FC2ブログ

「横浜慕情(大人向け)」
横浜慕情~昌憲と亜唯子

寄宿舎にて~横浜慕情 昌憲と亜唯子の章・其の陸

 ←葵と杏葉改革編 第七話 算盤大名の腕前・其の壹 →夏虫~新選組異聞~ 第二章 第八話 水戸派粛正・其の肆
休暇を終えた滝沢は東京の第一師団の寄宿舎へ帰還した。これからまた味気なく、厳しい軍の生活が始まるのだ。
いや、むしろその味気なく、厳しい生活こそ今の滝沢にとって必要なものかも知れない。亜唯子への欲情を消し去るためには血反吐を吐くほどの軍事訓練に身を投げ出さない限り無理であろう。いっそ再び戦場へ出るくらいが丁度良いかもしれない。それほどまでに滝沢の亜唯子への想いは激しいものになっていた。

(今、亜唯子が目の前に現れてしまったら・・・・・俺は自分を抑える事が出来るのだろうか。)

 ここ最近毎日見る淫夢は日を追うごとに生々しくなっている。薔薇水と共に香る髪の甘やかな香りや、羽二重よりなお滑らかで柔らか肌の感触、そして滝沢を求める切なげな声は夢とは思えぬほどはっきりと滝沢の夢の中で感じられる。

(接吻をしてしまったのがいけなかったのか・・・・・。)

 淫夢を見始めたのは、亜唯子を抱きしめ、初めて接吻を交わしたあの日からだった。あの日に心の箍が外れ、妄想の中で亜唯子を陵辱してしまう自分に嫌気がさす。
 だが、軍の中にいれば嫌でも亜唯子から距離を置く事が出来る。自分の心が鎮まるまで、否、亜唯子に害をなす己の中の獣を完全に殺すまで横浜には帰らないと滝沢は心に誓った。だが、その決意は滝沢が東京に戻ってきたからたった七日で崩れ去る事になる。



 それは梅雨の走りの雨がしとしとと降る、薄ら寒い日の事であった。

「滝沢少尉、もとい、滝沢中尉、客人だ。あんたも隅に置けないな。女なんぞ興味がない、なんて顔をしながらあんな美人が尋ねてくるなんて。」

 午後の休息に入った滝沢に対し、同期の村木が滝沢に訪問者がいると知らせに来た。

「美人・・・・・?悪いが俺はあんたと違って寄宿舎まで取り立てに来るような知り合いには覚えはないぞ、村木『中尉』。」

 滝沢は笑いながらあえて『中尉』の部分に力を込める。士官学校の同期で、同じ商家の子である村木と滝沢は非常に仲が良く、良きライバルでもあった。今回の日清戦争においても互いに功績を立て、同時に中尉に昇格したのである。

「ま、あちらさんの顔を見れば判るだろう。早く行ってくれ。でないと後輩達が応接室を代わる代わる覗き込んで仕事にならない。」

「・・・・・なるほど、そういうことか。面倒くさがり屋のおまえがわざわざ俺の客人を知らせに来るなんて、なんか変だと思っていたよ。」

 後輩達を応接室から引き離すのと、滝沢に客人の存在を知らせる事を天秤に掛けて後者を選んだに違いない。滝沢はしてやったりという笑顔を村木に向けながら、客人が待っているという応接室に出向いた。そしてそこにいたのは滝沢が今一番出会ってはいけない人物だったのである。

「昌憲・・・・・従兄さま・・・・・・!」

 そこにいたのは亜唯子であった。普段は絶対に袖を通さない泥大島の紬を身につけていたが、その地味すぎる装いは逆に亜唯子の若々しさを引き立てている。亜唯子の新たな一面を見せつけられ、滝沢の胸は思わず高鳴る。

「あ・・・・亜唯子?」

 滝沢が驚きの表情で立ち尽くした途端、亜唯子が滝沢の胸の中に飛び込んできた。しかも飛び込んできた途端泣きじゃくり滝沢にしがみつく。

「ど・・・・・・どうしたんだ、亜唯子。」

 泣きじゃくる亜唯子の肩を抱きながら、滝沢は背後の気配に向かって怒鳴りつけた。

「貴様ら!これは見せ物じゃない!亜唯子は俺の従妹だ!」

 滝沢の一喝に、怯えと、落胆の気配が漂う。怯えは勿論滝沢の一喝によるもの、そして落胆は滝沢と亜唯子の関係に対してのものだ。後輩達の中には『あわよくば』と思っていたもの少なくなかったが、滝沢の『従妹』という、何とも微妙な関係は彼らに亜唯子を諦めさせるには充分であった。
 すごすごと引き上げていく出歯亀達の気配が無くなったのを確認すると、滝沢はようやく亜唯子の肩にそっと手を乗せ、尋ねた。

「一体何があったんだ?こんなところにわざわざやってくるなんて。何かあったら電報なり手紙なりで事足りるだろう?」

 しかし、亜唯子は目に涙を浮かべたまま首を横に振った。

「父様が・・・・・・お見合いの話を持ってきたの。」

 その一言に、滝沢の表情が強張る。親の勘なのか、滝沢と亜唯子の関係が深みにはまり込み、手遅れになる前に亜唯子を嫁づけてしまおうと、商売仲間に頼んで見合い話を持ってきたのだ。虔三郎叔父の立場であれば至極当たり前の行動だが、恋する乙女にとってそれは死刑宣告と同じ意味を持っていた。

「私・・・・・従兄さま以外の人のお嫁様になるのは嫌!だから・・・・・黙って・・・・・・。」

 ここまで来たと言って泣きじゃくる。

(参ったな・・・・・。)

 黙ってきたとは言っても亜唯子が逃げ出すところと言ったら龍太郎伯父のところか滝沢の所しかないのだ。黙っていても数日中に虔三郎叔父はここを見つけ出すに違いない。だが亜唯子が他の誰かのものになるという話は聞き捨てならなかった。

(亜唯子に指一本触れてみろ!八つ裂きにした上に野良犬の餌にしてやる!)

 誰とも判らぬ亜唯子の見合い相手に対し、自分でも驚くほど強い殺意がわき上がるのを滝沢は自覚した。

「とにかく亜唯子、ここでいつまでも泣きじゃくるのは人の目もある。場所を移そう。」

 滝沢は亜唯子を宥めながらその場に座らせると、急いで上官に許可を得て寄宿舎を後にした。



UP DATE 2010.11.04

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
ランキング参加中。お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv

  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)






滝沢少尉、さりげなく中尉に昇進いたしました。あまりにあっさりしすぎるきらいはありますが、ミリタリものをメインにするつもりはまだありませんので・・・・・(日本帝国軍の資料が殆ど手許にない、というのが一番の大きな理由・爆)
そして亜唯子ちゃん、お見合いが嫌でとうとう家出をしちゃいました。家父長制が幅をきかせている明治時代に、と思われるかも知れませんが、意外とこういうことはあったようでして・・・・・実は私の母方の祖母も『見合いが嫌だから川で遊ぶ』だとか『結婚数日前に山形から東京に家出して、イケメンだけどバツイチのじーちゃんをGETした』という武勇伝を持っております。東北の片田舎の娘でさえこれですから、首都圏の娘だったら明治時代でもこれ位やるかも知れないと・・・・・平塚らいてうなんかも出てきていましたしねぇ(笑)。

泥大島で少しオトナっぽく装った亜唯子ちゃんに対し、滝沢中尉は果たして手を出さずにいられるのでしょうか・・・・・多分無理だと思いますけど(え゛)。来月をお待ちくださいませね~v
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【葵と杏葉改革編 第七話 算盤大名の腕前・其の壹】へ  【夏虫~新選組異聞~ 第二章 第八話 水戸派粛正・其の肆】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。
  • 【葵と杏葉改革編 第七話 算盤大名の腕前・其の壹】へ
  • 【夏虫~新選組異聞~ 第二章 第八話 水戸派粛正・其の肆】へ