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「短編小説」
猫絵師・国芳

猫絵師・国芳 其の肆・初鰹の喧嘩猫

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四月一日、この日は初鰹の解禁日である。小田原や鎌倉などで捕れた鰹を船や馬で江戸に送るのだが、特に早く届く船のものは重宝される。年によって値段の高低はあるものの、特に初鰹を珍重した天明~寛政期には日本橋に初船で送られてきた鰹の値は一本三両だったそうだ。
 さすがに天保期にはこのばかげた狂乱は収まっていたものの、初鰹が珍重されることには変わりなく、今年も棒手振りの威勢の良い声が初夏の夏空にこだまする。

「かつお~かつお!今年の初鰹だ!初船に乗ってやってきた活きの良い奴だよぉ~!」

 そんな棒手振りの一人・伊助が国芳やお滝が住んでいる長屋にやってきた。時間からすると日本橋で鰹を仕入れて直接この長屋にやってきたのだろう。
 二、三日も経てばあっという間に値段が下がる鰹である。なにも『初鰹』にこだわらなくても、という計算高い大商人相手に初鰹は売れない。
 『勝つ男』に通じ、縁起がよいと武士が買うか、見栄っ張りの長屋の男達が買うかどちらかである。だからこそ伊助のような棒手振りでも鰹を仕入れる事が出来るのだろう。

「どうだい、今年の初鰹だ!大負けに負けて一匹二両にしておくよ!」

 伊助の威勢の良い言葉が長屋中に響くが、悲しいかな上客であるはずの男達は仕事で出払っていた。残っているおかみさん連中は一本二両もする鰹になど見向きもせず安い魚ばかりを物色するばかりである。そもそも数日もすれはあっという間に四半分以下に値が下がってしまう鰹を高値で買うほど女達は馬鹿ではないのだ。
 少し困ったような表情を浮かべながら魚を売りさばいている伊助だったが、そんな伊助を冷やかすような声が伊助の耳に飛び込んできた。

「よぉ、伊助。鰹を売るのは諦めたらどうだい?どうせお滝の顔を見に来ただけだろう。」

 にやにや笑いながら出てきたのは国芳だった。懐にはトラが大人しく収まっていたが、伊助の顔を見るなりフウーッ!と威嚇の声を上げ、伊助を睨み付ける。どうやら国芳の猫達は伊助を嫌っているようだ。今にも国芳の懐から飛び出し、伊助に飛びかかろうとするトラを押さえつけながら、国芳は鰹を覗き込む。

「ほら、トラ。大人しくしてろって・・・・・おいおい、こんな小っせぇ鰹しか仕入れられなかったのかよ。これで二両たぁぼったくりも良いところだぜ。こんな痩せ鰹を持ってお滝のいる長屋にやって来るたぁいい度胸じゃねぇか。」

 国芳の指摘通り、その鰹は少々小振りであった。しかしその身体はぴかぴかと青光りして新鮮そのものである。その身の質からすれば、二両という値段は決して高くはない。

「何を!貧乏絵師が言いたいことを言ってくれるじゃねぇか!半身だって買えねぇくせに!」

 お滝の名前を出され、いきり立った伊助は袖まくりをし国芳を睨み付ける。

「ああ、言ってやらぁ。こんなちびっこい鰹なんざせいぜい一両が限度だろう。」

「冗談ぬかすんじゃねぇ!どんなに小粒だってこいつぁ初船の荷だ。けころじゃあるめぇし、安売りはしねぇんだよ!そもそもおめぇには買われたくないってさ!」

「何を!棒手振り野郎が言いたいことを言いやがって!」

 今にも取っ組み合いの喧嘩が始まろうかとしたその時である。


ざっぱーん!


 いきなり水飛沫があがり、伊助も国芳もずぶ濡れになったのである。

「・・・・・天下の往来でみっともない口喧嘩をしてるんじゃないよ!」

 そこに立っていたのはお滝であった。手には空の桶が抱えられている。どうやらお滝が二人に水を被せた本人であるらしい。

「まったく・・・・・初鰹の一匹二匹でうだうだと!伊助さん、その鰹、わっちが買うよ!それでいいだろう!」

 お滝はそう言うと二分銀を八枚、ぽん、と鰹が入っている桶に投げ入れると、懐から手ぬぐいを取り出し、鰹の身を痛めないように鰹の尻尾を手ぬぐいで包んで掴み取る。

「きょうはわっちのおごりで一杯やりましょう。」

 お滝はその場にいたおかみさん連中に艶然と微笑むと、長屋の奥にある共同台所を指さした。

「旦那抜きで初鰹かい?それもいいねぇ。じゃああたいは酒を提供するよ。」

 お滝の言葉に真っ先に賛同したのは国芳の隣に住んでいるおクマであった。そして他の女達もぞろぞろと奥へと入ってゆく。さらに国芳の懐にいたはずのトラまで女達のあとに続いて長屋の奥に入って行くではないか。

「・・・・今日びのおなごは男勝りでいけねぇや。トラの奴も女のケツを追いかけやがって。」

 ずぶ濡れになった着物の裾を絞りながら国芳がぼやく。

「おまえが弱っちいだけだろうが、孫三郎よ。そんなんじゃお滝の気を引くのもおぼつかねぇな。」

「何だって!またやろうって言うのか、ええ?」

 再び喧嘩が始まろうとした瞬間、今度は長屋の奥から鰹の頭が投げつけられ、二人は慌てて飛びずさる。

「いいかげんにおし!今度は包丁を投げつけるよ!」

 お滝の怒鳴り声が初夏の青空に響き渡る。その声に重なるように遠くから杜鵑の鳴声がしたが、伊助も国芳もその美しい声を聞く余裕は無かった。



UP DATE 2011.03.27


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今月の猫絵師・国芳はちょっと気が早めの初鰹をお題にしてみました。現代の暦だと関東のあたりに初鰹がやってくるのは5月位なんですけど、江戸時代は4月1日が初鰹の解禁日でしたので(^_^)
今年はなかなか暖かくなりませんし、地震の影響で鰹がこちらまで上ってきてくれるのか不安はあるのですがせめて小説だけでも・・・・とこのような話に仕上げてみました。(昨日お寿司屋さんに行ったんですが、やっぱりいつもの年とはネタが違うような気が・・・・一日もはやく三陸の美味しい魚介類を食べたいものです><)

内容に関してですが、ようやく国芳の恋のライバル・伊助が登場しました。江戸の棒手振り、さらに魚屋といったら『いなせな江戸っ子』の代名詞ですからねぇ。なかなか手強いライバルだと思うのですが、それ以上に手強いのがお滝でしょうか(爆)。まだ独り者だというのに長屋のおかみさん連中を仕切っているし・・・・・これで子供でも産んだ日にゃ相手が国芳でも伊助でも確実に下僕と化すでしょう。この二人の恋のさや当ては暫く続くかと思われます。


次回更新予定は4/24(旦那の実家への帰省スケジュールによって前後する可能性はあります)、端午の節句あたりをお題にしたいと思います。
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