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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第三章

夏虫~新選組異聞~ 第三章 第一話 進退伺・其の壹

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踏んだり蹴ったり----------今の新選組にとってこれほどぴったりの言葉はないだろう。二度の上洛にも拘らず、将軍は長州討伐をしないうちに東帰を決定してしまったし、会津藩は幕府から京都守護職再任を強く命じられてしまった。
 さらに江戸では幕府御家人で構成された『京都見廻組』なる京都治安部隊が組織され、まもなく上洛するとの知らせも五月の声を聞くなり会津藩から近藤に知らされたのである。
 長州討伐による立身出世の道も絶たれ、さらには新たにやってくる組織によって今現在の自分達の地位さえ脅かされかねない----------見た目と裏腹に繊細なところがある近藤は精神的に参ってしまっていた。

「このままでは・・・・・攘夷はおろか、我々の存在意義さえ危うくなるではないか!何故いまさら御家人達の組織が上洛など・・・・・。」

 そもそも御家人による京都治安部隊が最初から出来たのならば、浪士組など組織されなかった筈である。近藤は苛々と部屋を行ったり来たり歩き回り落ち着かない。
 それもそうだろう、名を上げるどころかその機会はことごとく潰されている。それどころかここ最近の仕事は奉行所でも事足りるような小さなものばかりだ。何もかもが悪い方へ悪い方へと転がっていく・・・・・近藤の苛立ちは無理からぬ事であった。

「おい、近藤さん、少し落ち着いたらどうだ?いらついたって何にも変わらねぇ。それどころか今の京都の状況じゃあ俺達は京都に縫い付けられたままだ。」

 土方は近藤を宥めながら助勤達からの報告をまとめたものを近藤に見せる。

「総司が聞き出した二百五十名の内、まだ十名も捕縛していねぇ。それどころか長州浪士達はますます京都に流れ込んできているんだ。これじゃあ攘夷どころか長州討伐だってままならねぇ。」

 確かに新選組が捕縛した長州浪士は十名にも満たなかった。秀麗な眉目を顰めながら土方はさらに続ける。

「御家人共どころか猫の手も借りてぇ位の状況じゃ、俺達の存在意義は大いに認められるだろうよ----------京都警備の手練れとしてな。」

 皮肉っぽい笑みを口の端に浮かべながら土方は吐き捨てた。会津や他の藩の上層部との会合や調整が殆どで、ここ最近現場から離れている近藤と違い、現場の状況を次から次へと聞かねばならない土方の方が現状を理解している。
 確かに自分達が京都にやってきたのは攘夷の為だし、長州討伐で名前を挙げ出世もしたい。だが、現状は長州側に攻め込まれているのと変わらないのだ。
 将軍の東帰が決定した今、京都でのこの現状を打破しない限り長州討伐に向かうことなど無理だろう。だが、今の近藤にはその現実は見えていなかった。

「歳!そんな悠長な事を言っていたら新選組は奴等に----------見廻組に飲み込まれるぞ!それでも良いのか!」

 一部噂によると京都見廻組は一会桑勢力に属する新選組に対抗するため組織されたとも言われていた。その噂も近藤を焦らせている一つの理由なのだろう。

「とにかく!広沢さんを通じて幕府に進退伺いを出す!事によれば新選組を解散するかも知れないからそのつもりで居るように幹部には伝えてくれ!」

 土方の説得も焼け石に水である。長州討伐の中止への怒りと京都見廻組への対抗心に囚われ、頭に血が昇った近藤は、感情の赴くまま進退伺いを書き始めた。



 近藤の進退伺は会津公用方を通じて幕府老中に提出された。それは『将軍がこのまま京を発つなら、新選組に解散を命じるか、共々帰らせてほしい』という過激なものである。
 ただ、これが文章で提出されただけなら良かったのだが、その内容は近藤自ら隊士達に公言してしまったのだ。

「近藤さん、あんなことを言っちまって大丈夫なのかよ。隊士達が浮き足だっちまっても知らねぇぞ。」

 近藤の発言を聞いた永倉が思わず漏らしてしまった言葉だったがこの言葉が隊内の状況と端的に表していた。
 近藤が新選組の解散を仄めかしている事を知った隊士達の間に『これから自分達はどうなってしまうのか』という不安が走ったのは言うまでもない。そしてその不安が隊士達にあらぬ行動を起こさせることになろうとは、頭に血が上った近藤には想像することも出来なかったのである。



 それは近藤が幕府老中宛に進退伺いを出した二日後の事であった。

「ふうん。そういう事だったんですが・・・・・で、結局近藤先生を説得することが出来ず進退伺いを出すのを止めることが出来なかったんですね、土方さん。」

 古傷をえぐるような沖田の嫌みに土方は憮然とする。

「仕方ねぇだろうが。あんな息巻いてちゃあこっちの話なんざ聞きやしねぇ。ま、どちらにしろ江戸から御家人どもの集団が来るんだ。俺達は用済みだろうよ。お前も江戸に帰る支度をしておいたらどうだ?」

 一見投げやりに思える土方の言葉だったが、沖田は何か引っかかるものを感じた。

「土方さん、何か『勝算』でもあるんですか?御家人集団の見廻組に私達が勝るっていう・・・・・やけに余裕があるように見えるんですけど。」

 確かに『用済み』と自虐的な言葉を発している割に、土方の態度には不思議な余裕がにじみ出している。もしかしたら京都見廻組に関して何か情報を得ているのか・・・・・そんな感じを沖田は土方から受けた。

「さあな。唯一奴等に勝てるのは、一年間京都で浪士どもとやり合ってきた経験、かな。」

 土方はにやにや笑いながら沖田の言葉をはぐらかすと、不意に表情を変える。

「外の敵はどうって事は無いさ。問題は隊内だ。新選組解散云々なんて話が出ると、これからの立場に不安を感じて隊を抜けるなんて奴も出てくるかも知れねぇ・・・・・というより早速脱走者だ。」

 土方の深刻な言葉に沖田の表情も強張る。

「蟻通七五三之進が昨日の巡察以降姿を見せていねぇ。一日だけの門限破りならともかく、この時間になっても帰ってきていないとなると間違いなく脱走だろう。」

「だったら勘吾さんが知っているんじゃないですか?確か七五三之進とは従兄弟同士の筈じゃ・・・・・。」

 沖田の指摘に土方は首を横に振った。

「あいつも知らねぇとよ。どうやら勘吾にも何ら相談は無かったらしい。それが相当悔しかったと見えて、勘吾の奴、自分の責任で七五三之進を処断すると早速飛び出して行きやがった。」

 一呼吸置くと土方は聞き取れるかどうかの小さな声で沖田に命じる。

「不逞浪士の探索から外れて蟻通七五三之進の捕縛に回ってくれ。できれば・・・・。」

「勘吾さんより早く、ですね。承知しました。」

 沖田は平然と笑って立ち上がった。

「あの二人、本当に仲が良かったですからね。あれほど仲の良い従兄弟を自ら手を掛けるなんて無理ですよ。同志だって処断するのは・・・・・つらかったのに。」

 沖田は遠い目をする。芹沢を自分達の手で処断してからまだ一年も経っていないはずなのに、遙か昔の出来事のような気がした。

「・・・・すまねぇな。お前にばかり嫌な仕事を押しつけて。」

 土方もあの時のことを思い出したのか、苦しげに眉間に皺を寄せる。

「らしくないなぁ。『鬼の副長』の名が泣きますよ。少なくとも・・・・試衛館の仲間以外の前で弱音は吐かないでくださいよ、土方さん。」

 落ち込む土方を慰める、まるで太陽のような笑みを向けると、沖田はするりと副長室から出て行った。



 隊士の脱走は蟻通七五三之進だけでは済まなかった。古参の濱口鬼一や松崎静馬、谷万太郎の弟子で彼の配下で伍長を勤めていた阿部十郎までもが脱走をしたのである。
 さすがにおおっぴらに身内の脱走者の取り締まりをする訳にもいかず、かといってこのまま何もしなければ示しが付かない。脱走者の取り締まりには沖田率いる一番隊が当り、他の隊は不逞浪士の取り締まりに当たることになった。

「見つけたぞ!」

 中村金吾の声が宵闇に響く。そこにはぶるぶると震える濱口鬼一の姿があった。

「局中法度一、局を脱する者、これを許さず!濱口鬼一、潔く出てこい!」

 蟻通勘吾の声が鋭く濱口を責め立て、抜き放った大刀を濱口のこめかみに突きつける。元々蟻通勘吾は沖田率いる一番隊の所属ではなかったが、志願して脱走者を取り締まる一番隊に参加していた。

「勘吾さん、もういいですよ。刀を仕舞ってください。中村さん、濱口に縄を。」

 いきりたつ蟻通勘吾を宥めながら、沖田は中村に命じた。

「勘吾さん、あなたが責任を感じることは無いんですよ。脱走したのはあくまでも七五三之進さんなんですし・・・・・」

「いいえ!従兄弟だからこそ・・・・・一緒に壬生浪士組・・・・・新選組に入って名を上げようと誓ったのにあいつは・・・・・。」

 蟻通勘吾は唇を噛みしめ拳を強く握りしめた。

「あいつは絶対に俺が捕まえます!介錯も・・・・・誰にも譲りません!」

 生真面目な分、思い詰めるととことんまで思い詰めてしまう質らしい。そもそも一番隊では無かったにも拘わらず、一番隊が脱走者の取り締まりに従事すると聞きつけるや否や土方に直談判し、強引に脱走者の取り締まりに参加することになったのである。

「勘吾は頑固だからなぁ。まぁ諦めろや、総司。」

 元々の上司の原田が苦笑を浮かべながら沖田に蟻通勘吾の事を頼み込んだ。原田としてもやはり思い詰めている蟻通勘吾が心配らしい。

(土方さんにばれたら怒られそうですけど・・・・・いっそ七五三之進さんに逃げ切って貰った方が良いのかも知れませんね。)

 この勢いでは七五三之進の介錯をした後に自ら腹を斬りかねない。色んな意味で厄介事を背負い込んでしまった沖田は大きな溜息を吐いた。



 確かに脱走者の探索はできれば避けたい、厄介な仕事であった。だが、沖田に襲いかかったこの厄介事はまだましなものであったのである。



 それは将軍下阪の前日のことであった。珍しく怒りを露わにした沖田が馬越三郎の襟首を掴んで副長室にやってきたのである。

「土方さん、いますか!脱退希望者を連れてきました!処断をお願いします!!」

 副長室の襖を開けるなり、沖田は馬越を土方の前に叩き付けるように放り投げた。

「お・・・・沖田先生、お許しくださいませ。決して悪気は・・・・・。」

 いつにない沖田の剣幕におどおどする馬越を目の前にし、土方は状況が掴めず目を白黒させるばかりであった。



UP DATE 2011.04.29


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ようやく本編に戻ることが出来ましたvしかしいきなり解散するかしないかの騒動が(^^;)
確かに池田屋直前のこの時期は新選組にとって一番もやもやした時期でもありますが・・・・・近藤局長としては本来の目的とは違う仕事をやらされている上に『京都見廻組』なる新参者、しかも自分達が憧れて止まない『幕臣』がやって来るとなれば心穏やかじゃいられないでしょう。しかし上司がこんなんじゃ部下は堪ったもんじゃありません。
特にこの時期隊内の風紀が乱れ、脱走者が相次いだそうです。そしてもう一つの風紀の乱れも・・・・・ご存じの方はご存じですよねvどうやら沖田がとばっちりを受けたようです(爆)

次回更新は来週か再来週のどちらかになりますが(旦那の出勤がいまいちはっきりしないんで・・・・・)、もう一つの風紀の乱れ、『男色』がらみの騒動が中心となります。
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