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「横浜慕情(大人向け)」
横浜慕情~虔三郎と結衣

横浜慕情 白蛇の恋・其の壹

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原善三郎との花見の宴から約ひと月後、その知らせは突如虔三郎が経営している会社の事務所にやって来た。

「『天地開』がじきに咲く。見頃は十日後くらいになりそうだからその日に合わせて妾と共に野毛の屋敷へ来い。」

 余計なことは一切書かぬ、単純明快な原からの手紙に虔三郎は唇を噛みしめる。あの時の話はてっきり酒の上の戯言で、まさか原が覚えているとは思わなかった。野毛の屋敷--------------原善三郎の本陣に呼ばれるという事は実業家として認められた証拠だが、同時に結衣を失うかもしれない危険性も孕んでいるのである。
 原の前でつい見せてしまった結衣への執着心が原の好奇心をかき立ててしまったのだろう。虔三郎は自分の若さを悔やむが、それは遅すぎた。虔三郎は原からの手紙を背広の胸ポケットにしまい込むと、嫌なことを忘れるかの如くそのまま仕事に没頭しようとする。私事で仕事をおろそかにしてはならぬと父や長兄にたたき込まれただけあって虔三郎が仕事でしくじることはなかったが、やはりどことなく精彩を欠いていたことは否めなかった。



虔三郎が妾宅に帰ってきたのはいつもより少し早めの夜七時半頃であった。

「原のおやっさんに野木の邸宅に呼ばれた。お前も一緒に来いだとよ。」

 妾宅に帰ってくるなり虔三郎は結衣に原善三郎から知らせが来たことを伝え、その旨が書かれた手紙を見せる。それを受け取った結衣はまじまじと手紙の内容に見入ってしまった。

「原様・・・・・とは、あの原善三郎様のことでしょうか?」

 結衣は小首を傾げながら虔三郎に尋ねる。原善三郎と言えば横浜では知らぬものは誰もいないという有名人、そしてそれと同時に下々の者が滅多に会えない人物だ。その原善三郎から野毛の邸宅への招待を受けた虔三郎の実力に結衣は改めて畏敬を感じてしまう。

「ああそうだ。それと・・・・・お前のことを気に入ったら妾にしたいとも言っていたな。」

 さり気なく、しかし結衣の反応を確かめるように慎重に、虔三郎は花見の時に原が言った言葉を告げた。

「・・・・・・。」

 虔三郎の言葉に結衣は返事をしなかった。だがその瞬間、結衣の顔に僅かに、しかし明らかに動揺が走ったのである。動揺は一瞬にして消え去ったが、その一瞬を虔三郎はめざとく見つけてしまった。冗談だろうと笑い飛ばしてくれればまだ救われただろう。しかし、結衣の動揺は原の発言を本気で捉えている--------------少なくとも虔三郎にはそう思えた。

「あくまでも向こうが気に入ったらだ。自惚れるな。」

 結衣の反応に気分を害した虔三郎は不機嫌に言い放つとそっぽを向く。

「まぁ、あれだけの実力者だ。俺の妾でいるよりはよっぽど良い暮らしが出来るだろう。もし、その話が出たら自分の幸運を喜ぶんだな。」

 結衣に当たってもしょうがないと解っているのについ結衣を責め立ててしまう。それでも結衣が悲しげな表情のひとつでも浮かべれば攻撃の手を緩めただろう。しかし、結衣は無表情のまま、ただ黙って虔三郎の話を聞いているだけだった。それが虔三郎にとって歯がゆく、苛立たしい。そんな重苦しい空気の中、さすがに結衣を抱く気になれなかった虔三郎は夕餉を取ると、珍しく長兄がいる本家へと帰って行ってしまったのだった。



 それから約一週間、虔三郎は結衣のいる妾宅に出向くことはなかった。仕事が忙しかったと言う事もあったが、それ以上に結衣の顔を見るのが辛かっのである。自分はこれほど苛立ち、胸が締め付けられるほど苦しんでいるというのに、結衣は原の話が出た時、僅かに動揺を見せただけでそんな素振りさえ見せずにいる。
 自分が結衣を思うほどには、結衣は虔三郎を思っていない--------------それを思い知らされるのが嫌で妾宅から足が遠のいているのである。

「それはお結衣さんが大人しいからなんじゃないですか?」

 虔三郎にしては珍しく愚痴をこぼしてしまった時、藤堂を始め部下達は口々にそう言った。

「うちの嬶にそんな事を言ったら最後、ふんどし一丁で追い出されるのがオチです。身分が違うんですからお結衣さんは言いたいことがあっても言えないだけですよ。」

 部下達の慰めさえも虔三郎には空しく聞こえた。これが自分を会社ごと潰せる力を持っている原ではなく、他の男だったら嫉妬のあまり結衣を殺しているかもしれない。そんな狂気が腹の奥底に渦巻く。

「借金を棒引きにしてやった恩も忘れて・・・・・女なんてろくなもんじゃない。」

 虔三郎はまるで自分自身を慰めるかのようにそう呟き、煙管をふかす。この頃の虔三郎は結衣と出会う前の、荒れた虔三郎に戻っていた。自分から喧嘩をふっかけては相手を叩きのめし、金に任せてこの頃疎遠だった娼妓達を片っ端から抱いてゆく。だが、何をしても虔三郎の中には虚しさだけが募ってゆくだけだった。

(結衣・・・・・何故俺をこんなに苦しめる。)

 以前なら喧嘩をしてできたほんの僅かなかすり傷さえ結衣は心配してくれた。娼妓を抱けば抱くほど欲しくなるのは結衣のぬくもりだ。自分を包み込んでくれる柔らかな心遣いが、日だまりの優しい匂いが無性に恋しい。憎んでも、恨んでもなお結衣を欲してしまう自分に虔三郎は己の限界を感じずにはいられなかった。

(明日は妾宅に出向くか。)

 煙管の癇性に噛みながら、虔三郎は自分の敗北を認めざるを得なかった。



 約一週間ぶりに虔三郎が妾宅に出向いたが、玄関から声をかけても結衣は出てこなかった。

「おい結衣!」

 出かけているのか・・・・しかしすでに日も暮れている。それにどこかに出かけるのならば必ず虔三郎に告げる結衣である。無断で外出しているとは思えない。

「おい、結衣!どこにいる!いるのなら出てこい!」

 苛立ちを露わにし、乱暴な足音を立てながらずかずかと妾宅に入ってゆく。この時間になっても灯ひとつ付いていない。

(何か・・・・・あったのか?)

 虔三郎はこの一週間妾宅に出向かなかったことを後悔した。身寄りのない結衣にとって帰る場所はここしかない。嫌な予感が虔三郎を襲う。もし結衣に何かあったら-------------虔三郎の胸は締め付けられ、焦りがいや増す。

(あいつが居なくなったら・・・・・。)

 自分は気がふれてしまうだろう--------------虔三郎は本当の意味で結衣を失うことの意味を知った。会社や部下の生活を守るために結衣を原に差しだしてしまったら、自分は一生後悔するに違いない。結衣を見つけたら絶対に--------------二度と離さない、そう虔三郎は覚悟を決めた。その時である、微かにすすり泣く声が奥の方から聞こえてきたのだ。

「ゆ・・・・・・い?」

 それは間違いなく結衣の声であった。虔三郎は急ぎ足で泣き声のする方へ向かう。そこは小さな中庭に面した縁側であった。中天にかかっている上弦の月に照らされて、結衣はすすり泣いている。

「結衣、何をしている。」

 険を含んだ虔三郎の声に、結衣はようやく虔三郎が帰ってきたことに気がついた。

「も・・・・・申し訳ございません。」

 結衣は涙を袂で拭き立ち上がろうとするが、それはかなわず再び泣き崩れる。さすがにこれは尋常ではない--------------虔三郎は結衣に近づき、そっと華奢な肩に手を乗せた。その手に結衣の身体はびくり、と反応する。

「何が・・・・・あったんだ?」

 出来る限り穏やかな声で虔三郎は尋ねる。何か自分に対して不義を犯したのか--------------そんな予感も頭をよぎったが、そもそも原の所に行くかもしれないといった時、大して嘆きもしなかった結衣である。不義を犯してもここまで泣きはしないだろう。一瞬とは言え、結衣に自分への想いを期待してしまった自惚れに虔三郎は自嘲する。しかし、次の瞬間驚くべき言葉が結衣の唇から零れたのである。

「お願いでございます・・・・・何でもいたしますから・・・・・・私をここに置いてくださいませ。」



 若葉の匂いが漂う月明かりの下、しばしの沈黙が二人の間に流れる。

「結衣・・・・・?」

 思わぬ言葉に唖然とする虔三郎に対し、結衣は涙を堪えながら言葉を続けた。

「虔三郎様が私に飽いてしまわれたのは重々承知しております。ですけど・・・・・原様のところにやるのだけはご容赦くださいませ。下女でも、何でも・・・・・・私の顔など見たくないとおっしゃるのでしたら絶対に虔三郎様の前に現われませんから・・・・・・せめて虔三郎様の影を拝める場所で・・・・・・。」

 そこまで頑張って語ったものの、やはり耐えられなくなり結衣はむせび泣く。そんな結衣の肩を優しく撫でながら虔三郎は結衣に尋ねる。

「何故・・・・・原のおやっさんのところなら悪いようにはされないぞ?」

 若さ以外虔三郎が原に勝てるものは何もない。それなのに何故結衣は自分にこだわるのか理解できなかった。もしかして・・・・・望んではいけない、しかし望んでしまう期待を虔三郎は抱く。そしてその期待は虔三郎の思っていた以上の言葉で叶えられたのである。

「・・・・・虔三郎様を・・・・・・お慕いしております。」

 小さな、しかしはっきりと結衣は虔三郎への想いを言葉にしたのだ。奥ゆかしさが求められる女性として、それを口に出してはあまりにもはしたないと忌避される愛の告白。その言葉に虔三郎の胸はいつになく高鳴りを覚える。結衣のその言葉に応えたいのに緊張のあまり喉がひりつき、舌がもつれて言葉にならない。その沈黙をどう解釈したのか結衣はさらに続ける。

「だから・・・・・他の方へ仕えることだけはお許し下さい。でなければ・・・・・自害することをお許し下さいませ。」

 その瞬間、虔三郎は結衣を強い力で抱きすくめた。甘い、日だまりの匂いが虔三郎の鼻孔をくすぐり、華奢な身体は虔三郎の腕の中で蕩けそうなほどの柔らかさと存在感を虔三郎に伝える。

「許さん・・・・・命を絶つことだけは絶対に許さない。」

 勢いのまま虔三郎の唇が強引に結衣の唇を奪う。息さえ奪う激しい接吻に、結衣は喘ぎながら虔三郎に身を任せる。なんども唇を重ね直す、情熱的な接吻から結衣が解放されたのは長い、長い時間の後だった。

「どうして早くその一言を言わないんだ、結衣。例え戯言であっても、惚れた女に『慕っている』と囁かれれば、どんな男でも大抵の無理はするものだぞ。この馬鹿が・・・・・。」

 憎まれ口を叩きながらも虔三郎は結衣に頬摺りし、幾度も接吻を繰り返す。愛おしい、その気持ちが溢れ出し己の気持ちを押しとどめることができない。それは結衣も同様であった。珍しく虔三郎の背に手を回し、これ以上一つになれないと思うほど身体を密着させる。

「私は妾・・・・・使用人でございます。使用人が主に対して好悪を露わにするなんて許される事ではございませぬ。だから・・・・・・。」

 原の話が出た時も嫌な顔をしないように耐えていたと虔三郎の耳許で囁いた。その吐息混じりの甘い声が虔三郎をさらに昂ぶらせる。

「だから馬鹿だというんだ。俺は・・・・・今までずっとお前に恨まれてこそすれ、好かれているなんて思いもしなかったんだぞ!」

 少しだけ怒りを滲ませながら結衣を叱りつけると、虔三郎は結衣を片腕で抱えたまま障子を開け、そのまま結衣を部屋に引きずり込んだ。そこはいつも二人が枕を共にする寝室だったが、まだ床は敷かれておらず、少し色褪せた畳表を月が照らすばかりであった。

「ま・・・・って・・・・・・今、床を・・・・・・。」

 虔三郎がしようとしていることを理解した結衣は慌てるが、虔三郎はそれを許さなかった。

「これはお前の怠慢だ。諦めろ、結衣--------------愛している。」

 結衣を片腕で抱きながら虔三郎は上着を器用に脱ぐと、それを畳に敷き、結衣をそっと横たえた。

「布団なんて後でいい。髪が崩れたって明日にでも洗えば原のおやっさんの所に行くのに充分間に合う。結衣、おまえを・・・・・・今すぐ抱きたい。」

 これが虔三郎の我慢の限界であった。虔三郎は起き上がろうとする結衣を抱きすくめ、そのまま床に押しつけるように唇を重ねる。結衣も虔三郎の情熱に浮かされたのか抵抗する素振りも見せず、そのまま虔三郎の全てを受け入れるかの如く身体の力を抜いた。



UP DATE 2010.05.25

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『横浜慕情』新章、『白蛇の恋』です。見た目はキレイだけど蛇みたいにねちっこいぞ、っていうのをイメージしていただければ(おいっ)。しかし、本館同様別館まで寸止めって・・・・・R-18サイトなのに申し訳ございません><
次回こそはタイトル通りできるかぎり蛇のようにねちっこい情事を頑張って欠きたいと思いますのでご容赦を。

とりあえず今回ようやく二人は互いの本当の想いを知る事になりました。今までは身体を重ねていてもどことなく遠慮というか自尊心が邪魔をしてしまっていましたからねぇ。ただ、互いの気持ちが通じたからと言ってめだたしめでたしにはならないのがこの話(爆)。原善三郎とのやり取りもありますし、それがクリアーしても本家の長兄との関わりなんかもありますし。それにまだ話にさえ出てきていない次兄っつーのもいるんですよね~。

実は6月分の拍手から、『横浜慕情スピンオフ』をやろうかと思っております。時代は日露戦争の頃、そこに出てくる主人公が虔三郎の甥っ子、次兄の息子という設定なのです。(しかもかなりえぐいかも^^;)
本館と違ってこちらは実験棟みたいな要素もありますので申し訳無いのですが宜しかったらお付き合いの程よろしくお願いいたします。


次週は虔三郎&結衣の濃厚ラブシーンになりますv
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