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くろかみ語り~其の肆・貝髷

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それは他の役職の仕事納めの日のことだった。いつもより少しばかり早く仕事を終えた江戸城・御膳所台所人の前沢主税は自宅へ帰るなり思わぬものを目撃した。

「旦那様、お帰りなさいませ」

 夫の帰宅を出迎えた妻の由紀の髪を見るなり、主税は一瞬言葉を失う。

「由紀・・・・・・お前、髪を洗ったのか?」

 普段は夫にさえ髪の毛一筋の乱れさえ見せない由紀が、洗い髪で貝髷を結っていたのだ。町人であればともかく、武家の妻が夫に見せる姿では無い。驚く主税を前に、由紀が恨めしげに主税を睨みつける。

「旦那様・・・・・・本日は忘年の宴では無かったのですか?」

 その頬は茹で蛸並みに真っ赤に染まっている。

「ああ、本当は今日だったんだが正月用の食材の痛みが今年は多くてそれどころじゃなくなってしまって・・・・・・もしかして俺の帰りが遅いからと思って髪を洗ったのか?」

 からかい半分に主税が言うと、由紀は恥ずかしさのあまり俯いてしまった。それにより見えてしまう首筋まで真っ赤だ。

「と、当然でございます!こんなみっともない格好、旦那様に晒すなんて・・・・・・お恥ずかしい」

 結婚してから半年、確かに由紀は主税に対し乱れた姿を見せたことがない。それは厳しい教育の賜物であるが、少々物足りなさも感じていたところだ。そこへ来て洗い髪の貝髷――――――初めて見る妻の『乱れ姿』に主税は昂るものを感じる。

「そうか?男としてはそれくらいの隙があってもいいと思うが」

 ニヤニヤ笑いながら主税は由紀の頬に手を触れ、耳許に唇を近づけた。

「これも神仏の思し召しだな。この髪ならば閨で崩れても問題ないだろう」

「旦那様??」

 夫は一体何を言い出すのか――――――訳が解らず由紀は目を白黒させる。すると主税は更に生々しい言葉を由紀の耳許で紡ぎ始めた。

「『早く孫の顔が見たい』と親たちにせっつかれるのも飽きただろう?お前が嫁いできてからはや半年過ぎ、そろそろ頃合いだ。俺は明日から松の内が終わるまでこちらに帰ってこれないし・・・・・・髪は明日結えば良いだろう?」

 耳許で囁く主税の言葉はうぶな新妻には少々刺激が強すぎた。あまりの恥ずかしさに由紀は両手で顔を隠し、主税に背を向けてしまったが、その背から主税は由紀を抱きしめる。

「俺の前にこんな姿で現れたのがいけないんだからな。今夜は覚悟をしておけ」

 その腕には何時になく優しく、しかし強い力が込められていた。



UP DATE 2017.12.27


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今回、本当はもう少し色っぽい話にしたかったのですが・・・見事玉砕です/(^o^)\
今回取り上げた貝髷ですが、『洗い髪を取り敢えずだらしなくない程度にまとめた』髪型でもあったようです。なので普段鬢付け油できっちりまとめている女性がこの髪型をしていると色っぽいはずなのですが・・・色気の欠片もないwww
やはり色っぽさって難しいなぁ、と痛感しております(>_<)
なお今回登場した夫婦・御膳所台所人の前沢主税とその妻・由紀の短編~中編くらいは書きたいなぁと思っているキャラです。というか御膳所役人が作って売り出すお弁当の話を書きたいのですが、まだまだ調べ物も多くありますのでねぇ(^_^;)
一歩一歩着実に、歩みは遅いですけどこのネタで話が書けるよう頑張ります♪

くろかみ語りはあと1~2話、来週はお休みさせていただきますが10日に新作をUPする予定です(*^_^*)
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