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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第二十四話 甲子革令の満身創痍・其の肆

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それは梅の花がほころび始めた元治元年二月四日のことである。前年の八月十八日の政変の報償を授けたいからと二日前公用方の広沢に申し渡された近藤と、その付き添いの土方は連れだって黒谷へ赴いた。
 本来なら松平容保の御前で頂戴する報償だが、さすがに体調を崩し臥せっている容保が直々に出てくることはないと土方は気楽に構えている。道すがらほころび、芳香を漂わせ始めた紅梅を愛でながらやけに嬉しそうに近藤に語りかけた。

「ま、広沢さんあたりが報償を渡してくれて酒宴になだれ込む、ってところだろう。」

 そもそも半年も前の功績への報奨を今更渡したいというのも間抜けな話である。気楽を通り越してへらへらとしている土方は、まるで梅見の酒宴に出向くが如き機嫌の良さである。その一方、二日前直接報償の件を聞いた近藤の表情は冴えなかった。

「しかしなぁ・・・・・ついこの前も四条大橋の高札場に会津や我々を中傷する文書が立てられたばかりだ。半年も前に長州を京都から追い出したにも拘わらず残党がまだ残っているし・・・・・その事を指摘されるんじゃないか?」

 どうやら近藤の心配は二月の一日に四条河原の高札場に掲げられたとある中傷文であるらしい。その中傷文は明らかに攘夷派の不逞浪士が書いたものらしく、会津藩や新選組への罵詈雑言が書き殴られていた。それだけでも腹立たしいのに未だにその犯人を捕まえることができず、その事を会津藩に指摘されるのではないかと近藤は気を揉んでいるらしい。それに気が付いた土方は思わず笑い出した。

「近藤さん、考えすぎだぜ。やつらは油虫並みにしつこいんだからよ。いくら俺達が巡察を強化したってあとからあとからわいて来やがる。」

 変な責任を感じてしまっている近藤を土方が慰めるが、近藤の気分は晴れそうにない。それどころか胃の腑のあたりを押え出す始末である。どうやら心労のあまり胃痛を起こしてしまったらしい。

「しかし・・・・・半年も前の報償を今更持ち出してくるだろうか?もしくれるのなら御所から報償が出た時に渡すと思うのだが。」

 部下達の前では絶対に見せることのない情けない表情を浮かべ近藤は土方に訴える。最初こそ宥め賺していた土方だったが、いつまでもうじうじと愚痴をこぼす近藤にとうとう堪忍袋の緒が切れた。

「ああ、うざってぇな!そもそも高札場の件を言い出すならその日のうちに知らせを寄越すだろうが。勝っちゃんは考え過ぎなんだよ!」

 往来の真ん中にも拘わらず土方は我慢しきれず近藤に怒鳴りだした。さすがに部下が居る前ではその様な暴挙に出ることはないが、よっぽど腹に据えかねたらしい。そんな土方に対し近藤はただ胃の腑のあたりを押えながら黙って怒鳴られ続ける事しか出来なかった。




 近々の事件の心配をしていた近藤とそれを苛立たしく思っていた土方だったが、そんな二人の予想に反して、二人は容保の御前に引き出された。さすがに顔色は悪いものの穏やかな笑みを浮かべ二人にねぎらいの言葉をかける。

「新選組の働き、誠にあっぱれである。遅くなってしまったが先の政変の報償、受け取るがよい。」

 容保の言葉に合わせ、公用方の広沢が三方に乗せた銀子を二人の前に差し出す。

「ありがたき幸せ・・・・・・そして我々のために病のみを押してくださったこと、誠に恐縮であります。」

 近藤、そして土方は三方を前に低く頭を下げた。

「楽にせよ、近藤、そして土方。そなた達の働きゆえ、不逞浪士の動きはだいぶ収まっている。高札場に会津やそなた達の中小を書く程度しかできないようでは京都もしばし平穏だろう・・・・・・そうだ、近藤。」

 容保は何かを思いついたように近藤に呼びかける。

「ははっ。」

 容保に声を掛けられ近藤はさらにしゃちほこばってしまう。そんな近藤に対し優しく微笑みながら容保は思わぬ提案を近藤に示したのである。

「そなたも十日ほど湯治に参ったらどうだ?芹沢亡き後、慣れない仕事で疲れておるようだ。いざという時倒れられたらそれこそ困るしな。」

「はあ・・・・・しかし・・・・・。」

 まさか休めと言われるとは思わなかった近藤は、困惑の表情を浮かべながら曖昧に口籠もった。そんな近藤を促したのは他でもない土方であった。

「近藤さん、ありがたくお受けしよう。今、近藤さんが倒れちまったら新選組はやっていけないんだし。」

 もしかしたらこの報奨金の話も近藤を呼び出し、休暇の話を出すためのものだったに違いない。実際三方の上に乗っかっている報償は雀の涙ほどだ。むしろ近藤への湯治のすすめの方が主であり、報償は近藤を呼び出すためのおまけだったに違いない。。

(そういや二日前も近藤さんは黒谷に出向いていたな。その時よっぽど酷い状態だったのだろう。)

 自らも病身である容保がわざわざ出向くほどである。確かに実戦部隊の長が途中で倒れることがあっては問題だ。休める時に休んでおくに越したことはない。

「では・・・・・ありがたくその話、お受けいたします。

 土方の促しもあり近藤は渋々ながら容保の提案を受けることにした。



 容保からの提案があった次の日、早々に近藤は湯治に出向いた。局長がいないと言っても『鬼の副長』が留守を預かっている。否、仏の局長がいない分その厳しさは一艘激しさを増す。隊士達は普段以上にきびきびと隊務をこなしていた。そんなぴりりとした空気の中、いつもと違う廻り髪結いが副長室にやってきた。

「ご無沙汰してはります、土方副長はん。」

 特徴のないのっぺりとした一重まぶたの男----------それは山崎烝であった。

「朝っぱらからえろうすんまへん。実は四条の高札場の件でお耳にいれておきたいことが・・・・・。」

 まるで本職の髪結いのように器用に土方の髪を結いながら山崎は土方の耳許で囁く。

「高札の犯人の見当と言いますか・・・・・前日の夜、あそこの近くにある桝屋からこそこそとでてきたモンが高札場に張り紙をしはったと・・・・・四条をうろついてる饂飩の屋台の親父が見てたそうです。」

「な・・・・んだって?」

 山崎の報告を聞き、土方の表情が豹変する。

「確か桝屋っていうと・・・・・。」

「へぇ、愛次郎の仇を世話してる、ろくでもない古道具屋です。」

 感情を押し殺しながらも、山崎のその言葉には苦々しいものが含まれる。

「やっぱり・・・・・きな臭ぇな。何かと名前が出てきやがる。」

 土方は山崎に髪を結わせながら考え込む。不逞浪士が会津藩を批判するのなら判るが、去年の九月に名前を変え、その名がまだ浸透していない『新選組』まで名指しとなると少し問題があるかも知れない。

「山崎、おめぇ・・・・・へまをしちゃいねぇだろうな。」

 自分達が桝屋をそれとなく嗅ぎ回っている事に気付かれたのかと一瞬土方は思ったが、山崎は心外だとばかりくすり、と笑う。

「愛次郎の仇を討たなあきまへんのにそんなへまはできまへん。せやからわて自身はできるだけ桝屋にちかづかんようにしてます。ま、蛇の道は蛇ということで・・・・・。」

 意味深な笑みを浮かべた山崎に、土方はようやく気が付いた。

「主人か、番頭の妾あたりか?なかなかやるじゃねぇか。」

 生真面目そうに見えて女をたらし込むとは----------土方は内心舌を巻く。

「へぇ、そんなところで。あとは・・・・・・花街でちょいと。」

「なるほどな。」

 土方は頷いた。となると脱走隊士達によるものだろうか。むしろ個人的な恨みで高札に『新選組』の名を出し、鬱憤を晴らしたというのであれば問題無いと土方は踏んだ。

「特に俺達に目を付けている訳じゃねぇんだな?だったらまだある程度自由に動けるか。山崎、奴等に目を付けられる前に大方のめどを付けておいてくれ。」

「承知。」

 山崎は細い眼をさらに細めて笑うと、髪結い道具を片付けさり気なく副長室を後にした。

「・・・・・総司、聞いていたな。」

 山崎が副長室から出て行くと、土方は隣の部屋に声を掛ける。

「ええ。こんな面白い話、盗み聞きしない訳にはいかないじゃないですか。」

 まるで面白い玩具を手に入れた子供のように無邪気に笑いながら沖田は土方に近づいてゆく。

「ねぇ土方さん。そこまで判っているんでしたら、近藤先生が帰ってくる前に桝屋を調べてみませんか?」

 沖田の言葉は尤もだったが、土方は腕を組み、首を横に振る。

「いや・・・・・もう少し様子を見よう。何かもっと大きな何かがあるかもしれねぇ。」

「・・・・・らしくないですね、せっかちな土方さんがじっくり腰を落ち着けて様子を見ようなんて。」

 いつもの土方らしからぬ土方の慎重さを沖田はからかうが、その挑発に土方は乗らなかった。

「急いては事をし損じる、ってな。大きな魚を釣るにゃじっくり腰を落ち着けなきゃならないんだよ。釣りが下手なおめぇには解らなねぇだろうがな。」

 土方は沖田を茶化すとふらりと副長室から出て行った。桝屋の件----------確かにそれは新選組にとって極めて大きな魚である。しかし、魚を釣るにも安定した足場がなければ釣ることはできない。その足場が根底から揺らぐ事件が近藤が留守中の京都で起ったのである。



 ほんの十日ほど、近藤は湯治場でゆっくりする筈だった。だが運命はそんな僅かな休息さえも近藤に許してくれなかった。近藤が湯治を勧められた僅か七日後、長州討伐のため、松平容保は京都守護職より陸軍総裁職に転任を命ぜられたのである。さすがに病身の身だったため家老の神保内蔵之助が二条城に登城し、下知を受けている。
 そしてさらに二日後、陸軍総裁職から軍事総裁職に転出、陸海軍の総指揮官としての権限を得た。これに伴い容保は征長戦の折は副将として出陣するように幕府より内命を受けている。

 松平容保の軍事総裁職転出、それは会津藩預かりとして京都の治安を守っていた新選組の未来を揺るがしかねない人事であった。



UP DATE 2011.03.11


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地震の影響でびみょ~に短くなってしまった感がありますが、辛うじていつもの時間にUPできました(^_^;)
というか、今夜旦那が帰ってこれなくなっちゃったんで時間通りにUPできたという・・・・・良いのか悪いのかよく判りませんが(苦笑)。

山南さん容保様と次々と倒れられた中、近藤局長もまた心労でギブアップ、っということになりました。容保様直々のすすめで温泉療養に出かけたのまでは良かったんですが、近藤さんが留守の時に限って大きな事件が起っちゃうんですよね~。まさか容保様が近藤さんの留守中に京都守護職から軍事総裁職に出世なさるとは(笑)。そして容保様の次に京都守護職になるのが開国推進派の松平春嶽様ときちゃあねぇ・・・・・新選組も一応攘夷を掲げているので彼の下に就くのを良しとしないでしょう。次回からそのあたりの辞める、辞めないが中心となりそうです。


次回更新は3/18、新京都守護職に対する新選組の反発が中心となりそうです。
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