FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第二十二話 甲子革令の満身創痍・其の貳

 ←拍手お返事&断捨離日記その四 →運び屋アレク そして宇宙の海原へ・2
 新選組の定宿・京屋が騒然とする中、戸板に乗せられて運び込まれた山南の顔面は蒼白を通り越して土気色に変わっていた。出血の為着物は紅に染まり、戸板にまで染みている。

「山南さん、しっかりしろ!すぐに医者を呼ぶから死ぬんじゃねぇぞ!総司!」

「承知!山南さん、頑張って下さいね!」

 沖田は京屋に運び込まれる山南にそう声を掛けると医者を呼びに駆け出していた。



 話は京屋での騒ぎの半刻前に遡る。

「おい、主はおるか!攘夷志士様のご来店だ!」

 高麗橋傍の呉服商・岩城升屋の店先に数人の浪士達が座り込み、他の客達を追い散らした。残された店の者は浪士達の睨みに怯え、店の片隅でがたがたと震える。

「た・・・・ただいま、あ・・・・・あるじは他出しておりまして・・・・・。」

 怯える店員達の中、浪士達と話を付けるため店先に出てきた番頭は額に汗を滲ませながら浪士達に訴えた。だが、浪士達がそんな言訳で納得するはずもない。

「だったら貴様でも構わぬ!攘夷のための資金、提供して貰おうか!」

 浪士はばん!と床を蹴飛ばすと、番頭の襟を掴み怒鳴りつける。

「そ・・・・・そんな、わての一存では・・・・・。」

「だったら今すぐ主を呼んでこい!!」

 もう一人の浪士が刀を抜き、番頭ののど元に突きつけた。

「ひ、ひぃ!!」

 恐怖のあまり番頭はのけぞり、がたがたと震える。その時である。

「浪士ども!止めぬか!」

 不意に浪士達を止める声が背後から襲いかかったのだ。その声に浪士達がむっとした表情で振り返る。

「誰だ!」

 振り返った浪士達の目の前には、三十代ほどの武士が立ちはだかっていた。どうやら一人らしく周囲に仲間らしい者は居ない。たった一人なら訳なく潰せる----------そう浪士達が思った矢先である。

「新選組副長、山南敬助!不逞浪士ども、覚悟!」

 三十代ほどの武士----------山南は愛刀赤心沖光を引き抜き、店の中に飛び込んだ。

「新選組!」

 山南の名乗りにその場にいた浪士達の表情が豹変し、全員が慌てて大刀を抜く。だが、山南の動きは浪士達の動きよりも一瞬だけ早かった。

キン!

 山南の力が勝ったのか、耳障りな金属音と共に浪士の大刀が折れ、切っ先が番頭の左膝のすぐ横に突き刺さる。

「う、うわぁぁ!」

 そのぎらぎらと光る刃の欠片に、番頭の口から叫び声が飛び出した。

「誰か!京屋に知らせを!新選組の定宿なんです、お願いします!」

 さすがに一人でこの人数を相手にするのは難しいと、山南は戦いながら店の隅に蹲っている店の者に叫ぶ。

「へ、へぇ!」

 手代の一人が山南の叫びに応え、裏口に回ろうと動き出した。

「させるか!」

 山南の頼みを聞いて動き出したその手代を追って一人の浪士が土足で上がり込もうとしたその瞬間、浪士の背中から血が噴き出し、その場に倒れる。山南の刀が浪士の背中を袈裟懸けにしたのだ。

「お、表に出ろ!こんな狭いところで斬り合いをやったら俺達は不利だ!出るぞ!」

 確かに大勢で取り囲むには店の入り口は狭すぎる。その狭さ故人数的有利さを生かせず、結局一対一の形になってしまい剣術の腕に勝る山南が圧倒的に有利なのだ。だからこそ山南も店の中に入ってきたのである。
 このままでは勝ち目はないと理解した浪士達は、主格の男の命令に従い怪我をした仲間を抱えながら表に飛び出した。山南も追いかけるが、あえて入り口の所に立ちふさがり、そこからは一歩も出ようとしない。

「逃げるなら今のうちだぞ。新選組の仲間がここに到着するのも時間の問題だ。」

 そこから一歩でも表に出てしまったら圧倒的に不利になる事を山南は熟知している。かといって不逞浪士をただ逃がす訳にも行かない。山南は少しでも長く浪士達をこの場に留め置こうと、あえて浪士達を煽るような言葉を吐いた。

「ふざけるな!やっちまえ!」

 山南の言葉に煽られた浪士達が山南に襲いかかる。しかし狭い入り口に立ちふさがった山南に斬りつける事は難しく男の刀ははじき飛ばされた。

(しまった、刃こぼれが・・・・・。)

 男と刀を交わした瞬間、刃こぼれがしたのである。浪士の残りはあと五人、手にしている大刀と腰に差した脇差しで保つだろうか----------ほんの僅かだが、山南の目に焦りの色が見えたのを主格の男は見逃さなかった。

「どうやらその刀はなまくららしいな!行くぞ!」

 主格の男の怒声と同時に、主格の男を含んだ三人の男達が一斉に山南に襲いかかってきたのである。一気呵成の攻撃だが山南は落ち着いた剣捌きで、最初に右側から襲ってきた一人目をあっさりといなした後、主格の男の刀を受ける。だがその受け方がまずかった。

パキン!

 嫌な音と共に山南の刀が切っ先から一尺一寸のところで折れたのだ。それでも折れた刀を使い力ずくで主格の男を地面に叩き付け、急いで脇差しを抜こうとしたその時である。

ザシュ!

 濡れた雑巾を叩き付けるような嫌な音と共に、山南を激痛と濃い血の臭いが襲う。

「痛----------!」

 骨にまで届くほどの深手であった。それだけに敵の刀はなかなか抜けない。山南は左腕に刀が刺さったまま右腕一本で脇差しを抜き、そのまま相手の胴をなぎ払う。

「うわぁぁ!」

 山南の脇差しは浪士の腹を切り裂き、山南の顔に血しぶきがかかる。腹を斬られた浪士は絶叫を上げ、刀の柄を離しながらその場に倒れた。そして山南の腕に刺さった刀は男の体重によって山南にさらなる深手を負わせた後、ずるりと山南の腕から離れる。

(味方は・・・・・まだ来ないのか。)

 腕の激痛に気が遠くなりそうになりながら、山南は残りの二人を睨み付けた。その時、人混みを掻き分けて永倉が隊士を引き連れてやってきたのである。

「新選組だ!浪士ども、神妙にしろ!」

 永倉の声と同時に平隊士達が浪士達を捕縛し始めた。それを見てほっとした山南は膝を付き、その場に倒れる。

「山南さん!しっかりしてくれ!おい、誰か!傷口を押える晒と戸板を!」

 永倉が近づき、指示を出していたところまで----------そこで山南の意識は途切れた。



 京屋に運ばれた山南は暫くすると一旦目を覚ますが、すぐに意識を失ってしまうという状態を繰り返した。

「血が・・・・・流れすぎましたな。」

 沖田が連れてきた外科医がしかめ面をして首を横に振る。

「左腕の傷はかなりの深手です。意識が戻り、元気になったとしても左腕は動かないものと思ってください。」

「な・・・・・何ですって!この傷は・・・・・治らないんですか!」

 近藤は医者の両肩を掴み訴えが、医者の答えは非情なものだった。

「極めて難しいでしょう。というより、まずは生きるか死ぬかが問題です。下手をすればこのまま命を落とす事もあり得ます。」

 医者の言葉に近藤はがっくりと肩を落とし、涙ぐむ。

「山南さんの生命力に賭けるしか・・・・・・無いって事ですか。」

 そんな近藤の肩に手を掛けながら土方が医者に確認をする。

「ええ、それなりのご覚悟をお願いいたします。では私はこれにて・・・・・。」

 医者はそう言い残すと京屋を後にした。



 さすがに大阪では落ち着いて治療に専念する事も出来ない上に、将軍も京都に十四日に淀川を水路上洛する予定だったので、それより一足先に山南は藤堂の付き添いで京都に帰還した。

「せめて郷里には・・・・・知らせておいた方がいいよな。」

 遅めの年賀状も出さなくてはならなかった事もあり、土方は折れた山南の愛刀・播州住人赤心沖光の押し型(刀の形を紙に写し取ったもの)を小島鹿之助に送った。それと共に山南の怪我の状況も詳細に書き記し、万が一も覚悟しておくようにと付け加える。
 そして怪我の状況を心配していたのは新選組の隊士だけではなかった。

「皆さん、心配してお見舞いに来て下さるのはありがたいんですけどねぇ。」

 山南の状況に関しては箝口令を布いていたが、会津藩から事件のあらましが漏れてしまったらしい。会津藩関係者や、将軍の上洛と共に京都にやってきた江戸での知人が次から次へと山南を心配して見舞にやってきたのである。会わせたいのは山々だが、意識が戻ったり失ったりの不安定な状況下では面会さえもままならない。

「時折目を開けてくれはするんですけど、すぐに眠りに入ってしまいますし・・・・・山南さん、死んだりなんかしませんよね。」

 沖田が不安げに呟くのも尤もであった。手ぬぐいに含ませて砂糖水や重湯を与えてはいるが、まともな食事もしていない現状では体力もどんどん落ちてゆく。とにかく意識さえ完全に戻ってくれれば----------それは新選組幹部全員が願うところであった。

「山南さんを信じるしかないな。」

 その場にいる幹部達の間に重苦しい沈黙が漂う。

「近藤先生、もし山南さんの左腕が動かず、武士としてお役に立てないようになってしまったら・・・・・・やっぱり江戸に・・・・・?」

「それはないな。左腕が動かなくなってもやって貰わねばならない事は多すぎる。ただでさえ多くなってきている隊士をまとめたり、事務方の仕事をやって貰わねばならないのだから。山南君にとっては不本意だろうけど・・・・・。」

 近藤の言葉に、沖田はただ頷く事しか出来なかった。



 山南が意識を取り戻したのは壬生の屯所に戻ってから五日後の事であった。

「・・・・・ここは?」

 ゆっくりと目を開けた山南は、左腕の激痛に顔をしかめる。そして岩城升屋で左腕を切りつけられた事を思い出した。

「山南さん、気が付いたの?壬生だよ!」

 看病をしていた藤堂が嬉しげに声を掛ける。

「良かった・・・・・・五日も意識が戻らなかったんだよ!どれだけみんなが心配したか判ってる?山南さん!」

 ちょっとふて腐れたように言うと、藤堂は湯冷ましを茶碗に注いだ。

「気が付いて・・・・・良かったとは思えないけどな。左腕が・・・・・。」

 山南は自分の左腕に視線を落とす。真っ白な晒で包まれた左腕からは傷の様子は判らないが、自身の感じる痛みでその傷がいかに深いか----------武士として致命傷を負ってしまったかを自覚する。

「大丈夫?」

「・・・・・切断されなかったのが不思議なくらいだ。あまり手練れじゃなかったんだろう・・・・・痛っ!」

「山南さん、無理して起きないで。ほら、少し首を傾げてくれれば・・・・・。」

 そう言いながら藤堂は山南の頭を抱え、ゆっくりと湯冷ましを含ませた。



UP DATE 2011.02.25


Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
ランキング参加中。お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv

  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






岩城升屋事件の顛末です。この事件に関してはいろいろな説がございますが、拙宅では生死に関わるような致命傷だったことにさせて戴きました。この年、年賀状さえ一月末にようやく書いておりますし、面会にいたっては日野連光寺村の名主でもある富沢さんという方が何度もいらしているにも拘わらず一度も山南さんとの面会が叶わなかったとか・・・・・建前上『病気』とのことだったらしいですが、富沢さんが京都にいた一月十七日から四月十三日まで一度も会わないっていうのもねぇ。
これらの事から岩城升屋事件はこの時の将軍上洛時、結構な深手を負ってしまった事にしてしまいました。それでも西本願寺引っ越し直前まで新選組と行動を共にしていたのですからやっぱり必要とされていたのでしょうねぇ・・・・・。

次回更新は3/4、症状が落ち着いた山南さん&風邪をこじらせ体調不良に陥った松平容保様を中心に展開する予定です。
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【拍手お返事&断捨離日記その四】へ  【運び屋アレク そして宇宙の海原へ・2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【拍手お返事&断捨離日記その四】へ
  • 【運び屋アレク そして宇宙の海原へ・2】へ