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「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
初顔合わせ

vague~いざ本丸・其の貳

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「奥様、起きてくださいませ。駿次郎さんがお妾さんと一緒にご挨拶に参りましたよ」

 おクマが寝ている作間の母親に声をかける。その声の大きさと『妾』という身も蓋もない物言いに作間は恥ずかしさを覚え俯いてしまう。
 こんな時こそ信乃に助けを求めたいのだが『身分の関係がありますので』と部屋には入らず廊下で頭を下げたままだ。確かに遊女上がりの町人が武家の女性と初めて面会するという状況ではそれが正しいのだが、作間の心情としては勘弁して欲しい。

(まだ敵対する相手と真剣で向き合っていたほうが気楽だな)

 孤立無援、とはまさにこのことを言うのだろう。剣術であれば文字通り血の吐くほどの稽古を積んでいて自信があるが、母親やその援軍に回る下女のおクマに抗うすべは未だ見つけられていない。更にこの状況で信乃がどう転ぶかも定かではない――――――というか口さえ聞くことができないと思っていたほうが良いだろう。

(挨拶だけは仕方がない。以後できるだけ信乃をこっちに近づけないようにしておけば)

 そう簡単に行かないことは理解しているが、そう願わずにはいられない空気が漂っている。作間は額に滲む脂汗を感じつつ母親を見守っていた。

「・・・・・・ん?」

 おクマの声にようやく母親が目を開けた。最近ぼんやりしている事が多いと言っていたが確かにそうかもしれない――――――と一瞬思ってしまったが、それが間違いだと即座に思い知らされた。

「駿次郎かえ?昨日も一昨日も挨拶に来なかったじゃないか!」

 ほぼ寝たきりの年寄りとは思えぬ大声で作間を叱り飛ばす。その声に作間は耳を塞ぎそうになるのを堪えるだけで精一杯だ。

「は、母上。さき一昨日に『迎えに行かねばならぬ者がいるから』と挨拶はお断りさせていただきましたが」

「そんなこと、聞いちゃいないよ!」

 こうなると水掛け論である。最近物忘れがひどくなっていることもあり、自分の意に沿わぬこと、そして自分の都合の悪いことは全て忘れてしまう。作間は諦め口をつぐんでしまった。

「で、おクマ。妾がどうのこうのというのは?」

「はい。ようやく駿次郎様がお妾を囲うことになったそうでして・・・・・・お信乃さん、奥方様にご挨拶を」

 すると予めおクマと打ち合わせをしたのか、信乃は廊下に手をついたまま口上を述べ始めた。

「お初にお目もじ仕ります。この度、作間様にお使えすることになりました信乃と申します。至らぬものですが以後お見知りおきを」

 顔をあげる事無く口上を告げると、更に額を床に擦り付けるように頭を垂れた。まるで奥向きのような挨拶に作間の母は一瞬呆けるが、その直後おクマに訴える。

「あの者は何故顔を上げぬ?」

 するとおクマは『奥様が旗本の妻だからでございます』と、年寄りの耳にきっちり届く大声で理由を告げた。

「奥方様のお許しが無ければ無理でございますよ。何せ相手はごく普通の町人、旗本の奥方を直接見ることは本来許されませぬ。お体の調子もありますが、ここは旗本の奥方としてのご自覚を。それと」

 更におクマは続ける。

「あの者に何かを語りかける際は私めを通じてになさってくださいませ。武家と町人、言葉の行き違いがあるやもしれませぬから。ご家族内のような気楽な会話は妾には許されませぬよ」

 それを聞いた瞬間、作間はめまいを覚えた。

(この二人は――――――ここに来る短い間にこれだけのことを打ち合わせていたのか)

 『身分』を理由に直接話さない――――――間違いなく信乃の知恵だろう。だが、この事によって互いに冷静になれる『間』が得られるし、何より作間の母親の矜持が保たれる。案の上『旗本の妻の自覚』をおクマに促された作間の母は満更でもない表情を浮かべていた。

「そうかえ?しかし息子の妾の顔も知らぬというのは・・・・・・その者、面をあげよ」

 ついつい直接信乃に語りかけてしまう作間の母だったが、それをおクマが改めて窘める。

「奥方様、御命は私めを通じてなさってくださいませ。お信乃、奥方様からの命である。面をあげよ」

 その促しにようやく信乃は顔を上げた。火傷の痕が痛々しい、しかし整った顔立ちに作間の母親は一瞬息を呑む。

「何じゃ、あの火傷は・・・・・・あんな酷い火傷を顔におった者を我が息子は妾にするのか?」

 流石に大声では言いづらかったらしく、作間の母は小声でおクマに訴える。するとクマは事もあろうに信乃に直接話しかけたのである。

「奥方様からの御命じゃ。その火傷が何故できたか、そして何故駿次郎殿の妾になる事になったのか、簡単に説明せよ」

 どうやらこの辺までは想定の内だったらしい。おクマの問いかけも妙に要領が良すぎる。郭では全く知ることができなかった『花魁・白萩』の実力の一端を今まさに目の当たりにしているのだ――――――作間は内心舌を巻く。

(ならばお手並み拝見といこうじゃないか。八王子の田舎娘ではない、岩亀楼の御職・白萩の実力を)

ここまで来たら作間も腹をくくるしか無い。目の前に母とクマを、そして背後に信乃を感じつつ作間は三人のやり取りを楽しみ始めた。



 おクマに促された信乃は、視線を下げたまま頭を少し上げ火傷ができた理由を語り始めた。

「では失礼致します。この火傷は一ヶ月前、横浜の大火で受けたものでございます。本来であれば炎に巻き込まれて死んでいてもおかしくなかったのですが・・・・・・その場にいらした作間様に助けていただいて」

 ほんの少しの間と、背後から感じる気配に作間が信乃の方を振り返ると、何かを訴えている視線を投げかけている信乃が居た。

「作間様。『お上の御用』の件はどの辺まで・・・・・・」

「あ、ああ。あの事か・・・・・・母上、私が垣崎に横浜に呼び出されていたのを覚えているでしょうか?その際の御用で出会いまして」

 そこまで言って作間は言葉を濁す。いわゆる『お上の御用』は切り札だ。これを出されてしまったらそれ以上の詮索は難しい。少し悔しげな表情を浮かべる作間の母だったが、すかさず信乃は言葉を続ける。

「詳細はあまりお話できませぬが、作間様には命を助けていただいただけでなく、身寄りのない私を引き取っていただきました。その御恩は果たしたく存じます」

 そう言い切ると信乃は再び頭を下げた。その仕草はどこまでも優美である。その一方、作間の母は『緒戦』で攻めあぐねてしまったためかどことなく不満げだ。

「・・・・・・変な馬糞女郎に捕まるよりはましかね」

 火傷の痕はあるものの、それ以外の欠点は見つからない。むしろ目上の者に直接語りかけないという礼儀や仕草は一流のものだ。どこかできちんとした教育を受けているものだけが持つ品の良さ、それだけは認めざるをえない。

「妾の件は許しましょう。しかし最低限の礼節は――――――そうだねぇ、晴れている日くらいは二人揃って仏壇を拝みにくること。いいね?」

 流石に雨の日は近所と言っても来るのは厄介だ。ならばせめて晴れている日くらいは顔を出せ――――――それがこの日の作間の母の精一杯の虚勢だった。

「お信乃、返事を」

 おクマの促しに信乃はゆるゆると返事を返す。

「承知仕りました。明日から参らせていただきます」

 返事一つさえも絶対におクマを通して――――――徹底した信乃のやり方に、作間は自分と同じ『頑固さ』の匂いを感じずには居られなかった。



UP DATE 2017.12.23

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まずは作間の母vs信乃のラウンド1は、信乃のやや優勢と言ったところでしょうか( ̄ー ̄)ニヤリ
『身分の差』を利用し、おクマを間に挟んで挨拶の会話をするという方法は作間の母には効果があったようです(≧∇≦)/
厳しいとは言え男所帯の作間家、息子に対しても嫁に対しても歯に衣着せぬ女性だと信乃は判断したのでしょう。更に初対面ということで様子見もしたかったに違いありません。だからこそ早々におクマを味方につけ、間に入って会話を取り持ってもらうという方法にでたようです(๑•̀ㅂ•́)و✧
しかし作間の母がこのまだるっこしさにどれほど耐えられるのか・・・そこで耐えられなくなった時にラウンド2が始まります( ̄ー ̄)ニヤリ果たして目一杯やりあうのか、それとも狐と狸の化かし合いの様相を呈するのか・・・気難しい旗本の妻vs岩亀楼の元・御職のやりあい、後もう少しだけ続きます(*^_^*)

そして誠に申し訳ございませんが、来週12/30は年末の多忙のため『vague』はお休み、次回は1/6の更新となりますm(_ _)m
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