FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第三章

夏虫~新選組異聞~ 第三章 第三話 進退伺・其の参

 ←葵と杏葉開国編 第一話 種痘・其の壹 →運び屋アレク 危機からの脱出・2
爽やかな海風が吹き抜ける大阪の街はいつ来ても活気に満ちあふれている。特に将軍が東帰の為に大阪に滞在しているとなればなおさらである。警護の幕臣や藩士などを目当てにあの手この手で土産物を売りつけようと賑やかを通り越してむしろ殺気立っていると言って良いかもしれない。
 そんな大阪の街に、やはりこれも将軍警護の名目で新選組がやってきた。いつもの如く『京屋』に入ると、くつろぐ間もなく近藤と土方は会津藩蔵屋敷へと呼び出された。

「一体全体何なんだ、この急な呼び出しは。」

 近藤が怪訝そうな表情を浮かべるのも無理はない。大抵任務の指示はあらかじめ京都で出されるか、到着して次の日に出されるのが普通なのだ。
 下りの船を使うにしても伏見から大阪までは半日がかりの旅路である。狭い船内でじっとしていなければならない状況というものは意外と疲れるものだ。そんな状況で事細かな仕事の指示など出来るはずもないことは、会津藩の方が知っているはずである。

「さあな。大方大樹公が出港した後の宴会の打ち合わせかも知れねぇぜ。」

 心配そうな近藤とは対照的に土方は鷹揚に構えていた。そんな土方に対し、むしろ緊張感がなさ過ぎるのではないかと近藤はやきもきする。そもそも会津に対して『新選組を解散する』と大見得を切った嘆願書を出しておきながら、いざ仕事のこととなると会津の顔色を伺ってしまうのが近藤の悲しいところだ。

「歳、そんないい加減な・・・・・。」

 胃の腑の当りを抑えながら近藤は口を尖らせる。だが不服そうな近藤を無視するかのように土方はどんどんと歩を進めた。

「ま、どちらにしろ深刻な話ではないだろうよ。そうだったらあらかじめ京都で話が出ているはずだ。」

 確かに土方の言うことは正しいだけに、近藤は何も言えなくなる。

「それよか近藤さん、むしろあんたの胃痛を心配した方が良いぞ。そんな胃痛を抱えていたら美味い酒も台無しだ。」

 あまりにも脳天気な土方を恨めしそうに睨みながら、近藤はただひたすら会津藩蔵屋敷へと歩を進めるのだった。



 会津藩大阪蔵屋敷に到着した二人はすぐさま公用方の広沢の前に通された。

「長旅で疲れているところ、申し訳ない。実は、江戸公用方の上田からある知らせが届いてな。」

 二人の顔を見るなり、広沢は眉を顰めながら急くように話を切り出す。その広沢らしくないせっかちぶりに、近藤の胃はしくしくと激しく痛み出す。

「江戸からの知らせに、何故我々が関係してくるのでしょうか?いささか突拍子もなく思えますが。」

 顔色も悪く、言葉も返せない状況の近藤に代わり土方が広沢に尋ねる。その土方の質問に広沢はさらに気むずかしげに表情を歪めると、ようやく核心部分を語り出した。

「実は・・・・・新選組を見廻組に組み込みたいと松平出雲守様から申し出があったそうだ。」

「出雲守様から?」

 思わぬ人物の名前が出てきたことに驚き、思わず近藤は聞き返してしまった。松平出雲守とは、幕府から任命された京都見廻役・松平康正の事である。そのような人物直々にそのような申し出があったとは----------心なしか近藤の顔色が良くなる。

「ああ、どうも応募者の出足が悪くて必要な人数が集まらなかったらしい。見廻組に参加している会津藩所縁の者を通じて江戸藩邸に申し入れがあった。」

 そんな近藤を苦々しく一瞥しながら、広沢はさらに事情を説明してゆくが、その広沢の説明を土方が遮った。

「広沢さん、『会津藩所縁の者』なんてまだるっこしい言い方はしなくていいでしょう。おおかた佐々木只三郎あたりがやらかしたんでしょう。」

 にやにやと笑いながら語る土方に、広沢は驚きの表情を一瞬浮かべ、その後納得したように深く頷く。

「・・・・・その通りだ。そういえば佐々木も浪士組として上洛していたな。まさかお前が佐々木と懇意にしていたとは知らなかったが。」

 佐々木只三郎は会津藩士・佐々木源八の三男として生まれながら、親戚であった旗本佐々木矢太夫の養子となり、旗本になった男である。
 佐々木は浪士組結成時、近藤らと共に浪士組として上洛したが、その後の清河の裏切りにより江戸に帰還することになった。その際、決裂した清河に抗し、京都残留を決めた近藤勇らを京都守護職の支配下に置くように取り計らった男でもあるのだ。

「奴から個人的に手紙が来ましてね。よっぽど上洛できるのが嬉しかったらしいですよ。まぁ、どうなるかは会津藩の腹ひとつで決まるが、できれば身分を問わず共に戦いたいと・・・・・あいつも元々は浪士組の仲間でしたから。」

 土方の言葉を聞いて広沢は憮然とする。まさか見廻組の与頭と直接土方が連絡を取っているとは思わなかったのである。

「で・・・・・そなたたちの考えは?」

「見廻組は『御家人』しか入ることが出来ないんですよね。佐々木一人はどう言おうと、身分的に我々ではいささが苦しいものが・・・・・せめて御家人の身分を戴きません事にはどうしようもないでしょう。その旨を出雲守様に伝えて戴ければ・・・・・見廻組の捨て駒になるほど我々も馬鹿じゃない。」

 つまり『幕臣の身分』と引き替えならば考えなくもないが、それ以外であれば編入は断ると言うことである。

「おい、歳・・・・・。」

 『幕臣の身分』という、とんでもない交換条件にさすがに近藤も慌てる。だが、土方はむしろ微笑みさえ浮かべていた。

「解散するだの何だの言ってた人間がどうしたんだよ、近藤さん。」

 土方にとっては攘夷が出来るのならば、新選組のままであっても、見廻組に組み込まれても構わないと思っていた。そして近藤と違うところは隊士達の今後も考えなくてはならないことだろう。
 ここ最近の脱走、そして男色の流行は将来に対する不安によるものである。だったらその不安を解消してやるのが指導者の務めではないか----------土方はそう言う。

「会津藩にも矜持がございますればそれなりに考えて戴けるものと思います。何せ我らは壬生浪士組の名を捨て、会津藩から頂戴した『新選組』の名を冠しております故・・・・・それが幕府配下の見廻組に吸収されたとあっては会津の名折れでしょう。」

 土方の言葉に広沢の顔は青ざめ、唇はわなわなと震える----------ここはひとつの賭けであった。



「それにしても佐々木さんと未だに連絡を取り合っていたとはねぇ。確かに道中しょっちゅう一緒に飯盛女を買いにどこかへ繰り出していましたもんねぇ。」

 蔵屋敷から帰って、一連の出来事を話した土方に対し、沖田は感心したように呟く。

「ああ、江戸に帰ったものの攘夷を諦めきれなかったんだろう。江戸にいるとなまっていけねぇと見廻組の募集があった途端、すぐに応募したそうだ。あいつが指導者なら上手くやっていけるさ。」

「しかし、下の者はどうでしょうかねぇ。すでに対抗意識を燃やしていますが。」

 沖田は二階の窓辺から中庭を覗き込みながら呟いた。階下では若い平隊士達が組み手の練習をしている。見廻組が京都にやって来ると聞いてから、何故か稽古に励むものが増えてきていた。将来の不安と幕臣への対抗心はまた別のものらしい。

「安心しろ。多分巡察場所はかぶらねぇ。幕府の奴等が旗本を危険な歓楽街で巡察させると思うか?」

 幕臣をあえて危険だと解っている場所にやってしまってはただでさえ少ない見廻り組の人数がさらに少なくなってしまうだろう。

「ああ、確かにそうですね。そうなると佐々木さんは不満でしょうけどね。」

「そういう事だ。」

「だから土方さん最初からやけに余裕だったんですね。酷いなぁ、一言も言ってくれないなんて。」

 今まで黙っていた土方に、沖田は子供のように頬を膨らませた。

「頭に血が上っている人間も少なくなかったからな。もう少し落ち着いてから、というか佐々木がこっちに来てから酒席で言おうとしたんだが、まさかこんな事になるとは。」

 土方は煙管に火を付けながらくすり、と笑う。

「まぁ、平隊士には特に言わなくても良い。対抗心を燃やしてくれた方がまじめに仕事に取り組んでくれるだろう。」

「・・・・・そんな事言って大丈夫ですか?まだ近藤先生解散のことちらつかせているんでしょう?」

「まぁ見てろって。会津藩がわざわざ押しつけた『新選組』の名前を冠している隊が解散して見廻組に吸収されてみろ。会津一藩だけじゃなく一会桑全ての恥になるぞ。」

「ということは、会津が近藤先生の懐柔に出ると?」

 土方の思惑が読めず、沖田は土方に近づきその横顔を覗き込む。

「まぁな。いいとこ大樹公が出立する十六日以降になるだろうが、何かしら動きがあるはずだ。」

 土方は自分の顔を覗き込む沖田に意味深な流し目をくれながら、ゆっくりと紫煙を吐き出した。



 土方の想像は当たっていた。将軍が東帰した二日後の五月十八日、将軍東帰警護の報償として銀百枚の恩賞が会津藩から下賜されたのである。警護の恩賞としてはあまりの高額----------明らかに近藤に対する懐柔作戦であろう。

「ここまで我らを高く買っていてくれたとは・・・・・。」

 感動しきりの近藤におべっかを使う武田だったが、それ以外の幹部達は比較的冷静にこの報償を捉えていた。

「そんなに見廻組に私達が吸収されるのが腹立たしいんですかねぇ。」

「そりゃそうだろう。何せ『新選組』は会津藩にとって由緒ある名前なんだろ?それをあっさり解散されてみろ。今まで面倒を見てきた会津としてはやってらんねぇだろう。」

「確かにな。それよりも・・・・・。」

 土方が声を顰めて皆に語りかける。

「大阪西町奉行所の内山の件、裏が取れたぜ。」

「何だって?」

 土方の言葉に、その場にいた者達の間に緊張が走った。

「やはり長州とつるんでいたのか。奉行所周辺からやけに情報が流れると思っていたが、下働きのものじゃ無く事もあろうに奉行所の与力が・・・・・。」

 それは山崎ら監察部隊が調べだした情報であった。新選組に入り込んでいた間者が逃げ込んだ古道具屋から、ひとつひとつ地道に調べ上げ、ようやく辿り着いた先が事もあろうに大阪西町奉行所の与力・内山だったのである。

「・・・・・殺るのか。」

 永倉の声が緊張に強張る。長州藩と繋がっているとは言え、相手は幕府の役人であり、幕臣でもある。さすがに間違いだったでは済まない相手に緊張するのも無理はない。だが、土方は自信たっぷりに言い放った。

「ああ、永倉、原田。おめぇらは大阪に残って内山を処分しろ。会津と幕府からの許可状は後で貰っておく。」

 土方の力強い言葉に原田、永倉は深く頷いた。



UP DATE 2011.05.13


Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
ランキング参加中。お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv

  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






『進退伺・其の参』にてようやく土方の余裕の理由・佐々木只三郎が会話の中に出てきました。この人も浪士組に参加していたのですが、京都に残らず江戸で清河八郎を暗殺したという豪傑でございますvというより見廻り組与頭と言った方が良いですかね。

拙宅では今まで彼を登場させていませんでしたが(というか、登場させると話が複雑になって書けなかったというのが正しいデス)ここに来てさすがに登場させない訳にもいかず、この場に来て登場と相成った訳です。
ちなみに裏設定では歳と只三郎は『遊び仲間』として仲が良く、上洛の際も二人でつるんで遊びに出向いていたことになっています。そういえば歳は伊庭クンとも仲が良かったですからねぇ。遊びに関しては『幕臣並み』だったのかも知れません。
そして近藤さんがしっかり会津藩に懐柔されている裏で長州浪士と大阪西町奉行の与力の繋がりが・・・・これを発端に徐々に池田屋に向かって事態は動き出します。

次回更新は5/20、永倉、原田による大阪西町奉行所与力・内山の暗殺がメインとなります。


関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【葵と杏葉開国編 第一話 種痘・其の壹】へ  【運び屋アレク 危機からの脱出・2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【葵と杏葉開国編 第一話 種痘・其の壹】へ
  • 【運び屋アレク 危機からの脱出・2】へ