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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第一話 その名は、新選組・其の壹

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長州藩、そして攘夷派公家が失脚した八月十八日の政変。その騒動が一段落し、壬生浪士組も壬生に帰る支度をしていたその時であった。

「壬生浪士組の代表者どこにいる。殿直々のお呼びだ。早々に参られよ。」

 会津藩士・冨田重光が芹沢らを呼びに来たのである。帰るばかりだっただけに芹沢や近藤は勿論、壬生浪士組の全員が面食らう。

「警備も終わったのに・・・・・・一体何なんでしょうね。」

 沖田が小首をかしげ、不思議そうな表情を浮かべる。

「きっと報償のことなんじゃねぇか!何せ御所の警備だぜ?」

 沖田の疑問に対し、嬉しげに騒ぎ立てたのは原田であった。そしてそれを叱り飛ばすのはいつも土方の役目である。

「おい、左之助!下手な期待を抱かせるんじゃねぇ!そもそも来たときに一悶着あったんだ。そうそううまい話があるかってんだ。処罰されねぇ事だけを祈るんだな!」

 原田の儚い妄想を粉々に打ち砕く土方の言葉に反応したのは、意外にも直接叱られた原田ではなく芹沢であった。

「・・・・・おめぇの言葉にも一理あるな、土方。」

 こういう与太話に際してはむしろ悪のりをする芹沢にしては珍しく真剣な表情で呟く。そのあまりに真剣な表情に却って土方の方が居心地の悪さを感じてしまったほどだ。

「どうしたんだよ、芹沢さん。らしくもねぇ・・・・・むしろ普段なら左之助なみに浮かれそうなあんたがよ。」

 わざと茶化すような口調で芹沢に尋ねる土方だったが、芹沢は表情を変えず低い声で口の中でぶつぶつと呟いた。

「朝の件もあるし・・・・・いや、何でもない。」

 芹沢は土方から視線をそらすようにくるりと背を向けた。芹沢の脳裏に浮かんだのは自分達に対する会津藩の今朝方の態度である。公用方の広沢らは『新たに上洛した藩士故京都の事情に疎いのだ。』と言い訳したが、あらかじめ自分達が来ることを通達していなかった会津藩上層部の対応こそ自分達を一段低く見ている証だと芹沢は思う。今回の呼び出しも十中八九勝手な行動を控えるようにとの叱責に違いない。

(自分達に対する会津の態度を考えたとき、このまま会津に付いていても良いものなのだろうか?)

 芹沢の懸念はそれだけではない。会津藩の外交の方向性に対し、どうしても納得できないものを感じているのである。
 確かに長州の過激すぎるやり方には疑問を感じるが、その一方水戸学を学び、その考えが骨肉となっている芹沢にとって『攘夷思想』は文字通り自分の一部となっている。
 しかし、会津藩の思想は元々の強固な『攘夷』から幕府の意見に近い『公武合体』、そして『開国』に転換しつつあるのだ。京都に残り、自分達の地位を確立するまでは目を瞑っていた事実だが、ここに来てその思想の違いに芹沢は違和感を認めざるを得なかった。

(いっそ近藤みたいに盲目的に幕府を崇拝できるのならどんなに楽か。)

 芹沢に対して屈託のない笑顔を見せる近藤に対し、作り笑顔を見せながら、芹沢は冨田重光の後に付いていった。



 京都守護職・松平容保の御前に呼び出された芹沢と近藤を待ち受けていたものはあまりにも意外なものであった。

「今回の働き、誠にあっぱれ。その褒美として壬生浪士組改め『新選組』と名乗る事を許可する。」

 松平容保の前に平伏した芹沢と近藤に対し、傍に控えていた広沢富次郎が口上を読み上げた。それを聞いて芹沢と近藤は頭を下げたまま思わず顔を見合わせてしまう。

「・・・・・・・うっほん!この名は会津藩主本陣の警護部隊につけられていた由緒ある名前である。ありがたく頂戴するように。」

 松平容保の前で思わず顔を見合わせるという失態を犯してしまった芹沢と近藤に対し咳払いを一つすると、広沢は高飛車に『新選組』の名の由来を言い放った。

「ははっ。」

 さすがにまずいと思ったのか芹沢、近藤はそれこそ畳に額をすりつけ平伏する。

「そして以後、正式に京都市中見回り、および手に余る事態においての切り捨て御免の許可を与える。それと後に報奨金も出るので心するように。」

 次々と申し渡されていく広沢の言葉は、京都に来たばかりの時の状況を考えれば破格の待遇である。だが、芹沢はその言葉に窮屈なものを感じていた。

(俺たちは攘夷を目的としてここまで来たんだ。会津の道具になるためじゃない!)

 確かに『新選組』の名は由緒正しいものかも知れない。そしていざというときの『切り捨て御免』の許可は務めを遂行する上でありがたいことは確かである。
 だが、会津からの通達はどれも『会津藩の組織』として壬生浪士組を組み込もうとする魂胆が見え見えであった。確かに早朝御所に駆けつけてきた事が評価された為かもしれないが、それだけにしては破格すぎる待遇ではないか。そもそも会津藩預かりの壬生浪士組である、このような事態での出動は務めの範疇であるし、報奨金はともかく、『新選組』の名称授与や切り捨て御免の許可などは、今までの功績を認められたとしても不自然である。

(こりゃ、何か魂胆があるに違いない。後で近藤達にも言い含めておかなきゃいけねぇな・・・・・。)

 自分達が与り知らないところで何かがある・・・・・芹沢の本能が危険を察知するが、とりあえずここは素直に従った方が良いだろう。

「ありがたき幸せにございます。これからもますますの精進に邁進したく・・・・・・。」

 会津側に悟られぬよう仏頂面を決め込みながら芹沢は粛々と型どおりの挨拶をこなした。



 新選組の名称授与----------これは会津藩が壬生浪士組の動きの迅速さに脅威を覚えたからというのが理由のひとつである。浪士達の寄せ集め集団と高をくくっていた壬生浪士組だったが、その動きは会津の小隊に勝るとも劣らなかったのだ。
 そしてそれ以上に脅威を覚えたのが壬生浪士組を率いている芹沢の胆力である。槍の穂先を四方八方から突きつけられながら顔色一つ替えず、鉄扇で穂先をなぎ払ったその行動に、会津藩は頼もしさと恐ろしさを感じずにはいられない。

 まだ五十人ほどの小さな部隊の壬生浪士組だが、それだけに今のうちに懐柔し、会津藩の組織の一つとして組み込んでおいた方が良いだろうという思惑が会津藩上層部に働いたのだ。
 ちなみに新選組の名前は天明八年、会津藩が軍制を長沼流に改めたときの編成表に見ることができる古いもので、藩主の本陣と親衛隊で構成される中軍の末尾に記されている。つまりこの名誉ある名前を押しつけることで壬生浪士組を押さえつけようと画策したのである。

「・・・・・会津のやり方は気にいらねぇ。」

 壬生に帰り着くなり、芹沢は他の幹部達を前に酒焼けした声で呻いた。

「確かに今現在は会津藩預かりの身だが、陪臣になった覚えはねぇ。おめぇらだってそう思うだろうが!」

 芹沢の言葉に困惑する近藤だったが、言いたいことは理解できる。近藤とてどうせなら御家人に-----------将軍直属の幕臣になりたいと願っているが、給金を貰い、なおかつ『新選組』という会津伝来の名前を隊名につけられてしまったらそれこそ会津藩の部隊のひとつに成り下がってしまう。不本意な主君の下で陪臣に甘んじる-----------それだけはなけなしの矜持が許さない。

「しかし・・・・・あの名前を返上する訳にはいかないでしょう。それこそ会津藩預かりの身分さえ失うことに・・・・・。」

 会津との関係を慮った近藤は思わず現実的な問題を零してしまった。それに対して芹沢はくすりとも笑うことなく深刻な表情で近藤に応える。

「しばらくは仕方がねぇ。だが、事と次第によっちゃあ会津からの決別も考えるべきだろう。」

 だが、それはあまりにも無謀すぎる考えであった。上洛直後の苦労はここにいる全員が味わっている。会津と手を切ってしまったら再び自分達は路頭に迷うことは目に見えている。

「簡単に言ってくれるがよ・・・・・・当てはあるのか、芹沢さん?」

 芹沢の言葉に対し、疑り深そうに土方が尋ねた。

「・・・・・水戸か一橋にちょっと聞きたい話があってな。その際にかまを掛けてみるさ。」

 芹沢が思わず零した一言を聞き逃す土方ではなかった。

「聞きたい話?何だよ、それは?」

「・・・・・おまえさん達はまだ知らない方が良いだろう。何かあったとき都合が悪くなる。」

 好奇心に目を輝かせた土方を芹沢ははぐらかす。そのはぐらかし方に何となくぎこちないものを感じた土方はさらに芹沢に絡んだ。

「前々から気になっていたんだが・・・・・・吉田屋で何かあったのか?」

「・・・・・・・。」

 土方の言葉に対し返事もせずに芹沢は立ち上がる。

「俺たちもいい加減信用されてねぇな。」

 苦笑いを浮かべながら土方は芹沢をからかうが、芹沢はそれに乗ってはこなかった。

「・・・・・どこまでもしらを切るにゃその方が都合が良いってもんがある。浪士組五十余人、一人も欠けることなく預かってくれる藩が出てくるまで悪いが一言も言うことはできねぇ。」

 酒が入っていないせいか、それともそれだけ深刻な状況なのか、芹沢は一言も喋ろうとはしなかった。



 その日の夜、芹沢は平間と平山、野口を引き連れて昔の仲間--------------水戸藩の太田と前川の二人に会っていた。二人とも芹沢が水戸にいた頃からの盟友である。

「おい、芹沢。おまえ、会津の野郎に対して鉄扇を振りかざしたんだって?京の街ではすでに噂になっているぞ。」

 太田が愉快そうにはやし立てる。

「おうよ、俺様に対して槍を穂先を向けやがった。鉄扇で済んだだけありがたいと思いやがれってんだ!」

 太田の言葉に対し大声で笑いながら芹沢は杯をあけた。その姿はいつもの芹沢だ。

「しかし、浪士なのに会津や薩摩に負けず劣らずの活躍・・・・・・水戸公も感心しておったぞ。」

 今度は前川が芹沢の空いた杯になみなみと酒を注ぎながら思いもかけず嬉しいことを言い出した。

「それは誠か?」

 現状では会津に従っているとはいえ、芹沢の主君は水戸公なのだ。その人から感心していると聞かされれば悪い気はしない。

「ああ、会津から愛想を尽かされたらこっちに来い。そもそも本来攘夷派だった会津がこの頃では公武合体、開国推進に傾き始めているというではないか。今回の政変だってその流れの一端だろう?仕方ないとはいえそんなところに厄介になるのもどうかと思うぞ?」

「・・・・・・そう思うか?」

 芹沢は昔の仲間の言葉を聞きながら思案に耽る。確かに将軍警護と攘夷を目的として自分達は江戸から上洛してきたが、ここ最近の会津の動向は自分達の思っているものと違うような気がしていた。

「そうさ。一橋公も今回のことにはきっと心を痛められるだろう。元々あの方は毛利の若殿と交流があったから・・・・・・。」

 今現在は江戸に滞在しているが、この知らせを聞いたらきっと悲しむだろうとその男は言った。

「一橋公が・・・・・・・毛利の・・・・・?」

「おい、おまえ知らなかったのか?同じ尊王攘夷派、話が合うのだろうよ。」

 それを聞いて芹沢は唇を噛みしめた。

(やっぱりあの書状は・・・・・・。)

 吉田屋で見つけたものは本物だったのだ。しかも一橋家の中だけでなく、兄弟である水戸家の家臣も知っているとなれば公然の事なのだろう。

「おい、もし俺たちが水戸に世話になるとしたら・・・・・・。」

 芹沢は酔った勢い昔の仲間達に尋ね始めた。



 酔っていた所為だろうか、それとも話に夢中になってしまった所為だろうか、芹沢は気がつかなかった。部屋に面している庭から秋の虫の声が全く聞こえないことに・・・・・。そしてその庭に一人の男が潜み、芹沢らの話を盗み聞きしていたことを・・・・・。
 二十日月はまだ東の空に昇らない。そんな闇の中、芹沢を奈落の底に引きずり落とす魔の手が刻一刻と伸びつつあることに、芹沢は未だ気がつかなかった。



UP.DATE 2010.09.17


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夏虫・第二章本格的に始動です。二話ほど一時期大正時代にタイムスリップしてしまいましたが(笑)本流の続きは本当に八月十八日の政変直後からです。

これ以前から少しずつ会津から心離れしていた芹沢ですが、『新選組』の名前を賜ったことでそれが決定的になります。彼らは別に会津の配下になりたい訳じゃありませんしねぇ。そう言う意味では会津軍制の中にある名前を付けられるってどうだったんでしょう?と思うわけです。これより後になりますが近藤局長も会津藩からの禄位を辞退しているんですよね。そういうこともあり壬生浪士組改め新選組幹部達は会津藩の組織として取り込まれるのを潔しとしていなかったんじゃないかな・・・・・・という解釈の下第二章の最初の方は進めていくつもりです。
毎度のことですが『むりぃ~!』と思った方は無理をしないで下さいませね(^^)


次回更新は9/24、新選組として最初のお仕事・平野国臣捕縛を中心として展開します。
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