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「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
初顔合わせ

vague~横浜からの旅立ちと兄夫婦との初顔合わせ・其の貳

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 宿場の朝というものはどこも早いが、こと品川宿の朝は特段早いと思われる。暁七ツににもなれば西へ向かう旅人は出立するし、暁七ツ半には自宅へ帰る江戸っ子も動き出し、東海道はかなり混んでくる。
 そんな賑やかで活動的な品川宿の平宿の中、作間と信乃はやや遅め――――――明六ツに起きだした。既に客の大半はおらず、宿に残っているのは作間らと他二、三組くらいだろうか。それ故宿の使用人も殺気立ったところがなく、朝餉もゆったりした雰囲気の中食べ始めることが出来た。

「一応朝五ツ半に髪結いが来ることになっているんだが、もう少し早くに頼めばよかったかな」

 二杯目のご飯をきれいに平らげつつ、作間は信乃に語りかけた。昨日は流石に疲れて早くに眠ってしまった作間だが、その分ぐっすり眠って体力が戻ったらしい。宿から出された朝餉を食べつつそわそわしている。
 その一方、信乃は品川で一泊したことで腹をくくったのか、自分が思っていたよりも落ち着いていた。

「もう、作間様ったらお食事中にお行儀の悪い・・・・・・麹町でのお約束の刻限もあるのですから、そちらに合わせましょう」

 作間様――――――信乃のその言葉を聞いた瞬間、作間の眉がふと曇る。

「う~ん、流石に、いつまでも『作間様』じゃあまずい、よなぁ。家に入ってもらうとなると」

 何気なく呟いた作間の一言だった、信乃は首筋まで真っ赤に染めてしまった。

「そ、そうですよね。ですけどなんてお呼びすれば・・・・・・やはり『旦那様』が無難でしょうか」

 すると今度は作間の顔が茹で蛸のように真っ赤になる。

「そ、そ、そうだな・・・・・・呼び方、は追々考えようか」

 『旦那様』の一言に、これから暮らすという実感が湧いてしまったのか。必死に頬を引き締めようとする作間だったがどうしても緩んでしまう。垣崎が見たら間違いなく茶化しまくるだろう。

(髪結いは朝五ツ半で正解だったな)

 その頃までには心持ちも落ち着いているだろう。作間は残りの味噌汁を掻き込みながら己の動揺と戦い続けた。



 朝餉を取って程なくすると、富沢町の貸衣装屋が作間用の羽織袴と、信乃用の小袖を持ってきた。『三井越後屋の売れ残りで、掘り出し物』だと手代が太鼓判を押す、枯野色に雪模様の小紋をあしらった品の良い小袖に信乃は思わず嬉しい声を上げてしまう。

「このお着物、もしかして作間様のお見立てですか?」

 訪問着を手に取りながら、信乃は作間に尋ねる。

「いや、一応お信乃の立場を告げて見世に見立ててもらった物だ。これなら兄者に失礼は無いと思うが」

 嬉しそうにはしゃぐ信乃を見て、作間も満足げだ。だが着物以上に厄介な問題がまだ残っていた。

「あとは髪結いだけだが」

 作間が重い声で呟いた瞬間、信乃の顔からも笑顔が消え、溜息がこぼれた。

「そうなんですよね。これが一番困りますよ」

 二人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。

「流石に丸髷で、という訳にはいきませんし・・・・・・しの字髷か三ツ輪にしておくのが無難でしょうか」

「今の潰し島田でも問題はないと思うが、兄者はともかく義姉上がこの手のことに煩そうだからなぁ」

「確かにおなごの方がこの手の事には敏感かもしれませぬ」

 今現在、信乃は粋筋の芸妓に好まれる潰し島田に髪を結っている。しかし目上の相手に会うのにこの髪型で大丈夫なのか――――――身分や立場に煩いこの時代ならではの悩みだった。
 実は作間が敢えて女髪結いを頼んだのもその点にあった。多くの女性の晴れ舞台に立ち会っている女髪結いならば、このような状況でどのような髪型にすれば問題ないか知っているかもしれないと。信乃もそこに頼るしか無い。

「そろそろ来る頃だな」

 作間が呟いた、まさにその時、宿の仲居が女髪結いの来訪を作間らに告げに来た。



「お待たせしました、作間様!」

 案内の仲居と共に愛想よく座敷に入ってきたのは、三十代半ばくらいの中年の女髪結いだった。若すぎず、かと言って流行に疎い年寄りでもないちょうど頃合いの年齢に作間と信乃は安心する。

「いえいえ、ちょうど着物も届いたところで――――――」

「あら、良いお着物じゃないですかい。これならばお旗本の兄上様に恥ずかしくないでしょう」

 事情は予め聞いているらしく、中年の女髪結いはニコニコと笑いつつ、信乃の髪に触れた。

「基本は今結っている潰し島田でいきましょう。ただ髱はもう少しきっちり、きつく上げさせていただきますよ。お武家はゆるくなった髪を一番嫌いますからね」

 テキパキと小気味よく言い放つと、女髪結いは信乃の髪に挿してあった簪や櫛を全て引き抜き、作間へと投げ渡した。

「旦那、その中から簪一本を選んでおいてくださいな!真剣勝負は潔く、櫛一枚、簪一本で行きますよ。何せ相手は武士、兄上様とは言えお初のお目見えは真剣勝負なんですから!」

「か、簪一本に櫛一枚・・・・・・」

 その言葉に信乃が不安な表情を露わにした。

「そんなに少なくて、失礼に当たりませんか?」

 恐る恐る不安を口にする信乃だったが、その不安を女髪結いはぴしゃりと振り払った。

「逆ですよ。伺ったところによりますとお姐さんは旦那に身請けされたとか――――――だったら『弟に散財をさせた雌狐』という印象を吹き飛ばさなきゃなりません。地味すぎるくらいで丁度いいんですよ」

 女髪結いの潔すぎる言葉に頷いたのは、簪を選んでいた作間だった。

「確かにそれはあるかもしれないな。身請金は実際伊織が支払ってくれたようなものだが、兄上達はその事情を知らないし」

「そう、ですわね。潔すぎて不安ではありますけど・・・・・・髪結いさんと作間様を信じます」

 既に事態は動き出している。軽い挨拶だけとは言えここは失敗することは出来ないのだ。信乃は腹をくくり、女髪結いが結うままに任せた。



 半刻後、出来上がったのは堅気の中年増だった。髱を固く結い上げた潰し島田や、枯野色の小紋からは、彼女が岩亀楼の御職を張った過去を持つ娼妓だったと想像できない。

「その姿ならば義姉上も納得してくださるだろう」

 すっかり変わってしまった信乃に作間も満足げだ。そんな作間の安心した笑みに信乃もつられて笑う。

「じゃあそろそろ駕籠を呼ぼうか」

 作間はそう言うと自ら宿の男衆に声をかけ、駕籠を呼ばせる。いよいよ作間の兄のところへ乗り込むのだ――――――信乃の表情も思わず引き締まった。




UP DATE 2017.12.2

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今も昔も『ハレ』の日の装いというものには頭を悩ませるものです(-_-;)それが相手の身分や自分の立ち位置、その他もろもろの制約がある江戸時代となれば尚更/(^o^)\今回は管理人自らそんなしきたりに振り回されてしまいました(^_^;)

正式な武士(旗本)に『武士の子』である弟が恋人を紹介しに家に上がる―――本来ならばこ~ゆ~ことはさり気なくスルーしちゃうのでしょうが、作間の性格だと絶対に信乃を肉親に紹介するでしょう(更に厄介な縁談も断るために)
男性ならば羽織袴で誤魔化せてしまいますが、女性となると髪型から着物までいちいち煩い(-_-;)あまり若作りな髪型も信乃の年齢ではイタイですし、かと言ってあまり粋筋に走ってもいい印象を与えられない。勿論人妻の髪型である丸髷や、武家の髪型である高島田などもNG―――――こうなるとやはり頼りになるのはプロの女髪結いです(๑•̀ㅂ•́)و✧
江戸時代、何度も禁止されていた女髪結いですが、やはりこういうイベントの際は絶対に力になってくれたと思うんですよね~。一般人がなかなか知らない髪型も勉強していそうですし。ということで今回は女髪結いの力を借りて、『兄上に会える』髪型にしてしまいました(*^_^*)
ここまでしてようやく麹町に乗り込めますよ・・・次回更新は12/9、ようやく作間の兄に会うことが出来ますヽ(=´▽`=)ノ
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