FC2ブログ

「短編小説」
その他短編小説

夾竹桃の吐息・其の玖

 ←烏のがらくた箱~その四百四十二・やっと秋の気配キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! →ボカロ小説・日出ずる国の暗黒郷(ディストピア)50
 火事から三日後、直斗は妻の佑美と共に千護の見舞いに出向いた。

「よぉ、千護!少しは良くなったか?」

 病室に入るなり直斗は明るい声で千護に声をかけたが、それに対して千護は苦笑いを浮かべるだけで起き上がろうともしなかった。

「できれば良くなった、って言いたいところなんだけど、結構厄介な傷でさ・・・・・・痛みは消えないし、熱は下がらないし。あと先生曰く、この手の薬品火傷は下手したら一生消えないかもって」

「・・・・・・薬品火傷、ならな。でもそうじゃねぇ」

 直斗は同部屋の他の病人に聞こえないよう声を落とす。

「佑美。今から話すことは俺たちが実際体験したことだけど、一切信じてくれなくていい。俺だって未だに信じられないんだから。そうだな・・・できの悪い三流ホラー映画の話、ってことにしておいてくれ」

 そんな夫の言葉に、佑美は不満げな表情をあらわにした。

「だったら何故私をわざわざお見舞いに連れてきたの?お義母さんに子供を預けてまで・・・・・・聞かせたくない話があるんだったら連れてこなければいい話じゃない」

 すると直斗は真顔でその理由を口にした。

「俺たち二人に『何か』があった時、お前にガキ二人連れて遠くに逃げてもらうために決まってるだろ。今回のことはマジでやばいかもしれねぇんだ」

 そう言いながら直斗は千護の顔を見つめた。

「千護、お前は自分の身に何が起こったかだいたい把握しているのか?」

 すると千護は直斗の顔を見ながら小さく頷いた。

「ああ・・・・・・あの夾竹桃に地面に引きずり込まれて、直斗に引きずり出してもらったってところまでは辛うじて」

「そこまで覚えてりゃ充分だ・・・あの夾竹桃、俺達の親世代には既に怪しげな噂があったみたいだぜ。あと図書館でもちょっと調べ物をしてきた」

「へぇ。勉強嫌いだった直斗が図書館に行くなんて」

 思わず吹き出した千護に、直斗は軽くげんこつを食らわす。

「失礼なやつだな・・・・・・尤も俺が図書館に出向いたのはガキに付き合って、なんだけどな。あいつらを読み聞かせに預けている間、暇だったから調べ物をしてきた」

 そう言いながら直斗はコピーを取り出した。

「爺さんがあそこに家を建てる前、あの場所で殺人事件があったそうだ。しかも一家全員が殺されるっていう―――」

「まじかよ」

 千護だけでなく、佑美も顔面蒼白になる。

「尤も大正時代、関東大震災前の話だけどな。その事件のせいで安く家が売り出されたらしいんだが、震災で家そのものが崩壊しちまって・・・いわゆる液状化、ってやつさ。それで殆どタダ同然になったその土地を爺さんが買って作業場兼自宅にしちまった、ってわけだ」

「なるほどね―――いくら良い腕の持ち主とはいえ、地価が高いこの辺であれだけの広さの土地を手に入れたのにはそういった裏話があったってわけだ」

 昔からの別荘地で観光地でもある祖父の家の近隣は昔から地価が高い。それなのに職人にしては不相応な広さの土地を所有していた。てっきり線路沿いだから安かったのだろうと思いこんでいたが、どうやら違うらしい。

「まぁな。しかし殺された者の『念』は残っていたんだろう。特に末の娘の怨念は―――俺達の親がガキの頃から犯人と同年代に近い若い男の不審死が相次いでいるらしい。因みに現代でもな」

「現代にも・・・って俺もか」

「そういうことだ。昔はもっと多かったらしいんだが、あちらも何かをも学んだんだろう。昔から爺さん地の周辺じゃ電車への飛び込み自殺が多かったらしいし、その他の事故も少なくなかったらしい。おじおばたちも例の夾竹桃の事を『おばけ夾竹桃』って云っていた。その謂れの理由はわからないってことだったが・・・・・・」

「なにそれ、気持ち悪い。そんなところで子供を遊ばせていたの、直斗は?」

 不意に直斗の妻の佑美が声を上げた。

「仕方ねぇだろ。爺さんにひ孫の顔を見せないわけにもいかねぇし――――――尤もこんな話は『作り話』ってことで信じてくれなくていい。てか信じてほしくないんだが実際に千護がこんな目に遭っているからなぁ。幸い火事で更地になったし、とっとと売っぱらって遺産分けしちまうのが無難だろ―――売れなきゃ売れないで人様に迷惑をかけることもねぇだろうけど」

「そう、なんだ」

「おいおい、妙に残念そうな顔をしてるな、千護」

 不意に寂しげな表情を浮かべた千護を直斗が茶化す。

「もしかしてあのお化け夾竹桃に惚れたか?可愛い女の子の姿をしてたんだろ?」

「そんなんじゃねぇよ」

 即座に否定した千護だったが、その瞳に昏い色が滲んでいることに佑美だけは気がついていた。



 盆休みが明けても日差しはまだ夏のまま、ジリジリと暑い。しかし吹き抜ける風には秋の気配が漂い始めていた。そんな風が吹き抜ける中、ただ一人佑美は小さな花束と線香を持って更地になってしまった夫の祖父の家――――――とはいえ、更地だが――――――にやってきていた。

「・・・・・・ほらね。夾竹桃は生命力が強いんだから」

 佑美の視線の先には小さな芽が―――夾竹桃の芽が芽吹いていた。特にこの『おばけ夾竹桃』は異様な生命力を持っているらしい。火事で焼け、更地にするため土地をならされてからわずか数日で芽吹いているのだ。死んでたまるか―――その小さな芽は叫んでいるように佑美には思えた。

「うちの旦那、新聞読むの苦手だからだいぶ情報を落としていたみたいだけど―――貴女、お嫁入りの3日前に殺されたんですってね」

 まるで女友達に語りかけるように佑美は夾竹桃の芽に語りかける。

「きっと嬉しくて、ワクワクしながらその日を待っていたでしょうに。だけど、これ以上は―――千護くんを連れて行くだけにしてね」

 苦笑いを浮かべながら佑美は更に続ける。

「貴女が思うほどあの子、もてないから。それに顔にまで怪我しちゃったから見た目もねぇ・・・イケメンじゃないし、すぐにとはいえないけど、絶対に貴女のところへ帰ってくるから。できればあと50年くらい待ってもらえないかしら」

 実のところ、千護の容態は思わしくなかった。下手をしたらこの瞬間にも命を落としているかもしれない―――この小さな芽に祈ったところで状況が変わるとも思えなかったが、何故か佑美は『ここに頼めばなんとかなる』と思いやってきたのだ。女の勘、とでもいうのだろうか。

「安心して。焦らなくてもあの子は誰のものにもならないから」

 花束の横に手向けた線香の香りが周囲に漂う。その香りの中、佑美は長いこと祈り続けていた。




UP DATE 2018.7.28

Back


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv








薬の副作用で脳内がグダグダする中、やっと書き上げることが出来ました、リハビリ小説ヽ(=´▽`=)ノ
できればもっとドロドロさせたかったのですが、私の現状ではこれが手一杯で(^_^;)本当はもっとはっきりしたバッドエンドにしたかったんですけどねぇ・・・この話の行く末は皆様の妄想にお任せいたしますm(_ _)m
なお、相手が妖怪とはいえ女心が判るのはやはり女性なのでしょう。最後の最後に佑美が『お願い』に参っています。男性だとこういった気遣いはちょっと難しいかなぁ(^_^;)

だらだらと続いた『夾竹桃の吐息』、ここまでお付き合いくださってありがとうございましたm(_ _)m
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その四百四十二・やっと秋の気配キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!】へ  【ボカロ小説・日出ずる国の暗黒郷(ディストピア)50】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その四百四十二・やっと秋の気配キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!】へ
  • 【ボカロ小説・日出ずる国の暗黒郷(ディストピア)50】へ