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「短編小説」
幕末歳時記

幕末歳時記 其の拾伍・神無の月(土方歳三&お琴)

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予想もしていなかった三日仕立の早飛脚が土方の元にやってきたのは十月十七日であった。そこには将軍徳川慶喜が統治権返上を天皇に上奏したこと、すなわち大政奉還がなされたことが近藤の力強い筆跡で書き殴られている。

(元々話はあったみてぇだが、ここまで早ぇとは・・・・・。)

 大政奉還がなされると聞き及んだ近藤が何度か上層部に訪ねていたみたいだが、まったく相手にされないと土方への手紙で愚痴をこぼしていたくらいだ。だから近日中だとは踏んでいたが、自分が江戸にいる間になされるとはまったく思いもしなかった。
 とにかく行動に移さねば話にならない。すぐさま隊士を招集し、四日後に京都に旅立つ旨を伝えた土方は、その脚で戸塚村へ---------二年前に振られたお琴の許へ向った。



 土方が戸塚村へ着いたのは夕暮れ時であった。気の早い初冬の日は西の空をあかね色に染め沈みかけており、その姿はまるで勢いを無くし、壊滅寸前の幕府のようである。

「あら?歳さん、どうしたの?深刻な顔をしちゃって。」

 土方が訪ねて来たと知らされた琴が表に出てきた。最後に逢った二年前と変らぬ笑顔でお琴は土方を迎えてくれた。まるで婚約をしていた時と何も変らずに・・・・・。
 眉を剃らないでいること、そして何より実家にいることが琴が他の誰のものになっていない証であった。その事に少しばかりの嬉しさを感じつつも、土方は重たい口調で切り出した。

「幕府が・・・・・無くなっちまった。大樹公が・・・・・政の権限を朝廷に返しちまったんだ。」

 長い、長い沈黙の後、土方がようやく声を絞り出す。

「幕府が・・・・って・・・・・。」

 昔から何も変らぬ平和な日々を送っていた琴にとって土方の言葉はまさに青天の霹靂であった。

「じ・・・・・冗談は止めてくださいな。千代田のお城だって私たちの暮らしだって何も・・・・・。」

 変っていないじゃないですか---------琴はそう言おうとしたが、その言葉は土方によって遮られる。

「これから・・・・・変っちまうんだ。」

 土方は琴の肩にそっと己の手を乗せた。琴の華奢な方に乗せられた手は、幕府が無くなる嘆きの所為か、それとも大政奉還をしてしまった将軍への怒りの所為か小刻みに震えている。

「これから今までにねぇ大きな戦があるかもしれねぇ。二度と・・・・・おめぇには・・・・・。」

 続きを言おうとした土方の唇を、不意に琴の唇が塞いだ。見えない将来への不安を融かす程に琴の唇は温かく、柔らかで、土方は徐々に落ち着きを取り戻していく。

「・・・・・それ以上は言っちゃいけません。言ってしまったら・・・・・本当のことになってしまうじゃないですか。」

 土方の性格をよく知っている琴である。振られた女子の許へ恥を忍んでやってくるのに、それなりの理由がなければ出来ない矜持の高さを、琴の方が土方本人よりもよく知っている。
 そんな土方が自分の許へやってくるのは生きて二度と逢えないかも知れないという予感があるからに違いない。この逢瀬が二人の本当の別れであることを琴は肌で感じていた。

「・・・・判った。これ以上、この事に関しては言わねぇ。」

 土方はそれだけ言うと琴を強く抱きしめた。

「だけど・・・・・頼みがある。三日間だけ・・・・・俺の女房になってくれねぇか。」

 己の頬を琴の柔らかな頬に擦りつけながら土方は囁く。

「虫のいい話だとは重々承知している。だけど・・・・・このままじゃ未練が残りすぎる・・・・・。」

 二年前に振られていながら、往生際悪く言い寄るなんてどうかしていると自分でも呆れてしまう。だが、言わなければ言った以上の後悔が待っている。
 例え断られたとしても、己の想いが伝えられればそれでいいと玉砕覚悟で吐き出した一言であったが、琴から返ってきたのは意外な返事だった。

「・・・・神無月ですもの。神様の目も今なら届きませんよ。」

 思わぬ琴の返事に土方は驚きの表情を見せる。

「だけど・・・・・三日だけですからね。それ以上長く私をお嫁さんにしたいのなら公方様の敵をぜ~んぶ倒してからじゃなきゃ許してあげないんだから。」

 目にうっすらと涙を浮かべながら冗談めかして琴は笑顔を作った。


 神の情けがあれば違った未来があったのだろうか。だが、そうであっても自分はそれを選ぶことはないだろう。最後の恋に身を委ねながら土方は琴をさらに強く抱きしめた。



UP DATE 2009.10.12

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・・・・・てな訳で『灌仏会』続編のヘタレ土方です(笑)。
何せこの時の東下でもお琴さんに逢っているらしいので相当未練があったのでしょう。普通婚約破棄した相手に逢えませんよね~。
どうせやるならとことんまでヘタレにと、土方ファンに石を投げつけられそうな内容になってしまいました。


この話には大人向けの続編がございまして・・・・もし大人向け描写が大丈夫でしたら幕末歳時記・影暦(大人向け)も覗いてやってくださいませ。   
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