FC2ブログ

「短編小説」
明治美味草紙

明治美味草紙 其の拾・ブランデー(秋山好古)

 ←運び屋アレク 独裁者の懇願・4 →拍手お返事&個別包装の化粧品の分量
秋の柔らかな日差しが差し込む電車の中、秋山好古はブランデーの小瓶を片手に車窓に寄りかかっていた。

「たまにはこういう使いも悪くない。」

 手にした小瓶を唇に持ってゆき、中に入っている琥珀色の液体を口の中に流し込めば芳醇な香りと焼けるような刺激が広がってゆく。
 このブランデーは内務大臣・山縣有朋がフランス陸軍から送られたものだったが、山縣がブランデーを嗜まないため『お流れ』としてちゃっかり頂戴したものである。普段酸っぱい安ワインしか飲めない身分の好古にとって、このご馳走は非常にありがたい。
 だが、お流れを頂戴するばかりとはいかず、好古はブランデーの送り主であるフランス軍の大佐に書類とブランデーのお返しを渡す使いっ走りを命じられたのである。

「巴里の街中もだいぶ秋めいてきたな。」

 車窓の外に広がる巴里の町並みは黄金の秋色に輝いていた。黄葉した街路樹が太陽の光を浴びて金色に輝き、舞い落ちる落ち葉の中を子供らが走り回る。秋の流行を身に纏った紳士淑女は街を闊歩し、これから巴里は年末にかけて最も華やかな季節へと突入してゆくのだ。
 普段はサン・シール陸軍士官学校に留学した久松定謨の補導役として学校と寄宿舎を往復するだけの生活なだけに、久しぶりに見る街中の風景は新鮮そのものであった。



 元々それほど美食を好まず、質素な生活を貫いている好古は、必要最低限しか巴里の街中に出なかった。遊ぶよりも騎兵に関する勉強の方に興味があったし、食事も寄宿舎で出される質素なパンとハム、チーズ、それと少々とは言い難い量のワインやブランデー、その他諸々の酒があれば充分だった。
 特に好古の酒好きは筋金入りで、のちに戦場でも水筒の中に入れ持ち歩いていたと言われる。酒を呑むためなら騎乗で身を乗り出し、従兵の水筒の酒を飲み干すなどの曲芸まがいの事までする男だったが、酔って自分を見失ったり判断を誤ったりすることは皆無だったという。
 だが、それはあくまでも戦場でのこと、柔らかな秋の日差しの中、電車に揺られながらブランデーを煽っていればさすがの好古も眠気を催してくる。

「少しくらい・・・・・・駅に着くまでの居眠りくらい、いいか・・・・・・。

 だんだんとまぶたが重くなってゆく。斜め前に座ったマダムが抱えている犬が心なしか好古の居眠りを窘めるような、少し怒っているような顔つきでこちらを見ている気がした。犬の顔など普段は何とも思わないのだが、その怒った表情が何となく誰かに似ているような気がしてまどろみの中好古は考える。

「ああ・・・・・確か・・・・・東京で下宿していたお屋敷の・・・・・たみ嬢さん。そういや朕に似ていたっけ・・・・・。」

 昔の下宿先にいた、顔を合わせれば怒った表情しか浮かべない娘のことを思い出しながら、好古はとろとろと睡魔に身を任せていった。



 ほんの少しだけ---------そう好古は思っていた。だが、世の中は秋の日差しほど柔らかくも暖かくもない。目が覚めた場所は何と終点であり、好古は乗務員に身体を揺すられようやく目覚めたのである。

「あ、しまった!荷物が・・・・・・盗られてる!」

 好古は終点まで寝過ごしてしまっただけでなく、置き引きにも遭ってしまったのだ。勿論山縣に命じられた書類も、ブランデーのお返しも消えて無くなっている。盗む方が勿論悪いが、それを許してしまった好古の落ち度も否定できない。

「ま・・・・・仕方がないか。」

 起こってしまったものは諦めるしかないと、変に潔く好古は気持ちを切り替え、山縣のいるホテルへと戻っていく。だがそんな好古を待ち構えていたのは元・陸軍卿の容赦ない説教であった。

「馬鹿者!帝国陸軍の端くれとして恥を知れ、恥を!!」

 内務大臣の地位に就いていても基本は軍人である。怒り心頭の山縣の前で好古は大きな身体を小さくして叱責に耐えることになる。



UP DATE 2010.09.26


Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
ランキング参加中。お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv

   
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






明治美味草紙第十話、結局飲んだくれを主人公にしてしまいました(笑)。
某国営放送の年末ドラマで思いっきりはまってしまった『坂/の/上/の/雲』、その主人公の一人秋山好古のフランス留学時のエピソードを今回取り上げてみました。この場面は国営放送のドラマで取り上げていませんでしたし、著作権に引っかかることもないだろうと(爆)。
何せ戦場に行く際、水筒にお酒を詰めていった人ですからね~絶対にフランスのお酒は制覇していると思うんですよ。なので本当はワインにしようと思ったんですが、すでにワインはお題で出してしまっていますし、好古自身戦場で酔っぱらって判断を見失うようなまねはしなかったと言うくらいですからかなりお酒には強いはず・・・・・となるとワインくらいじゃ酔っぱらって居眠りこくなんて醜態は晒さないだろうとお酒の種類をブランデーにしました。さらに口当たりの良い高級品ならすいすい進んでしまうだろうと・・・・・。ということでお題をブランデーにしてみました。皆様はまねをしないようにして下さいませ(爆)。


次回は何にしようかなぁ・・・・・十二月はすき焼き&忘年会にしようと思っているのですが、一ヶ月考えたいと思いますv
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【運び屋アレク 独裁者の懇願・4】へ  【拍手お返事&個別包装の化粧品の分量】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【運び屋アレク 独裁者の懇願・4】へ
  • 【拍手お返事&個別包装の化粧品の分量】へ