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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第十八話 志願者、そして去りゆく者・其の貳

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沖田と松本が湯屋で旅の垢をすっかり落として屯所に帰ってくると、土方は早々に二人を連れて三本木の馴染みの茶屋に出向いた。あまりぐずぐずしていると永倉や原田が嗅ぎつけ、一緒に連れて行かなくてはならなくなるからである。まだ日が高かったがすでに昼見世は始まっており、三人はすぐに茶屋の二階に通された。

「うわぁ、さすが京都!王城の姐さん達はやっぱり違うねぇ!こんな別嬪、多摩の田舎じゃ見たことねぇや!」

 呼び出されてやってきた土方馴染みの芸妓達を目の前にして松本が思わず歓声を上げる。

「すまねぇな、田舎者の戯言だと思って許してやってくれ。」

 あまりに露骨に芸妓達を褒めそやす松本の行儀悪さに、土方が芸妓達に詫びを入れるが、芸妓達は全く気にしていなかった。むしろまんざらでも無いとばかりにいつも以上の笑顔を見せる。

「気にせんといておくれやす。あけすけに褒められて嫌な顔をするおなごはおりまへんえ。」

「土方はんのご親戚なんどすって?せやからこんな口がうまいんおすなぁ。」

「まだお若いのに、末恐ろしいわぁ。ウチら、ころっと騙されてしまいそうや。」

 どうやら松本の『素直な若さ』は芸妓達に好意的に受け取られたらしい。さらに松本が土方と極めて近い親戚で、芸妓達が知らない土方の過去を知っていたことも大きかった。

「ひどいんだぜ、歳三さんってば。去年の夏、『いいところに連れて行ってやる。』なんて言って妓楼に連れていってくれたのはいいんだけど『物事にゃ手順ってもんがあるんだ!』って延々女の口説き方を・・・・・・結局その日は台の物を突くだけだったんだぜ。吉原じゃないのにひどいと思わねぇかい?」

 江戸での土方の『悪行』に案の定芸妓達は食いつく。

「ほんまおすか?」

「歳はんってば隙がのうて自分の事を話してくれへんから。他に江戸でのお話、ありまへんの?」

 将を射んと欲すればまず馬を射よとばかりに芸妓達は松本をちやほやし始め、土方は眉を顰める。そんな土方らの輪から外れて沖田は窓の外を見ながらちびりちびりと酒を呑んでいた。

「四人・・・・・五人か。もう少し集めた方が良いですかねぇ。」

 そんな沖田の独り言を土方は聞き逃さなかった。

「おい、総司!てめぇ、何を考えている?」

 松本や芸妓達の騒ぎの輪から外れ、土方は沖田に近寄る。一体沖田は何を企んでいるのか----------沖田の思惑が解らず、土方は苛立たしげに沖田の肩を掴んだ。しかし沖田はそんな土方の苛立ちを楽しむかのようにちらりと土方に視線をやると、再び外に視線を向けた。

「別に・・・・・ただ、捨助さんをちょっと脅すのにあれじゃあ少ないですよねぇ。」

 土方は訝しげに沖田の視線を追う。そこには数人で街角にたむろっている胡散ぐさげな集団がいた。その集団を見た瞬間、土方は沖田の思惑を瞬時に理解する。

「なるほどな・・・・・だったら一刻ほど遊んでおけば十五、六人くらい集まるか。」

 にやり、と嬉しげな笑みを浮かべながら土方は身を乗り出し周囲をさらに探り始めた。するとあちらこちらの街角から一人、また一人と二本差しの男達が集まってくるではないか。この様子だったら夕刻までに土方や沖田が望む人数くらい集まるかも知れない。

「土方さんらしいな・・・・・おなごと喧嘩、どっちが好きなんですか?」

 まるで新しい玩具を目の前にした子供のように眼をきらきらと輝かせている土方に対し沖田が笑いを押し殺しながら訊ねる。

「・・・・・野暮なことを。喧嘩に決まってるじゃねぇか。」

 何を当たり前のことを、と言わんばかりにそう言い捨てると、土方は芸妓達にちやほやされている松本の所へ戻っていった。



 一刻のつもりがずるずると時間が過ぎてしまい、結局茶屋を後にしたのは日が西に傾きかけた二刻後のことであった。ほろ酔い加減で三人が見世を出た途端、剣呑な雰囲気を漂わせた男達があっという間に取り囲む。

「・・・・・・悪ぃな、待たせちまって。苦情は妓たちに言ってくれ。尤も無事ここから逃げおおせたらの話だけどよ。」

 全員顔を頭巾で覆ってはいたが、ぎらぎらと殺気だった瞳だけは隠しおおせない。手には抜き身の勤王刀が握られており、その雰囲気に松本はゴクリ、と息を呑んだ。

「と・・・歳三さん!こいつらは・・・・・?」

 まさか遊びの帰りにいきなり十人以上の敵に囲まれるとは思いもしなかったらしい。震える声で松本はこの状況の説明を求めるが、土方はちらりと一瞥をくれただけであった。

「さあな。それよりもびびっちまったのか、捨助?そんな根性で新選組に入ろうなんて十年早いぜ!」

 にやりと笑いながら土方はつい最近出来上がったばかりの会津兼定を鞘引きも鮮やかにするり、と引き抜いた。真新しい刀身は夕日を浴びて茜色の輝きを放つ。

「捨助、後ろに下がれ!総司、行くぞ!」

 土方の鬨の声に沖田も自身の大刀を抜き放つ。こちらは土方の差料と違い、細身で短めの機動性を重視したものである。

「待ってました!」

 そう答えると沖田は土方以上に素早く大刀を鞘から抜き、土方を追い越して不逞浪士達に対して斬りつけ始めた。

「土方さん、早くしないと全部私が片付けちゃいますよ!」

 沖田は笑顔さえ見せながら次々に敵を倒してゆく。否、敵の動きを上手く利用し相打ちまで誘っているのだ。

「おい、総司!一人ぐらい俺に残しておけ!」

 沖田一人でどんどん敵を倒していくのが面白くなく、土方は憮然としながら戦いの輪の中に飛び込んでいく。

「な・・・・なんや!」

「斬り合いや!はよう奉行所の同心を呼んできてや!」

 土方と沖田が戦いの中心の飛び込み、周囲が騒然となる中、松本はがたがたと震えるばかりであった。上洛した仲間達の、華やかさだけに憧れて京都までやってきたが、実際の戦いの場など想像もしなかったのだ。
 沖田に斬られた男のものだろうか、それとも土方に斬られた男のものだろうか、辺りに血の臭いが濃く立ちこめ、松本は吐き気をもよおす。そんな松本を目ざとく見つけた不逞浪士の一人が戦いの輪から抜け出し、松本に襲いかかったのである。

「まずい!おい、捨助!そっちに行った!刀を抜け!」

 それに気がついた土方が叫ぶが、土方自身も敵の攻撃を受けることで精一杯で松本を助けに行くことができない。勿論沖田も同様である。悲壮な土方の叫び声は勿論松本の耳に届いてはいたが、震えのため上手く鞘から刀を抜くことができない。

「死ね!!」

 松本の上に刀が振り下ろされた。

がっ!

 鈍い音が辺りに響き渡る。刀を抜くことを諦めた松本が鞘ごと腰から大刀を抜き、それによって不逞浪士の攻撃を防いだのだ。だがじりじりと刀は押し下げられてゆき松本の手も痺れ始める。

(もう・・・・・だめだ!)

 松本が諦めかけたその時である。不意に押し下げられていた刀が軽くなったと思ったら、目の前の不逞浪士がゆっくりと倒れてきたのである。
 慌てて鞘ごとその男をはね退けると、広がった視界に血刀を手にした沖田がそこに立っていた。

「捨助さんすみません、待たせちゃって。」

 にっこり笑う沖田に対し、こちらは渋い表情の土方が血刀を手にしたまま松本を睨み付ける。

「おい、捨助!新選組に入隊しにきたんだろうが!そんな事じゃ入隊試験で落第だ!」

 開口一番、土方の怒声に松本はしょんぼりとうなだれた。自分はもう少しものになると松本は自負していた。不逞浪士なんて簡単に倒せると----------しかし、実際はただ立ちすくむだけで何をする事も出来なかったのである。土方の指摘はあまりにも的を射すぎていて松本はぐうの音も出なかった。

「まぁまぁ土方さん。とりあえず鞘で敵の攻撃を防いだだけ良しとしましょうよ。」

 沖田の取りなしも松本にとって自分の情けなさを助長するものでしかない。

「歳三さん、総司さん・・・・・俺、江戸に帰ってもう一度修行し直してくるよ。このまんまじゃみんなの足手まといだ。」

 ただただ落ち込む松本の肩に土方が手を乗せる。

「ようやく解ったか----------おめぇにゃ江戸でまだまだやらなきゃならねぇ事もある。それに・・・・・ちょっと江戸でやって貰いてぇこともあるんだ。」

「え?」

 土方の思わぬ言葉に、松本は思わず声を上げてしまった。



 壬生屯所に帰った三人は近藤の部屋に入った。そこで土方は自分の構想を打ち明ける。

「隊士を集めるための・・・・・江戸新選組?」

 松本は口をあんぐり開ける。否、松本だけではない。その場にいた近藤や話を聞きつけやってきた藤堂や井上も驚きの表情を露わにする。

「おい、歳。そんな事が可能なのか?」

 近藤も思わず土方に尋ねるが、土方は力強く大丈夫だと笑った。

「だから捨助に手伝って貰うんだろうが。本当だったら俺か近藤さんが江戸まで出向いて隊士を選びたいところだが現状はそれが許されねぇ。」

「確かに・・・・・何度も申し出はしているけど、今回も駄目だったしね。」

 藤堂が渋い顔をして呟く。

「となると、日野あたりの連中に頼まないとやってられないだろうが。上方での募集はそろそろ限界だ。あと、めぼしいのって言ったら大阪・谷道場の三兄弟くらいだろう?」

「一次面接をした永倉さんに聞いたら腕は確かなようですけど・・・・・少々酒癖と女癖に難があるみたいですけどね。」

 ぽつりと沖田が呟いたが、土方はあえてそれを無視した。

「・・・・・俺達がいつ江戸に隊士募集に行けるかわからねぇ今、江戸にいる奴に募集を頼まなきゃ隊が維持できねぇんだ。おめぇだって何となく解るだろう?」

 土方の言葉に松本は先ほどの諍いを思い出した。松本にとっては大事件だったが、土方や沖田の落ち着きぶりから鑑みるとあの程度の諍いは日常茶飯事なのだろう。もし、故郷が近くにあれば自分も逃げ帰っているかも知れない。

「甲府から江戸にかけての骨のある奴を京都に送り込んでくれ。剣術の修行をしながらでもそれ位はできるだろう?」

 土方にそう言われてしまっては何も言い返せない。行商をしながら剣術の修行をし、今や新選組の副長として隊を取り仕切っている土方に比べればあまりにも楽な仕事である。

「・・・・・やっぱり歳三さんはすごいよなぁ。」

「今更気がついたのかよ。しょうがねぇ奴だな。だから不逞浪士に襲撃されたとき腰を抜かすんだよ。」

 冗談とも本気ともつかない土方の言葉に全員が思わず笑ってしまった。



 さすがに次の日の帰還とは行かず、松本は十日間ほど京都に滞在し、寺社見物をしたあと預かった手紙と共に江戸へ帰っていった。

「土方さん・・・・・良いんですか?あんなものを捨助さんに持たせちゃって。」

「ああ、構うもんか。みんな冗談だって笑ってくれるさ。」

 平然という土方だが沖田は露骨にあきれ顔を見せる。

「いくら冗談でも酷すぎますよ。妓達から貰った付け文の束を捨助さんに持たせるなんて。」

「どうせこっちに置いておいても紙くず買い行きがおちさ。だったら日野の連中の退屈しのぎになるだけましだと思わねぇか?どうせ冬場なんかやるこたぁねぇんだし。」

「そりゃそうですけど・・・・・捨助さんに中身のこと言っていないでしょう。」

 何と土方は飛脚代がかからないのを良いことに、松本に自分が娼妓達から貰った恋文の束を土産として持たせたのである。大した重さではないものの手紙の束はかさばるし、半月近くかかる旅にとって邪魔者以外何ものでもないが、中身を知らない松本は嫌な顔一つせずそれを受け取り江戸へ帰っていったのである。

「日野に帰ったら恨まれますよ。」

「まぁそん時はそん時だ。甘んじて受けるさ。」

 朝日を受けながら土方は片頬で笑った。



 去りゆく者を見送りながらそんなたわいもない話をしていた時、壬生の屯所に大阪から新たな志願者がやってきた。そして彼らは松本とは違った嵐を新選組にもたらすことになる。



UP DATE 2011.01.21


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沖田の思惑通り、『新選組にとっての日常生活』で捨助くんを脅かすことに成功いたしました。沖田や土方にとっては『食後の腹ごなし』程度なんでしょうけど、そういう場面に初めて遭遇する捨助くんにはかなりキツイですよね~。半年前、初めて人を斬って神経質に刀を洗っていた沖田と同一人物とは思えません・・・・・人間変わるもんですよねぇ(おいっ)。
そして土方のタチの悪い悪戯もこの時だったんですよね~(爆)。確かに娼妓や芸妓からの恋文の束を送るにしても飛脚じゃ高く付きますしねぇ。捨助くんに託せばただで日野に持って行って貰えるから歳もこういったおふざけをすることができたのでしょう。ちなみに手紙は『報国の心ころわするゝ婦人哉』との川柳が書かれていたあの手紙という設定です(この手紙に捨助くんの入隊不許可の旨が書かれているので・・・・・。)

次回更新は1/28、谷三兄弟の入隊最終面接が中心となります。
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