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「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
仏蘭西伝習と駒場野の一揆

vague~やる気がありすぎる仏蘭西人

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 それは桜の花が咲き誇る三月半ばの夕方の事だった。

「駿次郎先輩、お久しぶりです!」

 丁度少年達を対象とした夕方の稽古が終わるのと同時に、垣崎伊織が作間道場に顔を出したのである。その懐かしい顔に思わず笑みをこぼした作間だったが、次の瞬間身構える。

「新年の挨拶以来だな・・・・・・何の用だ、伊織?」

 つい身構えてしまうのは去年の大捕物の影響だろうか。しかし垣崎は『安心してください』と笑みを浮かべた。

「今日は厄介な『頼み事』なんざ持ってきちゃいませんよ。そもそも同僚の代理で江戸に来たんですから。あ、でも・・・・・・」

 不意に垣崎がきょろきょろと周囲を見回した後、声を落とす。

「仏蘭西伝習絡みでちょいと聞いてもらいたい愚痴はありますかね」

 その含んだような物言いに、作間は違和感を感じる。どこが、というはっきりしたことは言えないが『何かを隠している』ことだけは確かだ。

「おい、伊織。『機密』だったら仕方ねぇが――――――何か隠し事があるだろう?」

「・・・・・・機密、ってほどのもんじゃありませんけどね。少々面倒な事にはなりそうです」

 そう言うと、垣崎は作間の前に座り込み、重々しく口を開いた。




「駿次郎先輩は、横浜での伝習事情というのは知ってますか?」

 すると作間は自分の記憶を辿るように虚空を睨みつつ、その問いかけに答えた。

「う~ん。確か去年の初め頃から英吉利軍ではなく、仏蘭西軍から伝習を受けることになった、というくらいしか。噂によると仏蘭西贔屓の勘定奉行殿が無役だった頃に暗躍した、との話もあるが」

「それだけ知ってりゃ充分ですよ。神奈川奉行所に勤めている俺だって、担当部署が違えばそんなもんですから――――――むしろ知りすぎれば口を塞がれます」

 苦笑しながら垣崎は更に言葉を続ける。

「で、その仏蘭西伝習なんですが、今年に入って本国から妙にやる気のある『講師』が来ちまいまして・・・・・・シャノアン、って野郎なんですけどね」

「別に良いじゃねぇか。いい加減な仕事をされるよりは」

 幕府内では如何に手を抜いて仕事をするかに血道を上げている者も少なくない。それに比べて外国から来たばかりでありながら伝習をより良いものにしようとしているのだから願ったり叶ったりではないか、と作間は思う。だが垣崎の考えは少々違うものだった。

「市井の道場主ならそれでいいでしょうけど。こっちの場合、熱心さ故に迂闊に口を挟まれると無駄な仕事が増えるんですよ」

 どうやら『無駄な仕事』を押し付けられてしまったらしい垣崎は、肩をすくめつつ作間に訴えた。

「今回も三十六条にもなる建白書を出しやがりましてね。やれ江戸から出向している野郎どもは使えねぇだとか、倉庫で眠っている小銃四万丁以上を全部整備、点検して使えうようにしろだとか。そして特に厄介なのが」

 垣崎は『はぁ~っ』と特大の溜息を吐きつつ頭を抱えた。

「伝習所を江戸に移転しろ、って言い出しやがったんです。こいつは文面にはしてませんけどね」

「何故だ?」

「見つかったら反対派に嗅ぎつけられて証拠にされるからに決まっているじゃないですか」

 垣崎は面白くも無さそうに吐き捨てる。

「そもそも江戸に砲撃伝習ができるほど広い場所が無いでしょう。それを作るためにどこの大名屋敷を潰せば良いんですか?それが無理ならどこかの畑を潰すことになりますけど、そうなったらなったで農民が黙っちゃいないでしょう。それと」

「それと?」

「外国人達の住まいです。もし江戸で伝習を始めるようになったら横浜から毎日通ってくるわけにもいかない――――――江戸にも外国人居留地を作ることになるでしょう。それを江戸っ子らが許すかどうか。だけど、『上』はこのとんでもねぇ進言に乗り気なんですよねぇ」

 江戸に外国人居留地を作る――――――流石に作間もこの話には眉を顰めざるを得ない。

「はぁ?どういう風の吹き回しだ?そもそもそれが嫌で申し出があった神奈川じゃなく横浜に居留地を作ったっていうのに」

 十年前、日米修好通商条約を始めとする『安政の五カ国条約』の締結と共に作られた居留地、その際のごたごたは練兵館の仲間や目付の兄から作間も聞き及んでいる。それなのに今度はその外国人達を江戸に置こうとは――――――呆れて開いた口が塞がらない。

「奴らに吹き込まれているんです。江戸を守りたいなら強い兵を江戸に置いておくべきだと。その為に仏蘭西は労力を惜しまないとも」

「なるほど・・・・・・千代田詰の役人の心をくすぐるな」

 既に英吉利軍によって伝習を受け、鍛え上げられた神奈川の足軽らは幕府直属となり長州討伐にも参戦している。しかしそれだけではまだまだ足りないと考えているのだろう。より強大な歩兵隊、銃兵隊を作らんと幕府はシャノアンの提言を受け入れる可能性が極めて高い。

「でしょう?だから厄介なんですよ――――――ま、うまくどこかの大名が屋敷を譲り渡してくれりゃあこの件の半分は何とか成るんですけどね」

「外国人居留地は仕方ない。これも時代の流れだ――――――その内居留地を飛び出して江戸の街中を外国人がふらつくようになるぞ」

 建前上は攘夷だ何だと言っているが、諸外国の力を借りなぇれば武器も満足に手に入れることができないし、使うことさえままならない。そんなことで力を借りている内にいつの間にか馴染んでいるのだろう。そんな作間の指摘に垣崎も頷く。

「でしょうね。それでも植民地にだけはならねぇようにしないと」

「だな。清みたいに欧米列強によってたかって植民地にされちまったら元も子もない」

 そんな会話をひとしきり終えると、垣崎はちゃっかり夕餉を取ってから作間道場を後にした。しかし二人はこの時、この件が更に大きな事件を引き起こすとは微塵も思っていなかった。




UP DATE 2018.3.3

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お待たせしました、およそ2ヶ月ぶりの新作です(^_^;)しかも短い・・・薬の副作用と付き合いながらだとこれが限度で( ;∀;)リハビリを兼ねつつ、少しずつ長い文章が書けるよう頑張ります(๑•̀ㅂ•́)و✧

今回の舞台&時期は慶応3年の3月、徳川慶喜がリーダーとなって組織改革に勤しんでいた頃です。全体的な軍事改革も行われていたのですが、そんな中でのフランス軍・シャノアンの進言・・・そりゃあ願ったり叶ったりですよね(^_^;)実際進言を全部受け入れる体力は幕府には残っていなかったのですが、ある程度は受け入れたようです。
そんな中、練兵所を江戸に・・・という話も持ち上がり、動き始めるようですが、サブタイトルのような事件が起こったようでして(´・ω・`)
詳細は本編でゆっくり書かせていただきますが駒場野にてかなり激しい一揆が起こります。そりゃそうですよね、『お国のため』と言いつつ、生活の糧である土地が百姓から奪われるとか許されるはずもない(-_-;)斬首でも餓死でも死ぬのなら、という決死の覚悟の一揆だったのでしょう。その辺の悲壮感が少しでも書ければ良いのですが・・・いつも以上の短め更新になりますが、お付き合いのほどよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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