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「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
初顔合わせ

vague~いざ本丸・其の参

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 規則的な箒の音にその家の女主人はゆるゆると目を開けた。晴れた日は庭先から、雨の日は廊下からその音は聞こえてくる。ここ最近――――――否、息子が妾を連れてきた日の翌日から年が明け、およそ一ヶ月ほどその音は続いている。

「もう、明六ツ半を過ぎたのかえ」

 この音が聞こえてくるのは決まって明六ツ半、朝餉の少し前である。どうやら息子が連れてきた妾は、おクマの手伝いをして朝餉の準備をしてから庭や廊下の掃除をしているらしい。

「ふん。そもそもこちらに来ているのだから挨拶くらい先にすれば良いものを」

 人恋しさからなのか、それとも自己顕示欲からなのか信乃が掃除の前に挨拶に来ないことに対して文句を垂れる。その時である。

「奥様、お早うございます。朝餉をお持ち致しました」

 ふうわりと漂う美味しそうな匂いと共におクマが室内に入ってきた。粥と煮物、そして香の物という簡単なものだが、温かい朝餉は一番食欲をそそる。
 作間の母はおクマに手伝ってもらって上体を起こすと、早速煮物に箸をつけた。そして口に放り込んだ里芋を呑み込むと、怪訝そうにおクマに尋ねる。

「おクマ、ここ最近煮物が柔らかくないかえ?」

 するとおクマは我が意を得たりとにこやかにその理由を語り始めた。

「ええ、お信乃さんの下ごしらえのおかげです。遊郭に出入りしている仕出し屋のやり方らしいのですが、奥様より歯の悪いお年寄りでも食べることができる煮物だとか・・・・・・もしお気に召さなければ元に戻しますが」

「いいや、これでいいよ」

 どうやら無理なく呑み込むことができるのが嬉しかったらしい。ほぼ寝たきりの老人とは思えぬ食欲で煮物を平らげると、今度は少し冷めかけた粥に口をつけた。しかし二口、三口粥をすすると再びおクマに語りかける。食事中の嗜みとしては叱咤されても致し方ないものだが、集中力が無くなってしまった老人にそれを求めるのは酷だろう。おクマもその点は目を瞑り女主人の話を聞く。

「・・・・・・しかし、駿次郎の嫁だが」

「お妾ですよ、奥様」

「どちらでも同じさ。何故こっちに来ているのに挨拶に来ない!」

 するとおクマは大仰な溜息を吐きつつ、指摘した。

「当然でございましょう。そんなぼさぼさの、起き抜けの髪で――――――朝のご挨拶初日にお信乃さんが恥じ入ってしまったの、お忘れになったんですか?」

 おクマのその指摘で作間の母は思い出す。朝の挨拶初日、起き抜けの乱れた姿で挨拶を受け、信乃を困惑わさせたことを――――――ある意味がさつな息子たちは気にしなかった事だったが、同じ『女性』として、そして下の身分の者としてどう対応して良いのか相当困ったらしく、直後におクマに相談したらしい。それ以後最低でも髪の毛を着付けだけは整えて挨拶を受けるようになったのだが、時折それを忘れてしまう。

「そう、だったっけか?」

「そうでございます。旗本の妻たるもの、身だしなみを整えてから下の者に顔を出してくださいませ」

「いちいち面倒くさいものだねぇ」

「いいえ、当然でございます!私めも奥様が病に倒れてから看病に明け暮れすっかり忘れておりましたが、見目を整えるのは武家の妻の嗜み。お腹が落ち着いたらご挨拶の準備をいたしましょう」

 そう言いながらおクマは食べ終えた膳を下げ、今度は髪結い道具を運び込んできた。



 作間の母が髪の毛を整え終えたちょうどその時、朝五ツの鐘が鳴り、早朝稽古を終えた作間が挨拶にやってきた。

「母上、お早うございます」

 その背後の廊下には信乃が控えている。どんなに誘い出しても絶対に廊下から上がってこない。
 どこまでも完璧なのは認めざるをえないが、あまりに完璧すぎるのも鼻につくものである。それは彼女自身の劣等感からくるものだということは自覚しているが、理性ではどうにもならない感情もあるのだ。

(ふん、雌狐が――――――そのうち化けの皮を剥いでやるよ!)

 挨拶を受けつつ、作間の母は信乃を睨み続けていた。



 朝の勤めを終えた作間と信乃は自宅に戻ったあと遅い朝餉を取り始めた。本当であれば夫婦であっても別々に食事を取るべきところなのだが、道場を経営するようになってから煮炊きの薪の価格も気にするようになった作間が『まとめて食べたほうが合理的だから』と一緒に食事をしている。

「・・・・・・どうやら母上は未だ『攻め手』を見つけられずにいるようだな」

 その言葉はどことなく愉快そうな色を含んでいる。

「まぁ、お人が悪い。自分の母上様にそのような」

「いや、あの人は誰彼と攻撃を仕掛ける人だから。それは息子だって変わりない――――――流石、岩亀楼の御職を張っただけのおなごだ」

「お褒めいただき光栄でございます」

 信乃が行っていることは決して難しいことではない。朝、少しだけ煮炊きの包丁を手伝い、おクマが朝餉の仕上げをしている間に庭を掃く。そして作間が信乃を迎えがてら母親に挨拶する際廊下で控えている――――――流石に慣れるまでは大変だが、習慣になってしまえばそれほど苦ではない。むしろ中途半端に顔を合わせるほうがお互いのあらを見つけ出しやすいだろう。
 作間の義姉の失敗を把握し、それに対応した信乃の作戦勝ちだ。特に生活の変化を嫌がる年寄りに寄り添うが如く、作間の母親が直接見えない所、直接声がかけられない外堀から埋めていくのは見事というほかない。

「母上はお前に直接声をかけたくてウズウズしているようだがな」

 喧嘩を吹っかけようにも直接声をかけることが出来なければ不可能だ。自分の母の性格を嫌というほど熟知している作間は、その事を信乃に告げるが、当の本人は眉一つ動かすこと無くしれっ、と言い放つ。

「それは諦めていただかなければ――――――桜の時期くらいには、あちらも根負けなさるのではないかと思いますよ」

 その笑顔に作間は頼もしさと女の恐ろしさを感じずにはいられなかった。




UP DATE 2018.1.6

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本当はもう少し派手な女同士のバトルに持ち込めれば面白かったのでしょうが、予想以上に信乃のガードが固くババァは攻め手を欠いておりますwww
そもそも信乃は欲望渦巻く女の園で働いていたわけです。更に客は一癖も二癖もある、ハマで商売を成功させているお大尽ばかり・・・多少性格が拗れたババァ程度、簡単に宥めることができるわけですよ(^_^;)今回はその布石、と言ったところでしょうか。外堀から徐々に埋めつつ、ババァの生活に入り込み、その後の行動を起こしやすくしようとしているようです/(^o^)\
息子である作間としては面倒くさいことこの上ないでしょうが、少なくとも兄夫婦のような厄介事にはならないと思うので『仕方ない』と諦めているフシが・・・(^_^;)ただ、この状況がいつまでも続くとは思えません(๑•̀ㅂ•́)و✧時代の変化、そしてこの家族を取り巻く環境が変わった時にこの嫁姑?の関係も変わっていくことでしょう。それが良い方向なのか悪い方向なのかは作者でもわからないものがあるのですが・・・。

ささやかな幕間の話は今回で一応区切りとさせていただき、次回からは海軍所&陸軍所の話に突入いたします。体調次第なのですが、できれば1/13、遅くとも1/20に新作を更新する予定・・・まずは調べ物を久しぶりにガッツリヤラねばです(^_^;)
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