・・・・暫くは井関屋の酒も呑めねぇときたか」

 井関屋の酒だけではない。ここには京都ではごく当たり前にあった全てがないのだ。いがや上にもここが戦場だと思い知らされる。

「向こうも言っていたが、この年末年始の会談が鍵を握る。俺達はいつ何が起こってもすぐに戦えるよう準備をするだけだ」

 本格的な戦いはもう目の前――――――土方の言葉に全員が頷いた。




UP DATE 2015.9.26

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






二週間ぶりの『夏虫』なのに遅刻してしまいました~(>_<)ここ最近ちょっと多くて申し訳ございませんm(_ _)m

近藤局長が狙撃され、一気に伏見での緊張感が増しております。そんな中、薩摩の兵士―――――資料によると都城の郡兵が迷い込んでくるという(>_<)
逃げ帰ったのを薩摩が斬首したと言いますから、新選組側は最初脅しをかけただけだったんでしょうね。局長が居ない中、変な騒ぎを起こさないよう細心の注意を払っていたと思われます。それなのに薩摩は・・・(-_-;)切腹さえ許されないその処断に当時の切迫感を感じます。

そして第八章本編はこれにて終了いたします(*^_^*)次回は大正時代に戻ってジジイ総司のおしゃべりを・・・その次も第9章の序章になりますので本編好きの方はご容赦くださいませね(^_^;)
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その二百八十八・箱根に観光客が戻ってきたのは良い事なのですが/(^o^)\】へ  【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~小樽放浪編5】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その二百八十八・箱根に観光客が戻ってきたのは良い事なのですが/(^o^)\】へ
  • 【鉄ヲタ夫と歴女妻の鉄道オタク旅~小樽放浪編5】へ