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「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
初顔合わせ

vague~横浜からの旅立ちと兄夫婦との初顔合わせ・其の参

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 甲州街道から一本入った通りに作間の兄の屋敷はある。代々目付の家柄だけにある程度の広さはあるものの極めて質素だ。
 庭木でさえも必要最低限の手入れのみで、植物好きであれば寂しさを感じるほどであるが作間はこれが普通だと思っていたし、信乃も特に気にすること無く屋敷に入っていった。

「駿次郎樣、ご無沙汰しております」

 昔から家にいる中間の元弥が、作間と信乃を出迎える。

「若殿が奥でお待ちです」

「おいおい、若殿はやめておけ。兄者に聞かれたら大目玉だぞ」

 崇拝の気持ちが勝ってしまい、どうも元弥は大仰に言い過ぎる。それを窘める作間だが、元弥は聞く耳を持たない。

「良いのです!俺にとっては『殿』は『殿』ですから!」

 鼻息も荒く言い切ると、元弥は早速二人を奥へと案内し始めた。

「吃驚したろう、信乃。こいつにとって兄者は崇拝の対象で――――――目付という孤独な仕事柄、ありがたいと言えばありがたいんだが」

 困惑半分に作間が愚痴をこぼすが、信乃は『問題ないのでは?』と笑みを見せた。

「私としてはむしろ喜ばしいことだと思いますけど。お目付けといえばいつお命を狙われてもおかしくない立場。これほどまでに心強い家臣がいればお家の宝でしょう?」

「そんなことを言うとまた元弥がつけあがる」

 軽くたしなめつつも、作間は内心ホッとしていた。最盛期の頃は岩亀楼で御職も張っていた信乃である。失言などはありえないが、中間にも気を使ってもらえるのはありがたい。そんな他愛もない会話をしている内に兄がいる部屋にたどり着いたのか、元弥が部屋の中に声をかけ襖を開いた。

「あれ、ここは?」

 てっきり客間に案内されるものだとばかり思っていた作間達だったが、通されたのは一番奥の仏間だった。二人を迎えるには狭い部屋であるし、そもそも極めて『内輪』の部屋だ。落ち着かない気持ちを押さえつつ、作間は兄に対して一礼する。

「兄上、この度はお会い出来る機会を作っていただき、誠にありがとうございます」

 しゃちほこばった挨拶に信乃も続く。そんな堅苦しい弟に、兄・優之輔は穏やかな笑みを見せる。

「気にするな。何せお前がわざわざ私に紹介したいという女性を連れてくるというのだ。妾なのだからそこまで気にせずとも良いものを」

「いいえ!そんな訳には――――――そもそも作間家は代々目付を任されている家柄、冷や飯食いの弟の妾とは言え迂闊な人物を入れるわけには参りませぬ!それと・・・・・・」

「その者意外、おなごを近づける事はしない、というところか。生真面目だな、お前は。むしろ私よりお前のほうが目付に向いているやも知れぬ」

 くすくすと笑いながら、優之輔は自ら淹れた茶を勧める。

「あの、義姉上は?」

 てっきり義姉も立ち会うものとばかり思っていた作間は怪訝そうな表情を浮かべた。すると優之輔がその疑問に応える。

「ああ、晶紀は優太郎の看病中だ。昨日学問所で風邪をもらってきてしまったようでな」

「それはいけませんね。昌平坂で流行っているのでしょうか?」

「そうらしい。今年の風邪は厄介で、四半分くらい昌平坂での講義を欠席しているとのことだ」

 そんな近況を話しつつ、優之輔は信乃にも声をかけた。

「面を上げてください、信乃殿、でしたっけ?この部屋は身内しか入れぬ場所ゆえ堅苦しさは無用です」

「――――――ではお言葉に甘えまして」

 信乃は面を上げた。その顔にはだいぶ治ってきたとは言え火傷の痕がくっきりと残っている。それを目の当たりにして優之輔は軽く眉をひそめた。

「大変な目に遭われたようですね」

「はい。先の横浜の大火に巻き込まれまして――――――作間様、駿次郎様が助けてくださらなければ命を落としておりました」

 その信乃の言葉を引き継ぐように作間も言葉を付け足した。

「あの時の港崎は文字通り火炎地獄でしたから。流石にこの火傷で仕事は続けられませんし、拙者も信乃には想い入れがありましたのでこの機会にと」

 弟の決意を聞いた優之輔は、相わかったと小さく頷く。

「おなごに無縁なお前としては悪くない選択だ。町道場の妻がなまじ美人であったなら門弟が邪念を抱く」

 すると作間は心外だとばかりに言葉を付け加えた。

「兄上。元々信乃に惚れたのは、見目ではありませんでしたから、火傷くらいは別にどうという程でも」

「ほう?岩亀楼で一時期御職まで張っていた傾城をつかまえておいて、敢えて『見目ではない』と言い切るとは」

 女性の魅力は勿論他にもあるだろう。だがひどい火傷痕があっても信乃ば美人の部類に入る。それを敢えて顔ではないと言い切るのはそれ相応の理由があるのだろう。それが気になって優之輔は弟を促すと、思いがけない返事が返ってきた。

「はい。やはり話が合う、ということでしょうか。初回の日に剣術の話で盛り上がりまして」

 その話に優之輔はプッ、と吹き出した。

「それはまだ無粋な。花街に足を運んだくらいなんだからもう少しマシな会話ができるようになったかと思っていたが・・・・・・こんな弟ですが、よろしく頼みますよ、お信乃さん」

 その一言は一家の主として優之輔が信乃を認めたということに他ならなかった。作間はようやくホッとした笑みを浮かべた。



 三人の――――――というよりは、兄弟二人の話を信乃が作間の背後で聞いている――――――会話はしばし続いた。やはり未だ将軍が立たない中、これからの政局の話にどうしてもなってしまう。

「いい加減一橋公は将軍職に就いてくださっても宜しいのではないでしょうか、兄上?」

「それは一橋公以外の全ての関係者が思っている。老中らも心ある大名らも事あるごとに将軍就任を勧めているらしいのだが、なかなか首を縦にふってくださらないと聞く。私もその辺の事情は知りたいのだが、流石に江戸では情報収集にも限度がある」

「兄上に上洛要請は未だ無いのですか?」

「多分俺は最後の最後まで留守居だろう。我が家の事情のことは大目付が知っているし、他に上洛したくてウズウズしている者も少なくない。そもそも」

 そう言って優之輔は一旦言葉を切る。

「お前に上洛を断念させておいて私が行くのも筋違いだろう」

「それとこれとは違います。拙者は立身出世のため、兄上の場合はお勤めじゃないですか。まぁ優太郎が病弱で、姉上も母上の一件以来情緒不安定になっていることは否めませんが」

「それもあるが、上洛だけが仕事ではない。留守の江戸こそ隙が生まれやすい。そこをきちんと取り締まるのが目付の勤めだ」

 優之輔は強く言い切ると、話題を変えた。

「ところで今度、陸軍所と海軍所が新たに編成され直して人員を募集するという話はお前に届いているか?」

「はい、勿論。町道場にも回覧が回っております。拙者としても門弟を何人か推薦しようかと」

「お前自ら参加するつもりは無いか?陸軍の関係者から私に直接誘いが来た」

 その一言に、何故兄がわざわざ信乃の目通りを許したのか合点がいった。本当の目的はこちら――――――作間の陸軍所への参加要請だ。きっと断りきれない相手からの誘いなのだろう。ようやく軌道に乗ってきた道場運営をほったらかしてまでの価値があるのか――――――作間は困惑する。

「とある方から、可能な限り優秀な人材を集めたいとの要請があってな。練兵館の元・師範代のも白羽の矢が立った、ということだ。お信乃さんも町道場主の妾よりも幕臣の妾のほうが箔が付くだろう」

 すると、信乃は少し困惑気味に、しかしはっきりと口にした。

「恐れながら申し上げます。これから幕府に必要なのは武力ではなく、海外勢力との交渉能力かと思われますが」

 思わぬ一言に作間は慌てるが、優之輔は興味深そうに信乃の言葉を促す。

「ほう、外国人との接触もある岩亀楼の花魁が、あえて『交渉能力』とは。その心は?」

「純粋な武器、兵力だけを比べるならば日本は明らかに諸外国に劣っております。攘夷に未来はありませぬ、と言い切っても宜しいでしょう。その為、先を切り開くには少しでも対等な条約を結ぶことが重要かと――――――実は私達遊郭関係者はいい加減な条約を駐在軍と結んでしまったことによって関内から追い出されてしまいました」

「追い出された、とはまた物騒な」

「はい。どうやら彼らは元々悪所が近場にあることを快く思っていなかったようでして――――――港崎があった場所には火事よけの空き地を確保するとのことです。小さな町の、ささやかな条約でさえこれです。国の存亡を賭した条約締結の際は更なる交渉能力が必要かと」

 客に意見をすることは殆どないが、一流遊郭の遊女であれば政治・経済の話くらいは網羅していなければならない。そして中には信乃のように自分の意見を持つものがいてもおかしくないのだ。岩亀楼の御職にまで昇りつめた事がある信乃ならば当然なのだが、作間はそのことをすっかり失念していた。
 呆気にとられる作間だったが、優之輔は特に驚いたような表情は浮かべていない。

「――――――返す返すもお信乃さんが武士身分でないのが残念だな。お前が惹かれたのも当然だ」

 満足げな笑みを浮かべると、優之輔は弟に声をかける。

「母上が存命の内は難しいだろうが、その内お信乃さんを相応の家に養女に出してから我が家に嫁いでもらう。そのつもりでいてくれ」

「あ、兄上!そんなことまで・・・・・・よろしいのですか?」

「どのみちお前はお信乃さん以外娶る気はないのだろう。だったら別に構わないではないか。むしろ作間家としては賢い嫁を他に取られないようにしなければならないしな」

 兄の言葉のありがたさに、作間は改めて頭を下げた。



 二人が仏間を去った後、優之輔は隣の部屋に声をかける。

「晶紀、こちらへ」

 すると隣の部屋に続く襖が開き、そこから一人の女性が現れた。

「お前の、お信乃さんに対する印象はどうだった?」

「『武士の妻』であるのならやや賢し過ぎるかと。しかし」

「しかし?」

「町道場の主の妻であるならば、またはこの先の見えない時代を切り開く男の妻であるならば絶対に必要な賢しさであるかと思います。ただし、駿次郎さんの妻だけであるならば」

「問題はやはり母上、か」

「ええ。あのお方は・・・・・・」

 思い出すだけでも怖気が立つのか、晶紀はぶるり、と身震いした。

「まぁ、駿次郎もできるだけ顔を合わせずに済むよう考えているだろうが、こればかりは如何ともしがたい」

 優之輔も過去の辛酸を思い出したのか、うんざりとした表情を浮かべる。せいぜい自分達にできるのは弟達の愚痴を聞くことくらいだろう――――――己のあまりの非力さに、優之輔は妻と顔を見合わせ苦笑いを浮かべることしかできなかった。



UP DATE 2017.12.9

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第一関門・兄夫婦との顔合わせ終了いたしました(≧∇≦)/正確には兄だけ、兄嫁は襖の向こう側からのチェックですが、これは兄夫婦側の気遣いでしょう(^_^;)やはり信乃とは身分が違うというのもありますし、兄夫婦自体も嫁・姑問題等で苦労しているので少しでも気楽に・・・という想いがあったのかもしれません。
結果は本文の通り、無事合格ヽ(=´▽`=)ノしかも信乃の賢さを気に入った優之輔兄さんからは『その内正式な結婚を』のお言葉も頂きました(≧∇≦)/弟が恋愛に関してぼんくらだから『絶対に逃がさない!』ようにするのでしょう( ̄ー ̄)ニヤリそこのところの包囲網はガッチリしております(๑•̀ㅂ•́)و✧
となると一番の問題は作間のババァ、あの厄介な姑です(-_-;)果たして信乃はどのように対峙するのでしょうか?次回をお楽しみくださいませ(*^_^*)
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