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「横浜慕情(大人向け)」
横浜慕情~昌憲と亜唯子

明豊堂分家にて(前編)~横浜慕情 昌憲と亜唯子の章・其の参

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滝沢昌憲が弁天町近くにある虔三郎叔父の店に出向いたのは、本家へ荷物を置いた後の昼過ぎの事であった。本当はもう少し早く出向きたかったのだが、自分を我が子同然に可愛がってくれる龍太郎伯父の相手をしているうちにすっかり遅くなってしまったのである。

「昌憲従兄さま!やっと来て下さったのね!なかなか来て下さらないんで待ちくたびれてしまいました。」

 滝沢が玄関を開け、声をかけるや否や飛び出してきたのは亜唯子であった。まるで幼子のような無邪気な笑みを満面に浮かべ、滝沢に抱きつく。そんな亜唯子を抱き留めながら、滝沢は亜唯子の柔らかな髪を撫でた。

「すまないな、亜唯子。龍太郎伯父さんに引き留められてなかなかこっちに来る事が出来なかったんだ。」

 軍にいる時には絶対に見せない優しげな笑顔を亜唯子に向ける滝沢であったが、その表情が一瞬にして凍り付く。

「亜唯子!玄関ではしたない事をするんじゃない!」

 鋭い声が家の奥から咎めるような厳しい声が響いたのだ。滝沢と亜唯子は反射的に声の主の方向へ視線を向ける。

「お父様・・・・・。」

 滝沢と亜唯子の視線の先--------------そこにいたのは明豊堂分家の主・滝沢虔三郎であった。年を重ねても鋭さを失わない濃緑色の目が厳しい色を湛えている。

「亜唯子、いくら昌憲が仲の良い従兄だからって年頃の娘がむやみやたらと人に抱きつくんじゃない。昌憲と話をしている間、おまえは奥で母上の手伝いでもしてなさい。」

 低く、威厳御ある声で虔三郎は亜唯子に言い放った。亜唯子はふくれっ面を見せたが、この時代家長の権力は絶対である。亜唯子は滝沢に名残惜しそうな視線を残し、渋々と奥へと引っ込んでいった。

「来て早々お騒がせしました・・・・・ご無沙汰しております。」

 亜唯子が奥へ引っ込んだのを確認した後、滝沢は帽子を脱ぎ、虔三郎に一礼をする。

「この度の戦争ではだいぶ武勲を立てたようだな。」

 滝沢の軍服姿に虔三郎は眼を細めた。先程とは打って変わって穏やかな口調に滝沢も内心ほっと胸をなで下ろす。

「いえ、それほどでも・・・・・・。」

「・・・・・・兄貴とは全く似ていないな、おまえは。あのろくでなしの子供とは思えん。」

 何かを思い出したかのように渋い表情を露わにすると、虔三郎は滝沢に家に上がるように促した。

「おまえには話しておかなければならないことがある。」

 その一言に滝沢は緊張の色を濃くする。一体虔三郎は自分に何を話そうとするのか見当も付かないまま滝沢は室内へ上がり込んだ。



 緑茶とあられを二人の前に運んできたのは亜唯子ではなく母の結衣であった。やはりこれからの事は出来るだけ亜唯子に関わらせたくないのだろう。緑茶とあられを前に二人の男はただ黙り込む。湯気を立てている香しい緑茶を前に、二人の男の重苦しい沈黙だけが流れていった。

「おまえと亜唯子の気持ちはよく解る。だが・・・・・亜唯子の事は諦めてくれ。」

 沈黙の後、こう切り出したのは虔三郎であった。その顔には怒りとも苦悩とも付かない厳しい表情が浮かんでいる。

「何故?どうして亜唯子との仲を認めて下さらないんですか!」

 今までの静けさが嘘のように滝沢は激高し、机にばん!と拳を叩き付けた。

「叔父さんに認めて貰うために武勲も立てました!確かに従兄弟同士ですけど、従兄弟同士で結婚している夫婦も珍しくありません!それなのに何故!」

 苛立ちも露わに虔三郎に詰め寄る滝沢だったが、それと反比例するように虔三郎は仏像のように平静である。

「従兄弟同士・・・・・・・ならばな。」

 虔三郎が重々しく口を開く。

「だが・・・・・そうとは言い切れんのだ。」

「どういう・・・・・ことですか?」

 虔三郎が何を言わんとしているのか理解できず、滝沢は恐る恐る尋ねる。

「これから話す事はお前一人の胸に納めておいてくれ。亜唯子にも絶対に漏らしてはならない。」

 そう前置きして虔三郎は滝沢の想像を超える一言を口にした。

「亜唯子は・・・・・結衣がおまえの父親に暴行された時にできた子だ。」



 全てのものが凍り付いたような気がした。これはきっと悪い夢だ--------------滝沢はそう思い込もうとしたが、これは紛れもなく現実の出来事だ。

「な・・・・・んですって?」

 俄に信じられないといった表情で滝沢は虔三郎を凝視する。

「じ・・・・・冗談でしょう?嘘だと言って下さい、叔父さん!」

「嘘ならもっと気の聞いた嘘を吐くさ。政治家や実業家の嫁に行く事になったとかいくらでも言いようがあるだろうが。」

 虔三郎はすっかりぬるくなった茶をすすりながら話を続けた。。

「俺と結衣は夫婦だからな・・・・・もしかしたら俺の子かもしれないが、あの男に暴行された月に結衣は亜唯子を身籠もった。亜唯子が俺の子だと証明する事が出来るのならば喜んでおまえにくれてやる。だが・・・・・・腹違いの妹かもしれない娘との関係を許すわけにはいかない。」

 虔三郎の言葉に滝沢は一言も返す事が出来なかった。



UP DATE 2010.08.05

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横浜慕情外伝もとうとう三話目になりました。そしてエロじゃないけど背徳的な展開に(^^;
この話、本編と外伝どちらが先に出るか書いている本人にも解らなかったのですが、外伝の方が先でした。
ええ、読んでの通り『近親相姦』ものだったんですよ、この話。

具体的な描写(いわゆる暴行シーンってやつですね。)は本編で書かせて頂きますが、亜唯子は虔三郎の子供じゃないかもしれないし、そうかもしれないし・・・・・暴行される前日辺りに絶対子作りしているでしょうから、どっちの子か解らないんです。目の色とか髪の色が父親にだったら明らかに虔三郎の子だっていうのが解りますが残念ながら亜唯子は母親そっくり設定(笑)。どちらの子か解らないまま滝沢と亜唯子は恋に落ちてしまったという状況です。この二人の恋はどう転ぶのでしょうか・・・・・いくつか考えているのですが、まだ考え中です。


次回更新は9月第一木曜日、虔三郎の話を聞いた後の滝沢の逡巡が中心となります。(舞台は明豊堂分家からせいぜい帰り道あたりなので後編とさせていただきます。)
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