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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第二章

夏虫~新選組異聞~ 第二章 第二十七話 京都守護職・其の参

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沖田が松平容保の京都守護職復職の話を聞いたのは、四日前に捕縛した五名に対して尋問を行っていた最中であった。この五名----------東本願寺僧侶・介石や同寺の侍・高須八郎、酒屋を営んでいる小堀らに他阿波出身の浪士二名は新選組の名を騙り、金策などを行っていた者達である。
 どうやら長州系の不逞浪士が活動するための資金を集めていたらしいのだが、拷問すれすれの厳しい尋問にも五人はなかなか黒幕を吐こうとはしない。
 さすがに業を煮やし、拷問をして証言を引き出しても良いか会津藩の許可を貰いに行った際、土方と、従者として土方についていった藤堂がその話を聞いたのである。

「会津公が京都守護職に復帰・・・・・それは本当ですか、藤堂さん?」

 藤堂の言葉に沖田は思わず尋問の手を止めて訊ねてしまった。なかなか長州討伐が決まらない状況下、さらに松平容保の病状が思わしくない中で、もしかしたら軍事総裁職を一旦離れる事はあっても、まさか京都守護職に再び任命されるとは思ってもいなかったのである。

「うん、広沢さんから直接聞いたから間違いないよ。確かに福井が京都守護職に就いてからかなり多くの長州系浪士の京都潜伏を許してしまっているしね。それに・・・・・。」

 藤堂は目の前にい介石るに近寄りながら呟く。

「去年の年末から少しずつ京都に戻ってきたいた不逞浪士どもが、ここ最近急激に増えてきているらしいんだ・・・・・・・おい!」

 今まで沖田に対して穏やかに話していた藤堂が急に声を荒らげ介石の襟を掴んだ。決して大柄ではない藤堂だが、片腕で巨漢の介石の上体を無理矢理起こし睨み付ける。

「お前らだけじゃないだろう!他の仲間はどこにいる!さっさと吐きやがれ!」

「藤堂さん!」

 拷問の許可は貰ってきたのかも知れないが、あまりにも急すぎる。沖田は慌てて藤堂を止めようとするが、藤堂は沖田の手を払いのけ、介石を殴りつけた。

「こいつらがうろちょろしなければ・・・・・俺達はもっと大きな仕事をして名を上げることができたかもしれないのに・・・・・こいつらのせいでまた京都警備に逆戻りだ!」

 どん、と藤堂は介石を突き飛ばし、その大柄な胴体を蹴り飛ばす。

「拷問の許可は貰ってきたんだ!黒幕はどこにいる!!」

 まるで介石を殺しかねない勢いで藤堂は沖田に代わって尋問、否、拷問を始めた。やり場のない怒り、そして苛立ちは目の前にいる哀れな捕縛者にぶつけられてしまう。鬼気迫る藤堂のそんな行動を、沖田はただ呆然と見つめる事しかできなかった。



 その半刻後、局長室では----------。

「ああ、あの話はまだはっきりと決まった訳ではないよ。これから会津の中で協議を行って再任の話を受けるか受けないか決めるらしい。そうか、平助がねぇ・・・・・まぁ、どちらにしろ激しい拷問でもしなければ口を割らなかった連中だ。総司が気に病むことはない。」

 尋問がひと段落したあと、詳しい話を聞こうと局長室にやってきた沖田に対し、土方から詳細を聞いていた近藤が笑いながら答えた。

「長州討伐がなかなか決定しない事と新・京都守護職になってから長州系浪士が続々と京都入りしてしまったいる事が関係しているらしい。幕府としては評判の良かった会津藩にもう一度、と掛け合ったいるらしいんだが、当の会津藩としては再任を辞退したいとの事だ。確かに京都守護職は労ばかりが多い仕事だからなぁ。」

 沖田の心配を他所にやけに明るく近藤が言い切った。どうやら近藤としては会津藩が京都守護職を辞退したがっている事をありがたいと思っているらしい。
 確かに会津藩が京都守護職という任務に縛り付けられてしまっては、自分達、新選組の立身出世も覚束ない。むしろ容保が京都守護職を辞退してくれれば自分達の未来も切り開けると近藤は考えているようである。

「・・・・それと、これは内密なんだが、会津公の容態はかなり悪いらしい。広沢さんもかなり心配しているんだが、あのお身体では京都守護職の激務に耐える事は難しいだろうとの事だ。」

 公用方の広沢からの話では、容保が激変する幕府の要請に対し不安を覚え、それによって気鬱も生じさせているというのである。広沢のその口調から近藤は京都守護職への容保の復職はないと思ったらしい。

「それよりも総司、おまえもそろそろ着替えなさい。今日は富沢さんとの最後の酒宴だ。もう数日で江戸に帰ってしまうのだから、今日はお前も顔を見せた方が良いだろう。」

 宴席は苦手ではないが、脂粉の香が苦手な沖田はついつい仕事を理由に宴席を断ってしまうのだが、さすがに今回ばかりは逃げられそうもない。

「判りました。じゃあ今すぐに着替えてきます。」

 どうか妓達が出てくるまでに逃げる事が出来ますようにと心の中で願いつつ、沖田は出かける準備をする為、近藤へ一礼し部屋を出た。



 近藤、そして沖田らが出席する宴席の相手・富沢政恕は武州日野領連光寺村の名主である。将軍家茂の上洛に際し、地頭の天野雅次郎が御所印判六番組頭の柴田能登守の組下として上洛するのに伴い、天野の要人として同行していたのだ。
 同郷の土方や井上、近藤や沖田と旧知の仲である富沢は事あるごとに彼らと顔を合わせていたのだが、四月十三日に京都を離れる事になり、これが最後の宴席となってしまったのである。
 千紅萬紫楼で行われたその日の宴席は、最後という事もあり酒のやり取りより託す手紙のやり取りの方が多かった。特に土方に至っては飛脚代がかからない事を良い事に、八月十八日の政変時と平野国臣らの捕縛の為出動した際に着用していた記念の鉢金まで託す始末である。松本捨助の時といい、かなりちゃっかりしていると言って良いだろう。

「いいんですか、それ、記念の鉢金でしょう?新選組の隊名を頂戴した時だって付けていたものじゃ無いですか。良いんですか、そんなものを早々に送っちゃって。」

 沖田が心配そうに訊ねるが、土方は片頬で笑いこう答えた。

「記念の品だからこそ無くしちまう訳にはいかねぇだろう。それに長州討伐に出向く際にはどっちにしろ新しいものを仕立てなきゃならないんだし、古いものを取っておいても無駄なだけだ。」

「そうだな。確かに長州討伐に行くとなると鉢金じゃ心許ないか。いっそ鎧兜でも作るか!」

 土方の言葉を受けて近藤も大笑いをする。近藤、土方の心はすでに長州討伐へ向かっていた。

(近藤先生と言い、二人とも脳天気に長州討伐に行くつもりでいるけれど・・・・・大丈夫なのかなぁ。)

 周囲が浮かれれば浮かれるほど沖田の気持ちは醒めてゆく。巡察においてもここ最近、かなり多くの不逞浪士達が京都の町に流れ込んでいるのを実感している。このような状況下で長州討伐に出向いたら京都から足許を掬われるような気がしてならない。
 難しい政治的な思惑は沖田には判らなかったが、少なくとも現場に出ている者として、今長州討伐に出向くよりは先鋒隊である京都の不逞浪士達を捕え、長州の思惑を知ってから出兵しても遅くないような気がする。

(何となく、今回の長州討伐はうやむやになりそうな気がするんですよねぇ・・・・・というか、会津公が京都守護職を受けてしまいそうな気がしてしょうがないんですけど。)

 現場を知っているだけに、沖田は近藤や土方のように楽天的にはなれず、ちびりちびりと酒をやりながら心の中で呟いた。



 浮かれ気分で近藤らが酒宴を開いていたまさに同日の四月十一日、容保の実弟で桑名藩主・松平定敬が京都所司代に就任した。この人事が新たな勢力を生み出す事になるのである。
 先の三月、一橋慶喜は将軍後見職を辞し、代わって新設された禁裏御守衛総督・摂海防禦指揮に就任していた。そしてまだ受諾するかどうか現時点では決定していなかったものの松平容保も京都守護職に復帰しており、ここに公武合体派の中でもより幕府から自立し朝廷上層部と連携を強化を図る『一会桑政権』の基本的な枠組みが成立したのである。

 禁門の変を経て提携を深めた三者は、孝明天皇・二条斉敬・中川宮朝彦親王の朝廷と協調して慶喜の将軍職就任に至るまでの京都における政治を主導していくことになる。
 一会桑政権は徳川幕府を代理する立場ではあるが、江戸を離れた京都にあって天皇の信任を得る一方、必ずしも江戸の幕閣の意向を代弁するわけではなく、尊皇攘夷急進派・長州藩への対抗を通じて相対的に独自の勢力を形成した。ちなみに薩長同盟は一会桑政権への対抗から形成されたものである。

 一会桑政権の成立は京都見廻り体制にも明確に示された。四月十九日頃の『山階宮国事文書写』には、当分の間金利守衛総督(一橋)、京都守護職(会津)、京都所司代(桑名)、そして新選組が見廻りを行い、町奉行所から案内を出したことが記されている。この直後、江戸に於いて京都見廻組が結成されるのだが、こちらは一会桑による京都見廻り体制に対する幕府側の見廻り体制であり、後々新選組とは好敵手の関係になる。



 松平容保が京都守護職の再任を受けてしまうのではないか----------そんな沖田の懸念が現実のものとなる。四月十四日、京都守護職を固辞し続けた松平容保に慰留の幕命が下ったのだ。それでも容保は体調を理由にその幕命を受け入れず、しばらくの間不安定な状況が続くのである。
 長州討伐に行く事が出来るのか、それともこのまま京都警備に甘んじるのか----------新選組としても先の見えぬ不安の中、仕事をし続けなければならない状況に陥り、その鬱憤が徐々に高まってゆく。

「いつになったら決着がつくのか・・・・・こんなんじゃ落ち着いて仕事ができねぇじゃねぇか。」

 いつまでもぐずぐずと決まらない会津藩の動向に永倉や原田がぼやきまくる。しかし沖田はそうは思っていなかった。

「そうですか?とりあえず小物を捉まえて長州で何が起こっているか知ってからでも遅くないと思いますよ。そもそもネタを仕入れる権利を持っているのは今のところ我々と会津藩、そして奉行所くらいですから。」

 『生きた情報』を提供すれば自分達もそれなりに評価されるかもしれないと沖田は永倉達に言う。

「なるほど。あわよくばそのネタを使って俺達に有利に事を運ぶって話もありだな。」

「そうですよ。だからしばらくの間は地道に働きましょう。でないと土方さんの雷が落ちますよ。」

 沖田の言葉に原田と永倉が笑い出した。

「確かにな。さすがにここ最近土方さんも機嫌が悪くなりつつあるし、近藤さんに至ってはまた胃痛が再発しているしなぁ。」

 胃が痛いのは皆同じだが、特に近藤は元々の胃痛に心労が重なり、寝込む事も多くなっている。そんな局長の状況が部下にもうつるのか、ここ最近平隊士達も浮き足立っている。

「平隊士も不安がっていますしね。せめて我々だけでも普段通り行動しましょうよ。」

 せめて助勤だけでも普段通りに----------沖田の提言でぼやきたいのを我慢しつつ、助勤達は地道に隊務に就いていた。しかし、普段通りにと願う時に限って大きな事件、またはそれに繋がってゆく事件というものは起こるものである。松原通木屋町で火災が起こったのはまさにそんな状況でのことだった。



UP DATE 2011.04.01


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相変わらず上層部のぐだぐだ状態に翻弄されている新選組です。下にいる者としてはさっさと決めろ!と言いたいところなんでしょうが、上層部は上層部でできるだけ事を穏便に収めたいんでしょう。それぞれの思惑が絡み合って結局動きが取れない状況になってしまっているような気がします。
そんな中でも長州討伐を信じている近藤や土方と、長州に打って出る前に京都に入り込んでいる浪士達をどうにかした方がいいんじゃないかと思い始めている沖田との間に少し温度差が出てきております。これは仕方がないんですけどねぇ・・・・・現場はいつも最先端の状況を肌で感じる事ができますが、上に行けば行くほど『報告』と言うデータに変換されたものを分析しなければなりませんから。
そんな状況下、とある火災から『ある事』が発覚します。この発覚した事が新選組にとって吉と出るか凶と出るか・・・・・次回をお楽しみくださいませ。


次回更新は4/8、松原通木屋町での火事から発展する事件を中心に第二章最終話を展開する予定です。(その次は再び大正時代のカフェーに戻ります。そろそろ雨は止んでいる筈・・・・・。)
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