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「葵と杏葉」
葵と杏葉・改革編

葵と杏葉改革編 第二話 前代未聞の大淘汰・其の貳

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 城を再建すると一言で言ってもそれは容易なことではない。それは建築そのものに対しても各所への届けに対しても言えることである。特に武家諸法度などの幕府による締め付けによって、各大名は城再建に苦労させられていた。

 戦国時代には多くの城が乱立していたが、平和な江戸時代になると各大名への統治を徹底するため幕府は一国一城令を発令した。その命令に従い大名達は、原則一大名家に付き一城を残し多くの城――――――主に中世的な山城や家臣達の城を破却したのである。
 城は軍事拠点という意味あいを薄め、政治の拠点、領主の権威と権力の象徴としての意味あいを濃くしてゆく。さらに、各大名は家臣たちや商工人を己の城下に集住させ、近世的な城下町が成立していった。

 そのような経過を経て出来上がった城であり、城下町であったが、時が経つにつれ城や天守などが火災などで焼失することも少なくない。しかし多くの藩は、財政難や幕府による締め付けによってなかなか城の再建ができなかった。それは佐賀においても同様である。
 佐賀城は幾度も火災に見舞われ、特に享保十一年の大火では天守以下本丸建造物の大半を焼失したが、この時は幕府の許可が下りず再建を断念、二年後の享保十三年に二の丸を再建し政治中枢としていた。そして今回の幕府との密約絡みの火災によってようやく城の再建、しかも本丸の再建を許可されたのである。

「無理を承知で申請を出してみて正解だったな。まさか本丸再建が許可されるとは思ってもみなかったぜ」

 城普請頭人に任命された茂義が、幕府からの再建許可の書状を読みながら感嘆の声を上げる。

「ええ、これも姫君様のご尽力の賜でしょう。殿からも姫君様に相当頼み込んでいたようですから」

 新たに請役に就任した茂真も嬉しげだ。今回の人事で斉直の息のかかった保守派の者達を排除することはできたが、まだまだ斉直の影響力は大きい。斉正もまだ斉直に遠慮があり、無理難題を言われてしまえばそれを呑んでしまいそうなところがあるので『本丸の再建』は改革派の悲願であったのだ。

「二の丸と距離的にはそう変わらないですが、少なくとも本丸であれば三の丸より建物自体を大きく作ることができます。部外者にとって入りづらくなるでしょう。それと大殿は単純な人ですからね、見た目の威圧感に気圧されると思いますよ」

 茂真は口の端にわずかな笑みを滲ませ、茂義に言った。この後本丸再建の許可が下りたことを知った斉直から『再建は本丸ではなく二の丸にしろ』と異論が出たのだが、斉正がそれに返事をする前に請役所――――――すなわち茂真の段階で門前払いを喰らわされた。

「天守の再建が認められぬこの時代、本丸こそが藩の顔であり誇りであります。今まで本丸の再建が許されなかった事こそ大名として恥ずべき事であり、ようやく幕府により許されたこの機会を逃すわけにはいかないのです!」

 斉直の我が儘に対し茂真直々に三の丸に乗り込み、極めて強い口調で斉直に言い放ったのである。まさか庶子である茂真にまで反抗的な態度を、しかも斉正以上に強い口調で言われると思っていなかった斉直は衝撃のあまりただ口をぱくぱくとさせる。

「・・・・・・大殿、いえこの際ですから父上と呼ばせていただきましょうか。もう父上の時代は終わったのです。じき耳順(六十歳)におなり遊ばすのですから、そろそろ実権を手放し、我らのやり方に耳を傾けて戴きましょう。ではこれにて御免!」

 そう言い残すと茂真は斉直の前から立ち去っていった。庶子故に藩主になり損ねたと陰で言われる茂真であるが、思い立ったらその考えを形にし、自ら行動を起こす積極さは藩主よりむしろ請役という実務を行う立場で生かされる。
 本人も藩主という不自由な地位より、請役というやり甲斐のある役職をむしろ楽しんでいる節があった。実際愛想よく周囲に気を遣う斉正と、知的な雰囲気を崩さない癖に、さり気なく強引な手法で改革を実現していく茂真は、互いの足りない部分を補うように藩政を進めていく。



 佐賀城再建は火災後すぐに決まっていたのだが、梅雨時と重なってしまったこと、そして保守派の往生際の悪い反対もあり結局普請が始まったのは七月の終わりになってからであった。城再建の第一方針は『耐久性に主眼を置き、頑丈に築くこと』として華美を極力避ける方向性を出したのだが、それでも金銭的に苦しい中、いつ城が完成するか見当がつかない。享保時の二の丸再建でさえ三年かかっているのである。その当時より財政が悪化している上に、本丸は二の丸より巨大だ。

「とりあえずこれが本丸再建の差図だ」

 茂義が斉正に差し出した設計図を見て、斉正は複雑な表情を見せる。

「この能舞台は・・・・・・要るのか?私には必要のない贅沢なもののような気がするのだが」

「ああ、これを作る気は毛頭ない」

「はぁ?」

 茂義の言葉に茂真、松根、そしてそばに控えていた井内まで素っ頓狂な声を上げる。

「これは大殿対策だ。『事後承諾』と公言したがそれでも横やりを入れてくるだろうよ、あの大殿は。とりあえずこの図面で承諾を得た後『金がありません』と言って作らなきゃいいんだ」

 明らかに確信犯である。日々悪知恵をつけてゆく茂義や茂真、そして徐々にそれに毒されてゆくそれぞれの配下に多少の不安を感じつつ、確かにそれしか図面を斉直に承諾させるのは難しいと斉正は了承した。だが茂義の小細工もむなしく保守派はしつこく図面にけちをつけてきたのである。

「これでは本丸に役所が密集しすぎる。再び火事になった場合どうするつもりだ?せめて外様(行政機関)は二の丸に置いた方が良いと思うが」

 だが、これは行政を藩主から離し、自分たちの都合の良いように政治を操ろうという斉直側のもくろみであることは明らかであった。勿論そのような考えに騙される茂義や茂真ではない。

「この度、緊急事態につき役所の人員も削減しております。一人何役もこなさねばならない事情故、役所同士は近い方が何かと都合が良いのです。火事対策としては土壁を多用し、耐火対策をいたします。何かご不満は?」

 茂義と共に三の丸に再び乗り込んできた茂真にきつい口調で責め立てられては、斉直を始め保守派は何も言い返せない。そんな小さなごたごたはあったものの、ようやく七月になり本丸の普請が始まる事となった。



 切り詰めるところをとことん切り詰め、できる限りの借金を重ねたとしても城が出来上がるまで五年はかかるだろう――――――それが茂義を始めとする幹部達の意見であった。否、年貢収入如何ではそれ以上かかることも覚悟しなければならないだろうと腹をくくっていたのだが、思わぬところから助っ人が現れたのである。

「いつまでも城が無いままでは佐賀の恥、我々にも出来る事をさせていただきたい!」

 と保守派、改革派問わず上級武士層から献金の申し出があったのである。

「この前の大淘汰がよっぽど堪えたんだろう」

 彼らが帰った後、茂義は苦笑しながら茂真に呟いた。

「それと献金で再び役職に就こうとする下心、ってところでしょうか」

 茂義の言葉に、これもまた皮肉混じりに茂真が答える。献金によって斉正の歓心を買い、役職を解任されないよう、または再び役職に就けるよう働きかけようというのだ。その様な事で人事を決定する訳ではないので無駄と言えばこれほど無駄なことはないのだが、とりあえず気持ちだけは受けるようにと二人に命じたのは他でもない斉正であった。

「それでも構わぬではないか。今はできる限り機能を縮小しているが、いつか休息してもらっている者の力を借りなければならないときもやってくる。その為にも献金に対しては無下に扱わぬように。今の私にとっては一文だって無駄にはできぬのだ」

 そんな斉正の意向に従い献金を受けることになった。するとその話を聞いた藩士達が我も我もと献金や米やくぎ、瓦などまで寄進を申し出始めたのである。
 それだけではない、献金する金のない中級、下級藩士達は『軍役の一環』と称して手弁当で作業に加わったのである。さすがに門や塀を造る作事は本職にやってもらわねば話にならないが、堀や土塁を築く普請なら素人の藩士達でも何とかなるだろう。

『土砂運搬の労働をするのは武士の恥』

 そんな声も根強かったが、斉正はその声を押しのけ藩士達に普請参加を許可した。その数は日割りで数百人と相当の数となったが、これにより本来領民達に賃金を支払わなくてはならない分が浮いたのである。
 もちろん藩士達だけに任せておく訳にもいかない。普請を始めて数日で慣れない肉体労働で関節痛になったり、無理に普請に参加し、すぐに息切れしてしまう上級藩士も出てきたので、農閑期には領民も雇うことにした。だが、これに関しても思いがけない嬉しい誤算が起こったのである。

『大殿様の居城なら断るが、若殿様の居城ならば喜んで普請に参加したい』

 という百姓達が多数押しかけてきたのである。これは藩主就任直後から『鷹狩り』と称して領内各地を馬で視察していた事による。駕籠に乗らずに直接領民と対面し、子年の大風の傷跡に苦しんでいた領民に直接声をかけてきた領主に好感を持つ領民が想像以上に多かったのだ。

「こりゃ断るのも一苦労だな。来てくれるのはありがたいが支払う賃金が無い。いっそ支払いは後回しにするか」

 建前上は『労役』という名の奉仕となっているが、実際は労働に対してささやかながらも『お礼』として賃金を支払わねばならない。本来の労働賃金に比べれば極めて安いものではあるが束になればそれなりの金額になる。
 幕府から借り受けた金も斉正の参勤の際に渡されることになっている。切手で渡してもらうことも考えたが、それでは体裁が悪いし二万両の切手ともなると手数料も馬鹿にならない。手数料を支払うくらいなら直接貰った方が良いと幕府に申し出たのだが、そうなるとやはりその金が手元に届くのは斉正が佐賀に帰ってくる来年四月以降になる。

「・・・・・・いっそそれもありかもしれませんね。四月以降の支払いでも構わない者を採用すると言えば少しは村に帰る者も出てくるんじゃないかと」

 だが、茂真の予想は者の見事に裏切られ、結局村単位で十日ごとに労働奉仕をして貰う事になったのである。

「まさかここまで皆が尽くしてくれるとは・・・・・・」

 思わぬ助っ人に感激した斉正は事あるごと藩士や領民にねぎらいの言葉をかけたと伝えられている。その一言に感激した藩士や領民がますます普請に励むという相乗効果を生み出し、おかげで石突きや土塁の積み上げ直しなどの普請は斉正が参勤に出立した後、初雪が降る前に終わらせることが出来た。

「少なくとも土台だけは江戸城にも負けないな」

 普請が終わった次の日、初雪が舞う中で茂義は感慨深げに呟いた。

「江戸城と違って踏み固めたのは大の大人――――――武士と百姓だ。どこぞの殿様のように子供を遊ばせて踏み固めた訳じゃない」

 隣国・熊本藩初代藩主であり、普請の天才と謳われる加藤清正に対抗して茂義は胸を張る。

「しかし、それ以外はほとんど清正公が編み出した普請のやり方を真似していますけどね」

 茂義のしょうもない自慢にクスクスと笑いながら、茂真は不意に真剣な表情を浮かべた。

「ところで武雄殿――――――今年の冬はいつもの年以上に寒くありませぬか?こんな早く初雪が降るなんて」

 茂真は空を見上げ、舞い落ちてくる粉雪を見上げた。

「・・・・・・おまえさんもそう思うか」

 そんな心配げな茂真に対し、茂義も真剣な表情で言う。

「俺はあまり気にならなかったのだが、風吹の奴が・・・・・・いやその・・・・・・やけに佐賀は寒い、だの倹約令で炭を熾せないだの文句を言っては人に近寄って・・・・・・」

 耳まで真っ赤にして、茂義は風吹とのやりとりを思わず口に出してしまった事を後悔する。

「ごちそうさまです。ですが・・・・・・佐賀より遙か東、というか北にある江戸の方が寒い筈なのに、そこで生まれ育った風吹殿が寒いと言うほど今年は寒いのでしょう。殿に聞いたところによりますと、黒門ではそうそう火鉢を使わず、寒ければ長刀の稽古に励んで身体を温めろと檄が飛んでいたとか」

「それは間違いなく風吹が先陣を切っていた筈だ。となると・・・・・・」

 茂義も腕を組みながら空を見上げる。粉雪は止みそうな気配を全く見せず、周囲の地面や木々を白く染めてゆく。

「来年は佐賀も危ない・・・・・・かもしれませんね。今まで何とか持ちこたえてきましたけど」

「そうだな。年貢が当てにならないとすると、作事はいつになる事やら」

 二人は降り続ける粉雪を見つめつつ、大仰に溜息を吐くことしか出来なかった。



UP DATE 2010.09.29

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前代未聞の大淘汰・其の貳です。今回は普請を中心に書かせていただきましたが・・・・・築城、わかんない!そもそも現代建築さえ全く判らない人間が城作りなんて判るはずもなく、『とりあえず普請=土木工事、作事=建物を造ることなんだな。』というあまりにもひどい知識でここまで書き上げてしまいました(^^;
それでも普請に関してはまだ良いのです。問題は作事・・・・・手元にある『海路』という九州地方の歴史を扱った雑誌に記載されているだけでも『うわ~!』と叫びたくなるような情報の洪水なんですよ。まぁ佐賀城が完成する三年後を書くまでには何とか自分の中で消化して『小説』の形にできればな~と思います。(特に今回冒頭なんかヒドイし。目標は『全部登場人物の会話で説明をする!』ですv)


次回更新は10/6、江戸に参勤した斉正の近況報告&江戸藩邸のこれからについて盛姫と相談することになりそうです。

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