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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第二十五話 京都守護職・其の壹

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松平容保の軍事総裁職就任の知らせを受け、近藤が温泉療養地から急いで戻ってきたのは二月十五日の夕方のことであった。
 療養に行っていたにも拘わらず、ちっとも体調が戻っていないように見えるのは、やはり自分がいない間に直属の上司が役替えになってしまった所為であろうか。青ざめた顔色のまま屯所に転がり込むと、土方がいると思われる副長室の襖をぱん!と乱暴に開いた。

「お、近藤さん。思ったより早く帰って来たじゃねぇか。おかげで手紙を出す手間が省けたぜ。」

 襖を開けた近藤の目の前には驚きの表情を浮かべた土方と、同じくびっくりした表情で書類を手にした山南がいる。どうやら何かを相談していたらしい。

「歳!山南さん!会津公が京都守護職から御役替えになったという話は本当なのか?」

 そんな二人の様子にお構いなく、近藤は肩で息をしながら二人に詰め寄り事の真偽を問い質した。自ら近藤に療養を勧めた松平容保が、その間に役替えになったとは思いたくないのだろう。幕閣からの命令なのだが、まるで容保本人に裏切られたような衝撃を近藤は受けていた。嘘であって欲しい----------心のどこかで願わずにいられない近藤の気持ちとは裏腹に、返ってきたのは非情なまでの事実である

「ああ・・・・・よりによって近藤さんがいない時の御役替えときた。俺達も舐められたもんだぜ。」

 預かりとはいえ、直属の上司である容保がそれなりの地位に就いたのである。新選組もそれに従って地位が向上すると思われるのだが、それにしてはあまりにも渋い表情で土方が近藤の問いに答えた。

「近藤さんへの知らせには陸軍総裁職、って書いちまったが、その二日後にさらに軍事総裁職様に転出だ。とんとん拍子の大出世、ってところだろう。」

 土方の口から軍事総裁職との言葉を聞くなり、近藤の表情はさらなる驚きに染められる。

「となると・・・・・我々も長州征伐の準備をしなければならなくなるな。勿論俺達は今まで通り会津預かりなんだろ?これでようやく国のお役に・・・・・。」

「と言いたいところなんですけど近藤さん、残念ながらそう簡単にはいかないようなんです。」

 さらなる大きな仕事に意気込みを見せる近藤に、今度は山南が険しい顔で近藤に事情を説明した。

「なまじ京都の治安維持で功績を残してしまったのが仇になってしまって・・・・・我々は新しい京都守護職の下に就くことになってしまったんです。」

 そう切り出して山南はさらに詳細を語り出す。京都守護職として実績を残したが為に軍事総裁職に転出した会津公だったが、それだけにその任を離れてしまったら京都の治安はどうなってしまうのかと天皇を始め公卿達から苦情が出てしまったらしい。そこで会津藩の下で同様に京都の治安維持に努めていた新選組を今まで通り京都警備の任に就かせるということで話が落ち着いたというのである。

「なん・・・・・だって!」

 近藤は目を見開き、愕然とするが、目の前の二人は大きな溜息を吐きながらがっくりと肩を落とす。

「まさに今日----------先の福井公が京都守護職に就任したとさっき知らせが来たばかりだ。それがこの書状だ。」

 土方は山南が手にしている書状を近藤に指し示した。そして近藤は山南の手からひったくるように書状を受け取ると舐めるようにそれを読んでゆく。

「いくら参預会議のお一方と言ってもなぁ・・・・・よりによって先の福井公たぁ。」

 土方の言葉に山南も大きく頷いた。



 会津藩主・松平容保に代わり新しく京都守護職に就任したのは前福井藩主・松平慶永、というよりむしろ松平春嶽と言った方が通りが良いだろう。
 徳川慶喜、山内豊信、伊達宗城、島津久光、そして松平容保らと共に参預会議を構成する一人である。それだけなら特に問題はないのだが、少々先走る過ぎるきらいもある。

 その一例として新選組が上洛した直後の文久三年六月、横井小楠主導で進められてきた『挙藩上京計画』が挙げられるだろう。
 福井城中に全藩士を集めて発表されたこの計画は、『天下に大義理を御立通し成され候御趣意』とし、春嶽および藩主・松平茂昭を筆頭に、藩の最大兵力を動員し『身を捨て家を捨て国を捨る』『一藩君臣再び国に帰らざる覚悟』をもって----------つまり越前を捨てて全軍で京都に出兵し日本を制圧しようというとんでもないものであった。
 そして制圧後、朝廷・幕府どちらにもつかず、政局内の過剰な対立を武断をもって鎮圧し、しかるのち速やかに両勢力を合議し、広く才能ある人材を登用し、早急かつ緩やかな改革を推し進めようとするものであった。
 ちなみにこの話は薩摩藩と連携しつつ肥後藩・加賀藩などにも加勢を頼み、天皇もこれを了承していたとの話が伝わるが定かではない。

 まるで福井藩の天下掌握宣言とも取れるこの計画に日本中、特に京洛中の諸氏諸藩は騒然となったが、藩内外の反対派の活動や、他藩や朝廷・幕府との連携がほころび、決行直前の八月半ばに急遽中止となった。これより越前家関連の諸方は、朝廷を蔑ろにしたとして、主に勤皇の士の襲撃に悩まされることになる。

 その後、会津藩と薩摩藩が協力した八月十八日の政変で長州藩が追放され、禁門の変で長州藩が朝敵となると春嶽は参預に任命され、諸勢力に促される形で十一月に再度上洛した。

 ちなみに春嶽や容保が任命された参預会議とは、政局を主導する能力のない朝廷に代わり政局を執り行わせるために有志大名を集めたものである。
 八月十八日の政変の後、薩摩藩主の父・島津久光、越前藩前藩主松平慶永、宇和島藩前藩主伊達宗城、土佐藩前藩主山内豊信、そして一橋徳川家当主徳川慶喜らに上洛を命じ、混迷を極める政局の安定を図るため、朝政改革も含めた今後の方策を探った。
 これを受けて十月三日に島津久光、十月十八日に松平慶永、十一月三日に伊達宗城、十一月二十六日に徳川慶喜が入京。山内豊信がやや遅れて十二月二十八日に入京した。

 この間、孝明天皇から極秘の宸翰を受けた島津久光が積極的な動きを見せる。孝明天皇は朝政改革で尊王攘夷過激派を一掃した後は従前のごとく幕府へ大政を委任し、公武合体して事に当たる方針を示した。しかし薩摩藩はむしろ将軍を上京させた上で有力諸侯の合議による諮問機関を設け、公議政体を作ることこそ公武合体であると考え、諸侯の協力を求めた。

 十二月五日、薩摩藩は賢明なる諸侯を朝廷に召して議奏とすべきであると提案。慶喜の宿所に集った松平慶永・伊達宗城・松平容保らもこれに賛同し、決定事項となった。これが参預会議の基本方針となる。
 さらに、久光の奏上により、十二月二十三日鷹司輔煕が関白を罷免され、親幕府的な二条斉敬が就任した。

 こうして先の薩摩藩上表に基づき同大晦日に、島津久光を除く上記四人と松平容保が『朝廷参預』に任命される(久光のみ翌年正月十三日に任命)。この参預の職務は二条城を会議所とし、二日おきに参内して天皇の簾前にて朝議に参加するというものであった。
 しかし参預会議の体制は、参預諸侯間の意見の不一致からなかなか上手く機能しなかった。そんな中、元治元年二月十五日に軍事総裁職に転じた容保に代わり松平春嶽が京都守護職に就任したのである。



 松平春嶽が京都守護職に就任し、近藤が壬生の屯所に帰ってきたその日の夜、新選組において助勤格までの幹部による緊急の幹部会が開かれた。そして土方から松平容保の軍事総裁職転任、さらに自分達が新・京都守護職である松平春嶽の下に就くことになると知らされた幹部達は約一名を除いて愕然とする。

「ようやく会津との関係にも慣れてきたって言うのに、上が変わるなんて・・・・面倒臭ぇよなぁ。またハナっからやり直しかよ。」

 真っ先に文句を口にしたのは原田であった。幾たびの摩擦を経てようやく互いが掴めてきたところへこの話である。再びあの面倒臭いすり合わせをやらなくてはいけないのかと原田は口を尖らせる。

「そもそも俺達は攘夷のために上洛したんであって、京都の警備に来た訳じゃないぞ。いっそ幕府に申し出てこのまま会津の下に・・・・・・軍事総裁職の下に就いた方が良いんじゃないか?」

 こう切り出したのは永倉である。新・京都守護職の下に就きたくないという点では全く同じながらその理由はかなり違う。仲間内でも上昇志向が強い永倉らしい意見であるが、それに反対する者も勿論居る。

「いや、このまま京都に残れば我らは福井藩に対して優位に立てるでしょう。やはりここは京都に残る方が・・・・・。」

「俺も同感だ。何も京都から離れる必要は無いでしょう。」

 原田、永倉ら試衛館派とは逆に、このまま京都に残るべきだと言い出したのは武田かんりゅうさいと谷三十郎であった。どちらも軍事総裁職の下に就いて戦地に赴くことを嫌がっている様子がちらほらと見え隠れする。だったら京都に残っていたほうが死ぬ確立が少ないとの魂胆が見え見えである。
 容保に付くか、春嶽に付くか----------喧々諤々の会議の中、沖田はただ一人輪から外れ、退屈そうに幹部会議を外側から眺め、あくびをしていた。

「おい、沖田さん。あんたはどっちなんだ?」

 沖田の様子に気が付いた斉藤が会議の輪からそっと外れ、沖田に近寄ってくる。そんな斉藤に対して沖田は不思議そうに小首を傾げた。

「どっちって・・・・・私は近藤先生に従うだけです。新しい京都守護職の下に就いて京都に残っても、今まで通り会津公の下に就いて長州と戦うのでもどちらでも構いませんよ。どっちにしても私の直属の上司は近藤先生なんですから。」

 さすがに周囲に気を遣って小声ではあったが、それでもきっぱりと沖田は斉藤に言い放った。

「・・・・・あんたに聞いた俺が馬鹿だった。」

 沖田の、あまりといえばあまりな返答に斉藤はむっとした表情を露わにし、そそくさと輪の中へ戻ろうとする。そんな斉藤の袖を沖田は引っ張り引き留めた。

「斉藤さんこそどっちなんですか?私ばっかりに意見を聞きながら斉藤さんは黙っているなんてずるいですよ。」

 にこにこと無邪気な笑みを浮かべながら沖田は斉藤に尋ねるが、その目は笑っていなかった。否、この青年には珍しい、恫喝に近い色を湛えていると言うべきだろう。

(新選組が会津藩と繋がりを無くせば、あなたはここにいる理由はありませんものね、斉藤さん。)

 斉藤の動き方で会津側の考えが判るだろう。新選組の名を押しつけ、芹沢を殺してまで会津藩に都合の良い集団にしておきながら、長州征伐になれば用済みと捨て去るのか。それとも長州討伐の捨て駒として新選組をまだ抱えるのか・・・・・。

(芹沢局長暗殺の本当の黒幕を明かしてしまうのも悪く無いかも知れませんよね。)

 沖田の含みを持った笑みと据わった目の色に、斉藤は本能的に恐怖を感じ目を逸らした。

「俺だって・・・・・上の決定に従うさ。」

 あえて『近藤局長』という言葉を使わず斉藤はそう小さく答えると、未だ議論を戦わせている会議の輪の中に戻っていく。

「上の決定、ねぇ。」

 なかなか尻尾を出さない狐に僅かな苛立ちを覚えながら、沖田はあくびをかみ殺し斉藤の背中をじっと見つめた。



 松平容保の下に就いて長州討伐に参加するか、それとも新しい京都守護職の下に就きようやく慣れた京都の警備を続けるか----------三日三晩に渡る激しい協議の結果、ようやく会津の下に就き長州討伐に参加するという意見がまとまる。ちなみにその議論中、斉藤の巧妙な誘導があったことに気が付いたのは外側から会議を傍観していた沖田だけである。
 そして新選組は幕閣に宛てて軍事総裁職・松平容保の指揮下に入ることを嘆願する上書を提出し、返事を待つことになる。



UP DATE 2011.03.18


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ようやく会津藩との関係にも慣れて来たと思ったら上司の交代劇、しかも近藤さんが療養中に起こってしまいました。現代でもありがちですよね~。ちょっと有給取って旅行に行っていたらいきなり会社が買収されていたとか・・・・・幕末も現代も『動乱の時代』という点では変わらないので似たような出来事が起こってしまうのかも知れません。

史実の新選組であったら迷わず『より出世が見込める会津の下に!』と即決したと思われるのですが、拙宅の場合ちょっと話をややこしくしました。立身出世を願い、江戸からわざわざ京都にやってきてたった十三人から壬生浪士組を立ち上げた試衛館派と、彼らの築き上げたものの上に乗っかって美味しいところだけを取ろうとする後から入隊派との意見の対立----------元々の覚悟が違うだけに意見の対立があってもおかしくないんじゃないかと思い、少々幹部会議を白熱化させてみました。そんな会議を外から眺めている沖田・・・・・意外と醒めているのかも知れません(爆)。


次回更新は3/25、幕府に出した上書の返事を待つ彼らですが、その前に桝屋に於いてとある事件が起こります。

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