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くろかみ語り~其の壹・銀杏返し

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 それは事始めの笊が江戸の冬空にはためく日のことである。この日に食べる『お事汁』の具を旅籠・伊勢屋に届けに来た丁稚の格次郎は、対応に出てきた仲居見習いのおみつと顔を合わせるなり小首を傾げた。

「あれ、おみっちゃん・・・・・・もしかして髪型変えたかい?」

 するとおみつは花が咲き誇るような、満面の笑みを浮かべた。どうやら気がついてもらえたのが相当嬉しかったらしい。

「うん!仲居頭のお松さんが銀杏返しを結ってくれたの。年が明けたら十二歳になるんだからって・・・・・・でも、まだ自分じゃ結えないの」

 自分の髪が自分で結えない事がよっぽど情けないのか、おみつは寂しげに瞼を伏せた。睫毛の影が頬に落ち、おみつの睫毛が意外と長いことに格次郎は気付かされる。

「・・・・・・そりゃあ難しいだろうよ。つい三日前まで桃割だったんだからよ。その内てめぇで結えるようになりゃいいんじゃねぇの?」

 己の妙な胸の高鳴りに戸惑いつつ、格次郎はおみつから視線を微妙に外し素っ気なく言い放つ。

「そう、か・・・・・・そうだよね!今から頑張れば」

「でもおめぇは不器用だからなぁ。せめて来年の今頃までにはてめぇで結えるようにしろよ」

 冗談めかしつつ軽くおみつをけなした後、格次郎は空いた桶を手にして踵を返した。



 表通りに出ると、別の旅籠に荷を届けていた五歳先輩の貫五郎と出くわした。そして帰り道がてらの雑談で、おみつの話も出てきた。

「そうか。おみっちゃんも年が明ければ十二歳だしな。銀杏返しになるのも当然か。去年は稚児髷、今年の始めはもう桃割で、早いなぁとは思っていたけど」

「それだけ貫五郎さんがジジィになった、ってことじゃないですか」

「うるせぇ!この減らず口が!俺と五つしか年が離れちゃいねぇのに」

 その瞬間、ペチン、と格次郎の額がひっぱたかれる。すると見る見るうちに格次郎の額に貫五郎の掌の跡がくっきりと浮かび上がってきた。

「痛ってぇ!せめて拳骨にしてくださいよ!貫さんの平手は妙に早くて、拳骨より痛いんですから!」

「当たり前よ!拳骨は手加減してやってるが、平手は遠慮なくやらせてもらっているからな」

 来年の藪入り後には出世頭として手代になるだろう先輩は容赦ない。

「ひでぇよな。だから俺達の世代の小僧が逃げるんじゃないですか」

「この程度で逃げるような小僧はうちの店にゃいらねぇさ。商売に関わり始めたらもっと辛い事が山のようにあるんだぜ」

 笑顔を見せ、貫五郎は遠い目をする。

「だからこそちょっとした楽しみだって大事にしてぇじゃねぇか」

 それが絶対に手の届かない、憧れの少女の成長であろうとも――――――勘五郎の言外の言葉に、格次郎は小さく頷いた。




UP DATE 2017.12.06


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先日UPした『vague』にて思うところがありまして・・・江戸時代から昭和初期の女性の髪型、もっと勉強しなけりゃダメだと思い知らされました(>_<)ひとつひとつの髪型に意味がありすぎるんですよ、日本の昔の髪型って( ;∀;)
てなわけで、暫くの間『メジャーな女性の髪型』をお題に短編を書いていこうと目論みまして、その第一弾を『銀杏返し』とさせていただきましたm(_ _)m

この銀杏返し、大体12歳~15歳位までの髪型だとのことです。芥子坊主(男女とも)→禿(おかっぱ)→稚児髷(10歳位)→桃割(11歳位)→銀杏返し(12歳)てな感じらしい・・・あくまでも想像の域を出ませんが、もしかしたら初潮を境に桃割と銀杏返しの差があるのかもしれませんね。この辺はもう少し調べてみないと判りませんが『桃割』の子に手を出したら犯罪者だけど『銀杏返し』なら結婚もOKとか。大体銀杏返しは20代まで許されている髪型らしいので、『恋愛とか結婚できる相手』という、ほのかな色香が漂い始めるものだったのかもしれません(*^_^*)そういう微妙な差が書けるようになりたいんですけどねぇ(^_^;)最近本当に勉強不足を感じます/(^o^)\

次回はおきゃんな奴島田か小粋な潰し島田あたりにチャレンジしようかと・・・そのうち上方の結綿とかおしどりなども取り上げるかもしれません(*^_^*)
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