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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第十七話 志願者、そして去りゆく者・其の壹

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新選組という名もようやく板に付き、その活動を小耳に挟んだ浪士達がぽつり、ぽつりと入隊希望の面接にやってくる様になった冬のある日、激しい木枯らしのようなその若者は突如壬生の新選組屯所にやってきた。

「たのも----------う!近藤勇、または土方歳三に目通り願いたい!多摩・本宿村名主が長男、松本捨助が入隊を希望する!!」

 冬の砂埃にまみれた薄汚れた姿であったが、松本と名乗ったその男の目はぎらぎらと輝き、荒くれ者と悪名高い新選組の隊士でさえ一歩引いてしまうほどの気概に溢れている。得体の知れぬ男がやってくるなりいきなり局長や副長を呼び捨てにするとは・・・・・と、思いつつも皆どうしたらいいのか判らず困惑していた。

「あれ、捨助さんじゃないですか。京都まで来ちゃったんですか?」

 そんな中、声を聞いて表に出てきた沖田が目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。実はこの松本捨助は近藤道場にも通っていて、道場の塾頭であった沖田も勿論顔なじみである。だが、顔なじみなだけに松本が『京都に来るべきではない理由』も知っていた。

「ご家族の賛成・・・・・というか、友八さんの賛成は得られたんですか?」

 確か家族の反対に遭っていたはずだと沖田は思いだし、松本に恐る恐る尋ねる。

「いいや。親父と大喧嘩をしてあっちを飛び出してきた。それに勇さんからの手紙で隊士が不足してるって言うじゃないか。俺一人で申し訳ないが戦力になればとはせ参じた、って訳さ。」

 つまり家出同然に家を飛び出し、勢いに任せて京都にやってきてしまったというのだ。自信満々に胸を張る松本に対し、沖田は心の底から困惑しきった表情を浮かべることしかできなかった。



 松本捨助は武蔵国多摩郡本宿村の名主の松本友八の長男で、沖田より一歳年下の若者である。
 土方の兄・隼人の四男・錠之助が文久元年に松本家の里子になっていることから土方家と深い繋がりを持っているのだが、その他にも近藤道場で天然理心流を学んでいて近藤や土方と縁が深い。
 実は松本も浪士組への参加を望んでいたのだが、家族の反対によって断念せざるを得なかったのである。そんな曰くがあるだけに、近藤や土方が彼に対してどんな対応を見せるか、沖田としては頭の痛いところであった。

(捨助さんは結構頑固だからなぁ・・・・・きちんと納得させないといつまでも居続けるような気がするんですよねぇ。)

 ようやく落ち着き始めた壬生屯所にやってきた『冬の嵐』の対応を考えつつ、沖田は松本捨助の来訪を近藤、そして土方に知らせるため屯所の奥へ引っ込んでいった。



 沖田が松本と話しをしていたその頃、近藤と土方は入隊希望者への最終面接をしていた。

「・・・・・という訳です。これから新選組はどんどん大きくなります。そこで必要になるのは軍学なのですよ。ですから拙者の甲州流軍学はこれからの新選組に役に立つかと。」

 ぺらぺらと喋りまくる目の前の男----------武田観柳斎に土方は内心辟易していた。しかし、近藤は武田の耳触りの良い口車にまんまと乗せられている。

(あまり・・・・・こういうお調子者は入隊させたくはないが、これからの事を考えると軍学は必要か。甲州流、っつうのがいまいち流行遅れの気がしないではないが。)

 甲州流軍学は甲斐・武田氏の戦術が理想化され、江戸時代に大成された兵学の一つである。武田流軍学、信玄流兵法などとも呼ばれる軍学だが、西洋式軍学が主流になりつつある中、日本古来の軍学は正直色褪せて見える。
 だからこそ他で仕官できず、新選組のようなちっぽけな部隊に自分を売り込みに来たのだろう。だが、時代遅れという点では新選組も同様である。

(ま、俺達も鉄砲一つ使えねぇごろつきだ。この程度が妥当なところか。)

 鉄砲の一挺も無く、未だ刀や槍しか扱えない新選組にとって西洋式の調練は無用の長物でもある。武田という男自体あまり好きにはなれないが仕方がない。土方は近藤や武田に気付かれないよう小さく溜息を吐いた。その時である。

「近藤先生、土方さん。お取り込み中失礼します。」

 沖田が襖を開け一礼した。

「あの・・・・・土方さん、ちょっといいですか?」

 無表情を装っているが、その表情の下に土方は沖田の困惑を見いだす。

「何だ?」

 土方は沖田を促すが、口を開こうとせずちらりと部屋の外に視線をやるばかりである。この場では口に出せないことなのか----------土方は後のことを近藤に託すと部屋から退出した。

「・・・・・巡察で何かあったのか、総司?」

「いえ・・・・・そうじゃないんですけど・・・・・。」

 奥歯にものが挟まったような物言いで沖田は前方を指し示す。その指し示した先を見て土方は驚愕を露わにする。

「歳三さん!お久しぶり!」

 埃で薄汚れた顔に満面の笑みを浮かべて総司の困惑の原因----------松本捨助がいた。



 しばしの間、三人の間に奇妙な沈黙が流れる。

「す・・・・・捨助じゃねぇか!おめぇ、何しに来やがった!」

 その沈黙を破り、ようやく口を開いたのは土方であった。

「何言っているんですか、歳三さん。京都に来た理由はただ一つ、新選組に入隊しきたんじゃないですか。でなければにわざわざ江戸くんだりからでてきやしませんって。」

 屈託のない笑顔で松本は土方に答える。この屈託の無さが沖田より一歳年下の松本の良さでもあると同時に欠点でもあった。案の定土方の表情はみるみるうちに険しいものになる。

「・・・・・くそったれが。元々おめぇは松本の親父さんに反対されて浪士組の上洛にも参加できなかったんじゃねぇか。そんな奴が今更何を・・・・・。」

「近藤さんの手紙に『人手が足りない』って書いてあったんですよ。だったら俺でも何らかの足しになるかなって。勿論幹部なんて贅沢は言いませんし、一兵卒として先陣切るつもりですから大船に乗ったつもりで・・・・・。」

「それが駄目だって言っているんだろうが!てめぇ、何も解っちゃいねぇだろう!」

 長男という事もあるが、松本の親や土方が危惧するのは捨助の性格そのものであった。親の反対を押し切って単身京都に出てきてしまうような無鉄砲さは、いざというとき欠点になる。
 さらに浪士組当初のように自分達も一兵卒であれば松本の行動を制御することも可能かも知れないが、今のように新選組全体を見渡さなくてはならない今、松本一人に神経を裂く訳にもいかない。

「とにかく、まずは風呂に入って身綺麗にしてこい。で、二、三日こっちで休んだらとっとと江戸に帰れ!」

「なんでだよ!」

 目上の人間に対する敬意も忘れ、松本は土方に詰め寄る。だが、土方の方が一枚上手だった。

「おめぇは長男だ!その務めを忘れるんじゃねぇ!」

 掴みかかろうとした松本の手をはね退け、土方は本気の怒声を上げながら松本の襟を掴む。そんな状況に陥ってもやんちゃな若者は大人しくならなかった。

「松本の家には錠之助が養子に入っている!俺が死んでも錠之助が家督を継げば良いだけだろう!」

「だからなおさらだ!俺の甥っ子を・・・・・土方の血を注ぐ者を松本のおやっさんには入れて貰っているんだ。土方の家の者としておめぇにはかすり傷ひとつ負わせる訳にゃいかねぇんだよ。そんな事さえ判らねぇのか、この馬鹿野郎!」

 今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな険悪な雰囲気が立ちこめる、その時であった。

「・・・・・お二方とも、そろそろ良いですかねぇ。隊士達が怖がっちゃっているじゃないですか。」

 あまりにものんびりした、沖田の声に二人は我に返る。周囲には二人の怒鳴り声に集まってきた隊士達が遠巻きにしていたのである。止めようにも相手は『鬼の副長』だし、その土方に対して一歩も引かない松本に対しても得体の知れなさを感じたのだろう。その目には好奇心よりむしろ恐怖が宿っていた。

「てめぇら、これは見せ物じゃねぇ!とっとと散りやがれ!!」

 十歳も年下の若者に対し、本気の喧嘩をしそうになってしまった土方の、照れ隠しの一喝で、皆、蜘蛛の子を散らすように退散してしまった。

「とりあえず二人とも少し頭を冷やしましょうよ。私は捨助さんをつれて湯屋に行ってきます。あ、そうだ。土方さん、捨助さんに着物を貸してあげてくださいよ。私のものじゃ大きすぎますんで。」

 どちらにしろ冷静な話し合いをするには時間がいると沖田は妥協案を示す。

「・・・・・ああ。それと明日にでも古着屋に買いに行かないとな。帰るまでに洗濯は間にあわねぇ。」

 沖田の助け船に乗ったはいいが、余計な一言を付けてしまうのが土方である。案の定松本は見る間に顔を真っ赤にして再び土方に掴みかかろうとする。

「まだ追い返すつもりなのかよ、歳三さん!」

「まぁまぁ。じゃあ、お願いします。それと、久しぶりの再開ですから捨助さんにお座敷の一席でもおごってあげてくださいよ。それ位は良いでしょう?」

 怒りが収まらない松本を宥めながら、沖田は彼にしては極めて珍しい提案をした。

「・・・・・おめぇにしちゃ珍しいことを言うな。」

 普段の沖田なら絶対に口に出さない提案に対し、土方は違和感を感じ目を細めて沖田を睨む。

「だって京都見物もろくにさせようとしないで追い返すなんて、あまりにも捨助さんが気の毒じゃないですか。ね、良いでしょう。『三本木』あたりなんか。」

 沖田の一言に土方の表情はさらに険しくなった。女遊びをしない沖田に『三本木』の馴染みはない。それなのに何故三本木の名を出すのか・・・・・。

「総司、着物を貸すから俺の部屋まで来い。」

 これは何かある----------土方は顎をしゃくって沖田を促した。



「・・・・・総司、『三本木』に何がある?」

 副長室に入るなり、土方は厳しい声で沖田を問い詰める。

「いいえ、別に・・・・・ただ捨助さんには島原より向いているんじゃないかと。それに、ちょっと面白い風聞も聞きますし。」

 沖田は子供のような無邪気な笑顔を見せてしらばっくれた。

「・・・・・三日前、三本木に行ったが『面白い風聞』なんぞ聞いてねぇぞ。」

 不機嫌な表情の土方に対し、沖田は『そうでしょうねぇ』と言わんばかりの顔をする。

「土方さんは化け狐ばかり相手にしているから・・・・・子供達に教えて貰ったんです。ここ最近、新選組とは違う、総髪の怖い顔をしたお兄さん方が増えてきたって。」

 しれっ、という沖田に対し土方は唇を噛んだ。確かに男と女の関係になれば敵方の情報を漏らしてくれる女もいるが、そうじゃない女も少なくない。長州贔屓の娼妓や芸妓であれば逆にこちらの動きを相手にばらし、不逞浪士側の動きを隠し通すだろう。
 その点子供は『大人の事情』を知らぬだけに玩具や菓子につられ見たままを話す可能性が高い。その点においては沖田の作戦勝ちである。

「・・・・・さすがに子供相手じゃ詳細はわかりませんけどね。これ以上の込み入った話はお狐さんのほうが詳しいと思いますよ。そこの所は土方さんにお任せします。」

 沖田は憮然とする土方から着物を受け取ると、クスクス笑いながら副長室を後にした。



UP DATE 2011.01.14


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『夏虫』新年早々第一弾は松本捨助&武田観柳斎の登場です。新選組メンバーとしてやっぱりこの二人は出さないとねぇ(^^)
捨助に関しては今回は入隊を認められませんが、慶応三年には認められる事になります。この間、相当しつこく親を説得したらしい・・・・・単身京都に来ちゃったりとか血の気は多かったんじゃないかと思います。それに若いですしねぇ。
勿論長男だということが追い返した最大の理由でしょうが、それ以上にこの無鉄砲さが『使う方』としては厄介なような気がします。(命がけの作戦も多い中、無鉄砲な行動は本人だけでなく周囲にも被害を及ぼしますから・・・・・。)

そして武田観柳斎。実はこの人、よく判らない上にイメージがわかないんですよね~。とりあえず口だけは達者だったみたいですけど、伊東甲子太郎ほどでもなさそうですし・・・・・とりあえずおべんちゃらで局長を翻弄する役目ってところですね。もしかしたら意識的に避けちゃうかも(おいっ)。


次回更新は1/21、捨助を連れて三本木に飲みに行きますが、ただの飲み会じゃ終わらないかと・・・・・捨助を多摩に返すために仕組んだ、沖田の思惑の正体が明らかになります

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