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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第十六話 誠の旗印・其の肆

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近藤が銘入りに匹敵するような刀を手に入れたという噂は瞬く間に隊士達、そして隊士達を通じて関係者の間に広まった。中には『近藤局長が本物の『虎徹』を手に入れた。』と吹聴する者もおり、近藤らが否定しても信じてくれないという少々困った事態に陥っていた。
 そんな中、天誅組の乱で武功を立て、京都に呼び出されていた高取藩家老の中谷が『偽虎徹』に興味を示し、『大石内蔵助の甲冑と虎徹を見せてやるから、その偽物とやらを持って来い。』と近藤を呼び出したのである。

「たった二百名の兵力で千人もの兵力を誇っていた天誅組との戦いに勝った御仁だ。あわよくばその時の話を聞く事ができるかも知れない。やっぱりこの刀は神からの賜り物らしいな。」

 『偽虎徹』が呼び込んだ嬉しい出会いに喜びを露わにしながら近藤は出かけたのだが、何と中谷に気に入られてしまった近藤は『大石内蔵助の甲冑』を押しつけられてしまい、それを抱えて屯所に帰ってくる事になってしまったのである。

「近藤さん・・・・・一体何を持って帰ってきているんだよ・・・・・。それ、絶対に偽物の甲冑だろう。」

 巡察に出て行こうとしていた永倉が目ざとくそれを見つけ、呆れたように溜息を吐く。『大石内蔵助の甲冑』との事だったが近藤に押しつけるくらいの甲冑だ。真っ赤な偽物であるのは明白だが、それでも近藤は嬉しげに笑っていた。

「ははは。どうしても断り切れなくてな。だが、そのおかげで少人数で大勢を相手に戦う術を聞く事ができたよ。」

 少し酒が入っているのか、すこぶる上機嫌で近藤は永倉や平隊士に語りかけた。どうやら今日の酒は楽しい酒だったらしい。いつもこんな会合ならありがたいのに、と甲冑を抱えて屯所の中に入っていく近藤の背中を見つめながら永倉は思わずにはいられなかった。



 だが、近藤の偽虎徹はこのような愉快な出会いばかりをもたらした訳ではなかった。近藤がえっちらおっちら甲冑を持ち帰ってきた次の日、今度は会津藩から『会津お抱えの刀工を紹介してやる』と使者を寄越してきたのだ。

「新選組組長が偽物と承知していながらそれを差料にしているとは如何なものか。会津十一代兼定は、十六歳で藩御用務め、和泉守を受領している。この機会に注文出来るようならして置いた方がいいぞ。」

 会津の使者の言葉に近藤は困惑の表情を浮かべたが、それに助け船を出したのは土方であった。

「申し訳ないが、近藤の刀は偽物と言っても銘入りのものと遜色ないし、普段使いには何ら問題ない。だが折角だ、俺がその話を受けよう。」

「おい、歳・・・・・。」

 思わぬ展開に近藤は土方を止めようとするが、土方はそれを聞き入れなかった。

「気にするなって。どちらにしろもう一本長めのものを誂えなけりゃと思っていたところだ。」

 近藤を諭すと、土方は改めて使者に語りかける。

「近藤の代わりにこの話、土方が受ける。それで構わないだろう?」

 それは土方の宣戦布告であった。上手く話を運べなかった使者は露骨に不満げな表情を露わにする。

「・・・・・よほどその偽刀が気に入ったようだな。ま、いいだろう。土方よ、数日中に黒谷まで出向くように。いいな。」

 近藤が駄目ならせめて土方を引きずり込もうと捨て台詞を残し、使者は壬生屯所から去っていった。



「地位になびかぬときたら今度は『刀』と来やがったか・・・・・。」

 使者が帰って暫くの後、苦虫を噛みつぶしたような表情で土方が腕組みをする。その目の前には煎餅とそれを囓っている沖田がいた。

「判っているんなら断れば良かったじゃないですか・・・・・何も無理して話を受けなくても。」

 ばりばりと煎餅に齧り付きながら、沖田は何故土方が話を受けたのか訊ねる。

「・・・・・・十一代目とはいえ相手は『兼定』だぜ。望んでもそう簡単に手に入れられるもんじゃねぇ。」

 珍しく迷いを含んだ口調で土方は口籠もる。

「会津の手に乗るのは癪だが・・・・・本当に二尺八寸くらいの、ちょいと長めの奴が欲しいと思っていたところなんだ。近藤さんを護るっていう事もあったが、それ以上におれが食指を動かされたというのが正直なところさ。ま、普段使いにゃできねぇだろうが。」

 俗に『勤王刀』と言われる二尺八寸前後の長尺の刀が流行っているが、土方も一本そういう刀が欲しいと思っていた。ただ、それは『首切り刀』として持つためであり、普段の差料にするつもりはなかった。

「・・・・・普段使う気はないのに欲しいなんて。立派な道楽ですねぇ。」

「ああ、確かにそうかもしれねぇ。だが、理解はしていても良い刀が手に入るとなると話は別だ。会津絡みじゃなけりゃすぐに飛びつくんだけどなぁ。」

 すでに自らの刀は予備を含めて何本か持っている。必要ないと言えば必要ない刀だが、『兼定』はそう簡単に手に入るような銘の刀ではないだけに迷いが生じる。

「だったら実際に刀工にあってきて話をしてみたらどうだ、トシ。」

 そう言ったのは二人の話を傍で聞いていた近藤であった。

「いくら道楽で手に入れても刀は刀だ。いざというとき使えなくては話にならんだろう。しかも勤王刀となると抜くのだって一苦労だ。何かの折、赤っ恥をかくようなものなら持たない方が良いだろうし、もしかしたら何か良い助言を貰えるかも知れない。」

「・・・・・会津に借りを作るのは気が引けるが。」

「刀くらいで恩を売りつけるほど相手も腐っちゃいないだろう。気に入らなきゃ断れば良いだけだ。」

 近藤の一言に土方は少し気が楽になった。

「そう言えば近藤さん、本物の虎徹を見てきたんだって?」

「ああ。『偽物の虎徹を手に入れたはいいが、本物は見た事がない。』と冗談めかして言ったら見せてくれてな・・・・・だが、俺にはちょっと扱いづらいな。むしろ総司のように突きを主体とする攻撃をする人間に向いているかも知れない。あそこまで反りが浅いとは思わなんだ。」

 近藤のその言葉に、土方は近藤の『虎徹熱』が醒めているのを感じた。

「そんなに反りが浅いのか?」

「あれはむしろ槍に近いかも知れない。そう言った意味では虎徹もやはり実戦を念頭に置いた剣なのだろう。遣い手を選びはするけど。」

「なるほど。遣い手をねぇ・・・・・。」

 土方は考え込んだ。自分は刀にあわせて戦い方を変えてしまうところがあるが、一つぐらい自分本来の戦い方に刀を合わせる事も必要なのかも知れないと改めて思う。

「・・・・・明日にでも会津兼定を訪ねてみるよ。」

 自分の迷いにけりを付けるためにも一度会津兼定に会った方が良いかもしれないと土方は決意し、近藤にそう告げた。



 次の日、土方は十一代目兼定との面会を果たした。和泉守を賜った刀工と聞いていたので、それなりの年令----------少なくとも自分より十や二十年上の人物を想像していたのだが、意外にもその刀工は若かった。土方と同じくらい、否、もしかしたら少し若いかも知れない。

「私と対面する皆さんは大抵驚かれますよ。十一代の弟子の間違いじゃないのかって。」

 大きな二重の瞳が印象的な青年は、土方に対してにっこりと微笑んだ。

「私が作るものは会津好みの質素なものですので、土方様のお気に召すかどうか判らないのですが。」

 そう言って兼定が一本の大刀を差し出す。白木の鞘に収められたそれは兼定が造った大刀であった。土方はそれを白木の鞘から抜き、刀身を確かめる。

「いや、なかなかどうして。良く斬れそうじゃねぇか。」

 それはお世辞ではなく、本心からの言葉であった。土方の望む物より少々長さは足りないが、それさえ満たせばそのまま腰に差しても構わないと思わせるものである。

「もう少し長ぇ刀はできるかい?」

 土方は大刀を鞘に収めながら兼定に訊ねた。

「勤王刀程度の長さでしょうか?」

「ああ。」

 土方の言葉に兼定は大きな目を細めて少し考え込む。

「・・・・・その長さの刀を鞘から引き抜く事はできますか?」

「さあな。一度もやった事はねぇ。」

「う~ん・・・・・・ちょっとお待ちください。」

 青年は奥に引っ込むと、一本の刀を持ってきた。

「戯れに造ったものの上に失敗作なのですが、引き抜きの稽古に使うには問題ないと思います。これが引き抜けないようでは勤王刀をお造りする訳には・・・・・。」

「判った。やってやろうじゃねぇか。」

 土方は大見得を切って早速その刀を鞘から引き抜こうとしたが、案の定途中で引き抜けなくなり、にっちもさっちもいかなくなる。焦る土方に対し、兼定はくすり、と失笑した。

「最初は誰でもそんなものですよ。そもそもこの長さは、立ったまま罪人の首を斬るのに丁度良い長さなんです。果たし合いには長すぎるんですよ、勤王刀は。」

 兼定は鞘の途中に引っかかってしまった刀を鞘ごと受け取ると、一旦刀身を鞘に収め直した。

「一度だけやり方をお見せします。しかし、これでできなければ勤王刀は諦めて短めの刀になさった方が無難ですよ。」

 穏やかながらきっぱりとした口調で兼定は言い放つと、そのままするり、と刀を鞘から引き抜いた。

(なるほど・・・・・・問題は鞘引きのやり方なんだな。あそこまで左手を引かなきゃ確かにこいつは抜けねぇや。)

 普通なら刀を持つ手の方に集中してしまいがちだが、土方は青年の左手の動きも見逃していなかった。

「・・・・・ちょっと貸してくれ。」

 忘れないうちにと土方は兼定から再び刀を受け取ると、今度は先ほどよりはかなり上手く引き抜く。だが残念ながら切っ先のみが少し引っかかってしまった。

「さすが、新選組の副長・・・・・器用なお方なんですね。」

 たった一度、鞘引きを見ただけで自分のものにする土方の器用さに兼定は感心する。

「そうでもねぇよ。・・・・それよりも二尺八寸を造ってくれる気はあるのかい?」

 手放しに兼定に褒められ照れくさいのか、ぶっきらぼうに言い放ちそっぽを向くが、まんざらでもないらしい。ある意味子供のような土方の仕草に兼定は笑いを押し殺す。

「承知しました。土方様の勤王刀、造らせていただきましょう。」

 なかなか兼定の方に向き直ろうとしない土方の横顔を見つめながら、兼定は約束した。



 土方の刀ができたのは十一月十日のことであった。

「思ったより早かったな。無理をしたんじゃねぇか?」

 兼定から直接出来上がった刀を受け取った土方はねぎらいの言葉を掛ける。

「一橋公の下阪に新選組が参加すると小耳に挟みましたので・・・・・。」

 刀工とは思えぬ愛想の良さで兼定は答えた。

「貴方様がどなたに忠誠を捧げているかは存じませんが・・・・・少しでも貴方様の『誠』を貫くお役に立てればこれ以上の幸いはございません。」

「また大仰な。」

 兼定の言葉に土方は苦笑いを浮かべる。だが、兼定は真剣だった。

「いいえ。これは単なる私の勘ですが・・・・・貴方様は私の刀の銘を有名にしてくださるような気がするのです。あくまでも勘ですけど。」

「・・・・・一年しないうちにその『勘』とやらを確信に変えてやるよ。」

 片頬に笑みを浮かべながら土方は刀を鞘に収めた。



 土方歳三----------この男の大風呂敷は大風呂敷のまま終わる事が極めて少ない。本人はまったく自覚していないが、無意識のうちに言葉にした事を実行してしまうのである。若き兼定に対して言い放った言葉も本人は冗談のつもりだったのだが、およそ半年後その言葉が本当になるとは土方本人も想像だにしなかった。



UP DATE 2010.12.31


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2010年最後の更新です・・・・というかあと10分で2011年ですし。そして何とかぎりぎりUPすることが出来ました。正直今回ばかりはオトすかと・・・・・二件分のおせち&お雑煮作りをやりながら書くもんじゃありません。来年はもう少し計画性をもって更新をしたいと思います。

近藤の虎徹に引き続き今回は土方の兼定の話にさせて戴きました。土方の差料は二代目兼定って話もありますけど、拙宅では十一代目会津兼定に・・・・・同じ時代の人ですし、二尺八寸の長尺の刀となるとやっぱり幕末の刀工がいいかなぁ、と。この時期、二尺八寸前後の勤王刀が流行していたので土方もその流行に乗ったんでしょうけど、あれって相当使いにくいらしいんですよね。結局すぐに二尺二寸ほどの長さが主流になってしまったそうです。そこのところも追々・・・・・(この話の設定では沖田はこの二尺二寸の刀を愛用しております。現場で働いておりますしねぇ・爆)

今年もお付き合いありがとうございましたv来年も『夏虫』をよろしくお願いいたしますm(_ _)m
次回更新は1/14、松本捨助の上洛あたりになります。
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