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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第四話 その名は、新選組・其の肆

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秋の虫の鳴き声が壬生村のあちらこちらから聞こえてくる。上弦の月は西の空に沈みかけ、銀色の芒を淡く照らしこの世のものとは思えぬほど幻想的だ。少々田舎ではあるが、京都の美しい秋夜を愛でるには、これほどの機会はないだろう。
 だが、新選組屯所である前川邸においては、そんな外の涼やかさ、美しさとは無縁の殺伐とした話し合いが繰り広げられていた。

「何故、芹沢さんが処断されなくてはならないのだ!しかも暗殺だなんて・・・・・言っては何だが、我々はもっと乱暴な捜索を他にもしている。それらに対してお咎めは無かったのに何故今更・・・・・新選組という名を頂戴したからなのか?

 呻くように近藤は言葉を吐き出した。攘夷を目的に上洛したにも拘わらず、会津から命じられるのは市中警護ばかり、それでも勤めを放棄することなく不逞浪士の取り締まりに尽力しているのだ。なのに会津は些細な暴挙を理由に水戸派を粛正しろと言う。会津の思惑が理解できず近藤は困惑するばかりである。

「・・・・・もしかしたら、芹沢さんの水戸贔屓がばれたのかもしれませんね。」

 そう言ったのは沖田であった。今までならお目こぼしして貰えた程度の捜索に対して、あまりにも重すぎる処断の理由としてはそれくらいしか考えられない。

「それとおそらく・・・・・いや、間違いなく俺たちも試されているんだろうよ。会津の命令に従って芹沢一派を殺すか、それとも命令に反して俺たちも会津に粛正されるか、ってところだろう。しかし何故今更・・・・・前々から俺たちの捜索の荒っぽさは周知だろうに。」

 土方が沖田の言葉に応えたその時、近藤が何か考え込んでいることに井上が気がついた。

「若先生、一体どうしたんじゃ?あまりにも顔色が悪すぎるようじゃが。」

「あ・・・いや、何でもない。心配しないでくれ、源さん。」

 作り笑顔を見せる近藤だったが、その表情は決して平気だとは思えなかった。案の定土方もそう思ったらしく、すかさず近藤に尋ねる。

「勝っちゃん、あんた・・・・・芹沢さんに同情しているんだろう。」

 土方の鋭い指摘に、しばしの間沈黙が流れる。その沈黙こそ、近藤の肯定そのものであった。

「・・・・・やっぱりな。甘すぎるんだよ、勝っちゃんは。」

 苦々しげに文句を言う土方に対し、近藤は向きになって言い返す。

「彼の主君は水戸公だ!・・・・・・確かに今は会津について勤めを果たしているが、その気持ちは判らないではない。俺だって会津公か大樹公かどちらかを取れと言われたら・・・・・。」

「だが、命令を聞かなければ俺たちが粛正対象だ。」

「・・・・・それだけじゃない。隊士達の中には元・士分だった者も多い。今までは芹沢さんが局長として上に立っていてくれたから烏合の衆がまとまっていたが、元々百姓だった我々に同じ事が出来るとも思えん。一時は苦しくても、新たな雇用先を見つけるなり、初期の頃のように押し借りでもして自分たちで何とかした方が・・・・。」

 痛いところを鋭く突いてくる土方に対し近藤は珍しく食い下がるが、そんな近藤の言葉を土方は容赦なく一刀両断した。

「世の中そんなに甘くはねぇよ。」

 土方は眉間に皺を寄せながら言い捨てる。

「どちらにしろまずは新見からだな。あいつは壬生に寄りつかないどころか、隊の名を騙ってあっちこっちに借金をしている。それだけで殺すには充分だ。」

「だったら他の水戸派の粛正はせめて五日くらいあけることは出来ないだろうか。」

 どこまでも水戸派、否、芹沢の助命を願う近藤は妥協策を提案する。

「・・・・・逃がす気か?」

 腕を組み、あまりにも往生際の悪い近藤を、土方はぎろりと睨み付ける。

「京都を去っていったものまで追いかけろとは言うまい。ほとぼりが冷めたら帰ってきて貰うことも出来るし、何なら他の雇い主を捜して貰うことだって・・・・・。」

「他の雇い主は諦めた方が良い。それと芹沢さんの矜持がそれを許すとは思えないが・・・・・京都を離れて貰うというのは悪くないかもしれない。」

 攘夷派志士や憎んでいる相手であれば二つ返事で命令を遂行できる自信がある。だが共に苦労を分かち合い、新選組をここまで大きくしてきた同士を殺せと言うのは、自分たちの半身を殺せと言うのと同義である。
 本来会津の命令をそのまま受け入れなければならない立場でありながら、いつの間にかどうやって芹沢らを逃がすかという方に話はいってしまうのだ。

「どちらにしてもまずは新見----------からだな。」

「私も土方君の意見には同感だね。隊士達への手前、ああふらふらされているのも問題だろう。」

 今まで押し黙っていた山南が重い口を開く。それに続いて井上も黙ったまま頷いた。

「じゃあ新見の方は全員一致だな。これから奴を探し出さなきゃならねぇが五日もあれば充分だろう。芹沢さんの方は・・・・・・。」

「新見さんの葬儀の後で良いんじゃないですか。何かを嗅ぎつけて京都から離れても、水戸へ助けを求めてくれても構わないでしょう、私たちとしては。ですけど、そういう動きがもし無ければ・・・・・。」

 話をまとめかけた沖田の言葉を土方が続ける。

「・・・・・覚悟は決めておいてくれ。芹沢鴨ほどの男が惰弱な真似をするとも思えん。否、暗殺するつもりが返り討ちになる事だって充分にあり得る。」

「返り討ちですか・・・・その方が気が楽ですけどねぇ。」

「総司!物騒なことを言うんじゃねぇ!」

 あまりにも不謹慎な発言をする沖田に対し土方は怒鳴りつけた。どうもこの弟分は自分を軽んじるところがある。死を恐れないと言えば聞こえはいいが、諦めやすく執着がなさ過ぎると土方は時折歯がゆく思う。何となく生い立ちに関係あることはうすうす気がついているのだがさすがに立ち入ったことも聞き出せずそのままになっている。

(現状じゃ嫁を取ることは出来ねぇが・・・・・馴染みの妓でも出来れば少しは変わるんだろうか?)

 だが、強制でもされない限り花街に近づこうともしない沖田にはそれも難しいだろう。いつまで京都にとどまることになるか判らないが、せめて心のよりどころになるような女性が沖田には必要だと土方は痛感した。



 試衛館派の話し合いから二日後、京都町奉行所から新選組に『松原烏丸にある因幡薬師寺境内を覗いてきてほしい』という依頼があった。

「九月朔日から松原烏丸にある因幡薬師寺境内で虎などの見せ物が始まっているんだが、どうもそれらが偽物らしいと町奉行所に苦情が来て困っているんだ。」

 壬生にやってきた顔見知りの与力が困ったように原田に懇願する。その見せ物小屋は虎の他にオウムやインコも見せていたが、オウムは染め物、虎は獣を人間がかぶった偽物だという噂が広がっていたのだ。

「確かに薬師寺の境内じゃ町奉行所の与力は入りづれぇもんなぁ。いいよ、覗いてきてやるよ。」

 そう言って与力の頼みを引き受けた原田だったが、それを聞いた芹沢が妙にその話に食いついたのである。

「へぇ、面白そうじゃねぇか。虎退治か・・・・・加藤清正公を気取るのも悪くかぁねぇ。ただし張りぼてじゃあさまにならんか。」

 高らかに笑うと、真偽を確かめるため芹沢は沖田や原田、その他数人の平隊士を引き連れ噂の見せ物小屋を訪れた。

「おう、虎の皮を被った人間が居るっていう見せ物小屋はここかい!」

 強面の隊士を引き連れた芹沢を見るなり、見せ物小屋の主は震え上がったが、それでも疑惑を晴らそうと必死になって言い返す。

「へ・・・・変なこと言わんといてください。確かにこの虎は大人しゅて人に懐いておりますが、それはこ~んな小さな頃から人の手によって育ってきたからです。親が猟師に殺され、みなしごになった挙げ句虎としても疑われるなんて・・・・・。」

 檻の中で大人しく伏せている虎を指さす。どうもその虎は雌のよう、大虎というには少々小柄で丁度人間くらいの大きさであった。大きさからも、その大人しさからも人間が化けていると疑惑を持たれても仕方がない。

「そうか、何なら確かめてみてもいいって事だな。」

 芹沢はにやりと笑うといきなり脇差しを抜き、虎の鼻先に突きつけたのだ。その素早さ、そして狭い小屋の中で抜き身を抜き放った事に見せ物小屋の使用人達は驚き我先に出口に向かって逃げようと走り出す。そして驚いたのは人間だけではなかった。

「ヴオッ、ヴオォォォ!」

 さすがに鼻先に刃物を突きつけられ虎も驚いたのか、芹沢に対して大声で吠えたのだ。その吠声に驚き、剛胆な芹沢も一歩後ずさる。

「どうやら本物みたいですね、芹沢さん。加藤清正になるのは諦めましょうよ。」

 珍しい芹沢のひるむ姿に、沖田がクスクスと笑う。

「あ・・・・・ああ。どうやらそうみたいだな。こんな大きな吠声、人間のもんじゃねぇ。こりゃ、本物だよ。疑って悪かったな、親父!奉行所には俺から言って置くから安心しろ。」

 芹沢は脇差しをしまい込むと小屋の主に詫びを入れ、そのまま小屋を後にした。

(お酒さえ入らなければいい人なんですけどね。)

 だが、会津にとってはそうはいかないのだろう。不穏分子は手に負えなくなる前に潰す----------組織として会津のこのやり方は自分たちも見習わなくてはならないだろうし、泳がせている長州の間者達もそうやって始末しなければならないだろう。しかし、文字通り『同じ釜の飯を食ってきた仲間』を、上からの命令一つで殺さねばならない不条理に沖田は戸惑いを感じていた。

(これが・・・・・武士というものなんでしょうか。己の誠を押し殺してもあるじの命に従わねばならないなんて。)

 あくまでも会津は『雇い主』であり、『主君』とは違うが、これが『主君』だったら納得できるのか----------沖田の心は揺れ動く。近藤の命令であれば素直に従う事が出来るかもしれないが、近藤ならばそんな不条理な命令はしないだろうと沖田は信じているし、実際近藤はこの粛正命令に消極的だ。

(幕臣になってもきっと同じでしょうね。私は・・・・・今のままの方が武士としての生き様を貫けるような気がしますけど。)

 狼は飼い犬にはなりきれない。京都の町人が新選組の事を陰で『壬生狼』と蔑んでいるが、それは本能的に彼らが『飼い犬』になりきれないのをかぎ取っていたからだろう。
 だが、飼い犬になりきれなくても、生きるために飼い犬のふりをしなければならないときもあるのだ。沖田は芹沢の大きな背中を見つめながら、近く来るかもしれない決別の時を覚悟したのだった。



UP DATE 2010.10.08


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『その名は、新選組』其の肆になってしまいました・・・・・次回から粛正が始まっちゃう~><
書くのが非常につらい場面になっていきますが、頑張って挑戦していきたいと思います。

とりあえず粛正に関しては『新見だけでお茶を濁そう』という立場を取っている試衛館派ですが、これは新見の暗殺と芹沢、平山の暗殺、平間の逃亡の間に5日間ほどの間があるところから妄想をふくらませたものです。単に機会を待っていただけかもしれませんがこの話では『躊躇の期間』としたいな~と。詳細は次回から始まる『水戸派粛正』をお楽しみくださいませv

次回更新は10/15、新見切腹(暗殺?)を中心に展開していきます。
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