FC2ブログ

「横浜慕情(大人向け)」
横浜慕情~虔三郎と結衣

横浜慕情 蛇蝎の贄・其の貳

 ←拍手お返事&なんちゃってアクアパッツァ →葵と杏葉改革編 第十七話 大御所供養と天保の改革・其の貳
硝煙に匂いが立ちこめる小さな仏間で、虔三郎はずきずきと痛む脇腹を押えながら、昌次郎を睨み付ける。手にした木刀を杖の様に突きながら立つのが精一杯だがそれでも気迫だけは負けていない。

「どうした?次は頭か?それとも心臓を打ち抜いてやろうか?どうせ捕まったら死罪なんだ。だったら何人殺しても一緒さ。」

 そんな虔三郎を揶揄するように壮絶な笑みを浮かべ、昌次郎は再び虔三郎に向かって引き金を引いた。それを間一髪避けて虔三郎は木刀を手にしたまま床に転がる。

「腐れ外道が・・・・・。」

 虔三郎は寝転がったまま毒づき、昌次郎の隙を狙うが、体勢が体勢だけに素早く襲いかかる事が出来ない。昌次郎の持っている短銃はその形からS&W社のワイアット・アープだろう。凝った装飾が施された妖しく輝く銃身は、まるで蛇蝎が絡みついているように虔三郎には見える。

(弾はあと何発残っているのか・・・・・それさえ判れば。)

 ワイアット・アープなら6発の銃弾を込めることができる。その内少なくとも2発は撃っているので、多くても残りは4発だ。全て打ち終わった瞬間を見逃さず、昌次郎を叩きのめすことが出来れば・・・・・虔三郎は慎重に上体を起こし始めた。その時である。

「旦那さん!伏せてください!」

 突如藤堂の声が部屋の外から聞こえたと思った刹那、仏間の入り口から盆栽が飛んできたのだ虔三郎は慌てて頭を下げる。

「何!」

 昌次郎は不意に目の前に飛んできた盆栽に驚き、反射的に引き金を引いて盆栽を打ち抜く。

ぱぁん!

 まるで破裂したかのように植木鉢が空中で割れ、植木鉢の欠片、そして土塊が部屋中に飛び散って昌次郎の視界を遮った。

「もう一丁!」

 藤堂の声と共に、今度は玄関にあったと思われる下駄が拳銃を握っている昌次郎の手をめがけて投げつけられる。

「うわっ!」

 ものの見事に下駄は昌次郎の右手の甲に当り、その痛みに耐えかねて昌次郎が短銃を落としてしまった。

「藤堂、でかした!」

 床に転がる銀色の短銃めがけて虔三郎が飛びつき、それをつかみ取る。

(あと残り3発・・・・・あるか?)

 もしかしたら銃弾は尽きているかも知れない。それでなくても昌次郎がもう一挺拳銃を持っていたら虔三郎は確実に殺されるだろう。

(ええい、一か八かだ!)

 運を天に任せ、虔三郎は昌次郎の右肩を狙ってワイアット・アープの引き金を引いた。



 虔三郎に昌次郎を撃ち殺す気はさらさら無かった。否、殺すなら結衣や自分を苦しめた分と同じだけの苦しみを味合わせ、嬲り殺しにしなければ気が済まない。
 しかし虔三郎が撃った銃弾は、虔三郎が狙った右肩ではなく、真っ直ぐ昌次郎の眉間を打ち抜いたのである。まさか自分が弟によって殺されるとは思いもしなかったのだろう。驚愕の表情のまま、昌次郎はゆっくりと倒れていった。
 まるで人形が倒れるかのようなその光景に、虔三郎と結衣、そして仏間に入ってきた藤堂はしばし見入ってしまう。

「・・・・・旦那さん、とりあえず医者を呼んできます。私の知り合いの女医者でも構いませんか?」

 一番早く我に返った藤堂が虔三郎に訊ねた。そしてその時ようやく虔三郎が脇腹に怪我を負っていることに気がつき、藤堂は焦る。だが、当の虔三郎は意外なほど落ち着いた口調で藤堂に指示を出した。

「ああ、結衣のこともあるからできれば女医者の方がありがたい。そのあとで警察も呼んできてくれ。相手がどんな悪党であれ・・・・・俺は、人を殺した。」

 いつにない低い声の虔三郎に、慰めのひとつもかける事が出来ない。

「・・・・・承知しました。」

 かろうじてそれだけ言い残すと、藤堂はすぐさま妾宅を飛び出していった。

「結衣・・・・・。」

 藤堂が出て行ったことを確認すると虔三郎は、虔三郎の外套を被り震えている結衣に近づき、そっと抱きしめた。

「すまない・・・・・俺が、お前を一緒に連れて行けば・・・・・。」

 結衣が暴行されることも、そして虔三郎自らが昌次郎を殺す事もなかったのにと虔三郎は後悔の念を露わにする

「いいえ・・・・・・いいえ・・・・・。」

 そんな事はないと結衣はただ首を横に振りながら泣きじゃくる。この涙が恐怖からくるものなのか、悔しさからくるものなのか、それとも情けなさからくるものなのか解らない。ただ泣くことしか今の結衣に出来なかった。

「結衣・・・・・どんな目に遭ってもおまえは俺の許嫁だからな。今日は・・・・・野良犬に噛みつかれただけなんだから・・・・・。」

 まるで自分に言い聞かせるように虔三郎は結衣に語りかける。その温かな言葉、そして虔三郎の力強い腕に気が緩み、結衣は気を失いそうになった。その時である。

「旦那さん!医者を連れてきました・・・・・・って言っても実は家内なんですが。」

 少しばつの悪そうな藤堂の後ろから、真っ白な上着を羽織った中年の女性が入ってきた。藤堂より五歳ほど若いと思われるその女性はなかなかの美人で、よく藤堂がこの女性を妻にする事が出来たものだと虔三郎は妙なところで感心する。

「お初にお目に掛かります。藤堂の妻、小夜申します。いつもうちの人がお世話になりまして・・・・・まず銃で撃たれはった旦はんから診させていただきますえ。」

 上方風の発音をする中年の女医----------小夜は傷の度合いを瞬時に判断し、虔三郎の止血から取りかかった。

「藤堂・・・・・・お前さんの自慢の嫁御ってぇのはこの・・・・痛たた!」

 思った以上に止血処置が痛かったのか、虔三郎は思わず悲鳴を上げる。

「無駄口叩いてはりますと舌を噛みますえ?ほんの間でええですんで、喋らんといてください・・・・・総司はん!ぼーっと突っ立ってないでお湯、沸かして持ってきて!早う!そのあとで警察に行きはるんでしょう?」

「は、はい!」

 妻の手許をしげしげと見つめていた藤堂は、小夜の一喝に慌てて台所へと引っ込んだ。この状況の中、てきぱきと指示を出す中年の女医に虔三郎は畏敬の念を抱く。

「お小夜さんだっけ・・・・・おまえさん、相当場慣れしてるだろう。」

 痛みに顔をしかめながら虔三郎は小夜に訊ねる。

「へぇ。会津の戦の時には何百人、って怪我人のお世話をさせて戴きましたさかい、何を見ても動じなくなりました。五体満足なだけ旦はんは運がよろしおす。」

 その整った顔から信じられないほど物騒な言葉が飛び出す。そんな小夜に虔三郎が面食らっていたその時、藤堂があたふたとぬるま湯を持ってやってきた。冬場という時期が時期だけに鉄瓶に湯が沸いていたらしい。

「一旦傷口の周りを洗います。滲みますけど堪忍え?」

 小夜が虔三郎に注意を促したその瞬間、今まで以上の激痛が虔三郎を襲った。冷水でないだけまだましなのだろう。続けてアルコォルでの消毒が施され、傷口に当て布があてられる。怪我そのものの痛みに加え、アルコォルのじんじんと滲みる痛みに虔三郎は顔をしかめる事しか出来ない。

「これはあくまでも応急処置やから・・・・・警察との話しが終わりはったらできる限り早く行きつけの先生の所か、山科先生のところに行っておくれやす。」

 かなり丁寧な治療かと思ったらこれでも応急だという。そしてそれ以上に小夜の口から飛び出した医師の名前に虔三郎は驚愕した。

「山科って・・・・・野毛山の山科先生の知り合いなのか?]

「へぇ。時折西洋医学を教わってはります。うちのようなもんでも快くご自身の技術を教えてくれはる良い先生です。」

 山科は軍からも信頼の厚い横浜随一の外科医である。その医者が自ら技術を教えるとはこの女性はただ者ではないのだろう。

「ほな、次はお結衣はんの治療をしますんで、別室をお貸りしてもええですか?」

 事情が事情だけに結衣の治療はさすがにここではできないと踏んだのだろう。小夜は虔三郎に伺いを立てる。

「ああ、じゃあ隣の部屋を。いつも寝室に使っている部屋だから必要があれば床を敷くが。」

「おおきに。せやったらお結衣はん、隣へ行きまひょか。」

 結衣は盥を抱えて虔三郎が提供した部屋へ結衣を連れて入っていった。



 部屋へ入るなり、小夜は早々に結衣を座らせ、まずは鼻血と涙で汚れてしまった顔を拭き始めた。そして顔を拭きながら怪我の状態を確認してゆく。

「鼻は骨折してないみたいやね・・・・・せやけどほっぺはあかんな。みっともないけど湿布を貼らせて貰いますえ。」

 できるだけ穏やかな口調で小夜は結衣に語りかけ続ける。

「はい・・・・・。」

 小夜の言葉に弱々しく結衣は小夜に答えた。

「それが終わったら・・・・・洗滌をせなあかんな。うちの人からそれとなく聞いたんやけど・・・・・・。」

 少し言いにくそうに小夜は言葉を続けようとするが、それを結衣自身が遮った。

「お願いします!今回のことは・・・・・・無かったことにしたいんです!」

 今回の事で昌次郎の子供を身ごもってしまったら・・・・・最後の命綱とばかりに結衣は小夜に縋り付いて頼み込む。

「せやったら早速取りかかりまひょ・・・・・ところで暴行されてからの時間は?」

「一時間くらい・・・・・。」

 その言葉に小夜の秀麗な眉が顰められる。

「ぎりぎりやな・・・・・うまくいかなかったとしても堪忍え。できる限りのことはするから。」

 不安げな結衣を安心させるためにそう言うと、小夜は素早くキニーネ剤を作り始めた。



 小夜が洗滌の準備をしていた丁度その頃、ようやく警察がやってきた。どうやらある程度のことは道すがら藤堂に聞いていたらしく、虔三郎に対しては一通りの事情聴取しかしなかった。そのあと、年かさの警官がぽつりと呟く。

「本来なら尊属殺人なんだろうが・・・・・どうひいき目に見てもあんたの正当防衛だ。気に病むことなんかこれっぽっちもありゃしねぇ。」

 目の前で許嫁を犯され、自身も銃口を向けられたのだ。例え殺意があったとしても殺人罪に問われる可能性は極めて小さい。

「しかし・・・・・長兄にどう言って良いものか・・・・・。」

「俺達に言ったように正直に言えば良かろう。今、東京市に問い合わせてこちらに担当者に来てもらうが、この男はあっちで仲間を殺したんだろう?それに・・・・・。」

 そこで男は口籠もる。男として結婚直前の許嫁を暴行された男の気持ちは嫌と言うほど理解出来る。

「使い古しの古女房だって他の男と通じりゃ腹が立つし、ましてや姦られちまったんだったら相手を殺したくもなる。まぁ、徳川の御代だったらあんたの行為は褒められこそすれ非難される事は無いんだから。」

 普段強気な虔三郎を知っている警察官だけに、あまりに落ち込んでいる虔三郎を見て慰めることしかできない。

「・・・・・とにかく悪いようにはしないから。」

 その時、隣の部屋から小夜と結衣が出てきた。頬に湿布をし、手首にも傷を負っていたのか包帯を巻かれた姿が痛々しい。

「何だ、お小夜さんじゃねぇか。やけに気が回るなぁ。」

 若い警察官が少しびっくりしたように小夜に声を掛けた。どうやら顔見知りらしい。

「へぇ・・・・・実はすぐそこのお善お婆ちゃんの様子を診にきてたんやけど、こん人がうちをこっちへ引っ張り出して。」

 気さくに返事をしながらにっこりと小夜は微笑んだ。

「お巡りはんにはだいぶお世話になってるんどす。うちがもぐりでお医者を続けられるのも署長はんのお目こぼしがあるからやし。」

 やけに警察官と親しげな小夜に不思議そうな顔をする虔三郎に対し、小夜がその理由を説明する。どうやら『お上の事情』という奴らしい。

「とにかく・・・・・明豊堂の本家にも連絡をした方が良いな。何なら俺も立ち会ってやるから。」

 小夜のことを突っ込まれては堪らないと思ったのか、警官はごほん、と咳払いをして話題を変える。その言葉に虔三郎は少しばかり苦笑いしながらも、警官の好意にありがたく頷いた。



UP DATE 2011.1.18

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
ランキング参加中。お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv

    
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






・・・・・結局純愛シーンまでたどり着けませんでした(T_T)

昌次郎、意外とあっさりと死んでしまいました(苦笑)。あまり長引かせてしまったら間違いなく警察がやってきちゃうでしょうし、アクションシーンはスピードが勝負!と思っているのでちゃっちゃと片付けちゃいましたよ。
もし、虔三郎が脇腹に怪我をしていなければちゃんと右肩に当たっていたかも知れない銃弾でしたが、痛みの分撃つときにぶれたんでしょうね(ヒトゴト・爆)。何せ使用した銃がS&W製ですので決して性能は悪くないはずですので腕が良ければ外すことはないと思うんですよ・・・・・たぶん。ちなみにワイアット・アープは当時販売されていたモデル3の中で一番見た目が綺麗だったからという理由で選択しました(爆)。

そして当時の避妊についてなんですが、明治時代初期にはすでに洗滌が行われていたとのこと。ただ、明治七年時点ではアルコールを、明治三十年代ではキニーネ剤を使っていたらしいのですが・・・・・どっちもなぁ。さすがにアルコールは馴染みがありすぎて生々しいので、年代的に早すぎるきらいはありましたがキニーネ剤での洗滌にさせて戴きました。



次回更新は1/25、昌次郎の通夜&今度こそ、今度こそエッチ無しの純愛シーンに辿り着きたいです!
(二人とも怪我してるし・・・・・特に虔三郎は傷口開いちゃったらねぇ・・・・・。)
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【拍手お返事&なんちゃってアクアパッツァ】へ  【葵と杏葉改革編 第十七話 大御所供養と天保の改革・其の貳】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ご来訪&コメントありがとうございます(^^) 

こんにちは。拙宅のような辺境サイトに足を運んで戴けただけただけでなく、過分なコメントまでありがとうございますm(_ _)m
レイプシーンはさすがにどこまで書こうかと悩みましたが、私自身も『被害者が感じる』ということは無いと思っておりましたので、拙いながらもリアルな感じを出そうと努力した部分です。なのでそう言って戴けてほっといたしました。
ははは・・・・・一章ごとに他の話しに移ってしまうのは申し訳ありません。実は他の話しを書いている間に次の章の大まかな流れを決め、その流れがおかしくないか推敲をしているのです。読者の方にとってはまだるっこしい間だとは重々承知しているのですが、私自身初めてチャレンジしている大人っぽい話しを手探りで進めていくためにどうしても必要な間でもありますのでご了承くださいませね。
あともうすこし(2~3話)続く予定の話ですが、よろしかったらお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【拍手お返事&なんちゃってアクアパッツァ】へ
  • 【葵と杏葉改革編 第十七話 大御所供養と天保の改革・其の貳】へ