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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第二十三話 甲子革令の満身創痍・其の参

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山南が意識を取り戻した----------その話を聞きつけた新選組幹部達はすぐさま山南が床についている部屋へと集まった。彼らのその表情は多少の不安入り混じっていたものの、意識が戻った安堵感に彩られている。

「よかったぁ・・・・・一時はどうなることかと心配していたんですよ。」

 思わず沖田が漏らしてしまった一言は、その場にいた全員の気持ちを代弁するものだった。

「いや、心配を掛けてしまって済まなかった。さすがに一度に三人の相手は難しかったようでね・・・・・こんな失態を犯してしまったよ。」

 時折痛みに顔を歪ませながらも、山南は冗談めかして話す。

「・・・・・そのうちの一人は太刀筋も読めねぇような下手くそだったんじゃねぇのか?太刀筋が読める相手だったらあんただったら上手くいなせるだろう、山南さん。」

 そんな山南の冗談にくすりとも笑わずに、土方は山南に訊ねた。小野派一刀流の免許皆伝で、北辰一刀流、そして天然理心流を習得している山南である。大抵の流派の太刀筋なら読む事ができるであろうし、それを利用して複数の相手と対峙する事ができる。そんな山南に怪我を負わせる事ができるとすればむしろ剣術もろくに知らない、太刀筋も何もあったものじゃない素人であろうと土方は踏んだのである。そんな土方の言葉に対して山南は苦笑いを浮かべた。

「ははは、相変わらずきついな、土方君は。どんなに剣術がなっていなくても実戦では関係無いさ。実際私は・・・・・・痛っ。」

「山南さん、無理しちゃ駄目だよ!」

 痛みに呻き、傷を押えて蹲った山南を藤堂が慌てて支えた。まだまだ傷は完全に塞がっておらず、体力もかなり落ちているのだ。皆を相手に喋るだけでもかなり辛いはずである。さすがにこれ以上山南に喋らせる訳にはいかないと、藤堂はそのまま山南を床にゆっくりと横たえた。

「確かに山南さんだったら手練れ相手の方がやりやすいか・・・・・しかしよぉ、太刀筋が読めないという点では土方さんも一緒じゃ・・・・・・・うわっ!何するんですか、土方さん!」

 余計な事を口走った原田に対し、土方の鉄拳が襲いかかったのである。拳はものの見事に原田の脳天を捉え、原田呻きながらは頭を押え蹲った。

「ぶっ殺されてぇのか、左之!それが俺の利点だ!」

 剣術の『型』がなっていない土方は目録しか取っていないが、土方が実戦では強さを発揮することは誰も否定しない。もしかしたら山南の腕を斬った男はそういう類の者なのかもしれないと沖田も思う。

「土方さんみたいな人が敵にいるんですか・・・・・本当に厄介ですよねぇ。」

「・・・・・だいぶ含みがあるな?総司。」

 土方は拳骨にはぁ、っと息をかけ沖田を睨み付けた。今にも拳が沖田に襲いかかりそうである。そんな剣呑な状況に沖田はぶるぶると首を思いっきり横に振った。

「いいえ、含みなんてありませんよ。土方さんほど厄介な人は居ませんし。」

 思わず零してしまった沖田の言葉に、全員が大笑いをした。



 次の日、まだ動けぬ山南を残し、新選組は将軍の御所参内警護に当たった。さすがに将軍の参内だけあって京都守護職の松平容保を始め一橋公、紀伊公らが付き従う。

「・・・・・会津公のお顔色が宜しくないようだな。」

 警護の最中、近藤が土方に対して心配そうに呟く。

「ああ、咳もなかなか止まらないようだし・・・・・さすがに今回ばかりは代理を立てる訳にもいかないしな。」

 普段は口の悪い土方もさすがに心配なのか近藤の言葉に同調した。
 松平容保が体調を崩したのは半月ほど前、寒中にも拘わらず御所で行われた白馬の節会に参加した時だった。京都守護職としての疲れも溜っていたところへ長時間寒中にて行事に参加していたため風邪をこじらせてしまったようだ。
 黒谷に赴いても藩士達皆がその事を心配していたし、可能な限り代理のものが対外的な仕事はこなしていたが相手が将軍、しかも御所への参内となると話は違う。病の身をおして今日の御所参内に出席せざるを得なかったのである。

「病を悪化させないで戴きたいものだが・・・・・。」

 苦しげに咳き込みながらも将軍の参内に付き従う会津公をちらりと見ながら、近藤は心から願うことしか出来なかった。



 だが、近藤の心配は現実のものとなってしまった。この日の参内により松平容保の病状はさらに悪化、床についたきり起き上がれなくなってしまったというのである。

「会津公は・・・・・大丈夫なのだろうか?」

 医療が未熟な時代、大名でさえ風邪が元で命を落とす事も少なくない。なまじ京都守護職が激務なだけに新選組にも動揺が広がった。

「もしこのままだと京都守護職も辞任せざるを得ないかもな・・・・・。」

 思わず零れてしまった永倉の呟きに原田が剥きになって反論する。

「それはないんじゃないのか?だって会津公でさえしぶしぶ受けた話だぞ。そんな仕事、だれが代わりをやるって言うんだよ。」

「・・・・・それもそうだな。」

 会津公が京都守護職を辞任したら、新選組もどうなるか判らない----------未来に対する不安を感じつつ、原田の言葉にその場にいた者は全員頷いた。



 そもそも京都守護職とは島津久光が主導した『文久の改革』の一環として設けられた新職である。
 幕府の権威低下に伴い、京都には諸国から尊王攘夷派の過激志士らが集い、治安の悪化が懸念された。元々京都の治安維持は京都町奉行・京都所司代がその任についていたが、過激派による要人暗殺や商家への押し込み、強盗などの騒乱が横行し、奉行所と所司代のみでは防ぎきれないと判断した幕府が京都市中の治安維持及び御所・二条城の警護などを担う役割として設置したものである。

 初代京都守護職に就いた松平容保は、初め徳川慶喜や松平春嶽からの再三の就任要請を断っていた。藩財政は既に浦賀、蝦夷地の警備の任にあったことで窮乏状態にあり、また、家臣も就任反対で意見が一致していたからである。
 しかし、春嶽が会津藩祖・保科正之の『会津藩たるは将軍家を守護すべき存在』との家訓を引き合いに出したため、承諾せざるを得なかったのである。
 任を受けた君臣は会津藩江戸藩邸にあって『これで会津藩は滅びる』と、肩を抱き合って慟哭したと伝えられる----------それほどの紆余曲折の上に容保は京都守護職に就任したのである。それだけに容保が京都守護職を辞めてしまったら誰もやりたがらないだろうと思われた。



 そんな不安の中、山南の体調は春らしさが増すのと比例するようにゆっくり、そして確実に戻り始めていた。

「あれ、起きていて大丈夫なんですか、山南さん?」

 一月ももうすぐ終わる二十七日、巡察から帰ってきた沖田が山南の部屋を覗き込み、驚きの声を上げる。

「ああ、ようやく上体を起こせるようになってね。遅ればせながら小島さんに年賀状をしたためているところだよ。」

 穏やかに笑いながら山南は手許をちらりと見せた。そこには以前と変わらぬ整った字が連ねられている。しかし山南の左腕は晒しで固められていてぴくりとも動きそうもない。

「山南さん・・・・・左腕は、まだかなり痛みますか?」

 山南の左腕を覗き込みながら沖田が心配そうに訊ねる。

「う~ん、痛みに慣れてしまったと言うべきなのかな。少なくとも年賀状を書くことができる程度の痛みだよ。動かせそうな気配は全く感じられないけど、痛みを感じるだけまだましかも知れないな。」

 そんな沖田に心配をかけまいと山南は冗談めかして笑った。

「山南さん・・・・・。」

 沖田に心配を掛けまいと笑顔を作る山南の心遣いに対し、沖田は今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。

「もしかしたらこのまま左腕は利かなくなってしまうかも知れないからね。せめて書類書きくらいは出来るようにしておかないと。」

 冗談とも本気ともつかない山南の言葉だったが、その一言に沖田が食いついた。

「頼みますよ、山南さん!土方さん、見栄を張っていますけど楷書ができなくて困っているんですよ。山南さんの意識が戻らない間、私がどれだけ代筆をしたか・・・・・いい加減楷書から解放して欲しいものです。」

 現代までこそ楷書はごく普通に書かれるが、江戸時代では隷書同様特殊な文字であった。ごく普通の伝達や日常の通達などは草書、少し改まった文章でも行書で済んだが、かなり堅めの公文書となるとそうはいかない。
 沖田のような武士の子ならば教養として楷書を学ぶ機会があるが、楷書を書く必要のない百姓出身の近藤や土方は楷書を苦手としていた。
 それでも近藤はそれを恥じて暇を見つけては楷書の稽古をしていたが、副長として雑務に追われる土方にそんな暇は無い。
 山南が倒れるまでは山南もそれを察して楷書で書かねばならない文章は自ら進んで引き受けていたのであるが、それ故に山南が倒れてしまった時、土方は困ってしまったのである。

「おい、総司。ちょっと来てくれ。」

 真夜中、皆が寝静まった頃にこっそり呼び出されては楷書で書かねばならない文章を沖田が代筆する----------そんな日々が数日続いていた。

「無理は困りますけど、我々の中で一番教養があるのは山南さんなんです。山南さんの意識がなかった間----------というか今でもですけど、腕をもがれてしまったように屯所の事務方は混乱しています。剣術に関しては・・・・・乱暴な言い方ですけど平隊士でも何とかなります。しかし・・・・・事務的にも、教養的にも、そして精神的な支えという点においても山南さんの代わりになる人は居ないんです。近藤先生や土方さんのためにも早く元気になってください、山南さん。」

 怪我を負っても山南敬助は新選組にとって必要である----------沖田の言葉は、ともすれば折れそうになる山南の心を救う。

「・・・・・ありがとう、総司。できる限りの事はやってみるよ。」

 沖田の言葉に山南は微笑んだ。



 山南に会津公にと新選組に関わる人物が次々と怪我をしたり病気になったりする最中、災難はこれだけで終わらない。彼らが倒れた事で神経をすり減らした近藤もまた、満身創痍で倒れる直前であった。そしてその事を事もあろうに病身の松平容保に指摘される事になる。



UP DATE 2011.03.04


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山南さんがようやく復調してきたと思ったら今度は容保様が風邪をこじらせてぶっ倒れてしまいました。確かに御所での白馬の節会や将軍の御所参内は代理を立てる事ができませんしねぇ・・・・・気の毒であります(>_<)このあと四月くらいまで体調が元に戻らないとの事でしたので、やっぱり京都守護職って激務だったんだな~と。本当にご苦労様です。

そして今回ちらりと出した『沖田が土方の代筆をした』というエピソード。現在残っているのは確か年賀状か何かでしたっけ?公文書では無いのですが、そんな代筆エピソードをちょこっと盛り込んでみました。当時は草書、行書で事足りていましたので、楷書なんて書けなくても問題無かったんですよね~。それだけに楷書が必要になってしまった近藤局長や土方らの苦労は並大抵では無かったんじゃないかと・・・・・やっぱり怪我をして左腕が使えなくなっても山南さんは必要なんです、彼らには(笑)。これからも山南さんには左腕が不自由ながらも新選組の一員として頑張ってもらいます。


次回更新は3/11、気疲れで満身創痍な近藤局長を中心に話を展開させるつもりですv

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