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「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
仏蘭西伝習と駒場野の一揆

vague~弟子の申し出と師匠の動揺

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 小さな部屋で作間と久五郎が向き合っている。二人の前には信乃が準備した膳があるが、どちらも箸をつけていない。

「作間先生。誠に申し訳ないのですが、これからの事は口外しないと改めて約束していただきたいのですが」

 重い口を開いた久五郎の願いに、作間は無言で深く頷いた。それに安心したのか久五郎はようやく本題を口にし始めた。

「駒場野に練兵場ができるという話はご存知でしょうか?」

 久五郎の質問に、作間は勿論だと告げる。

「ああ。全く無茶な話だ。農民から農地を取り上げるなんて」

 憤懣やるかたないといった口調で作間が唇を尖らせた。その表情を見て少しだけ表情を緩めた久五郎だが、すぐにその顔は曇る。

「私の父は駒場野の地主の一人なのです。土地を奪われて死ぬのが我々だけならまだ我慢しましょう。しかし雇っている小作達はどうなるというのか・・・・・・死ぬのは私達のの家族だけじゃないのです」

 膝の上に置かれた拳に、ぽたり、ぽたりと涙が落ち始めた。久五郎は長男ではないが、一家の主に何かあった場合家を守らねばならない男子である。幼い頃から使用人や小作達の生活を守るよう教え込まれてきたのだろう。
 そして暫しの嗚咽の後、久五郎はようやく面を作間に向けた。その目は涙に濡れ充血している。

「・・・・・・近い内に、駒場で一揆が起こります。私の父が首謀者となって。私も父についていきますので、もう二度とこちらに伺うことはないでしょう」

 一揆という、穏やかならざる一言に作間はぎょっとするが、久五郎はその一言を口にした為か妙にスッキリした、清々しい表情を浮かべていた。これが永遠の別れになるかも知れない――――――その一言を告げたかったようだ。

「久五郎・・・・・・」

 そんな久五郎に対し、作間は気の利いた言葉一つ返すことさえ出来ない。

「作間先生。百姓の倅の私にも懇切丁寧に武術をご指導くださり、本当にありがとうございました。御恩は一生忘れません」

 全てを言い切った久五郎は深々と頭を下げ、これから果たし合いをする武士のごとく堂々と作間の前から立ち去っていった。



 久五郎が帰った後、入れ替わるように部屋に信乃が入ってきた。

「旦那様。久五郎さん・・・・・・」

「ああ、今帰った」

 できるだけ表情を変えないようにしていた作間だが、隠しきれない動揺は、どうしても信乃の前では出てしまう。沈痛な面持ちの作間に、信乃は近くまで寄り、口を開いた。

「久五郎さんは・・・・・・確か駒場のお方でしたよね?」

「お信乃?」

 信乃は何かを知っているのか。それともいわゆる『女の勘』で何かを感じ取っているのか――――――作間は信乃の言葉を促す。すると信乃はあくまでも噂ですが』と前置きしてから語り始めた。

「ここ最近、駒場野には悪い話が流れております。特に棒手振りの八百屋が色々と・・・・・・『駒場の畑は練兵場になって無くなるから、うちの畑から買わないか』という新参者がこの辺にも多く現れているんです」

「噂どころではない、というわけだな。棒手振りまで縄張り荒らしをするなんて」

 商売人の最下層である棒手振りにも仁義はある。自分が生きていくためにはよその縄張りを犯してはならないのだ。それを無視する行動が行われているということは、監視の目が行き届いていない事を意味している――――――つまり、駒場野の百姓たちは『別のこと』に力を注いでいる可能性が極めて高いということだ。

「練兵場が作られてしまったら、元も畑に戻すまでにどれほどの時間がかかってしまうのでしょうか・・・・・・せめて目安箱や直訴くらいで事が収まってくれれば宜しいのですが」

「・・・・・・いや、それは無理だろう」

 作間の一言に、信乃は目を見開く。

「まさか、久五郎さんの相談って」

「相談、というよりは決意だった。もう、この道場に来ることはないだろうと」

 作間は信乃の肩に手を置き、その瞳をじっと見つめる。

「明日、稽古が終わったら兄上のところに相談に行ってくる。首謀者である久五郎の父親は無理だとしても、久五郎の命くらいは――――――遠島が理想だが、最悪死罪。磔刑だけはできる限り避けられるようにと嘆願してくる」

 目付けである作間の兄を通じての助命嘆願でも、聞き入れてもらえない可能性のほうが高いだろう。だが他に作間にできることはないのだ。

「できれば、一度の一揆で終わってくれれば良いのだが」

 否、もしかしたら時間をおかず近隣で一斉に起こる一揆を計画しているかも知れない。そうなったら幕府関係者からも責任を取らされるものが出るだろう。久五郎の父親の命だけでは到底済まされない。

「伝習なんて横浜でやっていてくれれば良いものを」

 夕飯用に信乃が温め直してくれた惣菜はすっかり冷めてしまった。そんな冷めたおかずを口の中に放り込みつつ、作間は信乃に茶漬け用の湯を頼んだ。



 翌日の昼過ぎ、作間は早々に稽古を切り上げると麹町の兄・優之輔の屋敷に顔を出した。

「どうした、駿次郎?お信乃さんと母上が喧嘩でもしたか?」

 珍しい弟の訪問に、優之輔は茶化すように尋ねる。しかしその茶化しに乗ること無く作間は真剣な面持ちで来訪理由を述べた。

「いえ、そちらの方は幸いにも――――――それ以上にやっかいな事がありまして。本日は兄上にお願いごとがございまして参上致しました」

 作間は兄の前ににじり寄ると、額を畳に擦り付けた。

「駒場野の練兵所に関してお願いしたいことがございます!実はこの件に関して・・・・・・」

「一揆が起こるかもしれぬ、と言いたいのだろう。その中に御前の門弟がいるやも知れぬと」

 何と作間が全てを述べる前に、優之輔が全てを指摘してしまったのだ。思わぬ出来事に作間は唖然とし、思わず頭を上げてしまう。

「はっ、確かに・・・・・・しかし兄上。何故それを?」

 すると優之輔は珍しく険しい表情で、作間に告げた。

「駿次郎。申し訳ないが、今回ばかりはお前の願いを聞き入れてやれぬ。というか――――――既に最初の一揆は鎮圧されて、昼にその報告が江戸城に上がったところだ。が、しかし今現在、同時に三件の一揆が起きているそうだ。俺も一旦こちらに戻ってきたが、これから城に戻って待機するようにとの命令を受けている」

 作間の予想よりも極めて深刻な兄の言葉に、作間は息を呑むことしか出来なかった。




UP DATE 2018.3.18

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久五郎の『相談』かと思っていた作間ですが、それはどうやら『永遠の別れ』を覚悟した久五郎の『決意表明』だったようです(>_<)
一揆は幕府に対する謀反扱いですから、鎮圧されるついでに殺されてしまっても文句は言えないのですよ(´・ω・`)更に首謀者は一番罪が重い磔刑ですし・・・最悪磔刑だけは免れさせたいと作間は兄を通じて嘆願しようとするのですが、既に一揆は始まってしまったようです(>_<)
果たして久五郎は無事生き延びられるのか、そして駒場野はやはり練兵場になってしまうのか?次回をお待ちくださいませm(_ _)m
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