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「短編小説」
江戸瞽女の唄

江戸瞽女の唄~秋霖の安宿

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 震災後はすっかり少なくなってしまったが、都市部の秋祭りも瞽女にとって稼ぎ時である。各地の瞽女たちも東京に集まり、それぞれに伝わる伝統の歌や流行歌を唄う。本来であれば江戸瞽女こそ一番輝くべきなのだろうが、数年前の大震災でその数を激減させている為、その唄は風前の灯と言っても過言ではないだろう。
 更にラジオやレコード、映画のトォキィの影響も徐々に瞽女の領域を侵しつつあった。そこそこの金を払って鄙びた唄を聞くより只で流行歌を聴いたほうが良いと思うのは当然だろう。その流れは人気瞽女であるみわ達にも及んでいた。

「・・・・・・ここもダメ、か」

 得意先であった筈の屋敷で門前払いを食らった隼人は軽く舌打ちをする。昔の歌を聞きたいと強く願う年寄りでもいない限り、秋祭りくらいの催しではなかなか瞽女の唄を買ってくれるものはいないのだ。今回も馴染みだった先代が草津に療養中ということで断られてしまった。
 更に厄介なことに雨が振り始めてきた。纏わりつく秋霖は油断していると風邪をひく。隼人は早々に仕事を切り上げようと判断し、みわを促した。

「大丈夫?だって今日の宿代さえ稼いでいないのに」

 見えない目で隼人の顔を見つめ、みわが心配そうに尋ねる。しかしここで無理をさせたら元も子もない。

「雨で喉をヤラれたら暫く仕事ができないんだぞ!それより今はどこかに雨宿りするほうが先だ。今日は諦めろ」

 渋るみわを強引に引き連れ、隼人は最寄りの瞽女宿の戸を叩いた。だが生憎先客が多く、隼人達の泊まる空きはない。

「ここからだと麹町の上杉さんのところに行くのにも遠すぎるし」

 更に秋祭りの時期というのも厄介だった。江戸の昔と違い、祭りを見に近隣はもとより地方からの観光客も多くこの時期は東京にやってくる。高級ホテルから簡易宿泊所まで混んでいるのだ。僅かに空いているのはいかがわしい連れ込み宿くらいだろうか。可能な限りみわをその様な宿には連れて行きたくないと隼人は考えていたが、背に腹は変えられないかもしれない。

「おみわ・・・・・・下手したら浅草か上野の、その・・・・・・いかがわしい宿しか空いていないかもしれないんだが」

「私はかまわないよ」

 あっさりと言い放ったみわに隼人はぎょっとする。

「お、お前、意味解ってるんだろうな?」

「うん。でも他に泊まるところが無かったら仕方が無いんじゃ・・・・・・馬小屋よりは良いかと」

「まぁ、確かにな。三年前のあの時は本当に閉口したし」

 要は自分が理性を保てば問題ない、それだけのことだ――――――隼人も腹をくくり宿探しを始めた。



 覚悟を決めての宿探しだったためか、三軒目で空き室を見つけることが出きた。上野・不忍池のほど近くの古い宿は意外と穴場だったらしい。だが場所柄逢瀬を目的としている男女が多く、明らかに『その声』とわかる女の声が廊下にまで響き渡っていた。

「あの、布団の追加は・・・・・・」

 流石に二人で一つの布団に寝るのは憚られる。隼人は部屋に案内される前に担当の仲居に尋ねようとしたが、その質問は聞き手によって遮られてしまった。

「すみませんねぇ。この雨でしょ?急なお客さんも多くて余分の布団もはけちゃっているんですよ」

ど うやら何度も聞かれているらしい。隼人が全てを聞き終える前に仲居は早口で言い切ると、二人を三畳ほどの部屋に案内した。
 どこにいても互いの呼吸が感じられるほどの狭い部屋に、隼人は妙な緊張を感じる。普段ずっと手を繋いでみわの導きをしているにも関わらず、だ。

(落ち着け、隼人。こんな日はさっさと寝ちまえば良いんだ)

 その時である。みわが小さなくしゃみをした。

「おい、大丈夫か?風邪なんかひくなよ!」

 ここでみわに風邪を引かれてしまったら明日からの仕事に差し障る。隼人は慌ててみわの濡れた服を脱がし、上着掛けにかける。そして強引に布団に横たわらせ布団をかぶせた。

「お前の声は商売道具なんだからな。大事にしろ」

 敢えて突き放つ言いようをする隼人だが、みわのくしゃみはなかなか止まらない。もしかしたら体の芯から冷え切ってしまっているのかもしれないが、生憎布団を追加しようにも先程仲居に断わられている。

「・・・・・・変なことはしないから」

 まるで自分自身に言い聞かせるように隼人は襦袢一枚になるとみわが寝ている布団に潜り込み華奢な体を抱きしめた。その身体は冷え切っておりなかなか温まらない。

「長く雨の中にいさせちまったからな・・・・・・すまねぇ」

 隼人がみわに対して小声で謝る。その瞬間、みわが低い声で囁いた。

「そうやっていつも謝るよね・・・・・・蓮二郎お兄ちゃんは」

 捨て去ったはずの昔の名前がみわの口から溢れる――――――その一言に、隼人の表情は凍りついた。





UP DATE 2017.10.28 

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安宿、というか連れ込み宿に転がり込んだ二人ですが、思わぬ形でみわに『昔の名前』で呼ばれてしまい、動揺している隼人です/(^o^)\
これは宿の雰囲気とは人肌とかそういったものに煽られてしまったからなんでしょうねぇ・・・お互い今の関係を大事に、と思っていたはずなのですが、何かがみわのタガを外してしまったようです(-_-;)
この一言によって隼人がどう動くのか・・・シラを切り続けるのか、それとも我慢していた想いがほとばしってしまうのか、次回をお待ちくださいませm(_ _)m
(それと匂わせる描写はあるかもですが★付きにはならないかと・・・サーチ様の関係上そうせざるを得ないのです(^_^;))
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