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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第三話 その名は、新選組・其の参

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八月二十六日の宵闇の中、芹沢自ら隊を率い三条にある豊後屋を急襲した。

「新選組だ!これから御用改めを行う!神妙にしろ!」

 戸締まりをしたばかりの店の戸が強引に開かれ、永倉の声が店に響き渡る。そしてその声と共に隊士達が一斉に店内になだれ込んだ。

「な、何をしはります!それに『新選組』なんて組、聞いたことありまへん!」

「煩い!誠忠浪士組改め新選組だ!文句があるなら黒谷へ申し出ろ!」

「み・・・・・壬生浪・・・・・・や、やめてくれなはれ!そこは大事な品物が!」

 店の中は新選組の隊士と店の若い者達との揉み合いで騒動となり、外にまで荒っぽい怒号が漏れてくる。そんな中、沖田は数人の隊士を引き連れ、豊後屋や近辺の屋根の上にばらけて待機していた。

「あ~あ、あんなに騒ぎ立てちゃって・・・・・知りませんよ、追い詰めすぎて暴れ出されてしまっても。」

 沖田は騒々しくなった豊後屋の、窓から見える怪しげな人影を注意深く眺めつつ溜息を吐いた。障子に映し出されたその姿は立ったり座ったりと落ち着きがないが、窓から逃げ出す様子は見受けられない。

「足を怪我しているのか、はたまた別の攘夷志士なのか・・・・・。」

 とりあえずその人物がすぐに逃げ出すようには見えなかったので、沖田は他に不審な人物がいないかと屋根の上から辺りを見回した。
 あらかじめ豊後屋周辺は人払いをしているから勿論町人は見あたらず、裏口には見慣れた『誠』と『忠』の提灯----------斉藤一が同じく隊士を引き連れ、逃げ出す者がいないように待機している。文字通り猫の子一匹逃がさない新選組ならではの布陣であり、これならばどこから逃げだしても見逃すことはないだろう。沖田は足許を確認しつつ、相変わらず不審な動きを繰り返している障子の影を再び見張り始めた。



 その頃永倉隊、原田隊を中心に豊後屋の家捜しを続行していた。一階の店舗部分は勿論、納屋から土蔵までしらみつぶしに捜索するが平野国臣らしき人物は見あたらない。芹沢は原田隊にさらに一階の探索を続けるように命じ、自分は永倉隊を引き連れ二階に上がる。

「屋根の上に待機しているのは?」

 狭い階段を昇りながら芹沢が永倉に尋ねる。

「総司です。図体がでかい割に一番身軽ですから。むしろ屋根に逃げて貰えばこちらの思うつぼです。」

「そうか・・・・・だったら平野を逃がすようなへまはやらねぇな。」

 芹沢には一つの思惑があった。平野を捕縛し、その手柄を手土産に水戸藩への復権、及び新選組と名を変えられてしまった壬生浪士組を取り立てて貰おうとしていたのである。

(とっとと手柄を立てて『新選組』なんてふざけた名前、捨ててやる!)

 芹沢は会津から賜った『新選組』の名を嫌っていた。否、憎んでいたと言っても言い過ぎではないかもしれない。自分や近藤を中心に幾晩も考え、主君や己の誠に忠実でありたいと願ってつけた『誠忠浪士組』の名を踏みにじられ、その代わり押しつけられた『会津藩の部隊』の名に馴染むことは芹沢の教示が許さなかった。

「新選組だ!御用改めを行う!」

 襖を勢いよく開ける音と同時に永倉の声が芹沢の思考を破る。そこに平野はいなかった。だがその代わり、五十代半ばの不審な男がいたのである。身につけている薩摩絣は一目見てそれと判るほど質が良く、この男が相応の身分であることを物語っていたが、あまりにも落ち着きがなさ過ぎた。

「貴様、名を何という!」

 男に問いかけようとした永倉を制し、芹沢がその男を問いただす。

「へぇ、淡路島の出、古藤勇右衛門言いますが・・・・・。」

 だが、芹沢となかなか目を合わそうとしない。確かに抜き身を手にした男達を前に平然としろという方が無理な話だが、普通の町人とは違う、何かを隠しているのは明らかであった。

「そうか。淡路島からか・・・・・だったら奉行所で調べればおまえさんの言っていることが正しいかどうか判るな。三日もあれば淡路の人別帳と照会することも可能だ。」

 その瞬間、古藤の表情が一変し、いきなり芹沢を突き飛ばしたのだ。そして他の隊士達の間をすり抜け階段を転がり落ちるように駆け下りてゆく。

「原田!下にいるか!その男を引っ捕らえろ!」

 尻餅を突きながらも芹沢が懸命に怒鳴る。

「応!任せておけ!おらっ、観念しやがれ!」

 階段の下には原田隊が待ち構えていた。男は慌てて引き返そうとするが、あまりにも勢いが付きすぎていた。そのまま階段を転げ落ちてきた古藤を原田隊数人が押さえつけ、捕縛することが出来たのだった。

 捕縛したその男を町奉行所へ連行し身分の照会を行ったところ、その男の本名は古東領左右衛門といい、淡路の庄屋の出身だった。しかも天誅組の挙兵にも加わっていた攘夷派浪士の一人だったのである。
 古東はその場で奉行所により逮捕、そのまま六角獄舎へと送られた。なお古東は元治元年七月、禁門の変を端にして発生したどんどん焼けの際、囚人が脱走して治安を乱すことを恐れた京都所司代配下の役人によって他の三十名以上の囚人とともに斬首される事となる。



 結局新選組は平野国臣を捕まえることは出来なかった。平野はこの時、すでに京都にはいなかったのだから仕方がないと言えるだろう。平野は未だ大和で戦っている天誅組と呼応すべく但馬国の志士北垣晋太郎と連携し、挙兵するため生野天領に向かっていたのである。
 周防国三田尻へ赴いた平野は、長州藩に庇護されていた攘夷派公卿沢宣嘉を主将に迎え、元奇兵隊総管河上弥市ら三十数人の浪士とともに生野に入った。この時点で天誅組は壊滅しており、平野は挙兵の中止を主張するが、天誅組の仇を討つべしとの強硬派に押されて挙兵に踏み切った。
 だが、幕府の対応は早く、翌日には周辺諸藩が兵を出動させた為、主将の沢が逃亡、挙兵に参加した農民たちは騙されたと怒り、平野らを「偽浪士」と罵って襲いかかった。平野は兵を解散して鳥取への脱出を図るが、豊岡藩兵に捕縛され、京へ護送され六角獄舎につながれた。そして古東と共に禁門の変の際に斬首されている。



 新選組の浪士狩りは苛烈を極め、一時期浪士達の姿が京都から見えなくなったほどである。だが、新選組の捜索の手は揺るむ事なく、浪士達が贔屓にしていた祇園の娼妓や芸妓達にも及ぶことになったのだ。
 地道な調査の末、九月に入り平野がひいきしていて愛人関係にあったという娼妓の名が判明した。吉田屋の小寅という娼妓で、八月の終わりに平野が小寅を抱えている揚屋に顔を出したという情報を掴んだのである。

「土方、平山、俺についてこい。女を相手にするのに隊士を引き連れていくような間抜けなことはできねぇだろう。男三人も出向けば充分だろう。」

 だがそんな芹沢に対し、土方が眉をひそめた。

「しかし、平野が潜伏していたらどうするつもりだ?すでに京都にゃ居ねぇ可能性が高いが、万が一と言うこともあるし、小寅を贔屓にしているのは平野だけじゃねぇだろう。」

 土方の言うことも一理ある。ここ半月ほどの探索で攘夷派浪士は京都から姿を消していたが、まだ潜伏している者もいるかもしれない。

「う~む・・・・・・だったら今、手の空いている奴は?」

 芹沢の問いに土方は巡察の当番から外れていた永倉と斉藤を前川邸から呼び出し、事情をざっと説明したた。

「永倉、斉藤。おまえらも吉田屋に付いてきてくれ。無駄足だと思うが万が一と言うこともある。」

 そして五人で吉田屋に出向いたのだがそこで事件は起こった。簡単に口を割ると思った小寅が、新選組幹部五人を前にして啖呵を切ったのである。

「平野はんの潜伏場所なんて知りまへん!知ってたかて壬生浪なんかに教えられへんわ!とっとと出てき!」

 と叫ぶなり、胸許に隠し持っていた清めの塩を芹沢の顔めがけて投げつけた。

「・・・・・その様子じゃ平野の潜伏先を知っているようだな。土方!平野!妓どもを押さえつけろ!妓、髪を切られたくなければ平野の居場所を洗いざらい吐け!」

 だが、小寅、そして付き添いの芸妓・お鹿は強情にも口を割らなかった。業を煮やした芹沢は土方、平山に命じ、小寅と付添の芸妓お鹿を断髪したのだ。この際芹沢の命令で土方が小寅の、平山がお鹿の髪を切っている。
 この騒動は吉田屋の主人から奉行所、そして朝廷へ訴えられ、一方で斉藤から会津へ直接伝えられ、芹沢の運命は大きく動き出すことになる。




 断髪事件の翌日のことである。吉田屋の件に関して朝廷から苦情が出たと会津から連絡が入り、土方と斉藤が黒谷に出向いた。だが、昼を過ぎ、夕方になってもなかなか帰ってくる様子がない。

「・・・・・大丈夫ですかね、土方さんと斉藤さん。」

 囲炉裏の前で茶を飲みながら、沖田は近藤に話しかける。

「やっぱりやり過ぎだったんだろうな。いくらその娼妓達が平野の逃亡先を知っている可能性があるからって言っても。」

 確かに犯人隠避は重罪だが、証拠と言えば平野と小寅が愛人関係だったことしかない。それに対して断髪という行為はさすがに行き過ぎている。そもそも断髪は夫に先立たれた妻や心中で生き残った女性が懲罰として行うもの----------すなわち『女』を捨てることを意味する。つまり断髪をされることによって小寅は女の性そのものを売り物にする『娼妓』としての商品価値を失うことになったのである。それに対して吉田屋の主人が申し立てをするのも尤もだ。

「さすがにおなごを切り捨て御免、というわけにいかないのは判りますが・・・・・。」

 沖田は近藤に言う。今頃芹沢らは八木邸で酒を飲んでいるだろう。多少声が大きくなっても前川邸にいる沖田達の話を聞かれることはない。

「事情があったんだろう。命令とはいえ歳が断髪に加わったくらいだから----------それにしても歳はまだ帰ってこないのか?」

「ええ・・・・・・」

 その時である。玄関のあたりから土方と斉藤の帰宅を知らせる声が聞こえてきたのである。

「遅かったな、歳。ところで・・・・・・黒谷への報告はどうだった?」

 しかし土方は渋い顔をしたまま周囲をきょろきょろ見回した後、素早く近藤に耳打ちをした。

「夕餉の後、山南さんと・・・・・総司、源さんだけの方が良いな、三人を集めてしたい話がある。他の奴に聞かれたらちょっとまずい話だ。」

「・・・・どういう事だ?」

「後で言う。」

 それだけ言うと、土方はすぐさま近藤から離れる。その横顔は心なしか苦渋に満ちているように近藤には思えた。



 じりじりと行灯が灯心を焼く音だけが響く。

「昨日の件で朝廷から苦情が出た。会津藩預かりの部隊の始末だ、本来なら会津の手で芹沢さんを斬罪にするところだが、会津が名前を下賜した手前それは都合が悪いらしい。」

 唇を噛みしめ、土方は悔しげに言葉を押し出す。

「で、どうしろと・・・・・?」

「新選組を存続させたくば、自分たちの手でかたをつけろ、と言ってきやがった。」

 忌々しげに土方がはき出すように言うと、懐から一通の命令書が出された。行灯の光にぼんやりと浮かぶそれを、土方はゆっくりと開き始める。否、そう思えたのは沖田の錯覚かもしれない。何となく空気が重苦しく、時間そのものが淀んだ水のようにゆっくりと動いているように感じられるのだ。沖田は唾をごくりと飲み下し、土方の手元をじっと見つめる。

「こ・・・・・これは・・・・・!」

 文面を読んだ山南が思わず声を上げ、慌てて自らの口を押さえた。

「ああ、読んでの通り・・・・・芹沢局長を筆頭に、水戸派五人の粛正命令だ。」

 粛正命令----------その不穏な言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。



UP DATE 2010.10.01


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『その名は、新選組』其の参です。とうとう芹沢派粛正命令が発令されてしまいました。この裏事情その他諸々は次回に持ち越しますが、ちょっと探索が乱暴すぎた・・・・・っていうのが問題でしたね。これで会津に粛正のきっかけを与えてしまいましたから。
果たしてこの命令に対し、どのような気持ちで受け入れてゆくのか・・・・・単純に憎しみあっていればすんなりと会津の命令を受け入れるのでしょうけど、この話では決して芹沢派と試衛館派は対立していませんので、そこのところの心の葛藤を見ていただければ、と思います。

話は変わりますが、小寅の断髪事件。巷説では『芹沢が振られて』となっておりますが、女性の断髪は犯罪者(心中の生き残り)に対して行うものであり、『娼妓』としての商品価値を損なうものです。それだけの事を、しかも9月という八月十八日の変がらみの浪士狩りもまだ終わっていない頃にやっていますのでこれも何か裏がありそうだな~と勝手に妄想いたしまして平野の話とくっつけてしまいました(^^)
ちなみに拙宅の芹沢は『お梅さん命』です(爆)。

次回更新は10/8、暗殺計画についての話し合いが中心となります。(しかし、水戸派五人の暗殺&葬式、うまく次の話4話でまとめられるんだろうか・・・・・ちょっと不安です・笑)
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