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「短編小説」
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くろかみ語り~其の貳・奴島田

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 十二月十三日は江戸の煤払いの日である。本来は『江戸城の』煤払いであり、庶民が倣う必要は一切無いはずなのだが『おらが殿様』が特に大好きな江戸っ子が真似しないはずもない。勿論太物問屋『近江屋』も同様で、主人を筆頭に煤払いに勤しんでいる。そんな中、丁稚の加吉は兄分の昌五郎と共に台所の手伝いに駆り出された。

「しかし細かなところは女衆が手伝ってくれるっていうのはありがてぇよな」

「確かにそうですよね。天井や壁は別にどうってことないですけど」

 どうやらこの二人は力仕事や広い場所、高い場所などは得意だがそれ以外は苦手らしい。更に普段話をすることさえ許されない女衆の手伝いを任されたとあって気分が高揚しているのだろう。かなりはしゃぎながら台所に入ってゆく。だが、その高揚した気分に水を被せるような『存在』が台所で桶洗いに勤しんでいた。

「おいおい、どうしたんだよおウメ。そんな婆みたいにきっちに頭を隠ししまって」

 土間で桶を洗っていたのは、今年の春奉公に上がったばかりのおウメだった。煤払いで埃を被らぬよう手ぬぐいを被るのは当然だが、その被り方があまりにもひどいのだ。髪の毛一筋も見えないようきっちりと髪を包み込んだその姿はあまりにも不細工で、姉さん被りの色気には程遠い。

「せっかくの別嬪さんが台無しじゃねぇか」

 思わず零れてしまった加吉の一言だったが、それがおウメの逆鱗に触れてしまったらしい。みるみるうちに柳眉を上げ、加吉に向かって怒鳴りつけてきた。

「知らない!放っておいてよ!」

 何が気に障ったのか判らないが、かなり不機嫌だ。こんな時は無理に声をかけないことに限る。

(くわばらくわばら。触らぬ神に祟りなし、ったぁこのことだな)

 加吉は肩をぶるっと震わせると早々に台所の天井の掃除を始めた。



 大掃除がすべて終わると胴上げが始まる。まずは主、そして番頭と続きどんどん下のものへと続いていく。尤もこれを堪能したいがために煤払いを頑張っていると言っても良いかもしれない。
 そして加吉ら丁稚の胴上げが終わると今度は女達の番である。それが嫌で自分の順番が来る前にさり気なく逃げている下女らもいるが、今年入ったばかりのおウメは逃げそこねてしまったらしい。瞬く間に仲間らに捕まると天井近くまで胴上げされてしまった。

「きゃあ!」

 胴上げされながらも手ぬぐいに包まれた頭は死守していたが、男衆の胴上げは容赦ない。

「ほぉら、もう一回!!」

 面白半分に更にもう一度高々と胴上げされたその瞬間、おウメの髪に巻いてあった手ぬぐいがはらりとこぼれ、中からぐずぐずに崩れた奴島田が現れた。

「あ~、もう!うまく結えなくて隠していたのに!!」

 頬を河豚のように膨らませ、床に降りたおウメは不機嫌を露わにする。

「へぇ、奴島田ねぇ。だいぶ背伸びしたな。ていうかおめぇ昨日まで銀杏返しだったろうが。何もこんな埃だらけになる日に頑張らなくたって」

「・・・・・・こんな日だから頑張ったんじゃない!」

 涙目になりながらおウメは加吉に訴える。

「これから湯屋に行ってきれいになってから奥様が下女たちの為に宴を開いてくださるって・・・・・・奉公して初めてだから頑張って奴島田に挑戦したのに!」

 そこまで言い切るととうとう涙がその目から溢れ始めた。その涙にオロオロする加吉だが、仲間は助けてくれず、さっさと湯屋へと逃げてしまった。

「お、おいもう泣き止めよ」

 そう言いながら加吉はおウメの髪に触れる。辛うじて元結で形作られていた奴島田だが、加吉が触れた瞬間がくり、と崩れてしまった。

「全くこんな日に見栄を張るから・・・・・・俺からもお志賀さんあたりに頼んでやるから結い直してもらえよ」

 流石に加吉に女髷は結えない。少なくとも下女の中で一番面倒見の良さそうなお志賀の名前を出すことしか彼にはできなかった。それでもおウメの機嫌を直すには充分であった。不意に泣き止み、訴えるように加吉ににじり寄る。

「本当?加吉さんからも頼んでもらえるの?」

 文字通り『藁にもすがる思い』で加吉にすがるおウメに、加吉も手をかさないわけには行かなくなっていた。

「ああ。今回ばかりは仕方ねぇだろ。さっさと整えてもらって奥様の宴に参加しろ」

 加吉は器用におウメの頭を手ぬぐいで巻いてやると、立ち上がらせ背中を押す。

「ほら、さっさと準備をして湯屋に行きやがれ!俺だって早く湯屋に行って仲間と飲みに行きたいんだからよ!」

 おウメの背中を押しつつぶっきらぼうに言い放つも、加吉のその声には甘く、柔らかいものがほんの少し混じっていた。



UP DATE 2017.12.13


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髪型が決まらないとテンション下がりますよね~(´・ω・`)現代のように優れた整髪料があってもなかなか決まらなかったりする髪型です。江戸時代のように鬢付け油数種類だけだとそれは更に、でしょう(-_-;)
しかしそれと同時に女の子は『特別な日に特別な髪型を!』と思ってしまうもの・・・きっと初めての宴に舞い上がり、ちょっと大人な髪型にして打ち上げパーチーに(≧∇≦)/と思っていたのに、奴島田が結えないという/(^o^)\
ちょっとお間抜けだったおウメですが、そんなドジっ子がキライじゃ無さそうな加吉・・・同じ店の使用人同士というのは基本恋愛禁止なので二人が結ばれるということはないでしょうが、恋とも言えない淡い思いを抱くくらいはいいですよね(人´∀`).☆.。.:*・゚
尤もこんなカワイイ時代はあと言う間に過ぎてゆき、奴島田は勿論あらゆる髪型をあっさり結えるようになり、とっとと嫁に行ってしまう・・・時というものは残酷なものです/(^o^)\
次回更新は12/20、今度は粋筋の髪型を取り上げたいなぁと思います(*^_^*)
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