FC2ブログ

「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
仏蘭西伝習と駒場野の一揆

vague~やる気がありすぎる仏蘭西人がもたらした災難

 ←烏のがらくた箱~その四百十七・パラリンピックも楽しみ満載((o(´∀`)o))ワクワク →ボカロ小説・日出ずる国の暗黒郷(ディストピア)27
 シャノアンの進言を受けて幕府は江戸に練兵場を作る事となった。否、ならざるを得なくなったと言ったほうが正しいかも知れない。その進言を聞き流すには、あまりにも幕府を取り巻く状況が切迫しているからだ。
 練兵場を作るのはほぼ決定している。だが問題は『どこに作るか』ということだった。外国奉行から老中へと持ち上がってきた厄介な話に、老中達は気難しげに眉をひそめ、首を突き合わせる。

「砲術の訓練が主たるものになるのだから、練兵場ある程度の広さがないといけないだろう。少なくとも大名屋敷ひとつ分の広さは必要かと思うが」

 進行役を任された松平康英が口を開く。外国奉行や神奈川奉行などを歴任し、今現在は海軍事務取扱兼任を命じられているだけあってそれ相応に事情には詳しい。そんな 松平康英に対し、他の老中達は『大名屋敷を練兵場に』という意見にはやや消極的た。

「確かに砲術訓練ができる練兵場は必要かと思う。かと言ってどこぞの大名の上屋敷を取り上げるわけにも行かないだろう」

 井上正直が反対意見を述べれば、その意見に松平乗謨も賛同する。

「そもそも屋敷を取り壊す手間暇を考えたら馬場のような、既に更地の場所のほうが都合が良いのではないか?仏蘭西だって出来るだけ早く練兵場を江戸に、と言っているのだから」

 すると海軍総裁を兼ねている稲葉正巳が一つの提案をする。

「更地だったら農地はどうだ?城下から少し離れているし町人たちからの苦情は少ないと思われるが」

 以前は陸軍も任されていた稲葉である。訓練そのものに関しては詳しいだけに、『更地が必要ならば』と、とんでもない提案をした。しかしその意見に反対するものは誰もおらず、むしろ歓迎の空気が漂う。確かに大名家を説得するより、更地をそのまま練兵場にする方が遥かに楽だからだ。

「整備も楽そうだし、大名らにも恨みつらみを云われそうもない――――――だが、場所は?そんな場所は思い浮かばないのだが」

 松平乗謨の疑問に、 稲葉正巳が一つの提案をする。

「駒場野はどうだ?街道も近いし、西の護りも固められる――――――薩摩にも睨みが効くしな」

 声を落としたその声に、全員が頷いた。駒場野であれば薩摩の上屋敷及び下屋敷にも近いし、一気に攻め込める。横浜の外国人駐屯軍との連携も西側にある方が何かと都合が良いであろう。更に一部仏蘭西人が指導のために江戸に住むことになっても西外れの郊外であれば影響は少なくて済むだろう――――――あらゆる面で都合が良い。

「となると、あとは地主との交渉だな。それは代官に任せよう」

 老中の仕事はここまで。あとは下の者に任せればいい――――――老中会議はそこで終わった。



 老中達にとっては終わりにした練兵場問題――――――だが、本当の問題はここから始まったのである。



 翌日、高札が駒場野に上げられ、代官を通じて庄屋、名主、そして地主らにもお達しが届けられた。勿論地主らを始め、代々彼らの下で働いている小作達も怒り心頭である。

「先祖代々の畑を取り上げられて、どうやって生きてゆけと――――――お上は俺たちに死ねというのか!」

 地主の一人が声を荒らげると、皆も同調しその場は騒然となる。むしろ若い小作達の方がこれからの生活がかかっているだけに、その怒りは激しい。

「しかも畑を潰してその後には練兵場を作るというではないか。戦が・・・・・・戦が江戸でも起こるのか?冗談じゃねぇ!!」

「こうなったら一揆だ!一揆を起こして練兵場を作らせないようにするしかねぇ!」

 誰かの叫びがどんどん大きくなって収集がつかなくなる。だが、実際自分たちに残された方法はそれしか無いのだ。農地を取られて餓死するか、戦火に巻き込まれて殺されるか、一揆を起こし処刑されるか――――――。

「一揆なら・・・・・・首謀者の死罪だけで済むよな、庄屋さんよ」

 一番年かさの地主が覚悟を決めたように呻く。

「おい、甚太郎さん!まさか、あんた・・・・・・」

 つい数年前、代替わりしたばかりの若い庄屋が驚きに目を見開く。そんな若い庄屋をじっと見つめつつ、甚太郎は低い声で決意を述べた。

「ああ、やるしかねぇだろう――――――考えうる中で一番被害が少ねぇ。安心しろ。俺が首謀者役を引き受けてやる」

 その声は微かに震えていたが、先祖代々大切に伝えられてきた田畑を守りたいという覚悟が滲んでいる。若い庄屋としてはできれば甚太郎を止めたいが、他に方法も思い浮かばない。

「勿論一揆の前に陳情もするさ。だが、高札まで出ちまったし、外国人絡みとなるとまず覆ることはないだろう」

 甚太郎の言葉はただ事実を述べただけ――――――一揆は避けることができないのだという、諦観の空気が漂った。



 一揆の計画は勿論秘密裏に行われる。お上に計画が嗅ぎつけられ、実行に移す前に潰されては元も子もないからだ。
 代官を通じて駒場野練兵場の計画を白紙に戻してくれることを陳情しつつ、駒場野近隣の村々共同の一揆の計画を進めていたが、慎重に事を運んでも時としてぽろりと漏れることもある。そこが幕府関係者であればひとたまりもなく一揆の計画は潰されるが、そうでないところもままあったりする。

「おい、久五郎。元気がないな。どうしたんだ、お前らしくもない」

 稽古に来ていた久五郎に作間が声を掛けた。百姓の倅ながらいつも一、二を争う元気さで竹刀や木刀を打ち込んでくる久五郎が妙に落ち込んでいるのだ。らしくない弟子の様子に作間も心配し、体調を気遣う。

「いえ、それほどでも」

 久五郎は作間の問いかけに大丈夫だと笑みを見せるが、その落ち込みは明らかだ。

「そうか。だが無理はするなよ。相談に乗れることは乗ってやるから」

 穏やかな作間の声に、覚悟を決めたのか久五郎はきょろきょろと周囲を見回しながら口を開いた。

「・・・・・・作間先生。稽古が終わったら話を聞いていただけますでしょうか」

 その真剣な眼差しには、相当な思いが込められている。きっと深刻な悩みがあるに違いない――――――それを感じた作間も、真剣な表情で深く頷いた。




UP DATE 2018.3.10

Back   Next



にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


こちらは画像表示型ランキングです。
押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)





長州討伐に失敗し、家茂も亡くなり慶喜に代替わりしたこの時期、仏蘭西人・シャノアンによって提言された江戸の練兵場はやはり必要なものでした。しかしその場所をどうするか・・・それが一番の問題でして(^_^;)
大名屋敷を潰すとなると、その交渉や保障、その他諸々面倒くさい事がもれなくついてきますし、屋敷を潰して更地にしなければなりません。だったら畑をそのまま練兵場にしてしまおう―――代々の武士である老中たちならばそう考えるのも当然だったかも知れません。しかし畑を作るのは大名屋敷を作るよりも大変なのですよ(´・ω・`)鉄腕DASHを見ている方ならばおわかりになると思いますが、DASH村の畑を作るのにどれだけの労力を要したか・・・それを守るために一揆を起こそうと思うのも当然です。

果たしてこの一揆は成功するのか?そして作間に相談を持ちかけた久五郎の話の中身とは?次回をお待ちくださいませm(_ _)m
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その四百十七・パラリンピックも楽しみ満載((o(´∀`)o))ワクワク】へ  【ボカロ小説・日出ずる国の暗黒郷(ディストピア)27】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その四百十七・パラリンピックも楽しみ満載((o(´∀`)o))ワクワク】へ
  • 【ボカロ小説・日出ずる国の暗黒郷(ディストピア)27】へ