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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第二十話 志願者、そして去りゆく者・其の肆

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芹沢は試衛館の奴等に殺された----------平間の言葉に野口は愕然とした。

「な・・・・・何寝ぼけた事を・・・・・そんなの、嘘に決まってる!」

 野口は平間の襟首を掴み、その言葉を真っ向から否定するが、その声は擦れ、焦りが見え隠れしてしまう。そんな野口に対し、平間は余裕の表情でふん、と鼻で嗤った。

「嘘なもんか。俺はあの現場にいた、唯一の生き残りなんだぞ!」

 野口の手を振り払い、平間は芹沢と平山が殺された日の事を話し始める。

「あの雨の日、奴等は庭先から入り込んで平山をいきなり斬りつけたらしい。俺は玄関脇で糸里と寝てたんで直接その現場は直接見ちゃいねぇがよ・・・・・。」

 直接その現場を見ていない----------平間のその一言に野口は怒りを露わにする。

「だったら何で試衛館の奴等が芹沢さんを殺ったって判るんだよ!いい加減な事を言うんじゃねぇ!もしかして平間さん、あんたが殺ったんじゃないだろうな?」

 野口としては、まだ試衛館の者達が芹沢らを殺したとは信じられなかった。それよりも芹沢亡き後壬生の屯所から姿を消した平間が芹沢を殺して逃げたと考える方が自然である。元々平間は芹沢の家臣であり、立場的に芹沢に不満を持っていたとしてもおかしくない。その事を野口は指摘したが、平間はおかしそうに吹き出しただけだった。

「まぁ待て。焦る気持ちは解るが、話にゃ順番ってもんがあるんだ。」

 平間はいきり立つ野口を宥めながら話を続ける。

「・・・・・平山の叫びの後、お梅の悲鳴が聞こえてきたんだよ。あの声は忘れられねぇ。『あ・・・・・あんた・・・・・ひじか・・・・・!』ってな。それを聞いて俺は襖の隙間から隣を覗いたんだ。そうしたら背の高い・・・・・たぶんあれは沖田だろうな、そいつがお梅の首を斬りやがったんだよ。」

 どうやら土方と沖田が関わっていたらしい事だけは判ったが、もしかしたら他人のそら似かも知れないし、そもそも行灯の灯りだけでは人物の特定だって難しい。

「・・・・・他には誰がいたんだよ。」

 まだ平間に対する疑いが晴れた訳ではなかったが、平間の言い分を全て聞かなければ判断もできないと、野口は平間に訊ねる。

「背格好と声からすると山南と原田だろうな。三人に対して四人の刺客、まぁ妥当な数だろう。悪い事は言わない、お前もこのまま俺と一緒に逃げた方が身のためだぞ。」

 最後には野口を説得するように平間は新選組からの脱走を勧めてきた。

(腐れ外道が!)

 芹沢、平山が殺された現場にいながらただ一人逃げ出した男の言う事など信じる事は出来なかった。しかし平間が嘘を言っているとも思えない。

(・・・・・俺は、俺の方法で真実を確かめればいい。)

 そう覚悟を決めた野口は、口の端に微かな笑いを浮かべて平間の前から立ち上がった。

「野口・・・・・?

「平間さん・・・・・これは俺からの最後の頼みだと思って聞いてくれ。村役人の尋問が終わったら、とっとと水戸に帰って二度と京都に来ないでほしい。俺は・・・・・壬生に帰る!」

「な・・・・・死ぬ気か、野口!」

 驚き、野口を引き留めようとする平間だったが、そんな平間に背を向け、野口は振り返る事なくその場を去っていった。



 木枯らしが吹き付ける中、野口は重い心を抱えながら壬生への帰路を重い足取りで進んでいた。

(よりによって・・・・・壬生浪士組創立当初から一緒にやってきた試衛館の奴等が、芹沢さんを暗殺するなんてあり得るんだろうか。)

 浪士組として上洛した直後、清河八郎による騒動があった際も早々に京都に残ると決めたのが芹沢ら水戸派と近藤の試衛館派だった。時折口喧嘩をする事はあったが決して仲が悪かった訳ではなく、互いに協力して浪士組をここまで大きくしたのに、暗殺なんてあり得るのだろうか、と野口は悩む。
 近藤や土方に権力欲が見え隠れしていれば疑いを抱くのもたやすいのだろうが、攘夷派に対する鬼神のような態度以外はむしろ水戸派の者より大人しいくらいだ。そんな近藤や土方が芹沢を殺さなければいけない理由は野口には思い当たらなかった。

(墓前の線香は絶えた事はないし、事あるごとに墓参りはしている。後ろ暗いところがあるならば墓にさえ近づかないんじゃ・・・・・。)

 そう思いたいものの確信を得られない。むしろ後ろ暗いところがあるから墓を拝むのかも知れないと疑心暗鬼に苛まれる。

(とにかく・・・・・聞いてみよう。話して貰えないかも知れないけど、一か八かだ。)

 もしかしたら自分の知りうる事以外の要因があるのかも知れない。芹沢を殺した相手を恨むにしてもまずは事実、そして真実を知りたい----------いつもより長く感じる帰路を、重い足を引きずりながら野口は一歩、また一歩と進んでいった。



 夕方、ようやく壬生の屯所に帰ってきた野口の目に真っ先に飛び込んできたのは平隊士達の稽古を終え、風呂に行こうとしていた沖田であった。

「あ、野口さんお帰りなさい。どうでした、捕物の方は?」

 満面の笑みを浮かべて沖田は野口を出迎える。この笑顔が偽りのものとは思いたくない----------そうは思うものの真実を聞かずにはいられない。野口は沖田の袖を引っ張り、物陰に連れ込み真剣な表情で声を絞り出した。

「俺の名前を騙っていたのは・・・・・平間さんでした。」

 その瞬間、沖田の顔から笑みが消え、しばしの沈黙が二人の間に流れる。その沈黙に絶えられなくなったのは野口の方だった。

「・・・・・平間さんから、芹沢さんが殺された時の話も聞きました。試衛館の四人がその現場にいたって・・・・・沖田さんもいたって・・・・・本当なんですか!」

「しっ、誰かに聞かれます。」

 沖田は険しい表情のまま、野口の口許を押える。

「・・・・・唯一の生き残りに出会ってしまったのなら仕方ありませんね。ここでは何ですから局長室で詳細を話します。」

 聞こえるか聞こえないかの、低く小さな沖田の声が、野口の耳にかろうじて届き、野口は黙って頷いた。



 二人が局長室に出向いた時、そこには近藤が一人、分厚い書類を読んでいた。

「近藤先生・・・・・野口さんの名前を騙っていた者の正体は平間さんだったそうです。」

 沖田がそう口に出した瞬間、近藤の肩がぴくり、と跳ね上がる。

「・・・・・そうか。だったら芹沢さんの事も聞いたんだね。」

 近藤の声は心なしか湿っていた。そして沖田と野口の方へ向き直り、口を開きかけたその時、隣の部屋の襖が開いた。

「土方・・・・・副長?」

 土方の姿を見た瞬間、野口の顔が強張る。

「近藤さんは直接手を下しちゃいねぇ。どうせなら本物の『芹沢鴨殺しの下手人』に話を聞きたいんじゃねぇか、野口?」

 土方の言葉に野口は力強く頷いた。

「・・・・・事の発端は吉田屋の小寅とお鹿の断髪に対して会津を通して朝廷から苦情が来た事に始まる。」

 早い冬の日暮れは四人の居る部屋を血の色に染める。まずは近藤が話し始めた。

「確かに妓への断髪はやり過ぎだったが、捜査そのものは会津の許可を貰っていたものだし、暗殺に値するものじゃ無いと我々も当時思った。どうやら芹沢さんの水戸贔屓がどこかから漏れてしまったらしい。」

 近藤の言葉に野口の眉がぴくり、と跳ね上がる。

「野口さん、何か心当たりがあるのですか?」

 野口の表情の変化に気がついた沖田が、野口に尋ねた。その沖田の問いに答えるように野口が口を開く。

「ええ・・・・・実は水戸藩の昔の仲間に何度か逢っておりました。芹沢先生は『新選組』の名を押しつけられ、会津の一組織にさせられようとしている事に不満だったようで・・・・・。」

「そんな事があったのか?」

 野口の告白に、土方が驚きの声を上げる。

「ええ・・・・・芹沢さんは『壬生浪士組』の名に矜持を持っておられました。」

 そう言って野口は涙ぐんだ。

「・・・・・会津からの命令であったが、創立当時からの同志だ。まず新見から暗殺し、芹沢さんにはそれとなく京都から離れてくれと言ったんだが・・・・・。」

「嘘を吐くな、近藤さん。真っ正面から逃げろ、って言ったんだろう。」

 土方の言葉に野口は苦笑いを浮かべる。

「へそ曲がりなひとでしたからね。真っ正面から言われたら絶対に逃げたりなんかしないでしょう・・・・・ああ、それで新見さんと芹沢さん達の間に時間があるんですね。てっきり潜伏していた長州浪士達の仕業だと思っていたので気にも留めませんでしたけど。」

「・・・・・私達も会津に疑われていたしな。暗殺の日には会津藩直々のお膳立てさえあったからな。結局行動に移さない訳にはいかなかったんだ。」

 近藤の言葉に沖田も頷き、話を続ける。

「・・・・・四人がかりでも返り討ちに遭うかと思いましたよ。本当に芹沢さんは強いひとでした。」

「・・・・・芹沢さんは自分の命と引き替えに新選組・・・・・否、壬生浪士組を残したかったんだろう。俺達に後々の事を託して逝ってしまったよ。それこそ・・・・・平間のように逃げてくれたらいくらだってやり直しがきいたのによ。」

 土方は一気にまくし立て顔を背ける。その声は明らかに湿っていた。

「・・・・・壬生浪士組の今後と共に君の将来も芹沢さんに頼むと言われている。もし、芹沢さんを殺した我々を見るのも嫌だというのであれば除隊しても構わない。しばらくの間生活のために必要な援助もしよう。勿論一緒に隊をもり立ててくれる事に越した事は・・・・・。」

 重苦しい空気を打ち破るように近藤が野口に語りかける。だが、その言葉を途中で遮ったのは他でもない野口であった。

「申し訳ございません、お気遣いはありがたいのですが・・・・・芹沢先生の追い腹を斬らせて戴きます。」

「何だって!」
 
 野口の思わぬ発言に三人は愕然とする。

「野口君、落ち着いてくれ!」

「俺達に対して仇討ちするってんならともかく、追い腹だと?冗談はよせ!」

「そうですよ!追い腹を斬ったら芹沢さんの遺志に背く事になりますよ!」

 だが、三人の説得にも拘わらず、野口の決意は変わらなかった。

「いいえ・・・・・・芹沢先生は武士として自分の命と引き替えに壬生浪士組を守りました。あなたたちも武士として斬りたくない人を斬ったてまで壬生浪士組を守った・・・・・俺も武士としての矜持があります。最後の芹沢の弟子として、先生の後を追う事をお許し下さい!」

 芹沢の仇であるはずの三人に対し野口は頭を下げ、野口は追い腹を斬る事をただひたすら願い続けた。



 野口に対しての説得は三日三晩に及んだが、野口の決意は微塵も動かなかった。近藤や土方もできる限りの粘りを見せたが、それ以上に強い野口決意にとうとう彼を諦め、切腹を認めざるを得なかった。

「申し訳ないが・・・・・俺達にはお前さんの介錯をする資格はない。他の者で構わないか?」

 土方の申し出に野口は年相応の幼い笑顔を見せ、気丈に応える。

「ええ、勿論です。そもそも芹沢さんの遺志を踏みにじって勝手に腹を切るのは俺自身ですから。」

 それは水戸派最後の隊士として、悲しいほどに武士らしい一言であった。



 十二月二十七日、安藤早太郎の介錯により野口健司は切腹する。享年二十一歳の若すぎる死であった。



UP DATE 2011.02.11


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とうとう水戸派最後の砦、野口くんが切腹してしまいました(T_T)。 
野口君の切腹理由は解っていないらしく、八木源之丞さんは『ささいなことで詰め腹を切らされたのではないか』って後年言っていらっしゃいます。なので思いっきり妄想の翼を広げて『直接試衛館派に問い質した』ことにしてしまいました(^_^)
あまり話に登場していなかったキャラですが、壬生浪士組創立メンバーの一人ですからねぇ・・・・・やっぱり寂しいものがあります。

次回更新予定は2/18、年明け(とは言っても芹沢局長が亡くなっておりますので喪中?)あたりからの話になります(話のタイトルも変わりますが、まだこれから考えます・苦笑)
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