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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第五話 水戸派粛正・其の壹

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水戸派粛正はまず新見から----------そう決定したものの、そこから先はなかなか思い通りにはいかなかった。事情が事情だけに粛正の事を知っているのは近藤と土方、山南、井上、そして沖田の五人だけであり、他に援軍を求めるわけにもいかない。
 しかも八月十八日の政変以来、新見は何か感じるところがあったのか壬生屯所に顔を出さなくなっていたのである。街中でさり気なく聞き込みをしても『遊蕩に耽り、隊費と称して民家から強請りを繰り返している。』という噂を聞くばかり、で新見本人は探してもなかなか見つからなかった

「これだけ探しても見つからないと言う事は、すでに京都にはいないんじゃないのか?」

 と、近藤が諦め半分の言葉を吐くほど手がかりがつかめなかった。そんな新見錦が偶然見つかったのは、会津から水戸派粛正命令が出た五日後の事であった。酔っぱらって窓際から顔を出しているところを偶然巡察で通りかかった沖田が見つけたのである。

「土方さん、見つけましたよ、新見を!祇園の『山緒』でかなり派手に遊んでいました。『田中伊織』なんて偽名を使っていたから今まで聞き込みでも見つけられなかったんです。」

 巡察から帰って来るなり副長室にやってきた沖田が土方に耳打ちした。

「ここしばらく居続けしているそうなんですけど・・・・・少々厄介な事に新見さんが居続けている部屋に攘夷派浪士らしき人物が出入りしていると料亭の主が言ってました。料亭の主に何かあったらすぐに壬生の屯所に連絡をよこしてくれと言ってきてはいるんですが・・・・・目を離した隙に逃げられやしないかと。」

 粛正の事は極秘である。平隊士に新見の見張りをさせるわけにもいかず、そのまま帰ってきたと悔しげな表情を浮かべる。だが土方は沖田を叱り飛ばす事はなかった。

「小細工が苦手なおめぇにしちゃ上等だ。しかも----------近藤さんをその気にさせてくれるいいネタを掴んで来やがって。」

 沖田の報告に土方が片頬に凄惨な笑みを浮かべる。その笑みは『怒鳴られた方がむしろありがたい。』と沖田に思わせるほど残忍性を滲ませていた。

(まるで鬼----------のようですね。)

 沖田が知っている土方は、口が悪いが基本的には愛想が良く、優しい男である。だが、今目の前に居る男は、近藤を、そして隊を守る為に笑みを浮かべながら仲間を殺そうとする鬼であった。

(生き残るためには----------私たちは人では居られないのですか、土方さん。)

 そう声を掛けたくても口の中が乾き、舌がひりついて声を掛ける事が出来ない。

「近藤さん、いるかい?」

 そんな沖田の方を振り返りもせず、土方は隣の部屋に声を掛けると襖を開けた。

「総司が新見の居場所を掴んできた。逃げられないうちにすぐに祇園に行こう。詳細は移動しながら話す。」

 副長が上司である局長に対して言うにはあまりにも乱暴な言葉であったが、近藤はただ黙って頷き、刀掛けに掛けてあった大刀を掴む。そこは長年共に生きてきた阿吽の呼吸というものだろう。これを垣間見てしまうと自分は二人の間に入る事は出来ないな、と沖田は微かに嫉妬を感じてしまう。だが、今はそんな些細な事に囚われている場合ではない。

「行くぞ。総司、案内を。」

「承知。」

 近藤の声に沖田は土方とは対極の、無邪気な笑みを顔に浮かべる。十日後には新選組を率い、時代の荒波を突き進む事になる三人は、あふれ出しそうな殺意を押し殺し前川邸を後にした。



「何!攘夷派浪士が新見が居座っている貸座敷に出入りしているだと!」

 鴨川のほとり、四条大橋を目の前で土方から話を聞いた近藤が色めき立ち、大声を上げる。その声に驚いた町人達が思わず三人の方を振り返った。

「本当なのか、総司?」

 土方から聞いた話の真偽を確かめるため近藤は沖田の方を振り返る。

「ええ、長州なのか土佐なのか判りませんが・・・・・もしかしたら一部の過激な水戸浪士かも知れません。数人ほど出入りしているみたいですよ。」

 会津からの水戸派粛正命令が出てから少し気にして巡察に当たっていた沖田だったが、ここのところ水戸系の浪士の動きも活発化していた。長州や土佐に比べれば人数は極めて少ないが、同郷だけに芹沢や新見との関わりは深い。

「そう・・・・・か。」

 それでなくても八月十八日の政変以来、薩摩、会津の強引なやり方に反発した他藩が密かに会津を非難しているとも聞く。尊皇攘夷を掲げる水戸藩自体会津と対立しているような状況なのである。

「やっぱり芹沢さんの件は----------避けて通れないのだろうな。」

 近藤の呟きに、一抹の寂しさが含まれているのを沖田は感じずにはいられなかった。そうこうしているうちに三人は四条大橋を渡り祇園へと到着した。その北方向にある新町の『山緒』に到着するなり、料亭の主人が三人の前に転がり出た。

「壬生浪士組のお方でっか?もう勘弁おくれやす。お代も払いまへんでずっと居続けどすねん。他のお人さんのやくたいかてなってまんねんし・・・・・踏んやり蹴ったりどす。」

 今にも泣き出しそうな表情の主に対し土方が素っ気なく答える。

「判った。畳代ごと新見の付けは支払ってやるから安心しやがれ。」

 土方の捨て台詞に店の主人は真っ青になる。畳代----------すなわち畳を変えなければならない、血の穢れを伴うと宣告されたのである。まさか自分の店で流血沙汰が起こるとは、とがたがたと震えだし、腰を抜かしてしゃがみ込んでしまった。

「済みません、ご主人。うちの副長口が悪くって。ただ、他のお客さんを近づけないでくださいね。とばっちりで怪我をされても困りますので。」

 愛嬌のある顔に溢れんばかりの笑みを浮かべ沖田は主の横をすり抜け、三人揃って二階へと上がっていった。



 二階に上がると娼妓達の嬌声と新見の豪快な笑い声、そして派手な三味線の音が三人の耳に飛び込んできた。

「どうやら娼妓以外は新見だけのようだ。」

 三人は顔を見合わせその部屋に近づくと刀を抜き、勢いよく襖を開ける。襖を開けた途端、酒の臭気が鼻をつき、座敷の窓側にはだらしなく懐を緩めて酒を飲んでいる新見がいた。抜き身を手にした三人を見て新見を始め、侍っていた娼妓や芸者の表情が凍り付く。

「妓ども!失せろ!」

 土方の一喝で娼妓達は悲鳴を上げながらその部屋から飛び出し、新見だけが座敷に取り残された。

「新見錦!隊規を無視し重ね続けた悪行の数々断じて許さん!武士の情けだ、潔くこの場で切腹するが良い!」

 近藤が切っ先を新見の鼻先に突きつける。

「・・・・・だったら切っ先を退けろ!。」

 新見は酒で充血した眼で近藤を威嚇すると、腰に差していた脇差しをするりと抜く。

(土方と沖田の間----------僅かだが隙があるな。)

 切腹をするために体勢を整えるふりをして周囲を伺いながら、新見は素早く逃げ道を見つけだす。

(虚を突いて近藤を斬り、沖田と土方の間をすり抜ける----------それ以外ここから生きて抜け出す事は無理だ。殺されるにしても誰か一人くらいは道連れにしてやる!)

 片膝立ちになった刹那、新見は脇差しを近藤に向けて横になぎ払い、そのままの低い体勢のまま土方と近藤の間に向かって走り出す。

「馬鹿が!ものの見事に引っかかりやがって!」

 沖田と土方の間をすり抜けたと思った瞬間、土方の声が新見に降りかかる。それが新見が聞いた最後の言葉であった。土方の声と同時に首の後ろに冷たいものを感じたまさにその時、新見の首はごろり、と床に転がったのである。それに続き新見の胴体もゆっくりと床に倒れてゆく。それと同時に酒の臭いに満たされていた座敷は血の臭いに染められてしまった。

「あ~あ。近藤先生や土方さんに怪我をさせないように、って思ったら返り血でどろどろになっちゃいましたよ。これじゃあ血糊も完全には落ちないですよねぇ・・・・・お気に入りの着物だったのに。」

 全身に新見の返り血を浴びているにも拘わらず、のんびりとした口調で沖田が肩をすくめた。着物だけでなく、手にした刀からも血が滴っている。新見が横をすり抜けた瞬間、その首を斬ったのは沖田であった。沖田は新見の袖で刀の血糊を拭くが、どうしても完全には拭き取れなかった。

「さすがに人を斬った刀を洗わせてはくれませんよねぇ。」

 沖田は新見の首を斬った首を眺めながら溜息を吐く。ここまで汚れてしまうと刀を鞘に収める事も出来ないし、早く手入れをしないと錆も浮いてしまう。

「当たり前だろうが。祇園の会所まで我慢しやがれ。」

 血飛沫さえかからなかった己の刀を鞘にしまい込みながら土方は沖田に諦めろと言った。

「あそこまでこの姿で歩かなきゃいけないのは嫌ですけど・・・・・仕方ないですね。後でここの主人に着替えを貸して貰えるか交渉してみます。」

 ここから一番近いのが祇園会所だから、そこまでは仕方ないだろう。沖田も納得して新見がさも『切腹した』ように見せかける工作をし始めた。



 祇園・山緒において『切腹』をした新見の遺体は一旦祇園会所に引き取ってから壬生へ運ばれていった。

「新見!なんて早まった事をしたんだ!この馬鹿野郎!」

 最近顔を合わせていないとは言っても水戸時代からの仲間である。水戸派の嘆きは深く、新見の亡骸にすがりついて泣き出した。

「葬儀は壬生寺に頼む事にした。宗派とか都合の悪い事があれば別の寺に頼むが。」

 男泣きに泣き続ける芹沢の背中に土方があえて事務的な事を尋ねる。

「・・・・・壬生寺で構わねぇ。悪いが話を進めて置いてくれねぇか。」

 ぐずん、と鼻を鳴らしながら芹沢は答えた。自分たちを全く疑っていないその様子に土方の良心がちくり、と痛んだ。

(いっそ俺たちを疑って、ここから逃げてくれりゃ芹沢さん、俺たちはあんたを殺さなくても済むんだぜ。)

 だが、土方のその願いは絶対に叶えられる事はないだろう。それは土方自身が一番よく知っていた。すぐ近くに迫り来る覚悟の時をただ甘んじて受け入れるしかない事を----------芹沢の慟哭の中、土方は壬生寺に葬儀を頼むため、屯所を後にしたのだった。



UP DATE 2010.10.15


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とうとう始まりました、水戸派粛正・・・・・今回は新見錦の暗殺です。まだ今回はそれほど思い入れのないキャラなので(え゛)心置きなく暗殺する事が出来ましたが、問題はこれからですよ。今更ながら芹沢局長をいい男に書くんじゃなかったと後悔しております。でも書いちゃったものは仕方がありませんしねぇ・・・・・はい、きっちり腹を据えて芹沢暗殺を書かせて戴きます。

そしてキャラへの思い入れと同じくらい問題なのが殺陣の書き込み!自分、こんなに下手だったっけ?と思うくらい腕が落ちております。そもそも文章でアクションシーンを表現する事自体無謀なんですが、それにしても下手すぎて笑ってしまふ・・・・・二次創作をやっていたときは意外と殺陣シーンを書く機会があったのでもうしょっとは書けたと思うのですが、ここ最近は斬り合いシーンよりも政治、経済闘争を書く機会の方が多かったのですっかりへたくそになってしまいました。芹沢暗殺までどうにかしなきゃなぁ・・・・・。

次回更新は10/22、新見の葬儀とその時に交わされる近藤と芹沢の会話、そして雨の日の宴会・・・・・までいけたらな~と思います。
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N様、ご丁寧なコメント誠にありがとうございます。 

N様、初めまして。『暁光碧烏』の管理人、乾小路と申します。
拙宅の拙い小説をお読み戴き誠にありがとうございます。

ご質問戴いた件ですが・・・誠に申し訳ございません。冨田重光氏に関しては私も市販されている書籍やWEB上の資料(Wikipediaなど)以外には詳しいことは解らないのです。
拙宅の話自体フィクションですし、冨田氏のお名前を第二章第一話目で使わせて戴いたのも本当にたまたまでして・・・ご期待に添えず誠に申し訳ございません。
冨田重光氏のことについて調査をなされているとの事ですが、詳細が判明することを願います。

只今事情により『夏虫』は休止中ですが、今秋には再開予定です。もしご気分を害されていらっしゃらなければ再びのご来訪、お待ちしております。


乾小路烏魅 拝


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