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「vague~道場主・作間駿次郎顛末記」
仏蘭西伝習と駒場野の一揆

vague~小伝馬町・牢屋敷にて

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 己の生活、そして人生を賭け蜂起した駒場野の百姓一揆だったが、瞬く間に鎮圧されてしまった。江戸近辺ではなかなか起こりにくい百姓一揆だけに手際が悪かったのもあるのだろう。更に集合場所に集まり始めた百姓らに警戒した代官所の役人がこまめに集まってくる百姓らに声をかけ、追い払っていたのも功を奏し、一番最初に蜂起した百姓一揆は四半刻もしない内に制圧、残りの一揆もその日の夕刻までには全て制圧されてしまった。



一揆そのものは簡単に制圧されてしまったが、罪に問われないわけでは無い。首謀者である甚太郎、そして息子らの中で唯一彼について行った久五郎親子は捕縛され、小伝馬町の牢屋敷へと連行された。
 勿論一揆を企てた他の仲間も一緒だったが、彼らが押し込められたのはいわゆる『牢屋』ではない。何故か他の犯罪者がいない、いわゆる『牢座敷』――――――身分が高い人間が押し込まれる座敷にまとめて押し込められていた。どうやら幕府としては一揆が駒場野で起こっていることを漏らしたくないらしい。他の犯罪者とも隔離された状況の中、百姓らは不安に駆られれる。

「もしかしたら、一揆があったことさえもみ消されてしまうのでは?」

 一揆そのものが押しつぶされたとしても、その噂が立てば江戸の街で噂になるだろう。そうなれば幕府も練兵場建設を考えてくれるのでは――――――甚太郎らの儚い願いは見事に打ち砕かれた。そんな失意の中、小伝馬町・牢屋敷の主である石出帯刀と首斬役・山田浅右衛門が一揆首謀者らがいる牢座敷にやってきた。そしてその名乗りを聞いた瞬間、百姓らの失意は絶望へと変わる。

「何故・・・・・・一揆の首謀者は磔刑ではないのか?」

 派手な磔刑ならば『罪状』を知らしめることができるのに――――――愕然とする甚太郎に石出帯刀が冷ややかに告げる。

「幕府のお膝元で一揆があったなどと許されることではない。それが噂であってもだ。貴様らの企てをおおっぴらにするほど幕府は愚かではない」

 つまり自分たちが起こした一揆は無かったことになってしまった――――――がくり、と甚太郎は肩を落とす。

「獄門は三日後だ。辞世の句などを読む時には当日に尋ねるから今のうちに準備しておいたほうがいいだろ――――――あ、それとそれと」

 山田浅右衛門が何かを思い出したように甚太郎に告げる。

「練兵所だが、浜御殿の隣――――――備中新見藩の上屋敷がある場所に作ることになった。お前さんがやったことは無駄じゃなかったとだけ伝えておくよ」

 その瞬間、牢座敷には似つかわしくない歓喜の声が上がった。少なくとも自分達の畑は潰されずに済む――――――百姓達の中には感極まって涙を流す者まで現れる。

「静粛に!」

 石出帯刀の叱責が響くが、なかなか騒動は止みそうもない。

「ありがとうございます・・・・・・ありがとうございます!!」

 百姓達は口々に山田浅右衛門に礼を述べるが、老人は彼らに背を向けたまま更に一言告げる。

「礼は上様と関様にしておくんだな――――――尤も顔を合わせることもねぇだろうが」

 どうやら百姓らの歓喜の表情を見て情が移ってしまうのを警戒したらしい。背中越しにそう言い残すと、首斬の老人は早々にその場を立ち去った。



「山田殿、お待ち下さい」

 騒ぐ百姓らの監視を部下に任せてきた石出帯刀が、山田老人を追いかけてきた。

「山田殿・・・・・・今しがた話されていた話は、真のことでしょうか?」

 石出帯刀は声を顰めつつ山田老人に尋ねる。少なくとも石出はそのようなことは一切聞いていない。もしかしたら百姓らの絶望を慰めるための嘘ではないのか――――――石出はちらりとそう思ったが、山田老人は『本当のことだ』と力強く言い切った。

「ええ、勿論ですよ。何せ私が直接交渉に当たりましたからねぇ。本当に老中殿も人使いが荒い」

「直接、とは?」

「ええ、元々私は新見の家中の子供でしたからね。

 山田老人は高らかに笑う。

「自分としては『故郷』というか『実家』が練兵場になってしまうのは忍びないですが、田畑が潰されるよりは良いでしょう」

「・・・・・・確かに」

 神妙な表情を浮かべる石出帯刀を後に残し、山田老人は牢屋敷を後にした。


 一揆首謀者・甚太郎の獄門打首は他の罪人たちと共に千住の刑場にて行われた。本来であれば磔刑、しかも居住場所から『見せしめ』のため鈴ヶ森で行うのだが、今回は一揆の仲間や周辺の農民を刺激しないよう敢えて離れた千住での刑の執行だった。
 また本来磔刑であるところを獄門にしたことで更に隠蔽度合いが強まり、甚太郎の処刑に気がついたものは殆どいなかった。加えて他の首謀者らは死罪及び遠島となり、全ての『口』は塞がれた。
 更に一揆の記録は地元代官所にのみ残り、幕府の公的な記録には残されず闇に葬られた形となる。だが練兵所そのものが浜御殿横に作られることになったためか、百姓達の騒動はこれ以上大きくなることはなく、表面上の日常を取り戻すことに成功した。
 だが、幕府崩壊の足音は徐々に大きくなっていることだけは確かである。尤もその事実に気がついているのはごく僅か――――――今回の一揆鎮圧に直接関わった人間のみであり、その認識が幕府全体に伝わることは無かった。




UP DATE 2018.4.8

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大変お待たせ致しました~(>_<)一揆首謀者らの話、ようやくここまで辿り着きました( ;∀;)
気力、体力の余裕があれば一揆そのものの描写も入れたかったところなのですが、今現在の体調の中ではこれが精一杯で・・・ご容赦くださいませ(>_<)
そして首謀者の処罰3日前、五三郎ジジィからの嬉しい知らせ――――――裏設定ではこの前日とか、牢屋敷に来る直前に交渉事がまとまり、老中に報告する前に口を滑らせている、という事となっております(^_^;)本当は許されないことなのですが、ジジィのせめてもの情けでしょう(´・ω・`)

今回の一揆騒動に関しては一旦ここで話をおしまいにさせていただきます。そして来週お休みを頂いた後、この話から派生するもう一つの物語、久五郎のその後について少々・・・彼は遠島にさえならず、思わぬ人生を歩いていくことと相成ります。その際そこそ子有名な人物も関わってきますのでそのへんもお待ちいただければ(#^.^#)
ゆるゆると進めていく話ですが、お付き合いのほどよろしくおねがいしますm(_ _)m
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