FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第十一話 局中法度・其の参

 ←葵と杏葉改革編 第十話 大殿往生とちいさ姫・其の壹 →運び屋アレク レトロ・スターシップ・1
先月の出動に対しての報奨金はすぐさま平隊士達にも分け与えられた。幹部達と違いさすがに一両という訳にはいかなかったが、それでも二分銀を握りしめ安女郎や辻君を買いに花街へ繰り出していく。
 芹沢の初七日も過ぎ、『二日遅れの精進落としだ!今日の門限破りは大目に見てやるから気晴らしに遊んでこい!』との土方のお達しもあった為、その足取りは皆軽かった。

 そして、それは長州の間者達六人も例外ではなかった。六人は揃って屯所から祇園の茶屋へ出向き、安酒を煽り始める。
 ここ祇園は長州藩邸が近い事もあり長州浪士達がよく利用していのだが、壬生の屯所からはやや遠すぎるきらいがあった。幹部達ならいざ知らず、平隊士達がちょっと間の遊びの為に壬生の屯所からここまで出向く事はまず無いだろう。そんな時間があるならば近場で長い時間遊んだ方がいいと思うのが普通である。
 新選組の平隊士が来る可能性が極端に低い----------その気安さからか、それとも酒の勢いか六人の言動はどんどん大胆になってくる。

「まさか日野の田舎者達が芹沢を殺ってくれるとはな!」

 最初の音頭の後、御倉伊勢武が豪快に笑いながら酒を飲み干した。葬儀において芹沢暗殺の犯人は長州浪士という事になっていたが、それが嘘である事は長州浪士本人である御倉らが一番よく判っている。

「おい、声がでかいぞ!」

 浮かれすぎて大声で騒ぐ御倉を窘めながらも、荒木田左馬之介もまた娼妓を引き寄せ共に笑い出した。
 江戸から京都に上洛してきた途端その勢いのままに長州浪士達を始末してきた新選組、その内情を探り、あわよくば内側から崩壊させろと桂小五郎から命じられていた六人である。本来自分達がやるべきだった芹沢暗殺という大仕事を、事もあろうに試衛館派幹部自らがやってくれたのだ。これがめでたくないはずがない。少なくとも彼らにはそう思えた。

「芹沢殺しを長州の所為にしていたが、てめぇらが殺ったのは一目瞭然だろう!」

 松井竜次郎が手酌で酒を注ぎ、その酒を己の喉に流し込みながら指摘する。その指摘に酒席の六人はやんやとはやし立てた。

「でも、田舎者の中にも、今回の黒幕を知らない人間が居ますよ。」

 騒ぎがようやく鎮まったのを見計らい、楠小十郎が意味深な笑みを浮かべる。

「永倉や藤堂は今回の件、間違いなく蚊帳の外です。今度はそこいら辺を利用して、完全に新選組をぶち壊す事ができるんじゃないでしょうか。」

「おお、そうだな!そうなれば桂さんも俺達を認めてくれるだろう!」

 楠の言葉に越後三郎や松永主計も再びはしゃぎだす。そんな喧噪が続くどれだけ続いただろうか、不意に外から声が掛かる。

「すんまへん、お酒の追加、お持ちしました。それと真木はんゆうお方がお見えです。お通ししてもよろしおすか?」

 それは見慣れない男衆であった。二十代半ばくらいであろうか、一重の細い眼に細面の顔----------上方にはよくいる、これといって特徴のない顔立ちの男である。

「おう、お前、見慣れない顔だな?新しく入ったのか?」

 もしかしたらどこかの間者である可能性も否定できない。御倉は酔っぱらい充血した眼で目の前にいる男衆を睨め付ける。

「いいえ、いつもは裏でお姐はんのお世話をさせてもろうてるんです。せやけど何やら今日は忙しうて、おなご衆の手が足りひんのですよ。興ざめで申し訳ありまへんが、堪忍しておくれやす。ほな、お姐はん方、お酌よろしゅう頼んます。」

 御倉の脅すような視線に怯えもせず、にこにこと男は笑いながら空いた銚子を手際よく片付け始めた。その手際の良さに男達は『付け焼き刃の間者ならここまで出来ないだろう。』と安心をする。その安心感からか、男衆の細い目の奥にある鋭い光に、酔っぱらった六人は気がつく事が出来なかった。



 それは二刻ほど前の事である。壬生屯所・副長室において土方は一人の男と対峙していた。一重の細い眼に細面の顔、上方によくいる優男そのものの特徴のない顔立ちながらその男の気迫はただならぬものがある。

「そろそろ・・・・・出かけはるようですね。

 ほんの少しだけ開いた障子の隙間から、六人揃って花街へ繰り出そうとしている長州間者達の姿が見えた。その間者達を細い眼の男は殺意に満ちた目で睨み続けている。

「山崎、あまり殺気を表に出すと奴らに気付かれるぞ。少なくても奴らには佐伯と・・・・佐々木の二人を殺られている。」

 土方の言葉に、男ははっとして瞼を伏せ、怒りに満ちた視線を消した。

「いいか、山崎。あいつらが逃げ出さないように見張るだけでいい・・・・・変な気は起こすなよ。」

 穏やかに、諭すような土方の言葉に細い眼の男----------山崎烝は大きく息を吐いた。

「へぇ、承知しました。」

 そして山崎は夕暮れの中土方の前から姿を消し、今現在祇園の茶屋で六人の動きを見張っている。目の前に居る男達は、弟のように可愛がっていた同門の青年を殺した仇であった。出来る事なら自分の手で仇を取りたい所だが、残念ながら山崎に六人を相手に勝てる腕はない。ならばせめて諜報として彼らの動きをつぶさに調べ、長州浪士を根絶やしにしてやる----------そんな決意が山崎を支配していた。



 そして今、祇園の茶屋に至る。彼らの『本当の上司』と思われる真木和泉も合流し酒盛りが続いている。

「いいか!今度は近藤と土方、山南だ!奴らを始末すればきっと桂殿に認めて貰えるぞ!」

「本当ですか!だったらさらに頑張らないとな!」

 長州浪士そのものの酒盛りはどこまでも盛り上がってゆく。

(桂・・・・・と繋がりがあるんかいな、あの男。)

 襖の影で山崎は聞き耳を立てる。もしかしたら長州浪士の首魁の居場所が判るかも知れないと思ったのだ。だが、話はそれ以上進まず、酔っぱらい特有の脈絡のない、繰り返しの話へと突入し、無為に時間だけが過ぎていった。



 その日の夜、門限までに帰ってきたのは御倉、荒木田、松永、そして楠の四名だけだった。後の二人は酔いつぶれて屯所に帰れなくなってしまったのである。さり気なく駕籠を呼ぼうと山崎は勧めたが、武士が酔っぱらって駕籠を利用するなど恥以外の何ものでもないとそのまま茶屋に泊めさせる事にしたのである。

「すんまへん・・・・・今のうちにわてがあいつらを・・・・。」

 責任を感じたのか、それとも別の想いからか山崎は土方に申し出た。

「いや!その必要は無い。」

 今にも屯所を飛び出し、酔いつぶれている越後と松井を殺しに行きかねない山崎を土方は鋭い声で止める。

「・・・・・泳がせて、桂の尻尾を引っ張り出すのも悪くねぇな。」

 何か思うところがあるのか、顎に手を当てて土方が呟くが、その呟きに山崎は苛立ちを露わにした。

「せやけど・・・・・彼奴ら、愛次郎を・・・・・。」

「同門の佐々木を殺された無念は判る。だが、あまりそれにこだわると大局を見失うぞ。」

 低く、落ち着いた声で土方は山崎を宥める。同門の佐々木愛次郎を殺されたと聞き、居ても立っても居られずに新選組へ入隊した山崎だ。仇を討ちたい気持ちは痛いほど判るが、それに囚われていては桂など『大きな魚』を逃してしまう可能性がさらに大きくなってしまう。

「帰ってきた四人は明日殺る。それまで奴らを茶屋に引き留めておけ、いいな。こちらから知らせを寄越すから、逃げ出す奴等の後を付けて『大物』の居場所を探し出せ。そその大物こそ・・・・・佐々木の本当の仇だ。」

 土方の最後の一言に、山崎の目の色が変わった。

「承知!それでは、御免!」

 山崎は土方に対し深々と一礼すると、庭先に広がる暗闇へと消えていった。

「山崎さんも・・・・・佐々木さんの敵を討ちたくてしょうがないみたいですね。」

 そう言って庭と反対側の襖から出てきたのは沖田であった。

「ああ・・・・・若かったが頭の回転の速い奴だった。生きてりゃ今頃副長助勤として俺達の助けになっていただろう。」

 そう答える土方の言葉にも錆が含まれていた。上洛して半年あまりで優秀な人材が幾人も亡くなっている。そしてこれからも死者は出るだろう。敵に殺されるか、それとも隊内の粛正か----------だが、どんな事があっても新選組は守らなくてはならなかった。



 九月二十六日、それは晩秋の晴れた日の事であった。



 朝早くやってきた廻り髪結いを捉まえた御倉と荒木田は二人並んで縁側に座り、昨日の酒宴で乱れてしまった髷を整えて貰っていた。芳しい鬢付け油の香りがあたりに漂い、気分を高揚させてくれる。

「おい、遠慮なんかしないでもっときつく結ってくれ。『武士っぽく』な。」

「そうそう、町人みたいに流行りを追いかけたりしねぇんだよ、俺達は!」

 会津藩預かり、否、長州浪士の末席を汚しているだけの彼らであったが、気分だけは一人前の武士であった。

「・・・・・いい気なもんだ。」

 刀の柄に手を掛けながら襖の影に隠れている永倉がぽつり、と呟く。

「ま、それもすぐに終わるさ。」

 永倉の呟きに斉藤がさらに低い声で答えた。二人は顔を見合わせ頷くと刀を鞘から引き抜き、ばん!と激しい音を立てて襖を開けた。

「髪結い、どけ!」

 大股でずかずかと近寄ってくる永倉の怒声に二人の髪結いは慌てて部屋から飛び出す。そしてその声に驚いた二人が後ろを振り向いた瞬間、永倉と斉藤の刀が振り下ろされたのである。


ごとり。


 鬢付け油の芳醇な匂いに生臭い血の臭いが混じる。二人の首は驚愕の表情を浮かべたまま縁側へ落ち、そのまま庭先へと転がっていった。



 永倉と佐々木が長州浪士二人の首を斬った頃、沖田と藤堂は残り二人を捜していた。

「楠小十郎!松永主計!貴様らが長州の間者である事は明白!武士ならば隠れていないで出てこい!」

 ひとつひとつ部屋を虱潰しに探してゆくが、その二人の姿はなかなか見つからない。

「藤堂さんの呼びかけにも答えないなんて・・・・・楠さん、藤堂さんにぞっこんだったのに。」

「止めろよ、総司!俺に衆道の趣味は無いよ!」

 苛立ちを露わにしながら藤堂はひとつひとつ襖を開けてゆく。

「お前達!楠と松永を見なかったか?」

 部屋でごろ寝をしていた隊士達に藤堂が訊ねる。

「そういえば・・・・・今日は見てないな?」

「ええ・・・・・藤堂さんにへばりついて居たんじゃないんですか?」

 平隊士の言葉に沖田と藤堂は苦笑いを浮かべる。

「やっぱりみんなにもそう思われていたようですね。」

「やってらんねぇな。俺はおなごの方好きなのに。」

 藤堂がぼやいたその時である、表門の方から若い青年の悲鳴が聞こえたのである。その声は明らかに楠小十郎のものであった。

「どうやら原田さんの読みが当たったみたいですね。」

「こういう時、意外とずぼらも悪くないみたいだ。左之にはやられたよ!」

 二人は顔を見合わせ、頷くと全速力で表門に走り始めた。



 表門と裏門、両方に別れて逃げればどちらか一方は助かるかも知れない、松永主計にそう提案したのは楠であった。

「あの田舎者が考える事だ。あんな狭苦しい裏口逃げるとは思わないんじゃないか?」

 勿論自分が助かる為である。裏門は何だかんだ言っても人目があり、隊士もたむろしている。それに引き替え表門は畑ばかりである。あんな見晴らしの良いところを逃げる訳はないと奴等は思うに違いない----------そう思って表口を選んだ楠であったが、そこに待ち伏せていたのは原田であった。

「よぉ、楠。おめぇ、武士の癖して畑仕事か?」

 不意に背後から声を掛けられ、びくりと身体を強張らせる。

「いや・・・・・それじゃあ畑仕事をしている『お百姓様』に失礼だよな、この糞野郎!佐々木や佐伯を殺した張本人はお前達だろう!」

 原田の声に、楠は振り向きもせず走り出した。だが、大柄でありながらすばしこい原田の方が楠よりも足が速い。すぐさま追いつくと原田は楠の背中を切りつけた。

「うわぁぁ!」

 背中に走った激痛に楠はその場にしゃがみ込んでしまう。

「局中法度、一!士道にあるまじき事、これを許さず!」

 原田の声が秋の高い空に響き渡る。その声と共に刀が振り下ろされ、楠の苦悶に満ちた首がころり、とあぜ道に転がった。



UP DATE 2010.11.26


Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
ランキング参加中。お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv

  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






局中法度もとうとう其の参になりました。今回はその法度に則って初めて内部粛正、というか間者の粛正を行っいました。ここから本格的に局中法度五箇条が生きてくるんですよね~。

そして今回山崎さんを登場させてしまいました(^^)。本当はこの年末あたりの入隊、ということなんですが少々早め、しかも佐々木君と同門という設定に(爆)。同じ大阪出身なのでそういうのもアリかな、と遊ばせて戴きました。これから山崎さんもぽちぽち出してゆきますのでよろしくお願いいたしますm(_ _)m


次回更新は12/3、まだ見つかっていない松永、そして酔っぱらって潰れた二人のその後になります。
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【葵と杏葉改革編 第十話 大殿往生とちいさ姫・其の壹】へ  【運び屋アレク レトロ・スターシップ・1】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【葵と杏葉改革編 第十話 大殿往生とちいさ姫・其の壹】へ
  • 【運び屋アレク レトロ・スターシップ・1】へ