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「横浜慕情(大人向け)」
横浜慕情~昌憲と亜唯子

ホテルにて~横浜慕情 昌憲と亜唯子の章・其の漆

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滝沢と亜唯子は人目を避けるように連れ立って寄宿舎の裏手にある小さなホテルに向かった。寄宿舎の目と鼻の先にあるこのホテルならば、何かあればすぐに亜唯子の許に来る事が出来るし、人の目も気にならない。決して広くはないし、落ち着いた色合いの部屋は男性的で、亜唯子には渋すぎる気がしたが贅沢は言っていられない。

「不自由だろうけど、ほとぼりが冷めるまで二、三日ここで我慢してくれ。たぶんそれくらいには叔父貴もここを見つけ出すだろうけど、互いの頭を冷やすにはそれ位の時間があれば充分だろう。」

 滝沢は窓から外の様子を見ながらぽつり、と呟いた。窓から陸軍の寄宿舎の表門が見え、訓練を終えた若い兵士達が談笑しながら寄宿舎の中に入っていく様子もよく判る。
 ほんの一時間前まで自分もあの中にいたのに、何故か彼らが手の届かない場所に遠のいてしまったような錯覚に陥る。滝沢にそんな思いを抱かせるその原因----------その人物は部屋の隅に設えられたベッドに腰掛けていた。

「はい・・・・・昌憲従兄さま。」

 そこにはいつもと違う亜唯子がいた。泥大島の地味な着物を身につけ、流行りの夜会巻きに髪を結い上げたその姿は妙に大人びて見え、滝沢の胸は高鳴る。
 己の欲望を見破られないようあえて亜唯子から視線をそらし、窓の外を見続ける滝沢に対して、亜唯子は何かを訴えるように滝沢を背中をただひたすら見つめる。

「・・・・・どうした、亜唯子?」

 蜂蜜のように甘く、重い沈黙に先に耐えられなくなったのは滝沢であった。滝沢はベッドに腰掛けている亜唯子の傍に近寄り、その隣に腰を下ろす。その瞬間、ふわりといつもの薔薇水の香りが滝沢の鼻孔をくすぐったが、それさえもいつも以上に濃く、甘く感じられた。

「少しは・・・・・落ち着いたか?」

 亜唯子の中の『女』をあえて無視するように滝沢は『頼りになる従兄』を演じようと努力する。だが、亜唯子が望んでいたのはそんな滝沢ではなかった。

「従兄さま・・・・・昌憲従兄さまは、何故亜唯子を奥様にしてくれないのですか。亜唯子は・・・・・従兄さまをこんなに・・・・・お慕いしておりますのに。」

 じっと滝沢を見つめる亜唯子の瞳は幼子のものではなかった。一人の恋する乙女の、燃え上がる恋心を映し出し、潤んでいる。
 この場で抱きしめ、唇を奪いたい。このまま亜唯子をベッドに押し倒し、その柔肌を貪り尽くしたいと牙を剥く己の欲望を抑えつけ、滝沢はかすれる声でようやく言葉を押し出した。

「・・・・・俺だって出来る事なら亜唯子を妻にしたいと思っている。」

 亜唯子の肩に手を乗せ、滝沢は真剣なまなざしで亜唯子をかき口説く。

「この世で一番大事だと思っている----------だからこそ、いつ戦争にかり出され命を落とすか判らぬ軍人の妻にする事はできない。」

 本当の理由など言えるはずもなく、滝沢はとりあえず思いついた出任せを口にする。そうでもしなければ亜唯子を傷つけてしまうだろう。この場ですぐに抱きしめたい衝動に駆られながらも滝沢は必死に耐えた。

「亜唯子・・・・・解ってくれ。」

「いやです!」

 苦しげに呻く滝沢に否やを唱え、亜唯子は滝沢にしがみつく。

「いつ命を落とすか判らないのならなおさらです。昌憲従兄さまの命を絶対に繋げますから・・・・・。お願いです、亜唯子を・・・・・一度だけでも良いですから、昌憲従兄さまの妻に・・・・・。」

 滝沢の胸に縋り付き泣きじゃくる泥大島の亜唯子は、滝沢の知っている亜唯子ではなかった。



 亜唯子とおまえは実の兄妹かもしれない----------。



 虔三郎叔父の警告が頭の片隅から聞こえてくる。だが、その警告は今の滝沢を止めるにはあまりにも脆弱なものであった。
 滝沢は亜唯子の身体に腕を回すと、その唇に己の唇を重ねた。最初は壊れ物を扱うように優しく、だが、徐々に力強く亜唯子の唇を吸い始める。一瞬驚きを見せた亜唯子だったが滝沢の力強い接吻にその身を任せた。亜唯子の身体から力が抜け、蕩けるような柔らかさが着物越しに滝沢の手に、そして身体に伝わってくる。

(もう・・・・・これ以上は・・・・・。)

 最後の理性が滝沢の暴走を押しとどめようとするが、それをかき消すかのように滝沢の舌は亜唯子の柔らかな唇を強引に割る。それに驚き、逃げようとする小さな舌を絡め取るとくちゅくちゅと卑猥な音を立てながら滝沢は亜唯子の舌を堪能しはじめた。まるで性交そのもののような淫猥な接吻に、徐々に乱れ始める亜唯子を愛おしいと思いつつ滝沢は亜唯子の身体をまさぐろうとしたが、そろそろ一旦寄宿舎に帰らないと後々厄介な事になりかねない。名残惜しいと思いつつも、滝沢はゆっくりと亜唯子の唇から己の舌を引き抜いた。

「一旦寄宿舎に戻らないとまずいから・・・・・これから、外泊許可を貰ってくる。夕方の6時5分にはこっちに来る。もう少しだけ待っていてくれ。」

 激しい接吻によって濡れてしまった亜唯子の唇を親指でなぞりながら、滝沢は優しく囁く。

「はい・・・・・昌憲従兄さま。」

 少しほつれた後れ毛に上気した頬----------その姿はただ愛くるしいだけの従妹ではない、淫蕩さを忍ばせたひとりの女だった。

(やはり・・・・・俺と亜唯子には、同じ血が流れているのかも知れない。)

 二度と引き返せない深みに脚を踏み入れてしまった事を滝沢ははっきりと自覚した。


UP DATE 2010.12.02

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とうとうここまで来てしまいました、滝沢中尉&亜唯子・・・・一線を越えてしまうのは目前のようです。
手を出してはいけないと理解していても、おいしそうな据え膳が目の前にあったらよっぽど意思が固く無い限りそれを拒絶するのは無理でしょう。しかも相思相愛ですし、一生懸命我慢に我慢を重ねた結果ですので許してやってくださいませ(^^;
ま、亜唯子ちゃんの方も泥大島で夜会巻きとちょっとオトナっぽいファッションで誘惑する気満々だったみたいですしねぇ・・・・・ちなみに夜会巻きは日清戦争前後にできた髪型なんですって。なので日清戦争直後という設定のこの話と時期的に近い、ということで亜唯子ちゃんにやらせてみました(笑)。やっぱり流行の最先端は取り入れたいですしねぇ(^^)。

次回更新は1/6、二人にとって初めての夜になります。
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