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「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
初顔合わせ

vague~いざ本丸・其の壹

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麹町にある兄の屋敷を後にした作間と信乃は、改めて身なりを整えるため一旦作間道場に向かった。四谷大木戸は相変わらずの人の多さで、その流れに逆らって道場の入り口に辿り着くことさえ一苦労だ。そしてようやく道場の玄関に辿り着いた作間は自ら扉を開き、信乃を中に導いた。

「小さいながら我が陣、と言ったところかな。普段はこっちで暮らすことになると思う」

 信乃を案内しながら作間は語る。

「一応母上の暮らしている家に帰ることになっているんだが、稽古に熱が入るとついこっちに泊まってしまうし、あちらはあちらで小うるさいから」

 冗談とも本気ともつかない愚痴をこぼしつつ、作間は道場に信乃を案内した。まだ開いて一年に満たない道場はようやく落ち着いた色味を滲み出したところか。磨き上げられた床に、作間が如何にこの場所を大事にしているかひしひしと感じられた。

「かなり、大きな道場なのですね」

 信乃は見回しながら驚きの表情を見せる。

「大きな道場は父がお世話になっておりました試衛館くらいしか知らないのですが・・・・・・そこより大きいのでは?」

「確かに市営館よりは一回り大きいかな。これでもやや手狭なんだが、俺一人が稽古を見るにはこれが限度で」

 それでもこの大きさの道場を作ったのには理由がある――――――言外の作間の言葉を汲み取り、信乃は言葉にした。

「それでもいつか・・・・・・お弟子さんが育って稽古が付けられるようになれば、もう少し道場が大きくなる可能性もあるのですね」

「ああ、そうなれば理想だが」

 言いかけて作間は言葉を濁す。世の軍備は洋装化に向かって進んでいる。剣術を嗜むなど道楽でしかないのかもしれない。更に先程の兄との会話では『交渉力』が重要だと信乃は言っていた。力に劣るものが勝つためには間違いなく必要になるものだ。
 剣術の未来は決して明るくはないが、今の作間にはこれしかできない。

「少なくとも家族を養えるだけは頑張らないとな。子供も三人位は欲しいし」

 その一言に、信乃も深く頷いた。



 道場の二階にある部屋で改めて身なりを整えた後、二人は作間の母がいる借家へとやってきた。街道から一本奥まった場所にある小さな家は元々大店の番頭が寮として使っていたものらしい。
 小洒落た趣は武家には派手すぎると作間は思うのだが、母がこの家を気に入ってしまったがため割高だが借りている。

「おクマさ~ん!いますかぁ?」

 作間は声を張り上げ、下女のおクマを呼ぶ。すると奥から小柄な初老の下女が現れた。作間の母付きの下女・おクマだ。

「駿次郎樣、いらっしゃいませ。あの、そちらのお方は?」

 作間の背後に控えていた信乃を目ざとく見つけると、遠慮なくジロジロと見つめる。下女としては不躾この上ないが、おクマには女主人を護るという役目もある。当然といえば当然だろう。むしろ下女の身分でここまで身体を張ることを褒めねばならない。

「ああ、後で改めて紹介するが今度家に入ってもらうことになった者だ」

 その瞬間、更にオクマの表情が険しくなる。得てして『男の説明』というものは言葉が足りない。おクマに対して『妾奉公』という言葉を使うのが照れくさかったというのもあるのだろうが、作間の言い方ではおクマの代わりに信乃が母親の下女として入ると取られてもおかしくない。
 そしてその空気感にいち早く気がついたのは信乃だった。作間に続き玄関をあがった後、おクマに対し穏やかに、しかしはっきりと挨拶をする。

「この度、作間駿次郎樣のところに妾奉公に上がることになりました信乃と申します。至らぬ点多々ございますが、よしなに」

 その瞬間、おクマは毒気を抜かれた、キョトンとした表情を浮かべた。

「ああ、そっちのご奉公なんですね。珍しいこともあるもので・・・・・・てっきり私の代わりかと思ってしまいましたよ」

 おクマから見ても作間は女性に無縁だったらしい。更に信乃の顔にある火傷の跡と相まって『妾奉公』には結びつかなかったようだ。その言葉を受けて更に信乃は畳み掛ける。

「はい。お伺いしたところによりますと、こちらの奥方様はとても繊細なお方のようでございますね。ご挨拶とは言え粗相の無いようにしたいのですが」

 信乃のその言葉に、作間がぎょっとした表情を浮かべた。自分達は母親に対し『繊細』などという言葉を一度も使った覚えはない。むしろ『厄介な性格』と文句ばかり言っていたように記憶する。
 それなのに何故『繊細』などという言葉が出てくるのか理解に苦しむ。しかしおクマは対照的にニコニコと機嫌の良い笑みを浮かべていた。

「そうなんですよぉ。何せ武家の男所帯ですからねぇ。細やかな部分がある奥様がどれだけ苦労されたか!ほんの少しでも気遣ってくれれば良いんですけど、武張った作間家じゃ無理でして」

 どうやら『話の解る女』がやってきたとおクマには認識されたらしい。機嫌の良いまま作間の母がいる部屋へと二人を案内し始めた。



 作間の母の部屋は南に面した日当たりの良い場所にある。そこで母は軽く寝息を立てていた。流石に眠っているところを起こすのも悪いと、作間と信乃は顔を見合わせる。

「寝ているのか。だったらまた出直して」

 しかしそれを止めたのは他ならぬおクマだった。

「大丈夫ですよ。四半刻、いえもっと短い時間で起きますから。ここ最近眠りが浅いんですよ」

 その瞬間、信乃がいかにも気の毒だとばかりに眉をひそめた。

「眠りが浅いなんて――――――それはお辛いでしょうね」

「ええ。ここ最近起きている時もぼんやりなされて」

 おクマも愚痴を吐き出す相手がいるのがありがたいのか、妙に口が軽かった。その様子に作間はまるで別人らを見るような目でおクマや信乃を見つめる。

(女三人寄れば姦しいと言うが、二人でも充分すぎる――――――下手に結託されると厄介なことになりかねないな)

 流石に自分の母はこの輪の中に入らないであろうが――――――だが、息子の楽観的な憶測はものの見事に崩されることになる。




UP DATE 2017.12.16

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相手との会話、そして表情から状況を読み取り、最善の接客をする―――それが一流遊郭・岩亀楼で御職を張った白萩こと信乃の特技です(๑•̀ㅂ•́)و✧それができた頭の良さがあったからこそ遊郭でトップに昇りつめ、初対面の作間の兄にさえも堂々と渡り合えたところがあります。そのことを一番理解していないのは他ならぬ作間駿次郎、その人ではないかと(^_^;)何せ信乃は作間に対して大した『営業接客』をしておりませんからねぇ・・・多分今回の親族との顔合わせて初めて信乃の実力に接しているんじゃないかと思われます(๑•̀ㅁ•́๑)✧
因みに何故信乃は作間の母を『繊細』と認識したのか?それは似たようなタイプの同僚または上司、あるいは客人の奥方がいたと思われます。その辺の苦労話もその内明かされると思いますが、まずは本丸・作間の母を落とさなくては・・・次回ようやく対峙となります(๑•̀ㅂ•́)و✧
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誠に申し訳ございませんが、他の方を当たって下りますようお願いいたしますm(_ _)m
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