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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第三章

夏虫~新選組異聞~ 第三章 第六話 正念場・其の貳

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梅雨が明けたばかりの京都の街はただでさえじっとりと蒸し暑い。それに加えて鴨川の照り返しがある川辺はさらに暑さが増すはずだが、沖田達の周囲は氷のような冷たい緊張感が漲っていた。

「沖田先生、あの中間体の者達・・・・・怪しくないですか?」

 中村金吾が沖田に近寄り、河原のほとりを指し示す。その先には格好こそ中間風を装っているが、やけに立派すぎる大小を腰にした二人の男達がなにやら話し込んでいた。

「ちょっと・・・・・声を掛けてみましょうか。」

 沖田は部下達と視線を合わせて頷くと、そのまま中間風の男達に近づいていく。そして近づけば近づくほど、男達の怪しさはいや増した。小さいながらやけに通る声は明らかに長州訛があったし、雰囲気も剣呑なものを漂わせている。沖田らは二人を囲むように広がり、そして包囲網を狭めてゆく。

「おい、そこの二人!」

 河原方面以外の逃げ道を仲間が塞いだことを確認した佐々木蔵之助、が中間風の男達に声を掛けた。

「何だ?」

 話し込んでいるところを邪魔された男達は、苛立たしげに長州訛のある低い声で返事をする。そして値踏みするように佐々木の頭のてっぺんからつま先まで睨み付けるが、佐々木は一切怯むことなく名乗りを上げた。

「新選組だ。ちょっと祇園の会所まで一緒に来て貰おうか!」

 新選組の言葉を聞いた瞬間、男達の表情が明らかに強張った。そして周囲の様子を見回し、自分達がすでに囲まれていることに気が付く。

「畜生!」

 一人の男が思わず毒づいたが、明らかに自分達より腕の立ちそうな新選組隊士相手に勝ち目はない。男達は一か八か逃げ出そうと踵を返し、唯一の逃げ道である河原の方へ駆け下りようとした。

「させるか!」

 中村が男達を追いかけ河原に駆けようとした瞬間、不意に目の前に黒い影がよぎり、二人の男達がもんどり打って後ろ向きに倒れたのである。

「うわっ!」

 男達は均衡を崩し、その場に後ろへと倒れ込んだ。一人は転がっていら石にしたたかに後頭部を打ち付け、目を回してしまっている。そしてその男達の背後にいたのは沖田であった。部下の誰よりも早く動き、逃げだそうとした中間風の二人の襟首を掴んで引き倒したのである。

「ちょっと、沖田先生!そういう事は俺達がやりますから・・・・。」

 倒れながらもすぐに逃げだそうとした男の鳩尾に一発拳を突き入れながら中村がぼやくと、鳩尾を押えて転げ回る男を押さえつけ縄を掛ける。

「ははは、済みません。ついつい身体が先に動いちゃったもんで。」

 中村の小言に沖田は頭を掻きながら謝った。

「どうも後ろから指示を出す、って苦手なんですよねぇ。」

「勘弁してくださいよ。沖田先生の身に何かあったら俺達に副長の鉄拳が飛んでくるんですから。」

 佐々木も目を回して起き上がれない男に縄を掛けながら沖田に文句を言う。なまじ動けてしまうだけに指示を出して誰かにやらせる、という行為そのものがまどろっこしいのだろう。部下だけでなく、近藤や土方からも『上に立つものとしての威厳を持て!』と再三注意を受けているにも拘わらず、沖田のこの癖はなかなか直らない。

「ははは、今度から気をつけます。それよりもこの二人、とりあえず祇園の会所に。蟻通さん、壬生にひとっ走りお願いします。」

 指示出しが苦手な沖田でも、さすがに落ち着いた状況であれば指示を出すことが出来る。ようやく出た沖田の指示に、部下達は一斉に動き出した。



 男達は沖田達が睨んだとおり攘夷派の不逞浪士であった。そしてその内の一人は攘夷派浪士・宮部鼎蔵の直属の下僕・忠蔵だと白状したのである。
 宮部鼎蔵は肥後国益城郡田代村の出身で、肥後勤皇党に属してる攘夷派の重要人物である。文久三年に起きた八月十八日の政変で長州藩が京都から追放された時、宮部も共に長州藩へ去ったのだが、再び京都へ戻ってきたらしい。

「宮部が京都に潜伏しているとなると・・・・・まだまだ大物がいると考えるのが妥当だろう。総司、斉藤、あの二人が知っていることを洗いざらい吐かせろ。」

「承知!」

 そして捕縛した二人の男達への尋問が始まった。



 沖田らが二人の男達に対して尋問を始めていた頃----------。

「桝屋の奴、こんなところに女を囲ってたんかい。妻はおらへんって言うておったけど、馴染みはおったんやな。」

 祇園の裏手にある小さな町屋から出てきたのは桝屋喜右衛門と二十歳を少し過ぎたくらいの女であった。堅気にしては派手すぎる着物と化粧のその女の腹は少しふくれており、子供がいるらしい。もしかしたら他の浪士の妾や妻ということも考えられたが、二人のやり取りからそれはないだろうと山崎は踏んだ。

「・・・・・もう一人副長に頼んで人をつけて貰いまひょか。」

 人手不足の折、監察だけに人員を割いて貰う訳にはいかないことも解っている。しかし、この場所は祇園で御用改めにあったとき、逃げ込みやすい上に敵からも逃げやすい。とりあえず報告だけし、もう少し様子を見てから人員増加を申し出ようと、山崎は町屋から自分の店へ帰って行く桝屋喜右衛門の後を付けていった。



 そして三日後----------前川邸にある土蔵の中で、二人の浪士に対する尋問はまだ行われ続けていた。最初沖田と斉藤が命じられて尋問が行われていたが、二人は思っていた以上に強情で、名前以外は一言も喋ろうとしなかったのである。

「いくら黙っていても宮部はおめぇらを助けになんかこねぇぞ!いい加減洗いざらい吐いちまえ!」

 永倉が鞭で二人を強く叩きながら自白を強要する。いわゆる『尋問』では埒があかず、結局会津藩の許可を貰いすでに拷問へと進んでいた。とは言っても新選組の屯所で行えるのはせいぜい鞭打ち、水責め、縄責めの三つくらいなのだが・・・・・。それでも長く続けていればじわじわと効いてくるらしく、捕縛から三日経った六月四日、とうとう宮部の下僕である忠蔵が自白を始めた。

「先月・・・・・長州から京都に・・・・・四十人・・・・・伏見に百人、浪速に五百人・・・・入った。」

 元々京都に二百人から三百人ほどいたが、そこからさらに人数が増えているというのである。全部合わせたら千人近く、否、千人を超えるかも知れない人数に悪寒を覚えながら、永倉はさらに忠蔵に自白を促す。

「だいぶ多いじゃねぇか。何を企んでいる?」

 鞭を背中の傷口に押し当てながら永倉は忠蔵を脅すが、忠蔵はただ首を横に振るだけだった。

「し・・・・知らねぇ・・・・・本当だ!宮部様は・・・・・そこまでは・・・・・。」

「ふうん、じゃあ宮部はどこにいる?」

「・・・・・。」

 さすがに主人を裏切ることは出来ないのか、忠蔵は貝のように押し黙る。

「吐きやがれ!宮部はどこに居やがる!!」

 永倉の鞭が忠蔵の背中に振り下ろされ、忠蔵は声になら無い悲鳴を上げた。

「南・・・・・禅・・・・・寺。」

 何度か鞭で打たれた後、忠蔵は絞り出すようにようやく口に出したが、それを否定するものが現れたのである。

「南禅寺ですか・・・・・だけど、隠れ家はそこだけじゃないんじゃないですか?正直におっしゃい。」

 それは永倉と交代するために土蔵にやってきた沖田であった。沖田は満身創痍の忠蔵に近寄って忠蔵の顔を覗き込む。

「お上のお尋ね者が一カ所にでん、と腰を据えられる訳も無いですからね。何カ所か隠れ家があるんじゃないですか?もし何でしたらお上に楯突く者を匿ったと、南禅寺の僧都をここに連れてきてもいいんですけど。」

 沖田独特の、穏やかな脅迫に忠蔵はがっくりと肩を落とした。

「・・・・・三本木の・・・・・吉田屋と・・・・・長州の藩邸に・・・・・・桝屋にもお世話に・・・・・。」

 忠蔵の口から桝屋の名前が出た瞬間、沖田と永倉は顔を見合わせる。

(どこから調べても最後は桝屋に辿り着く・・・・・。)

 だが、何よりも大きかったのは尋問によって『桝屋』の名前を引き出せたことであった。これで桝屋喜右衛門を捕縛する大義名分ができたのである。

「永倉さん、私はこの事を土方さんに報告してきます。」

「ああ、頼むわ。俺はもう少しこの男から何か引き出せないか確かめておくから。」

 剣術は得意でも拷問まがいの尋問が苦手な沖田に任せるよりは、永倉の方が硬軟あわせてうまく自白を引き出せるだろう。沖田は後のことを永倉に任せ、土蔵を後にした。



 沖田の報告を受け、土方はしてやったりという不敵な笑みを浮かべた。

「そうか、『桝屋』の名を引きずり出したか----------あんな雑魚じゃ大した情報は得られないと半分諦めていただけに儲けものだぜ。」

 長州浪士の出入りはあったものの、それだけでは『商売相手だから』としらを切られ捕縛することは出来なかった。だが、攘夷派不逞浪士の隠れ家を提供していたとなれば話は別である。これで堂々と桝屋喜右衛門を捕縛することが出来るのだ。

「とりあえず明日の朝、桝屋を捕えよう。巡察の当番は武田か・・・・・沖田、武田を呼んで・・・・・」

 その時である、永倉と共に二人の浪士の尋問をしていた島田が慌てふためきながら副長室に飛び込んできたのである。

「た・・・・大変です!奴等、京都の街に火を放つと・・・・・・!」

 島田の言葉に土方と沖田は思わず腰を浮かした。

「『風の強い火に火を掛け、京都を火の海にする・・・・・俺は宮部様からここまでしか聞かされちゃいない。』と忠蔵の奴が吐いたんです!」

 主の居場所を暴露してしまったことによって緊張の糸がぷつん、と切れてしまったのだろう。沖田が土方のところへ向かった直後、忠蔵は洗いざらい暴露してしまった。

「何のために火をかけるか----------そこからは不逞浪士共の中でも上の方の奴等しか知り得ないだろうな。」

「という事はあの忠蔵って男は・・・・・。」

「お役御免、てところだ。会津か町奉行所かどちらかに引き取って貰ってくれ。どちらにしろ六角獄舎あたりに放り込まれることになるんだろうが・・・・・。」

 沖田の問いに答えると、土方は立ち上がる。

「総司、幹部全員を局長室に招集しろ!幹部会を開く!俺は近藤さんにこの事を伝えてくる!」

 いつにない緊迫を滲ませた土方の命令に、沖田は即座に副長室を飛び出した。



UP DATE 2011.06.03


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『正念場・其の貳』です。池田屋に繋がる攘夷派浪士の自白としては桝屋こと古高俊太郎のものが有名ですけど、その直前にも今回のものも重要でして・・・・・何せこの自白が桝屋捕縛に繋がったんですからv
こういったものの他に地道な捜索や尋問等を新選組は積み重ねて池田屋に繋がったんだな~と書いていてつくづく感じました。池田屋で名を挙げたのも偶然じゃなく地道な努力の賜物なんでしょうねぇ。

次回更新は6/10、幹部会議、そして未明の古高俊太郎捕縛劇となります。今回は拷問シーンをぬるめにしましたが、古高の拷問シーンはそうはいかないんでしょうねぇ・・・・・次の次になりそうですが、その時には改めて告知しますね。
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