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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第十九話 志願者、そして去りゆく者・其の参

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無駄に思えるほどの虚勢を張る男----------それが沖田の、谷三十郎に対する第一印象であった。そしてその兄の存在に隠れて弟・万太郎の存在がかすんでしまい、結局万太郎に関しては何の印象も残すことが出来なかった。



 谷三十郎、万太郎の兄弟が壬生屯所にやってきたのは松本捨助が京都を発った直後、四半刻も経たない内であった。どうやら伏見辺りに宿を取って朝一番にこちらにやってきたらしい。

「頼もう!拙者、谷道場が主、谷三十郎と申す者である!最終面接に参った故、新選組局長に目通り願いたい!」

 無駄に肩肘を張った名乗りに、屯所に居た隊士達は失笑を漏らす。それは平隊士達に稽古を付けていた沖田や永倉、原田も同様であった。

「何もあそこまでしゃちほこばらなくてもいいんじゃねぇか。」

「江戸者に舐められて堪るか、って意気込みが見え見えでみっともねぇな。」

「ああいう人を『張り子の虎』って言うんでしょうね。本当に腕が立つ人はああ虚勢を張ったりしないものですよ。」

 三人三様好き勝手を言っていたがさすがに屯所の門前に放って置く訳にもいかない。仕方なく最年少の沖田が出向き、谷兄弟を局長室に案内した。



 大阪で道場を開いていた谷三十郎・万太郎兄弟であったが、元々の生まれは備中松山藩である。
 旗奉行・谷三治郎供行の子として生まれた二人は何不自由なく成長し、嘉永六年一月に三十郎は家督相続もした。さらに藩主・板倉勝静の近習役として仕えていたという。そんな恵まれた地位にいながら何故大阪で道場を開くことになってしまったのか。近藤、そして土方はその部分を問うた。

「故あって安政三年十月にお家断絶の憂き目に遭いもうした。その後ここにおります弟・万太郎と共に故郷を出奔し大坂南堀江町にて道場を開いておりまする。出来ることならば新選組にて名を上げ、汚名を返上したい所存、何卒宜しくお願い申し上げる。」

 さすがに『お家断絶』の理由には言葉を濁し、三十郎と弟の万太郎は頭を下げる。どうも自分の都合が悪くなると言葉巧みに逃げ出すようだ。屯所門前の空威張りといい、どうも沖田には谷三十郎という男が薄っぺらく見えてしまう。

(実力本位の新選組に入隊しても上手くやっていけるとは思えないんですけどねぇ。)

 傍に控えていた沖田は釈然としないものを感じていたが、『人手不足』という状況の前に人間関係云々という些細なことは無視されてしまうに違いない。

「・・・・・判りました。では、後日改めて結果を報告いたしますので、大阪にてお待ちください。」

 むしろ近藤の方が物腰柔らかに対応する。その話しぶりだけでは谷の方が上に見えるが、その実力差は互いの手の剣だこが証明していた。勿論近藤の方が分厚く、固い。その剣だこの違いに気がついた沖田は、自分の勘が正しかったことを確信した。

「それでは失礼つかまつる。良き返事を待たせて戴こう。」

 沖田にどのように思われているかも知らず、可能な限りの虚勢を張り続けながら、谷兄弟は大阪へと帰っていった。



 谷兄弟が帰った後、近藤、土方を中心とした幹部数人が谷兄弟の入隊について相談を始めた。

「道場を開いているだけに剣や槍の腕は隊士としてもやっていけるだろう。道場の評判も可もなく不可もなく、ってところのごくごく普通の道場らしい。しかし・・・・・断絶の理由が引っかかるんだよな。」

 車座の中、土方は唸った。

「人を使って調べさせたんだが・・・・・どうも断絶の理由が兄の方の女性関係らしい。」

 土方は手にしていた書き付けを近藤に手渡す。それは大阪で活動をしている山崎に調べさせた谷兄弟の周辺報告であった。そこには谷三十郎が藩主の姫君と密通、家老の奥方との不倫などの噂があると書かれている。それを覗き込んだ沖田は思わず吹き出した。

「土方さんだって人のことは言えないじゃないですか。確か十七の時、奉公先の下女を孕ませたって・・・・・。」

「煩ぇ!まったく古傷をほじくり返しやがって、あれは俺から誘った訳じゃねぇ!」

 土方は憮然としながらも、ふと何かを思い出し話を続けようとした。その時である。

「それはそうと、あの兄弟、採用ということで構わないか?何だかんだ言っても実技も問題ないのだから。」

 土方が何か続けて言おうとしたところに近藤が割って入ったのだ。その近藤の言葉に土方は少し眉を顰めたが、局長の決断である。

「仕方ねぇよな。女癖はともかく・・・・・とりあえず腕はあるしな。」

 土方は自分の女癖を棚に上げ、渋々と谷兄弟の入隊を認めた。



 冬の夕暮れはあまりにも早い。あっという間に周囲は茜色に染まり、人々は家路を急ぐ。そんな中、壬生屯所の天の邪鬼が一人、外に出かけようとしていた。

「・・・・・土方さん、先ほどの採用可否の場で何を言おうとしていたのですか?」

 茜色に染まる土方の横顔に沖田が語りかける。

「おめぇはさすがに気がついていたか・・・・・それが聞きたけりゃ付き合え。巡察の当番に当たっていないだろうが。」

「・・・・・島原じゃなければ話せないことなんですか?」

「・・・・・。」

 土方は黙ったまま先に進む。こうなると土方は一言も喋ってくれないことを沖田は熟知していた。仕方ない----------そう思いながらも沖田は土方の背中を追っていった。



 土方の馴染みの茶屋で酒さえ頼まず、台の物と茶で時間を潰していると客がやってきたと若い衆が告げに来た。

「お久しぶりです。土方副長、沖田助勤。」

 一重の細い眼に細面、上方によくいる優男そのものといった特徴のない顔立ちをした商人風の男は変装した山崎烝であった。

「なるほど・・・・・山崎さんですか。だったらこちらの方が良いですね。」

 わざわざ屯所から出向いたのか、ようやくその理由が解った。

「そういう事だ。山崎、あの後調べた谷道場のその他の評判は。」

「へぇ・・・・・何と言いますか・・・・・。」

 山崎は苦笑いを浮かべる。

「どうも虚勢を張る癖があらはるみたいですね。近所のおばはん連中がさんざんケチを付けまくって、それから逃げるのに一苦労しました。それと、ぱっと見よりは剣術の腕は大したことありまへん。実技試験でも上手い具合に自分より腕の劣る相手を捉まえて受かってはりましたし・・・・・『勝ったように見せる』ことに長けていることは確かです。」

「そんな事が出来るんですか?」

 沖田が目を丸くする。勝ちは勝ち、負けは負けなのではないかと不思議そうに尋ねると山崎は何とも言い難い苦笑を浮かべた。

「それが道場主の腕の見せ所なんです。弱い道場主の所になんか誰も入りたがらないやないですか。わても影から実技試験を見させて戴きましたけど、相手に気付かれへんよう小狡い小技を駆使してましたえ。」

「・・・・・それでも上方ではまぁまぁ使える部類に入ってしまうのが悲しいところだが。」

 土方は茶をすすりながら呟く。

「でも、近藤先生が諾の決断をしたんですからそれを認めるんでしょ、土方さん。」

 沖田にあっさり指摘され土方は面白く無さそうな表情を浮かべ、山崎は思わず吹き出してしまった。

「・・・・・くそったれが。こんな事になるんだったらもう少し佐々木に慎重な行動を取らせておくべきだったな。俺達が無名の頃、いの一番に志願してきただけあってなかなか腕の立つ奴だったが・・・・・。」

 土方の言葉に三人はしんみりとする。確かに剣の構えに多少の隙はあったものの、それ以外は申し分ない隊士であった。しかし、それだからこそ真っ先に死地に赴き命を落としてしまったのである。

「それはそうと、山崎。もう一方の調べ物はどうなっている?」

 自ら作り出してしまったしんみりした雰囲気を打破するかのように土方は山崎に尋ねる。

「松永、越後、松井の『脱走隊士』ですね。それが三人とも大阪の場末の古道具屋に潜伏してるんですよ。刀や馬具を主に扱っとるんですが・・・・・。」

 しかし、三人の居場所はすぐに判明したものの、そこから先が途切れてしまうと言うのである。

「桂は勿論、宮部あたりもその店には直接足を運ぶことは無いんですが、もっと下っ端は頻繁に出入りをしてまして・・・・・臭いはするんやけど引っかかるのは雑魚ばかりで。」

 山崎は気落ちしたように話し続けるが、突如何かを思い出したように細い眼を見開いた。

「そや、この前京都の『枡屋喜右衛門』のところの大高っちゅう男が店に来てました。古道具屋同士やから気にしまへんでしたけど、よくよく考えたら桝屋ほどの大店の関係者が大阪の場末の古道具屋に用事があるなんてありえへんですよね。」

 山崎の言葉に土方も頷く。桝屋は古道具屋と言っても諸藩や公家にも顔が利く大店である。店の格を考えるといくら使用人と言っても場末の古道具屋に京都の大店の者が出入りすることは極めて珍しい。

「桝屋か・・・・・確かあそこは諸藩御用達の古道具屋だったよな。」

「ええ、長州藩とも勿論繋がりはあります。」

 沖田の言葉にしばし沈黙が流れる。もしかしたらその線から桂など大物に繋がる可能性が出てくるかも知れない。あまりにも頼りない、細い線ではあるが、それらをたぐり寄せるしか佐々木の本当の仇を討つことはできないのである。

「厄介な仕事が続くが・・・・・頼んだぞ、山崎。」

「へぇ、こればかりは誰にも譲る気はありまへん。絶対にものにしてみます。」

 土方の檄に山崎は細い眼をさらに細めてにっこりと笑った。



 そんなこんなで些細な問題がいくつかあったものの、新入隊士の入隊は谷兄弟の入隊をもってひと段落した。しかし十二月、野口の名を騙る水戸浪士が出没し、強請をするという事件が勃発したのである。

「局長!こればかりは俺に担当させてください!名を騙られて黙って指をくわえて見ているなんて俺にはできません!」

 冷静になれという周囲の忠告に耳を貸さず、問題の人物が出没するという村に出かけていった野口だったが、その現場で捕縛したのは思わぬ人物だった。

「ひ・・・・・平間さん?な、なんで・・・・・。」

 野口は愕然とする。その男は芹沢と平山が殺された際、ただ一人逃げだし行方不明になっていた平間だった。そして平間の口から野口へさらに驚愕の事実が告げられたのである。

「野口、お前こそ何で未だに壬生浪士組なんかにいるんだ。芹沢さんは土方に・・・・・試衛館の奴等に暗殺されたんだぞ!いい加減目を覚ましてさっさと壬生浪士組から脱退しろ。でないと・・・・・お前も芹沢さんと同じように奴等に殺されるぞ!」



UP DATE 2011.02.04


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新選組ファンの皆様、お待たせしました。二週間ぶりの『夏虫』です。ただ、谷兄弟にいまいち萌えを感じていない管理人のせいかいつもより微妙に短い気が・・・・・リハビリということで許してやってくださいませ。
谷さんについては色々言われておりますが、拙宅ではあんまり良いイメージで書かれないかも・・・・・剣術に関しても『介錯失敗』エピソードを踏まえそれほど上手くないことになっておりますし、女性問題でお家断絶されちゃってますし(苦笑)。こんなんですからこれから出てくる三男坊に自分の出世を託すしかないという状況です。はったりかましのヘタレな谷三十郎になりそうですが、ご了承くださいませ。(萌えを感じれば芹沢さんみたいにいい男に書けるんですが、どうもこの人は・・・・・う~ん。)

そして次回は去りゆく者、野口君の話になります。水戸派のもう一人の生き残り、平間と再会して事実を知らされることになる野口君ですが、果たしてどんな行動に移るのか----------芹沢鴨の最後の弟子とも言える彼の行動を見守ってやってくださいませ。
次回更新は2/11、23:00になります。風邪さえ引かなければ(苦笑)体調管理にだけは気をつけます(^_^;)
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