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「横浜慕情(大人向け)」
横浜慕情~虔三郎と結衣

横浜慕情 浜猫の唄・其の壹

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結衣は褥の中でただ身体を硬くし、これから起こることに対し覚悟を決めていた。

(借金を返さなきゃいけないんだから・・・・・これくらい・・・・・。)

 夫でも、将来を誓った相手でもない男に処女を散らされようとしているが、状況を考えれば自分は恵まれていると思う。父親が病だったとはいえ三十円近い借金を抱え込んでいる身なのだ。これは明治十年代の庶民の月収が三円前後だったことを考えればいかに大金か判って貰えるだろう。
 それだけに、高島町の遊郭で誰とも知らぬ男を客として取る事になっても文句が言える立場ではない。実際、高島町の老舗・五十鈴楼に身売りをする算段ができており、もう少しで五十鈴楼の娼妓として郭にあがるところだったのだ。
 そんな結衣を『自分の妾』にと申し出たのは、他でもない結衣が借金をした相手-------明豊堂分家の主・滝沢虔三郎である。

「おい、お結衣。もう少し力を抜け。でないと余計に痛い目を見るぞ。」

 結衣の新たな主-------滝沢虔三郎は結衣に覆い被さりながら、ぶっきらぼうに言い放った。ちょっと見には判らない暗緑色の瞳と、日本人にしては淡い茶褐色の髪は、彼が異邦人の血を引いていることを物語っている。
 聞いた話によると、先代が岩亀楼の娼妓に生ませた子で、その娼妓自身英吉利人の父親と日本人の母親の混血だったらしい。その異国の祖父の血がこの青年には強く出てきてしまっているようである。

「は・・・・い・・・・・旦那様。」

 そう言われても身体の奥からわき上がってくる震えを止めることは出来ない。唇を噛みしめ、瞳をきつく閉じながら結衣は数日前の出来事を思い出していた。



 結衣が滝沢虔三郎に出会ったのは、長患いだった結衣の父親を荼毘に付した直後であった。結衣の母はすでに亡く、結衣に残されたのは父親の治療代と生活費の為に借りた、合せて三十円近い借金のみである。借金を返す為もあったが、身よりも後見もない娘が生計を立てるのもこのご時世では難しく、父親の葬儀が終わり次第結衣は五十鈴楼へ娼妓として上がることになったのである。遊郭と言えば聞こえは悪いが、身寄りのない娘にとって数年契約が結べる遊郭は、下手な商家勤めより遙かに安定した職場である。
 虔三郎側と五十鈴楼側の話も順調に進み、最終合意と金銭の授受の手続きをする為に虔三郎本人が初めて結衣の前に現われたのである。

「ほぉ・・・・・・こんな美形だとは聞いていなかったぞ。」

 結衣の顎に手をかけ、その顔をまじまじと見つめる虔三郎の反応に、部下の長谷川がため息を吐いた。金貸しがいちいち金を貸している相手の女に食指を動かされていては仕事にならない。それを見越して長谷川は虔三郎に結衣を逢わさないようにしていたらしいのだが、結局その努力も水の泡となってしまったのである。

「生活苦でやつれちゃいるが、磨けば光る上玉、ってところだな。おい、お前、名前は?」

 そんな長谷川の内心も知らず、虔三郎は結衣に名を尋ねる。部下に命令するドスの利いた声ではなく、結衣をできるだけ怯えさせないように語りかけるその声は意外と若く、低く、甘い。その声に誘われるように結衣は素直に虔三郎に応じた。

「結衣、と申します・・・・・。」

 虔三郎の指摘通り、食べるものさえろくに食べられず、父親の看病に明け暮れていた結衣はかなりやつれ、みずぼらしかった。だが、身なりを整え、紅の一差しでもすれば見違えるように美しくなるだろう、そんな想像が容易に出来るほど結衣の顔立ちは整っている。
 否、それだけではない。幕府の瓦解で落ちぶれてしまったが、結衣の父親は元神奈川奉行に努めていたれっきとした御家人であった。それだけに結衣に対する躾は厳しく、立ち居振る舞いひとつとってもそこいら辺の町娘とは一線を画している。

「ふぅん・・・・・・おい、お結衣さんとやら、あんた五十鈴楼の娼妓になるのと俺の妾になるのとどっちがいい?」

 思ってもみなかった虔三郎の言葉に結衣は唖然とする。

「お妾って・・・・・・だって私は・・・・・・明豊堂さんに借金をしている身ですよ。それなのにお金も返さず妾奉公って・・・・・・・給金を棒引きにしたとしても申し訳が立ちません。」

 妾奉公と言っても結局は奉公人である為、給金などたかが知れている。借金を返せるほど雇って貰えるか判らない状況では損をするのは虔三郎の方ではないか---------それではいくら何でも申し訳ないと結衣は指摘した。

「それはな、お結衣さん---------あんたの初物の代金も入っているからさ。」

 虔三郎は喉の奥でくっくっと嗤う。

「遊郭で初物を頂こうと思ったら三十円なんてはした金じゃとうてい無理だ。娼妓の手練手管が無い分差し引いたとしたら妥当なところだろう、三十円は。」

 どうやら虔三郎は本気らしい。長谷川の方は『勘弁してくれ。それでは商売あがったりだ。』と首を横に振るが、それに気づくほどの余裕は結衣に無かった。

「判りました・・・・・・では、明豊堂さんのお心のままに。」

 結衣は目を閉じ、目の前にいる男に頭を下げた。



 その後、『話が違う』と五十鈴楼の男衆と殴り合いになったのだが、虔三郎は屈強な男衆をあっという間に叩きのめし、一人は腕の骨まで折る始末であった。その時の男衆の苦しげな顔が結衣の脳裏から離れない。自分で決めたことだが、本当にこれで良かったのだろうかという後悔の念を抱きながら、今現在に至るのだ。
 さすがに『父親の喪が明けるまでは』と数日間は虔三郎も夜伽を許してくれたが、七日の喪が明けた今日はさすがにそうもいかない。結衣は身なりを整え、虔三郎に指示された通り、洗い髪で夜伽をする事になったのである。

「覚悟は判るが、辛くなるのはお前なんだぞ、お結衣。」

 がたがたと震える結衣の耳許で虔三郎が囁く。乱暴でぶっきらぼうな虔三郎であったが、時折ふっと優しさを垣間見せることがある。

「は・・・・・い・・・・・・。」

 それでも力を抜くことが出来ず、身体を強張らせてしまう。虔三郎の命令通りに力を抜くことさえ叶わず、とうとう結衣の瞳からぽろぽろと涙が溢れはじめてしまった。

「申しわけ・・・・・・ありません・・・・・・。」

 泣きじゃくりながら、それでも虔三郎の要求に応えようと努力する結衣であったが、虔三郎は軽くため息をつくとそのまま結衣の頭をかき抱いた。

「ちょっとだけだぞ、俺の胸を貸してやるから余計な涙をさっさと流しやがれ。」

 そう言いながら虔三郎はさらに結衣を強く抱きしめる。着物の上からでは判らなかった、意外と逞しい胸板に引き寄せられ、結衣は頬を赤らめた。

(あったかい・・・・・おとっつあん・・・・・みたい・・・・・。)

 昼間見せた凶暴とも言える乱暴さとはまるで違う優しい態度に、結衣は徐々に落ち着きを取り戻してゆく。

「少しは落ち着いたか?」

 どれだけ長い時間が経ったのだろう、虔三郎はようやく泣き止んだ結衣に語りかけた。

「はい・・・・・もう、大丈夫です。」

 虔三郎から見たら大丈夫とは全く思えなかったが、『借金を返さなければ。』とかたくなに思い込んでいるこの娘にその事を指摘することは出来なかった。

「だったら・・・・・もう止めないからな。覚悟しろよ。」

 虔三郎は返事をしかけた結衣の唇に己の唇を重ねた。



 最初はただ重ね合わせるだけだった唇であるが、結衣の強ばりが徐々に解けだしたところを見計らい、虔三郎の舌が結衣の口腔に入り込む。

「・・・・・!」

 驚きの表情を浮かべる結衣だったが、その舌は決して強引ではなく、柔らかく結衣の舌を絡め取り優しく吸う。それだけで結衣の頭の心は霞がかかったようにぼんやりし、身体の芯が熱を帯びてきた。
 接吻だけでこれである、これから自分はどうなってしまうのだろう---------漠然とした不安と、抱いてはいけない背徳的な期待が胸の中に渦巻いていく。
 いつしか結衣も自ら虔三郎の舌を吸い、艶めかしい濡音を立てながら虔三郎に応え始めていた。激しい接吻の音は二人を昂ぶらせ、より激しく互いを貪らずには居られなくなる呪文のように二人を蝕んでゆく。

「・・・・・胸が貧相なのはしょうがないな。これからしっかり喰わせるからそのつもりでいろよ。」

 虔三郎は結衣を接吻から解放すると、するりと着物の袷から結衣の胸元に手を忍ばせる。

「はい・・・・・・・っ!」

 虔三郎が結衣の乳首を擦り上げた瞬間、結衣の背筋がびくん、と激しく跳ねあがった。虔三郎の指先から繰り出された愛撫は結衣の乳首を貫き、背筋を走り抜けたのだ。その激しい痺れを伴った快感に結衣は恥じらいも忘れ、激しい反応を露呈してしまう。

「お結衣、やっぱりお前は五十鈴楼の娼妓にならなくて正解だったな。」

 虔三郎は結衣の耳朶を舐りながら囁き出す。そのささやかな刺激にさえ結衣は激しい反応を示し、虔三郎にすがりつく。

「な・・・・ぜ・・・・・・。」

--------娼妓にならなくて正解なのか、と尋ねようとした瞬間、新たな刺激が虔三郎の指から、そして唇から繰り出され、結衣は恐慌に陥る。

「旦那・・・・さ・・・ま・・・・・ゆる・・・・して・・・・・変に・・・・・なっちゃう・・・・・。」

 結衣は快楽から逃れようとするが、虔三郎はそれを許さずさらに愛撫の手を激しくする。

「おぼこ娘の癖にこんなに感じやがって・・・・・取る客にいちいち本気で感じていたら身体がもたねぇだろう。しおらしい武家娘の仕草に騙されていたが・・・・・淫乱を隠すのに武家の躾とやらもあながち無駄じゃないんだな。」

 虔三郎は結衣の胸許をくつろげると、その薄い胸に顔を近づけ淡い桜色にそそり勃った乳首をちゅるり、と吸い上げた。

「ああんっ!」

 結衣の唇から漏れたその声は、生娘のものとは思えぬほど艶っぽく部屋に響く。

(我ながらいい買い物をしたぜ。)

 結衣の乳首を嬲りながら虔三郎はほくそ笑んだ。

(ここまで感じやすい女子というのも珍しい。)

 遊郭にいる娼妓から素人まで、女には不自由しない虔三郎であったが、ここまでの反応を示す女は今まで出会ったことがなかった。しかも結衣は生娘である。先程の涙にしても今の愛撫への反応にしても演技とは思えなかったし、演技をする余裕もないだろう。

「お結衣、繋がる時だけは痛い目を見せることになるが、それ以外は今までにない極楽を味あわせてやる。」

 虔三郎は顔を上げると結衣の瞳を覗き込んだ。

「ごく・・・・・らく・・・・・?」

 何のことか判らず、結衣は潤んだ瞳で怪訝そうに虔三郎を見つめ返す。

「そうだ。お結衣みたいなすけべな身体をしている女子にしか味わうことが出来ない極楽をな。いいや、むしろ快楽地獄とでも言った方がいいかな。俺から一生離れられない身体にしてやる。」

「す・・・・!」

 すけべとはひどすぎると結衣が言い返そうとした途端、虔三郎がふたたび結衣の薄い乳房に喰らいいたのだ。空いたもう片方の乳房も虔三郎の手が包み込み、ころころと指先で尖った乳首を嬲られる。

「だ・・・・めぇ・・・・・・・。」

 確かに虔三郎の言うとおり、情交の初っ端からここまで溺れてしまってはとことんまで堕ち、淫楽の泥沼から這い上がれなくなることは火を見ることより明らかである。結衣は最後の抵抗を試みたが、虔三郎から与えられる愛撫には勝てず、その前にもろくも崩れ去ってしまった。


 だが、結衣は知らなかった。虔三郎との情交はこれからが本番であることを。



UP DATE 2009.10.19

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『横浜慕情』一話目、『浜猫の唄』、開始いたしました。ちなみに浜猫=ウミネコのことです。
舞台設定としては明治十五年前後の横浜で、虔三郎(けんざぶろう)は明豊堂の現主人の腹違いの弟、兄に内緒で金貸しをやっているというところです。あと英吉利人のクォーター。昔から混血の人が多いのも横浜の特長ですのでそれも書いてみたいなぁ、と。それ以外あんまりちゃんとした設定は組んでおりません(おいっ)。
とりあえずミニ連載3話くらいをやってみて、評判が良ければ続編を・・・・・ってもくろんでます。
次回更新は10/26、今度はほぼエッチシーンになりそうです。
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